精市と弦一郎と中庭の方を歩いていると部員のみんなと滝沢と石橋が輪になって座っていて、俺たちの足は自然とそちらの方へと向かっていった。その場に着くと何故か柳生が部員たちから批難を浴びていて、その言葉を聞いているとどうやら柳生が滝沢を庇ったようだった。なるほど柳生らしい。
みんなが俺たちの存在に気づいた。滝沢と石橋の俺のことをちらりと見たのが分かって、相当警戒されているなと思う。そして以前にもこんなことがあったことを思い出した。それは精市が帰って来る前のことだ。けれど今はここに精市がいてこの場に馴染んでいる。俺にはそれがたまらなく嬉しかった。入院中に彼女たちに会いたいと言っていたのを知っているから余計に。


「なにがあったんだ?」


そう弦一郎がこの騒ぎの原因を聞くと赤也が「弥生先輩が…」と言いながら様子を伺うように滝沢に視線を向けた。当の滝沢は自分は悪くないといった風に視線をどこかへ向けて涼しい顔をしている。


「弥生が文化祭の出し物をどうしても言いたくないんだって」


少し困ったように石橋が言った。同じクラスである仁王と丸井は手をバツにして首を横に振っている。どうやらもうすでに口止めされているらしい。きっともうみんなで説得はしていて、そこで柳生が庇ったのだろうなと予測することができた。


「部長のところはなにするんすか?」


赤也が精市にそう聞いた。精市はそれに少し目を丸くした後で「もう部長じゃないよ」と前置きをしてから「クレープを焼くんだ」と言った。そして「花も飾るんだ」と付け足す。それに女子2人が目を輝いたのが分かった。


「俺のとこはお化け屋敷っす!先輩たちのこと絶対怖がらせるんで来てくださいね!」


胸を張った赤也がそう言うけれど仁王が「あんまり怖くなさそうじゃな」と呟くからみんなが笑った。それに赤也が面白くないと言う顔をするので、それにまたみんなが笑う。1人だけ困ったように笑っているのは柳生だ。そういえば、こういったものは苦手だったなと思う。


「私たちのところは縁日だよね。柳生くん、真田くん」
「えぇ」
「そうだな」


そう言って石橋は柳生と弦一郎の顔を交互に見た。それに赤也が「浴衣着るんすよね!」と言ってニヤニヤしながら仁王の方を見ていた。さっきの仕返しのつもりなのだろうか。それでも仁王はそんな赤也のことを無表情で無視していた。


「ジャッカルんとこはなにすんだよぃ?」
「俺のとこはたこ焼きと焼きそばだぜ」
「やった!食いもん!!」
「奢らないからな…」


みんなが笑っていた。あの弦一郎まで。まさか、新学期が始まってまだ日が浅いのにこんな風に過ごせるなんて思ってもいなかった。全国大会の悔しさ、他の生徒の視線に態度。赤也が苛立っているのも分かっていたし、柳生の憂鬱も知っていた。それにどう行動を起こすか考えている間にいつのまにか元通りになっていた。それはきっとここにいる滝沢と石橋のおかげなのだろうと気づいている。俺はまた興味深いと思う。そしてそれと同時に彼女たちがいてくれてよかったとも思っていた。少し不思議な彼女たちは俺たちの中に自然と溶け込んでいて。滝沢にはうまく躱され、石橋からは釘を刺されたけれどやはり2人のことが気になって仕方なかった。


「柳のところはなにするんだ?」


ジャッカルがそう聞いてきたので「うちのクラスは脱出ゲームに決まった」と答える。そうすると「柳がいると本格的になりそうじゃん」と丸井が言った。それにみんなが頷く。もちろん手を抜くつもりはない。自然と片方の口角が上がる。


「俺出れる気がしないんすけど…」


赤也が弱音を吐いた。それに俺は「そろそろ昼休みが終わるぞ」と言う。するとその場にいた全員が立ち上がった。


「あーあ!結局、弥生先輩たちのクラスの出し物なにか分からなかったなぁ」


もうすっかりみんなが忘れていたと思って安心していたのだろう滝沢はうんざりと言った表情で「しつこいなぁ」と言った。少し後ろを歩く赤也を振り返りながら。


「じゃあ俺は当日を楽しみにすることにするよ」


精市が滝沢の隣に並んで、その顔を覗き込みながら言った。滝沢はそれに一瞬驚いてから「それも困るんだけど…」と返す。赤也を見れば面白くなさそうにしているし、石橋の方を見れば少し寂しそうにしていた。俺はそれを見てから石橋の隣に言って耳打ちする。「2人は前から知り合いみたいだな」と。そんなことは全国大会の時に知っているはずだ。俺も石橋も。でも今それが言いたくなった。静かに、寂しそうに頷く石橋は俺と同じだからだ。俺たちは当事者である2人からなにも聞かされていない。それを寂しいと、面白くないと、感じている似たもの同士なのだ。



多分、きっとお揃い

俺たちは案外似ている




2022.02.27





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