▼ いいやつだなんて

「10分休憩だ!各自ドリンクを取りに来い!!」

「やっとかよ〜」
「なぁ岳人、なんや跡部イラついてへんか?」
「んー?そうか?」
「練習であそこまで力んで汗だくになるやつちゃうやろ?」
「確かに……。あ、樺地がいねえからじゃね?」


俺らから少し離れたとこでタオルで汗を拭いてる跡部に目をやった。
眉間にしわを寄せじっと何処かを睨んでいる。

「(イライラ最高潮ってとこか…)」


気にくわねぇやつがいる。
もちろん他にもいるが、あいつは特に気にくわねぇ。
どこがって?全部だ。
事あるごとに茶々入れるわ騙すわ悪態つくわ擦り付けられるわで、頭にくる。

この間小テストで1つミスをしたらこんなんも出来ねえのかと鼻で笑われた。
他にも教室で足を引っかけられそうになったり、部員一人が怪我をして入院したとかで見舞いに行ったら誰も入院なんてしていなかったり、掃除当番を勝手に俺に代えてたり、自分がプリント配るの忘れてたら俺のせいにしたり…全部細けぇことばっかだ。
だがな、それが何回も何回もあったら流石に俺様もイラつく。
入院したって話は安心半分怒り半分だけどな。

最初にやられたのは1年の終わり頃。
そのときはあまり気にしなかったが、2年で同じクラスになってやられる回数が増えてきた。
10回を過ぎた頃、警戒の為かあいつを目で追うようになった。
そして見ていていくつか気付いたことがある。
1つ上げるとしたら俺様以外には普通に接していることだ。
笑顔で会話してるのを見たときはあまりに衝撃的で声が出なかった。
なんせ俺様の前では人を馬鹿にするような笑みしか浮かべなかったからな。
誰かが楽しそうに話してるのを見てそれにイラついたのはその時が初めてだ。
それからもあいつが誰かと笑顔で話しているのを見るとイラついて仕方ない。

今だって…


「〜〜がよぉ、〜〜〜〜でさ」
「あっははは!まじかよ!」


少し遠い場所にあるテニスコートのフェンス。その向こうにあいつが歩いている。
友人らしきやつと一緒だ。部活が終わって帰るのか、肩に通学鞄をかけていた。
俺の前では決して見せない楽しそうな笑顔。

ッ、俺が何したってんだ…!

イライラしたまま睨みつけてるとあいつがこちらの視線に気付いた。
あいつは笑顔を消してこちらを睨む。
数秒睨み合っていると、向こうが視線を逸らし自分の鞄の中を漁る。
目的のものを確認したのか友人らしきやつに何か言うと、あいつは俺にちょいちょいと手招きした。
手招きされて簡単に行くと思ってんのか。


「なんだ、用があるならそこから言え」
「!へぇ、言っていいんだー」


にやにやと悪い顔をする。
俺にとってまずいことなのか…。どうしようか考えていると早く来いよーと言う声が聞こえた。
しょうもないことだったら殴ると決めて、溜息を1つ吐きフェンスに近付いた。


「なんだ……ッ!」


額に少し強めに何かが当たり思わず目を瞑った。
次第にそれが冷たいものでもう衝撃がこないことから害はないものだと分かりそっと目を開けてみると、そこにあったのは笑顔とスポドリ。
本のタイトルでありそうだなとのんきな思考になるのは仕方ない。
初めて俺に向けてあいつが笑顔を見せたんだから。


「お前ちゃんと水分補給しろよなぁ。顔赤いぜ?」


そう言えば、部員にドリンクを取りに来いと言ったが自分は取りに行ってない。
そうだ、汗を拭いたら取りに行こうとしてたけど、こいつが見えたから頭から抜けたんだ。
忘れた原因から注意を受けるとは…。


「あと…」
「ひ…っ!」


これもやるよ、と次は頬に冷たいものが当てられた。保冷剤だ。
にししと笑う顔に俺はぽかんとしたままだ。


「ったくよぉ、こんな炎天下の下で部活やってんのに水分補給しねぇとか馬鹿だろ」


次は眉を下げ口をへの字にして心配そうに言われた。
なんなんだ今日は。
放課後まではいつも通りだった。けど、今のこいつはまるで別人じゃないか。
もしかして、俺様は勘違いしてたのか…?
こいつ本当はいいやつ「ま、しゃあねぇよなぁ。樺地くんがいねぇとなんっもできねぇ奴だもんなぁ」



……ア゛ーン?


「てめぇ、今なんつった」
「なぁにー、聞こえなかったのー?仕方ないなぁ、俺は優しいからもう一回言ってあげるよ。


樺地くんがいないと何もできない跡部くんっ」


俺の中で何かが切れた。

さっき言いかけたことは撤回する。いや、言いかけだから撤回も何もないか。


「今日は絶対許さねぇ…覚悟しろ!須藤縁!!」

いいやつだなんて気のせい

−−−−−−
跡部をおちょくりたかっただけです。

おまけ
友人「いいのかよ、折角良さそうな雰囲気だったのに…」
「い、いいんだよ!もう言うな!」
友人「(半泣き…。全く…好きなやつには意地悪したくなるって小学生かよ…)」

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