弥生と別れて教室へ向かうとクラスの大半が集まっていた。普段ならこれの半分も集まっていないだろう。いつもは朝練でいない真田くんもいて、「おはよう」と声をかけると「あぁ、おはよう」と腕を組みながら答えてくれた。私は席について小さくため息をついた。
昨晩、柳くんとの対面も終えて一応納得をしてもらえたこと、テニス部の関東大会という楽しみができたこと、心に余裕を持ってベッドに入った。けれど、目を閉じた瞬間に思い出したのだ。球技大会の種目決めがあることを。それを思い出してしまってからは眠ることはできないし、さっきも弥生にいらない心配をかけてしまった。ただでさえ、昨日は泣いてしまって心配をかけたというのに。それでも、私のこの憂鬱な気持ちはどこにも行かない。
席についてから、すぐに始まった種目決め。このクラスは結構なんでもテキパキとなんでも決めて行く方だと思う。真田くんや柳生くんを筆頭にしっかりとしている人が多い。生徒会長までいるし。今回の種目決めもあっという間に決まっていって私はバレボールに出ることが決まった。放課後にも練習することになって、みんなが球技大会を楽しみにしているということが分かる。大学までの付属の学校ではあるけれど、中学最後の球技大会。その気持ちが分からないわけじゃない。でも、私はみんなのように気分が弾むことなんてなかった。むしろ、みんなが楽しそうに話し合いながら笑うほど私の気分は沈んで行く一方だった。


―――――☆


2限の授業が終わって20分休みが始まった。私は次の授業の教科書を机の上に出してから教室を出た。廊下に出て窓枠に肘をついて考えごとをする。窓の外を見てみれば、木々の緑が深くなっていてきれいだった。最近は暑さも増していて夏だということが嫌でも分かる。まとわりつく空気が熱い。
外の空気に触れて気分転換しようと思ったのに1人になると余計に考え込んでしまっていた。ため息を1つ落としたら、さっきよりも気分が重くなったような気がして後悔する。


「真奈美さん、どうされたんですか?」
「柳生くん…」


肩を落としていると、後ろから柳生くんに声をかけられた。そのまま隣にきて同じように外を眺め始める。そんな彼に私はなんて言えばいいのか分からなくて俯いて黙り込んでしまった。


「なんだか気分が落ち込んでいるようでしたので、つい話しかけてしまいました。なにかあったのですか?」


柳生くんはふんわりといつもと同じように優しい笑顔を浮かべて聞いてきてくれた。こんなこと話してもいいのかな、といつまでも口を開けずにいると柳生くんの方から「もしかしたらお力になれるかもしれません。よかったら仰ってください」と言ってくれた。だから、私は「ありがとう」と言ってから話し始める。
自分が運動はあまり得意ではないこと、特に団体競技が苦手で、今回みたいな大きなイベントでのクラス対抗などのようなものになると緊張とプレッシャーで余計に体が動かなくなってしまうこと。
そのことをたどたどしくゆっくりと話す。それでも柳生くんは優しい表情で黙って聞いていてくれていた。だから、私はつたない言葉だったけれど、最後まで話すことができた。そして、私が全部話し終えると柳生くんはゆっくり優しく私に語り始めた。


「球技大会の競技決めがあったから元気がなかったのですね。ですが、そん心持ちではいけません。もし、あなたが失敗したとしてもきっと他の人がカバーしてくれるでしょうし、励ましてもくれるでしょう。それがチーム戦というものです」


最後にはまっすぐに瞳を見つめられた。そして、一呼吸おいてから繋がる言葉。


「だから、あなたも自分のできることを精一杯しなければなりません」


その言い方ははっきりとしていて強い口調ではあったけれど、どこか暖かくてすんなりと私の中に入ってきた。柳生くんは初めて会った時から優しくて私を何度も助けてくれた。今回だってそうで、私はさっきまでの嫌で嫌でしょうがなかった気持ちはどこかに行ってしまっていた。


「そうだね。私は私のできることを精一杯やらなきゃいけないよね」
「えぇ、そうです」
「ありがとう、柳生くん!私頑張ってみるよ!」


お礼を言えば、柳生くんは少し照れたように顔を背けて眼鏡を上げた。でも、ちらりと髪から覗く耳は真っ赤。それがかわいくて私の頬はゆるゆるになってしまう。手で隠したけれど、柳生くんにはお見通しだったみたいでゴホン、と咳払いされてしまった。それに合わせて私は背筋を伸ばす。すると、今度はそんな私の態度を見て柳生くんがにこにこと笑った。だから、私は同じように咳払いをする。


「さぁ、では教室へ戻りましょう」


いつものように紳士的に手を差し伸べて道を示してくれた。私が微笑めば柳生くんも微笑んで返してくれて。私は色んな人に支えられて生きてるんだなぁ、と柳生くんの風に揺れる柔らかな髪を見ながら改めてそう思ったんだ
放課後の練習では全力を出そう。自分にできることを精一杯やろう。今日当番の晩ご飯も腕によりをかけてを作ろう。弥生においしいって言ってもらえるように。私は自分のできることから始めよう。そして、私も誰かを支えるような人になりたい。



進化論の必要

一人じゃ成長することもできない




title:クロエ
2011.07.17
2013.02.23




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