あたしは真奈美と別れてから1人でゆっくりと残りのお弁当を食べた。食べ終えてから中庭を少し散歩してみることにする。この学校は広い。前にいた学校は私立じゃなかったし、こんなに広くはなかった。
この踏みしめる感覚。空を見上げれば晴れ渡った青が広がっていて気持ちよくなる。それらは前の世界とはなんにも変わらない。視線を元に戻してみると少し先に足が横たわっている人間の足が見えた。この場所からだと膝から下しか見えない。制服のスラックスを履いているということは男子だろう。おそるおそる近づいてみるとやっぱり人間の足。モジャモジャの特徴的な髪の男子が寝ていた。確かに気持ちいいけどこんなところで寝ちゃうんだ、と思いながら、また一歩近づいてみたらあたしの気配を感じとったのかその男子は少し唸ってから起き上がった。


「あ、起こしちゃった?」
「あんた誰?」


謝ればその男子はあくびをしながら言った。確かに目覚めた時に知らない人がいたら驚くよなぁ。目覚めたら知らないところにいたっていうのもかなりのびっくりだったけど。なんて。


「3−Bの滝沢弥生。食後の散歩してたら人の足が見えたからびっくりして近づいたの」
「なんだ。ファンかなにかかと思った。しかも先輩すか。すんません。昨日遅かったのと朝練で寝不足だったんすよ」


ファン?朝練?有名人なわけ?疑問に思いながらあたしは立ったまま座ったその男子のことを見る。その男子はまだ眠たそうな目をしてモジャモジャな頭をかいていた。


「あたし昨日転校してきたの。あなた有名人なの?」
「そうだったんすか。俺はテニス部の2年生エース切原赤也っす」
「へぇ。よろしく!テニス部かぁ。人気あるの?うちのクラスに2人レギュラーいるよ」
「あぁ、丸井先輩と仁王先輩でしょ。てか、それ本人に聞くんすか?」
「うん!」


切原の隣に私も座った。確かに見てみれば、切原の手首には丸井や仁王と同じリストバンドがついている。
それから残りの昼休み切原と話をして過ごした。それでテニス部は人気があるということを知る。たまにしつこく付きまとってくる人もいるからこの静かな場所で眠っていたらしい。そのファンにあたしは間違えられたわけか。お昼休みが終わりに近づいて私と切原は立ち上がる。


「じゃあね、切原。授業中は寝るなよー」
「分かってますよ」


校舎に入ってから切原と別れた。顔をしかめてあたしに言う切原をなんだかかわいくて笑ってしまう。部活に入ってなかったあたしには後輩と接する機会はあんまりなかったから新鮮なものだった。まだ会って少ししか経っていないのに切原は人懐っこくて、あたしも自然に話ができていた。
教室に戻ると丸井がガムを膨らましながら携帯を弄っていた。仁王はいない。席に着くとあたしに気づいた丸井が振り返った。


「おー、おかえり」
「ただいま。そういえばテニス部の2年に会ったよ」
「あぁ、もしかして赤也?」
「うん。ファンと間違えられた」


あたしの言葉に丸井は大きく笑った。そんなに笑わなくてもいいと思うんだけど。笑い続ける丸井をあたしは横目で見ていたら、急に笑っていた丸井が咳き込んだ。どうやら噛んでいたガムが笑ったことによって喉に触れて咳き込んだらしい。笑いすぎるからだよと心の中で悪態をついたけど、あんまりにも苦しそうだったから背中を撫でてあげた。


「なにしとんじゃ、お前さんら」


そこに丁度帰ってきた仁王。「おかえり」と声をかければ「おぅ」と返ってきた。丸井は咳がやっと治まったようで真っ赤な顔で深呼吸をしている。あたしは背中を撫でていた手をとめた。


「丸井が咽せて大変だったの」
「ほぅ。大丈夫か?」
「なんとかな」


仁王が咳き込んで声のおかしい丸井の背中を撫でた。その時一瞬だけ仁王はイタズラをする子どものような笑みを浮かべる。その笑い方はなにか含みを持った笑い方で。仁王が撫でるのをやめて丸井があたしに背を向けた。その時に見えたのは丸井の背中に貼られた105円とかかれた値札。それに思わず笑ってしまうと丸井は仁王になにかされたのだと気づいて仁王に詰め寄る。けれど、仁王は何食わぬ顔をしていて、それがまたおもしろかった。


「そうじゃ。もう1人の転校生に会ったぜよ。お前さんら本当に一緒に暮らしてるんか?」
「うん。今日のこのお弁当は真奈美が作ったんだよ」


丸井に胸ぐらを掴まれたまま仁王は目線だけをこっちに向けて聞いてきた。あたしは片付けようとしていたお弁当箱をぶらさげて見せて答える。自分を無視して会話を進めるあたしたちを見て丸井は仁王を離した。


「あいつ、おもしろいのぅ」


無表情だった仁王の顔に笑顔が生まれた。その仁王の笑った顔がなんだかひっかかる。さっきのイタズラなものとはどこかが違っていたのだ。そう思ったのは丸井も一緒だったみたいでさっきまで不満そうだった顔が呆気にとられたような顔になっていた。



星が落ちる速度で

知らないうちになにかが変わってく




title:クロエ
2011.04.15
2013.02.23



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