お昼休み、いつものようにB組のブン太の元へと向かうと、そのまま中庭まで連れて来られた。わけがわからないまま着いてきたけれど、どうやら弥生と真奈美も一緒らしかった。
おかずの取り合いで騒いでいてでかい声を出していたりもしたけれど、結局最後にはみんな笑っていて。賑やかで楽しいと思った。
みんなそれぞれが昼を食べ終え、試験勉強をしていた。真奈美は柳生に化学を教えてもらい、仁王がそれにちょこちょことちょっかいを出していた。


「ここがこうなる理由は分かりますか?」
「ん?うん?」
「そんなんも分からんのか?」
「う…」
「大丈夫ですよ。ではここをもう一度説明しましょう」


そんな3人を見て笑ってしまった。さっきの卵焼きのくだりもおもしろかった。柳生と仁王の真奈美に対する接し方は全然違うのにそれでも気持ちは透けて見えて、同じ形をしている。真奈美は仁王にからかわれても嫌な顔一つしないし、柳生に優しくされても笑う。2人の気持ちに気づいていないと聞いたけど、こんな風にどっちに対しても同じような態度をとるのはどうなのだろうか。あの2人はどう思っているのかと思った。安心するのだろうか、競争心がわくのだろうか。もし、俺がペアを組んでいる奴―ブン太と同じ奴を好きになったらどうするのだろうか?
ブン太の方を見るとみんなが食べ終わっているのにも関わらず、まだ1人だけパンを食べていた。あれだけの量なら仕方ないとも思うけれど。メロンパンを頬張りながら弥生と彼女に英語を教えてもらう赤也を見つめるブン太。そして「甘い」と一言。それはメロンパンのことだろうか?それとも…。


「なんだみんなここにいたのか」


上から柳の声がして顔を上げた。柳の隣には真田もいて、2人は自然とこの輪の中に入ってくる。弥生が一度ちらりと柳の方を見たのを俺はなぜか見てしまった。


「なんだ、みんな勉強してるのか」
「もうすぐ期末っすからね!」


真田が周りのみんなを見て尋ねると赤也が答えた。今度の期末で英語の赤点をとるのはかなりまずいとずっと言っていた。弥生に英語を教えてくれと頼むと、2年生のところならいいよと今教科書の問題と格闘していたところだ。真田はその様子を見て「赤也が英語の勉強をしているとは感心だ」と頷いていた。それを見て、お前は赤也の父親か…と心の中で突っ込んだ。多分これはここにいるほとんどの人間の頭の中に浮かんだに違いない。


「そういえば、関東大会っていつから始まるの?」


化学の教科書から半分顔を出した真奈美が尋ねてきた。そういえば見に来てくれと頼んでおいて、いつにあるのか言うのを忘れてしまっていた。俺も誘ったことを知っているブン太や仁王から言ってなかったのか、という非難めいた視線が送られてきたけれど、それは無視した。なんだよ、1番に誘ったのは赤也じゃないか!


「今週の土曜からだ」


柳がそう答えると「はぁ?テスト期間じゃない!?」と弥生が悲鳴にも似た声を上げた。3年間これがずっと普通だった俺たち(赤也はまだ1回しか経験はないけれど)はその当たり前の声にきょとんとしてしまった。
「テニスも勉強も毎日の積み重ねだ」と真田は答える。それでも弥生は納得していない様子だった。それに現に赤也は今必死に勉強しているのだから、説得力はない。きっと赤也だけじゃないだろう。俺だって真田や柳、柳生に比べたら成績なんてよくはない。


「あぁ、そういえばお前たちは観に来てくれるんだったか。でも今週は来なくていい。テスト勉強に専念してくれて構わない」


柳が思い出したかのように言った。それに2人は首を傾げる。けれど、俺たちテニス部はきっと柳がなにを言いたいのか分かっていた。


「俺たちは無敗で決勝戦に行くのだ。関東大会の一回戦で負けるなんていうヘマはしない。だから、関東大会の決勝戦を観に来てくれ」


俺は頷いた。それは周りの全員が同じだった。さっきまで泣きそうになりながら英語の勉強をしていた赤也までもが自信に充ち満ちた表情をしている。周りのそんな表情に弥生は少し呆れた顔をした後に笑って「どこからくるのその自信…」と言って、真奈美は一度うんと頷いた後に「決勝戦を見に行くよ!」と笑った。


「ほら、じゃあ赤也は今のうちに勉強するよ!」
「うぃす…」


弥生のスパルタと目を白黒させる赤也に俺たちは笑った。あの真田までもが。けれど弥生は笑う俺たち全員を見回して「決勝前に負けたら絶対に許さないんだからね!」と言うものだから、笑いは止まってしまった。顔を引き締める俺たちを見ながら真奈美が頷きながらも微笑みを浮かべていた。弥生なりの叱咤激励と真奈美の温かい眼差しを胸に刻み込んだ昼休みだった。



空を掴む覚悟ならできている

さぁ、もうすぐだ




title:クロエ
2013.09.02




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