全国大会が終わった。結果は準優勝。三連覇することはできなかった。けれど、それについて口を出して欲しくはなかった。夏休み中はいい。新学期が始まってその結果を知り、俺たちのことをなにも知らないやつになにかを言われるのは嫌だった。うるさい、と何度言いかけただろうか。でもそれを知っているのかいないのか。真奈美も弥生も普段と態度が変わることはなく、いつも通りだった。全国大会を見にきてくれていた二人は最初こそ目を真っ赤にしていたけれど、それでも泣いたりすることもなく「お疲れさま!」とだけ言った。それが心地よかった。多分、変に慰められた方が反発してしまっていたかもしれない。それに二人の気持ちの根っこの部分は夏の、林間学校の時に聞いていたからそれだけで十分だった。


「そういえば今更なんだけど柳生くんが貸してくれら本すごく面白かったよ!」
「それはよかったです!」
「まさかあの人が犯人だったなんて…」


新学期が始まって何日か経っていた。そんなある日のお昼休みに柳生と真奈美は宿題の読書感想文の話をしていた。真奈美が読んだ本を勧めてくれたのがどうやら柳生らしい。俺は話に入ることができずにただ横で立っていることしかできなかった。
柳生は全国大会が終わってから、少し態度がおかしかった。明らかに分かるようなものではなかったし、なにがおかしいと明確に言葉にできるわけではなかったけれど。どんよりと重い空気が柳生にまとわりついているようだった。けれど今日はそれがない。厳密に言えば、昨日のお昼休みに真奈美と教室に帰ってきてからだ。教科書を借りに行ったところで偶然に見たその時にはもう柳生の背景に曇り空はなくなっていた。きっと真奈美がなにかを言ったんだろうなと勝手に推測する。柳生が欲しかった言葉を与えたのだろうか。なにかを汲み取ったのだろうか。俺がそういった類のものが不要だということに気づいているのだろうか。人によって対応を分けられるのはそれぞれの求めているものが見極められるからなのだろうか。柳生を見上げて話を続ける真奈美を見ながら、疑問が湧き出てしまった。


「仁王くんはなに読んだ?」


そんな俺に気づいたのか、真奈美はこちらに顔を向けて聞いてきた。それに内心喜びながら俺は「プリッ」と答えてはぐらかす。すると二人は困ったように眉を下げながら笑った。


「仁王くんはこういった話はあまりしませんね」


柳生がそう言ったからか、真奈美はその話題をあまり深追いしてこなかった。確かに俺はそう言った類の話が得意ではなかったけれど、それが少し寂しかった。


「そう言えばもうすぐ文化祭だね。B組はなにするの?」


でもすぐに真奈美は俺でも入れる話題を見つけて話しかけてくる。柳生と一緒にA組の話を聞かせてくれたりもして、そういうところが本当にずるいんじゃと思ってしまった。真奈美を挟んで柳生を見れば、目が合って同時に笑ってしまった。俺と柳生が目と目を合わせて笑うってどうなんだと思ったけれど、多分同じようなことを考えていたんだろう。けれど、当の本人がなんで俺たちが笑い始めたのか分からない様子で俺と柳生の顔を交互に見ていた。本当にずるいやつじゃの。

のぅ、お前さんは柳生になんて声をかけたんじゃ?

なんて気軽に聞いてみたいような気もするし、そんなことは絶対にできないとも思う。自分のことには触れられたくないのにどうやって柳生の心を晴れにしたのかが気になって仕方がない。そんなの自分勝手がすぎることだけど。でも俺はやっぱり真奈美にも柳生にも聞くことはないんだろう。それが二人の中にだけあるのだと思うとやっぱり悔しいけれど。



僕だけの君でいて

そんなことを願うわけじゃないのだけれど




2021.09.30





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