王様ゲーム

「愛してるぜ、旦那」


耳元でささやかれた、ハスキーボイス。本気とも冗談ともとれないご機嫌なセリフ。
カズは顔をほのかに赤らめて、はにかんだ。


「は?」


誰もの目が点になる。
そして、その言葉の意味を理解する為に要した時間、なんと三十秒たっぷり。
キッチン周辺の空気が、五度ほど下がった。
唖然とした顔で、カズを見たゾロは、凍り付く。
サンジは鳥肌が立ったのか、ものすごい勢いで壁まで避ける。
ナミとロビンは持っていたカップを落とし、ウソップは意味不明の叫び声を上げて、
チョッパーは顔面蒼白で、顔をこわばらせた。おいおい、笑えねえ冗談はよせ、と
フランキーは引きつった顔をする。ルフィだけは、意味がわからず首を傾げていた。
一極集中する視線に、カズは曖昧模糊な笑みを浮かべているだけで、何も言わない。
ささやかれた側であるゾロは(なっなにいってんだよ)とぎこちなくカズを見た。
しばらくにっこり、と形容のほほえみをたたえていたカズだったが、少しずつ身体が
揺れはじめ、やがて独りでげらげらと腹を抱えて笑い出した。


「6番は、1番をびびらせるっていったの、ナミだろ!みんなそろって、何むきに
 なってんだよ、おい!俺が男好きだったら、こえーだろうがよ。そんなもん想像
 すんなって、馬鹿。やべー、おもしろすぎて、死ぬ!」


床をばんばんたたいて、涙を浮かべながらカズは笑い転げる。
はっ、とようやく我に返った面々は、現在進行形で王様ゲームを(誰が言い出したのかは
もはや謎の領域だが、)していることを思い出す。キッチンにあった奇妙な緊張感を
自ら作ってぶっ壊したカズは(おせーよ!)とつっこみを入れた。
なんだかほっとして、いたたまれないがこの上なく滑稽な安心感に満たされる。
(うそなのか)(だよな)とみんながうなずいた。未だ、ひいひい、言いながら笑死寸前の
カズに、哀れにもたちの悪すぎるドッキリの標的にされたゾロは、怒りの咆哮をする。


「てめえが意味深な笑いなんざ浮かべるからだ、カズ!!この野郎、歯ァ食いしばれ」


さっきの焦燥感と動揺と、無駄に揺らいじまった平常心をかえしやがれ、とゾロは
日本刀に手をかけた。


「わりい、期待した?」

「ぶっ殺す」

「きゃあ、ゾロごらんしーん」


どたどたどたどた、と騒がしいおいかけっこが始まった。





(実は満更でもなかったりしてな!)(海の藻屑になれ)(あっは、安心しろ。俺も男はごめんだ)


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