球技大会が終わって2日が経った。期末テストが近づいてあんなに沸き立っていた学校は今ではすっかりお勉強モード。毎日、バレーボールの練習に勤しんでいた真奈美も苦手教科の教科書を開いて泣きそうになっている。あたしはあたしで今までの世界での授業とこの世界での授業での穴をどう埋めようか悩んでいた。
前の世界ではやっている場所をこっちの世界でもう1回繰り返したり、前の世界でやっていない場所がこっちの世界ではもうやっていてできなかったり。そんな風に差ができていまっているためにあたしが授業でやっていないところもテスト範囲に入ってしまっているのだ。はぁ、とため息をつけば前の席にブン太が「なに?」と振り返る。転校前と転校後での授業の差について話せば、人ごとだというように「ふぅん」と一言。いや、本当に人ごとなんですけどね。


「ノート見して」
「俺、あんまとってない」


さも当たり前かのように言われてしまったら、なにも言えない。というか、なんとなく分かってたような気がする。もう1度ため息をついてから、隣にいる仁王を見てみると、のんびりと窓の外を眺めていた。少しは焦ろうよ、と思いながら、なにかを見つめる仁王を見つめる。すると仁王が小さく「あ、」と呟いた。


「なに」
「いや」


歯切れの悪い仁王にイライラしてあたしは席を立ち、窓に近づいて仁王が見ていた方を見る。そこにいたのは転んで柳生くんに起こされている真奈美だった。まぁ、予想通りといえば予想通り。そして、真奈美はまた転んだのか…。
顔を真っ赤にしながら差し出された柳生くんの手をとる真奈美は女のあたしから見てもかわいくて、自然な所作で手を差し伸べる優しい表情の柳生くんはさながら王子様のよう。きっと美術の授業なのだろう。2人が持っているスケッチブックもなにかの小道具のように見えてしまう。


「なに嫉妬?」
「直球じゃな」


仁王は片方の眉を寄せて自虐的に笑う。あたしはまた胸の奥からなんとも言えない気持ちがどろりとわき上がるのを感じていた。最近のあたしはこの得体の知らない気持ちに支配されているような気がする。いや、それは嘘なのかも。本当はちゃんとその意味も分かっていて、でもそれを認めたくはなくて分からないふりをしているだけなのかもしれない。


「お前さん気づいてたんか」
「あぁ、うん」


主語はなかったけれど、仁王がなにを言いたいのかは分かった。あたしの返事を聞いても仁王はなにも言わない。あたしたちの会話が聞こえているだろうブン太もなにも言わない。あたしは席に戻って、次の授業の準備をする。教科書を取り出してトントンと端をそろえる。あぁ、言ってしまったのはまずかったのかもしれないと今更悩んでしまう。


「のぅ、弥生」
「なに?」
「やっぱり女は紳士の方がいいんかのぅ」
「は?」


視線を仁王の方へと向けれみれば、仁王はそのまま窓の外を見ている。紳士?あぁ、柳生くんのこと?そういえば、初めて柳生くんに会った時も真奈美が転んでてそれを起こしてくれていた。それで真奈美が柳生くんのことを紳士!紳士!って騒いでたっけ。なんだ。仁王も気にしてたりするの?


「さぁ、危険な男に惹かれる女の子もいっぱいいるらしいよ」
「…俺って危険なんか?」
「…」
「…」


妙な沈黙が流れたと思ったらブン太が吹き出した。そして、そのまま笑い出す。あたしと仁王はなんだか笑えずに視線を不自然にそらしたまま。


「真奈美を俺にくんしゃい」


せっかく揃えた教科書があたしの手から離れてばさり、と音をたてて机の上に倒れた。仁王が変なことを言ったから。ブン太もガムが割れて口の周りにへばりついている。周りはうるさいはずなのにあたしの耳には仁王の言葉が大きく響いていて周りの音がなんだか遠い。おかしな感覚に陥る。ただ真剣な眼差しで見つめてくる仁王の視線が痛い。


「あげない」


自分でも驚くほど冷たい声が出た。仁王は目をまんまるにする。あたしはもう1度「あげないよ、あげない」と繰り返す。仁王の目をしっかりと見据えながら。


「お前ら娘を貰いにきた男と父親かよ」


ブン太がちゃかすように言った。声は上擦っているけれど。でも、それがよかったんだと思う。仁王も「ケチくさいのぅ」と笑ったし。あたしも「まだやれるか」って腕を組んで言って笑った。
仁王がどうしてあんなことを言ったのかは分からない。ただ、あたしはどす黒い気持ちに支配され始めているということに気づいた。もう隠せない。


あたしは真奈美に嫉妬してる。



メランコリックの王冠

憂鬱なんて蹴飛ばして




title:クロエ
2011.12.23
2013.02.23




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