1度理解してしまえば、なにもかも納得のいくことだった。真奈美の話を聞く柳生くんの瞳がひどく優しくて、寂しい気持ちになってしまったことも、仁王が球技大会で真っ先に真奈美のことを見に行ったことをおもしろくないと思ったことも。ぜんぶぜんぶ。
あたしは真奈美に嫉妬している。
この世界に来て2人一緒ならやっていけるとあたしは思っていた。真奈美のことが好きだし、それは今も変わらないと思う。でも柳生くんと仁王が真奈美に恋をした。それがまるで真奈美だけがこの世界に受け入れられて、あたしだけが取り残されたみたいに思えたんだ。でもね、分かってるの。真奈美はかわいくていいこ。変なことに鋭くてよく転んでドジだったりするけど、そこもかわいかったりして。ずっと一緒だったからあたしは全部知ってるんだよ。真奈美のいいところ。だからこそ、嫉妬してる。真奈美みたいになりたい。真奈美みたいに愛されるようなこになりたい。


洗濯物を取り込んで、お風呂掃除も終わらせて、あたしはリビングに向かった。食卓にはおいしそうな料理が並んでいる。全部、あたしの大好きなものばかり。今日の料理当番は真奈美だ。こっちに来てから自分たちで料理を作るようになってお互いに料理の腕は上がった。けれど、少し前―多分、球技大会の練習を始めたくらい―から真奈美の料理は気合いが入っているように感じた。


「どうしたの?このごちそう」
「へへ。ちょっと頑張ってみました」


作りすぎたかな。そう言って真奈美はエプロンをはずしてあたしの前の席に座った。今日はなにか特別な日だったかと考えてみる。お互いの誕生日でもないし。なんの意味もなく、こんな風にあたしの好きなものばかりを並べられると少し困ってしまう。ううん、きっと前なら喜んでた。今素直に喜べないのはあたしの中でやましいよくない気持ちがあるから。真奈美に嫉妬しているから。心の中が透けて見えてしまっているんじゃないか、と少し不安になった。


「あのね。ずっと聞きたかったことがあるの」


真奈美のその言葉にどきりとした。テーブルの下であたしは手をきつく握る。嫉妬しているくせに真奈美に嫌われるのは怖いのだ。あたしはなんてずるいのだろうか。自分に都合のいいことばかり。それがまた嫉妬に繋がって悪循環。言いたくなかったらいいの、と前置きする真奈美にあたしの動悸は激しくなるばかり。


「ずっと元気ないよね?私がなにかしちゃったかな?」


そう言った真奈美の声は震えていた。それと同時にこの部屋の空気も震えた気がする。テレビもついていない、音楽も鳴っていないこの部屋でただ真奈美の声だけが響く。2人で暮らすには広すぎるこの家で。
真奈美があたしの変化に気づいていたのは知っていた。それでも、聞いてほしくないと思っていたことまでも悟ってくれたようでなにも聞いてはこなかった。その時は自分でも分かっていなかった醜いこの気持ち。今、聞いてくるということはそれに気づいてしまったということだろうか。


「いつも頼ってばかりでごめんね。私って弥生みたいになんでもできるわけじゃないし、バカだし、役に立たないかもしれないけど、弥生に元気になってほしいの。なにかできることないかな?」


最初は小さな声で話していたのに、少しずつ力が入っていって最後には声を大にして伝えてきた。まっすぐな瞳で、あたしが予想していたものとは違うことを。それに驚いて、でも真剣なその姿に口が自然を開いていた。


「ありがとう。ただね、あたしも人に愛されたいなって思ったの」


嘘でも間違いでもない。ただ遠回しにあたしの心の中を言ってみただけ。言うつもりなんかなかった。でも、どうにかしなきゃとは思っていた。こんな醜い気持ち。真奈美に嫉妬して、仁王に八つ当たりなんかして。余計にあたしはこの世界に受け入れてもらえないんじゃないかって、そう思っていた。


「なんで?私はこんなに弥生のこと大好きなのに。私は私にはできないことをできちゃう弥生のことが好きだよ。こっちに来て泣きそうだった私をたった一言で元気づけてくれるところも、転校初日に私は噛んだり転んだり大変だったのにそつなく友達作れちゃうところも、柳くんの厳しい質問攻めにも対応できるところも、他にももっともっと。憧れてるし大好きなんだよ」


だから、そんなこと言わないで。泣きそうに肩を震わせて真奈美が言った。瞳は涙の膜が張っていて今にもこぼれ落ちてしまいそう。さっきまで嫉妬の対象だったというのに真奈美はこんな風にいとも簡単にあたしの黒く濁った心を真っ白にしてくれて。あたしは気づけば笑って「ありがとう」と返していた。
きっと、これから先もこんな風に汚い気持ちが出て来たりすると思うんだ。だって、人間だもの。でもきっとその度に真奈美は今回みたいに、あたしの心の汚れを白く洗い流してくれるんじゃないかなって、そう思ったんだ。この世界に来た時、あたしは真奈美となら、頑張れるって思ったんだもの。


ごめんね、仁王。やっぱり、真奈美はまだあげられそうにないや。



これはきっと愛ゆえの孤独

ねぇ、おいていかないで




title:クロエ
2013.06.05




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