若き料理人の憂鬱

「いいかげんにしやがれ、爆弾魔!ケンカ売ってんのか、てめえ」

「本日閉店しましたぜ、お客さん。万年発情期よかましだろ、失礼な。
つーか、なんで怒ってんの?お前。」


生暖かくなったパスタをきれいにフォークで巻き取りながら、
カズはサンジを見上げた。
エプロン姿のサンジは、突っかからんばかりの勢いで、
テーブルをたたきつけるが、カズは
(いやーん、お行儀悪ーい)とけたけた笑うだけで、全くビビってはいなかった。
ウソップがいれば、キッチンは現在ブリザードと解説してくれそうだが、
あいにく優秀な天気予報士は第二次食事争奪戦を終えて、男部屋に引っ込んでいる。
基本的に空気は読めるが気にしない男は、パスタを半分食べ終えた。
ぽかぽかな春の穏やかな日差しのなか、
いらついたようにサンジは乱暴にイスを引いて、腰掛ける。
そしてたばこの火がついた。


「いっつも三十分ほどねらったように遅れやがって。
洗い物が遅れっと面倒なんだよ。
 少しは協力しようって気にならねーのか。」

「いや、全然。食事争奪戦なんてげすなこと、優雅なオレができるわけねえじゃん。
皿くらいオレが洗っとくから、他のことしてろよ、コックさん。」

「卿においては卿に従えっつうだろ、カズ。ここはオレの聖域だ。
 オレがここを預かってる以上、
 クルーは一番旨いもんを一番旨いときに食って、
 健康をオレに預ける義務を負うんだよ。だから言うこと聞け」

「ひゅう、やっぱ一流コックの言うことは違うねえ。
 なら、オレもナミくらいに昇格してくんない?」


(だんじょびょーどーってやつでさ、)とカズは、交渉の口火を切った。


「やなこった。それとこれとは話が別だろ」

「まあ、べっつにバラティエ元副料理長さんが、
 調理法ど忘れして一日落ち込んでても、レシピ
 無くして探してたら、ポケットにあったとか、
 皿割ったのルフィのせいにしてても、オレの知ったこっちゃねえけどさ。」


ぽと、とたばこがサンジの手から滑り落ちる。
に、とわらったカズは、(ごちそうさん)と皿を重ねてサンジに突き出す。


「ミカンの木で虫見つけて、きゃーって叫んで、ミカンの木蹴っちゃったとか、
 切った野菜の中に虫がいて、ついうっかり包丁落として、
 今腕怪我してるとかしてても、オレは関係ねえけどさ」


(わかってんだよなあ、サンちゃん。)最高級の笑みを浮かべて、
 カズは立ち上がる。
あきらかに女部屋へ行く気満々なカズーに身の危険を感じたサンジは、
思わず引き留めた。


その日のディナーから、カズが格上げされたのは言うまでもない。





(プライドの高い男ってのは、つらいねえ)(うっ、うるせえ、ちくしょーっ!)


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