今季1番の寒さだと、朝の天気予報で何と無く聴こえた。朝はそんなに気に留めてなかったけれど、この時間になるとうんと身に沁みて感じる。ヒュウと音を立てて吹く北風に、枯れ落ちた道端のイチョウがカサカサと踊っている。本格的に冬到来だ。顔を少し上げて目一杯息を吐くと、それは色をつけて消えていく。


「蛍、」


ダラダラと歩くわたしに合わせてゆっくりと前進する長い脚が、問い掛けに動きを止めた。何ですか?と首が動くけれど、暖かいマフラーに埋もれた唇は姿を現さない。


「雪降るかなあ」
「多分降らないです」
「だってこんなに寒いよ〜」
「でも星が見えるから」


深く透き通る空気にまた白く息を吐いて、その先に広がる宇宙色に眼を向けた。色付く星がカラフルに輝くのを見て心が躍る。星が綺麗に見えるとより一層冬の訪れを実感する。


「今年も終わりだなー」
「もう12月ですからね」
「早いな〜早いな〜」
「その言い方はアレですか、怪談話の」


他愛のない話をしながら、どちらからともなく手を繋いだ。蛍の手は暖かいとまではいかないけれど冷たくもない。星空の下、わたしが繰り出す適当な会話に、まだ後輩っ気が抜けていない敬語で返す彼に、ああ好きだなあなんてこの寒さのように全身で感じたりして。


「来年の目標は、蛍にタメ口で話してもらうことです」
「…僕の目標じゃなくあなたの目標ですか」
「そうです。わたしの」


先輩じゃなくて彼女なんだから、少し寂しくなったりもする。敬語で話す彼も可愛いけれど。

困った顔をして、寒さからなのか、それとも恥ずかしいのか、頬と耳を赤く染める彼に少しだけイジワルを言ってみる。口下手な彼は、わたしのそういうところを少々煩わしく思ってるだろうか。


「蛍くん。わたしのこと好きですか?」


金色の髪が揺れる。藍に染まる空をバックに、月のように瞬く。色素の薄い瞳にわたしが映る。逸らしたくても、逸らせないように、真っ直ぐに彼を見つめた。いっかい、にかい。彼が瞬きをするたび、愛おしさが増してゆく。


「そういうこと、僕に言わせないでください」


視線から逃げるように、冷えたアウターごとわたしを包んだ。身体ごと伝わる、低く澄んだ声。やだ、言って。顔を上げると、端整な顔立ちが酷く歪んでいるから思わず笑ってしまった。


「ごめんイジワルな質問だったね。嫌いになった?」
「…本当にズルいですよ、その聴き方」


滅多な事がないと言ってくれないから、ごめんねと言いながらもやっぱり欲しいと期待してる。わたしは大好きよ。声に出して言わないけれど、伝わって欲しくてぎゅうぎゅうと彼の身体に顔を押し付けた。


「…好きですよ」


鼓膜を震わせる、その言葉を理解するには時間がかかった。待ち望んでいた言葉だったけれど、多分今日も聞けないだろうなあなんて想像していたから。

勢いよく顔を上げたものだから、わたしの頭と彼の顎が打つかってしまった。それでもさっきの彼の言葉があまりに衝撃的過ぎて、痛みなんて全然感じてなくて。


「ねえ!ねえ蛍!もっかい!もっかい言って!」
「…」
「え!?大丈夫!?ごめん!」
「もう言わない…」


一瞬にしてそれは大惨事になってしまったけれど。しゃがみ込んで悶絶する彼を心配するわたしはやっぱり少し顔がにやけている。拗ねる彼の頬はさっきよりももっと赤く染まっていて暖かそう。けれどそこに唇を落としたら、びっくりするほど冷たかった。冬だなあ、痛がる彼を見ながら、呑気にそんなことを思った。











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