お昼休み。今日は昨日スーパーに寄れなかったからお弁当じゃなく、登校途中のコンビニで買ったパンを食べた。真奈美が先生に呼び出されたから1人、いつもの中庭で。他の友達と食べてもよかったのだけれど、なんとなく1人で食べることにしたのだ。きっとまた明日から真奈美と食べるのに、今日だけグループに入れてもらうのは都合のいい時にだけ一緒にいる人を探しているようで嫌だったから。
静かな1人の食事を終えると、あたしは芝生の上にごろんと横になった。そういえば、前にこうして中庭で眠る赤也を見つけたことがあったな、と思い出す。あれは転校してきたばかりの頃だ。まだ1ヶ月も立っていないのに随分と前のことのように感じる。
目を閉じて昨日のできごとを思い出す。柳はよく話すようになってからもなんだかどこか捕らえ所のない、なにを考えているのか分からない人だと思っていた。多分、それは頭の回転の早さが表面に出てしまっているせいだろう。それに加えてあんな質問をされたら警戒せざるを得ない。昨日はとても怖かった。今の生活にも慣れてきて普通に楽しく過ごせていたから、それが壊れてしまうんじゃないかと思うと不安で仕方なかった。もう普通の生活が壊れてしまうのは絶対に嫌だ。一度それを経験しているからこそ、もう二度とその恐怖を味わいたくないと思う。きっと柳はあたしの言い訳を本当に信じたわけじゃない。それでも一応は納得してくれた。つまり、それは口を閉ざしてくれるということで、今のこの生活は守られたということ。その守られた生活は柳が握っているも同然なのだけれど。最初は仁王を警戒していたのに、あたしにも真奈美にもなにも聞いてこない。ただの恋する男になってしまっているから少し笑える。
きっと1人でニヤニヤしてしまっていただろう、私。その頭のすぐ近くで芝生を踏みしめる音が聞こえたから目を開けた。そこにいたのはあたしの顔を覗き込んでニコニコと笑う赤也。


「初めて会った時と逆っすね」
「あたしは眠ってないけどね」


当然のようにあたしの隣に座る赤也。それに合わせてあたしは起き上がって、膝を抱いて座った。ビニールの音がして見てみれば赤也は購買で買ったらしいパンの包みを開けていた。購買は戦争かと思うくらいのパンの争奪戦。あたしと真奈美はその争いを避けるために早めに家を出てコンビニに寄ったのだ。しかも、赤也が持っているのは人気のやきそばパン。あの戦いに勝ったのかと赤也を見ていると、視線に気づいたのか「弁当だけじゃ足りなくて…」と笑ってパンを頬張り始める。育ち盛りですもんね。


「そういえば真奈美先輩は?」
「先生に呼び出されたってさ」
「え、なんか悪いことでもしたんすか?」


赤也にそう言われて真奈美は先生に呼び出されるようなことをする子じゃないと気づく。なんで呼び出されたのだろう。後で聞いてみよう。今更転校について不備があったんだろうか。変な時期の転校だったのにあまりにもうまくいきすぎている。…なんて、あたしは昨日のことで敏感になりすぎているのかもしれない。


「弥生先輩?」


赤也に名前を呼ばれて、あたしは自分の世界から意識を戻した。険しい顔をしていたと思うあたしを赤也は心配そうに不安そうに見ていた。


「さぁねぇ。悪いことはしてないと思うけど、なにかドジったんじゃない?」
「なんかひどい言い方っすね…」


上手くごまかせたのかは分からないけれど、赤也は苦笑いした後すぐに手に持っていたパンを食べ始めた。あたしはそれを見届けてから芝生のサラサラとした感触を手で確かめるようにして触った。この学校は自然が多いと思う。きれいな花がいっぱい咲いているし、まだ行ったことはないけれど屋上庭園もあるらしい。


「この学校は花がいっぱいだよね。ほんと、きれい」


あたしがそう言うと赤也は目をまんまるにしてから周りを見回した。きっとその目には色とりどりの花が映っているだろう。赤也は見回したその目をこちらに向けてから満面の笑みを浮かべた。


「それは幸村部長のおかげっすね!」
「幸村部長って入院してるっていうテニス部の部長…?」
「そうっす。美化委員で花いっぱい運動ってやつしてたんすよ」


まるで自分が褒められたかのように誇らしそうに話す赤也にあたしはつい口角が上がってしまう。「尊敬してるんだ?」と聞けば「はい!」と元気のいい返事が返ってきた。その後に慌てて「ぜってー倒してやりますけど」と言い訳する。耳まで真っ赤にして。それすらもかわいいと思ってしまった。


「もうすぐ関東大会が始まるんすよ」
「へぇ。頑張ってね」
「真奈美先輩と見に来てくださいよ。きっと仁王先輩と柳生先輩も喜ぶっす」


あの2人の気持ちに赤也も気づいていたのか、と思った。確かに分かりやすいものだけど。なんて、やっと確信したばかりのあたしが言えないのかもしれない。赤也の言葉には「行けたらね」とだけ返すと、少し拗ねたような表情をしたから頭を撫でた。


「そういえばその前に球技大会っすよ」
「その後には期末テストもあるよ」


期末テストという単語に赤也は「げぇっ」と声を上げる。続けて「俺、英語やばいんすよ〜」と情けない声を出すものだから声を上げて笑ってしまった。


「テストが終わればすぐに夏休みよ」
「それじゃ全国大会もすぐそこだ!」


赤也が空を見上げたからあたしも同じように上を向いた。そこには今の赤也の笑顔のように輝いている太陽があった。



きみがまぶしい

だからたまに目を開けているのが嫌になるの




title:クロエ
2011.05.29
2013.02.23




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