12月に入った途端、真冬が突然やって来たみたいに気温が急激に下がった。雪が降ってもおかしくないと思う寒さは夕暮れにはさらに厳しいものになっていて、教室で去年買ったお気に入りのダッフルコートを羽織りチェック柄のマフラーを巻いて下駄箱へと向かえば同じような防寒対策をした黒尾が待っていた。

「マフラーの巻き方おかしくね?」
「え、うそ。慌てて巻いたから…」

顔を合わせてまず口にした黒尾の言葉に巻いたばかりのマフラーを解くと、外から入ってくる冷たい風が首元をひやりとさせ顔を強張らせてしまう。そんなわたしに「ほら」と手を伸ばしてきた黒尾が器用にマフラーを結び直してくれた。自然と近くなった黒尾の首元にはシンプルな無地のマフラーが巻いてある。今年の誕生日にわたしがプレゼントしたものだ。「寒くなったら使ってね」と言うわたしに「忘れてなかったらネ」と素っ気ないセリフを吐きながらも嬉しそうに笑っていた黒尾の顔は今でも容易に思い出せる。寒くなってきた頃にわたしが「マフラー忘れてないよね?」と口にする必要もなく黒尾はそれを巻いた姿を見せてくれた。何度思い出しても口元が綻んでしまう。

「ふふっ」
「?なんだよ」
「ううん、なんでもない。ただの思い出し笑い」
「うーわ」

キモチワルッ。ふざけた口調でそう言って、とっくに靴を履き替えて待っていた黒尾は先に外に出てしまった。わたしも上靴からローファーに履き替えて黒尾のあとを追う。校舎の中とは違って一歩外に出れば容赦なく冷たい風がびゅうっと全身を襲う。ううっと歯を食いしばり身震いしながら前を見れば、黒尾がわたしの方を見てニヤニヤと笑っていた。

「ぶっさいくな顔してんぞ」
「…そんなぶさいくな女の彼氏は誰よ」
「俺しか居ないだろ」

「ほら」またそう言って黒尾がこちらに向けて手を伸ばす。唇を尖らせながらわたしもそれに手を伸ばす。冷えた指先が黒尾のあったかい手に触れた。

「相変わらず冷てぇなあ。手袋どうしたんだよ」
「去年の手袋もう毛玉だらけなんだもん」
「じゃあクリスマスプレゼントに買ってやるよ」
「え、ほんと?」
「かわいいかわいい彼女をあっためてやりたいじゃん?」
「さっきぶさいくって言ったくせに」
「なんだそれ、ひでー男だな」
「バカじゃないの」

ぎゅうぎゅう手を握り合いながら二人並んで歩き出す。吐く息は真っ白で、頬に触れる空気は冷たい。だけど黒尾と一緒に笑っていたら心はポカポカとあたたかい。何気ないささやかな時間、12月の始まりに感じた小さな幸せ。