今私がいるこの世界がさっきまでいた世界とは違う?そんなこと信じられるわけがない。今日のことを思い出そうとするけれど、記憶は帰路の途中からぷつりと途切れてしまっていた。


「なんかよく分かんないことになったね。でもあたしは真奈美と一緒でよかった」


弥生がそう言って、私の手を握りながら笑いかけた。きっと私が泣きそうになっていることに気づいたんだと思う。いつも私は弥生に支えられてばかり。今だってそう。弥生の言葉のおかげで救われた。そうだ、弥生がいるじゃないか。こぼれそうだった涙がこぼれることはなく、気づけば私は笑っていた。


「そうだね。私も弥生がいれば頑張れるよ」


私たちは小さい頃から一緒。物心ついた時にはもう一緒にいた。私は弥生のことが好きだし、きっと弥生もそうなんだと思う。なんて自惚れと言われればそれまでなんだけれど。
私たちはいつも通りの会話に戻った。こんな風に空気をがらりと変えることのできる弥生はやっぱりすごいと思う。


「この世界での生活は保証されてるって言うけど具体的になんなんだろ」


弥生が手紙を読み返しながら言った。確かにその通りだ。家だけ与えられても困る。私たちは普通の女子中学生であって、アルバイトもできない年齢だ。衣食住に教育まできちんと責任をとってもらいたい。


「義務教育は終わらせたいよ、私。いつ帰れるか分からないんだし」


キッチンに辿り着く。確かにと笑う弥生の笑い声が聞こえてきた。オープン対面式のキッチンなのだから当たり前なのだけれど。それにしても新しくてオシャレなお家だ、と思いながら白いキッチンパネルに触れる。
見回してみると立派な冷蔵庫。2人暮らしなのにもったいないんじゃないかなと思いながら観音開きの扉を開いてみる。中はからっぽで、冷気が頬に当たった。リビングにあった大きな液晶テレビもきちんと映るようになっているのだろう。この家や家具は私たちの為に新しく用意されたのかと疑問に思った。冷蔵庫もそうだけど、他の全てのものが中学生の2人暮らしには大きすぎたり、高価すぎたりと不釣り合いな気がする。



「そういえばさっき階段があったよね。2階とか他のとこも行ってみようよ」


キッチンに入ってきた弥生が言う。手紙はきちんと封筒に入れて、テーブルの上に置いてあるのが見えた。きっとあの手紙以外になにも入っていなかったのだろう。2人でリビングを出て、階段を登った。
2階には私と弥生にそれぞれの部屋があって、これから通うことになる学校についての書類や制服、教科書まで一式揃えてあった。転校する学校は立海大学付属中学というらしい。


「やった、私たち義務教育は終えられるよ!」
「うん。でもやっぱり聞いたことない学校だねー」
「そうだねぇ。あ、制服ネクタイで巻きスカートだ!後で着てみようよ!」
「はいはい」


私の部屋で転校についての書類を見ている弥生。私は新しい制服を持ってくるくると回る。今着ている制服は当分着ることはないのだろう。そう思うと寂しくなって着ていたニットベストの裾を引っ張った。そしたら、弥生が私の頭を撫でてくれた。へへへ、と笑えば「変な笑い方」とこっちが笑われてしまう。ほら、またそうやって空気を変えるのね。


家の中を調べ回りまたリビングに戻ってきた。学校以外に分かったことは家具や調理器具がきちんとあるということ。けれど、それ以外のものはなにもなく自分たちで用意しなければいけないこと。(どの家具の引き出しを開けてもなにも入っていなかった。)その為の資金はきちんと用意されているということだった。(唯一、リビングのおしゃれなキャビネットの引き出しの中からご自由にお使いくださいというメモ付きの通帳とカードが出て来た。)最後に気づいた携帯は使えるけれどお互いのメモリ以外は消えていた。


「とりあえず買い物でも行く?」
「うん、私お腹空いたよ」
「じゃあ、行こうか。今日はなに食べる?」
「うーん。作れるもの?」
「あはは。そうだね、これから料理も覚えなきゃね」


家を出て迷いながら辿り着いたスーパーで食材を買って、2人で協力しながら料理を作った。今日はクリームソースのパスタとグリーンサラダ。初めて2人で作った料理は少しだけ水っぽくてぐちゃぐちゃしていたけれど、それでもおいしかった。
それを食べながら話すのはこれからのこと。目が覚めて知らない場所にいた時は絶望的だったのに、いつの間にか私は楽しくなっていた。明日は必要なものを買いに行こうと計画をたてながら新しい学校のことについて話したり。弥生と一緒だったらどんな世界でもやっていける気がする、なんて考えてた。



きみがいなきゃ迷子

2人一緒だと心強いね




title:クロエ
2011.04.12
2013.02.23



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