▼ そんなあなたが、

光は誰にでもキツい物言いをする。
もちろん、恋人の僕にも容赦なく刺々しい。
周りはあの子を"ツンデレ"だとか言うが、間違ってないと思う。


根拠?そうだな…この間あったことを話すとしよう。それが根拠だ。


僕はクラス委員を務めているせいかよく先生方にノートを集めて職員室に持ってくるよう言われる。
その日もクラス全員分のノートを持って廊下を歩いていると光はさも偶然会ったかのように僕に接触したんだ。階が違うのに偶然会うなんて無理があるのはあえて言わないよ。
何時も通りのつんけんした態度で少し僕を小馬鹿にした後、どんな流れであろうとノートを半分持ってくれる。

付き合いたての頃だったかな…一度それを断ったことがあった。
その日の放課後、帰るときにちらりと視界にあの子が部活の先輩で、僕のクラスメイト兼友達であろう相手と球の打ち合いをしているのが入った。
そしたら遠目でも判るぐらいに気が立っていて、不思議に思い近くにあの子と同じクラスでテニス部員の子がいたので聞いてみると、授業と授業の間の短い休憩時間…僕が断ったあのときからずっと機嫌が悪いみたいだ。
心当たりはあるかと聞いてみたが全くないらしい。
ならば理由は一つしかないだろう。

僕は帰らずにそのまま部活が終わるのを待ってた。
自分が使ったものは自分で直せ…と、よく言うだろう?
別に使ってはいないがあんなに苛立たせたのは僕だ。自分で治すのが道理だろ。

部活終了後、ジャージから制服に着替え部室から出てくるとこちらに気付いたようで逃げるように早足で帰ろうとした。
逃げるなら走らないと、すぐ捕まるぞ。…ああ、なるほどな。
早足の理由が判り、それが面白くて捕まえずにいようと思ったけど、これ以上不機嫌にさせるわけにもいかない。素早く腕を掴み、ほぼ強制的に互いの指を絡ませ手を繋いで、一緒に帰ろうと言った。
予想通り、抵抗なんてなかった。むしろこれを待ってたかのように嬉しそうにこちらに身を寄せてきた。

ならば、さっきまでの遠目でも判るぐらい苛立っていたのは何なんだ、と思うだろう?
答えは一つだ。


『光、貴方はほんと可愛いですね』
「はあ?なんすかいきなりきもいっすわ先輩」


本人は自覚してるのだろうか?
僕が可愛いだなんだ言うと、必ずなんとも思ってない表情をしながらも頬は赤く染まり、何時もより早口で毒を吐く。
毒を吐くその声も少し上ずっている。
おまけに今日は繋いでる左手…光からしたら右手にさっきよりも力が入っていることを…。

僕は小さく笑った。


『そういえば、さっきまで不機嫌そうでしたけど…何かあったんですか?』
「いや…別になんもないです…」
『何もない訳ないでしょう?あんな怖い顔して…無理してて可愛かったですよ?』
「…無理てなんすか…」
『無理してたんでしょう?いや、この場合はわざとと言ったほうがいいですか?
僕の気を引く為にわざわざ僕の大事な友達を餌食にして不機嫌オーラ全開で打ち合いしてましたよね?』
「そんなこと、してませんよ…」
『本当に…?』


鼻が触れるぐらい顔を近づける。
その罰の悪そうな顔もまた可愛いな。


「……最初はほんまにイライラしてましたよ。
けど、今先輩が言うた通り…部活中はわざとしてました」


観念するの早いな…。
そう苦笑いしそうなのを抑える。


「なんで、判ったんすか?」
『んー?さっき逃げようとしたとき早足でしたから。本気で逃げようとするなら普通走るでしょ。それに…』


口元が緩んでましたよ、と耳の近くで言うと面白いぐらいに顔を真っ赤にさせ


ゴヅッ


「そ、そんなとこ見とったんか!ありえへんすわ!なんやねんほんま…!」


手を乱暴に放して顔をプイッと逸らし一人でムスくれながら先に行ってしまった。

僕はと言うとにさっきの頭突きらしきものが強烈すぎてしゃがんで悶えていた。
顔が横にあったせいで右側全体が痛い。
特にこめかみが痛い。
でもそんな痛さも光のツンとその後の可愛さで柔軟された。
…いや、やっぱ痛い。

痛いけどこんな痛さでしゃがんでる格好悪い姿見せたくない。
さっき怒って歩いて行ったけど…もう見えなくなったか…?

ちらりと帰る方向を見ると…まだいた。
あ、やばい。これ以上は見せたくないと思ったけど、光の様子がおかしい。
なんか…え、すんごいわったわったしてるんですけど…。
ひとり言も聞こえる。
しゃがむぐらい強くやったかな…とか、やりすぎたん?どないしよぉ…とか…。
正直可愛すぎてもうずっと見てたい。しゃがんでるの格好悪いとかどうでもいい。むしろしゃがんでまだこの光景に悶えていたい。痛さ?旅に出ましたけどなにか?

このまま見てるのもいいけど他にまだできることは…と考える。
このときの僕は今までで一番頭の回転が速かった。
そして行動にでた。


『痛…』


さっきまで痛かったとこを押さえる立ち上がる。


『あ、光…。すみませんでした、こんな道端であんなことをしてしまって…。
もうしないと約束します。ですからどうかもう一度手を繋いでいただけませんか?』
「え…いや、こっちこそ…すんませんでした…。いくらなんでも頭突きはあきませんね」


戸惑いながらもこちらに近づいてきた光は、僕の前に立つと押さえていない方の手を取り先程のように指を絡め、優しくふわりと手を繋いだ。


『ありがとうございます。許してくれますか?』
「…はい」
『よかった』


優しく微笑めば光は頬を赤く染める。しかしすぐに真剣な顔つきになった。
ああ、そうだ僕のさっきの今までで一番の頭の回転からでてきた結果は
普通に謝って手を繋いで平和に帰ろうという結果でした。
あまり調子のったらまた不機嫌になるかもしれないしな。


「縁さん、ちょおしゃがんでください」
『あ、ああ。…はい、どうしたの…』



ちゅ



光にキスされた。
さっき押さえていたところにピンポイントで。
頭が真っ白になる。
状況を呑み込めていないようだ。
最初は思った。こういう流れに持って行くのもありかなと。でもさっき言った通り調子にのるのはよくない。
それに光がしてくれるはずがない。
だからこんな展開予想だにしていなかった。
真剣な顔したのはこれをするためと思っていいの…?


「あの…これで…治り、ますか…?」
『………』
「?…縁さん?」
『ええ、治りました…。すごいですね光は…』
「そんなことないです。治ったならはよ帰りましょ」


何時までここにおるつもりですかと繋いだ手を引かれ、その場を後にした。

その後のことはあまり覚えてなくて、気が付いたら家の玄関に立ち尽くしていた。
だから帰り道の最中に光が恥ずかしさをなんとかしようと珍しくずっと喋っていたことも、次の休みの日にどこかに出かけようという話も頭に全く入っていなくて
その日光に待ち合わせ場所で待ちぼうけをくらわせることになるなんてことは、光から初めてキスしてくれた嬉しさで幸せいっぱいの今の僕は微塵も思っていなかった。



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最初思ってた展開と違う…
夢主の口調が行方不明…
真面目に書こうと思ったのに…あるぇ…?
20120616

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