みんなでぞろぞろと連なって歩いて帰れば家までの道はあっというまだった。暗い道を怖いと思っていたけれどこの人数で次々に変わる話題に耳を傾けてたまに口を出して。そんな風にしていたら怖いことなんてなにもなかった。真奈美と2人だったらきっと強く手を握って早歩きで帰っただろう。そんな起きなかったことを想像して頬が緩んだ。まぁ校門を出るまではこのメンバーのせいか周りの視線が痛かったけれど。


「送ってくれてありがとね」
「本当に!おかげで怖くなかったよ〜」


あたしと真奈美がそう言って門に手をかけた時、ジャッカルが「こんなでかい家で2人で暮らしてるのか…」とあたしたちの家を見上げながら言った。それに柳が「確かに。この家は元々どちらかが住んでいたのか?」と質問を重ねてくる。あ、どうしよう。そこまで設定を作り込んでなかった。


「ここは元々真奈美の親戚の人のお家で空き家になってたのを今回こんなことになっちゃったからうちと真奈美の家で借りてるの」


適当に話を作って視線を送れば真奈美は首を縦にぶんぶんと振りながら「そうそう。おばさんとおじさんが住んでたの」と慌てて言った。それにみんなは納得したようだけれどやっぱり油断はできないなと思う。特に柳は。


「なぁ、喉乾いた。お茶くれ」


ガムを膨らませながらブン太が言った。思わずあたしと真奈美は揃って「えっ」と声を上げた。そしてそれに重ねたように柳生くんが「女性のお家ですよ」と嗜めるけれどブン太はそんなもん知らんと言ったような顔で「送ってやったろぃ」なんて言う。それを言われてしまったらあたしたちはなにも言えない。


「でも俺も正直2人の生活が気になるな」


柳がそんなことを言うと余計に家に入れたくなくなるんだけど。そう思いながらもあたしと真奈美は目を合わせる。2人とも同じことを考えてるんだろうな。その答えに「どうぞ」と2人の声がまた重なった。
家にみんなを入れてリビングに通した。すぐにお湯を沸かすためにキッチンに入れば、カウンター越しにみんなの様子が見える。真田くんはどこか緊張した様子で腕を組みながらソファに座っていてそれがかわいいなと思う。その横で幸村くんは穏やかに笑っているし、またその横にいる柳が静かなのが逆に怖い。全員がソファに座れないので他の3年生4人はダイニングテーブルに座っていた。赤也だけがソファの近くでクッションに座っている。真奈美と2人だと広かった家もさすがにこの人数を入れたら狭く感じられた。
あたしがお茶を淹れて、真奈美がたまたま買っておいたクッキーを皿に並べる。そうすると柳生くんがカウンターの方にやってきて「運ぶのをお手伝いします」と言うものだからあたしと真奈美はさすが紳士!と感激する。いつだって柳生くんは優しくて紳士的だけれどあたしたちはそれに慣れることはなくていつまでも感動してしまう。きっとこれは真奈美を好きだからとか関係なく元からの性格なんだろうなと1番重いティーポットとカップを載せた方のトレイを持ってくれた柳生くんの背中を見ながらあたしは人は1人でそう思った。


「ほら、あんたたちも柳生くん見習いなさいよー!」


そう言いながらあたしは柳生くんの方に載せれなかったティーカップと砂糖を運ぶ。その後ろを真奈美がクッキーを持ってついてきていた。


「プリッ」
「おっありがとな!」


あたしの言葉はなにも響かなかったみたいにみんなカップを取っていく。それでもちゃんとお礼を言うからまぁいいかという気持ちになる。座るところがないあたしたちはカウンターの中に戻って自分たちのカップでお茶を飲む。このカップは自分たちで選んで買ったもので真奈美とあたしで色違いだった。お弁当箱と同じであたしが白で真奈美がピンク。みんなの使っているティーカップは初めからこの家にあったものだ。この家には誰も呼ぶことはないだろうから使い道はないと思っていたのに今こうして使っていて。なんだか不思議な気持ちになる。横の真奈美をふと見ればある一点を見つめていた。その視線を追っていくとキャビネットにぶつかる。あの中にはご自由にお使いくださいというメモ付きの通帳とあの手紙が入っていた。あれ以外にあたしたちが他の世界から来たことが分かるものはないはずだ。勝手にあそこを開けるような人はいない。だから大丈夫。もう一度真奈美の方を向けば、あたしの視線に気づいたらしくこっちを向いた。そしていけないことをしているところを見られてしまったかのように眉を寄せてから笑った。


「2人の生活って大変なこともあるんじゃない?」


幸村くんがそう聞いてきた。あたしたちは一瞬自分たちに話しかけてきたのか分からずに返事ができなかった。


「あー、まぁね。でも自分たちで選んだし」


本当は選んでないし、成り行きなのにあたしはそう答えた。少し笑ってしまった。


「選んだ?」


今度は真田くんが聞いてくる。真奈美以外の全員がこちらを見ていた。「柳からあたしたちがなんで2人で暮らしてるか聞いてないの?」と言えば、柳以外が首を横に振った。


「俺は知った情報を勝手に言いふらしたりはしない」


そう柳は静かに言った。「確かに今まで聞いたことなかったな」とブン太も言う。なのであたしの口からなんで真奈美と2人で暮らしているのかを話す。前に柳に言ったのと同じ理由を。あたしの説明を真奈美が「だから私たちは2人で頑張るって決めたし、頑張らないといけないの」と言って締めた。だからあたしも「そういうこと」とだけ一言付け足す。それは本当の気持ちだから。
みんなは黙って聞いていた。あたしたちはわがままでここに2人で住んでいる。なんでそんな理由にしてしまったんだろうか、と思いながらみんなはどう思っただろうかと考える。引いちゃったかな。


「それくらい2人は仲良しってことなんすね!!」


最初に声を上げたのは赤也だった。それは思ってもみなかった言葉で。拍子抜けしてしまった。それを皮切りに各々考えを口にする。ジャッカルは「俺ならついて行っちまう気がする」なんて言ったり。柳生くんは「切原くんの言う通りおふたりはそれくらいにお互いが大事な関係なんですね」とか。思っていたよりも好意的であたしも真奈美も安心して目を合わせた。


「まぁなにか困ったことがあったら俺たちに声かけてよ」


幸村くんが立ち上がりながらそう言った。あたしたちが「ありがとう」と返すと、それが号令だったかのようにみんなが立ち上がった。見てみるとお皿の上のクッキーもカップの中身もきれいに無くなっている。あたしの視線に気づいたのか仁王が「食べたのはほとんどブン太じゃぞ」とこっそりと言ってきたので笑った。
門のところまでみんなを見送る。帰ってきた時よりももっと空気がひんやりとしていた。


「気をつけてね」
「送ってくれてありがとう」
「こちらこそ逆に気を使わせてしまいすまない」
「お茶もクッキーも美味かったぜぃ」


手を振ろうと腕を上げたところで幸村くんと目が合った。


「明日、出し物楽しみにしてるね」


なにを言うかと思ったらそんなこと。でもそんなことがあたしにとったら大変なことで。思わず顔を歪めると幸村くんは対照的にいつものきれいな笑みを見せた。この人意外と意地悪だな、と思う。


「俺も!俺も楽しみにしてるっす!!」


赤也が飛び跳ねながら言うからあたしは「はいはい」と受け流しながらわざとガシャンと大きな音を立てて門を閉めた。隣で真奈美がニヤニヤしているのは知らない。柳生くんがあたしたちに先に家に入るように言った。紳士的だなとまた思いながらそれに甘える。家に入ってドアを閉めた瞬間にどっと体が重くなった。そうだ、明日は文化祭本番なんだった。なんかもうすでに疲れたな、と思いながら肩を揉んだ。でもそれと同時にみんなが優しくて安心感の方が勝っている気がする。


「おじさんとおばさんが住んでいた…か。それにしては新しい家だったな」
「え?柳さんなんか言いました?」
「いや、なんでもない」


柳が家を見上げながらこんな独り言を呟いていたとは知らないあたしたちは一つの試練を乗り越えたような気になってソファに座り込んだ。



熱をもった明日がくればいい

苦いうそと甘いやさしさ




title:へそ
2023.11.28





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -