怖い話

突然だが、なんちゃって百物語をやることになった男部屋である。もちろん普通に考えて100本ものろうそくを一気に付けると、付け終わったころには最初のろうそくはとっくに解けてしまっている。そして理由もないのに大量にろうそくをため込んでいる人間など麦わら海賊団には居ない。ウソップがウソップ工房本部をひっくり返して5本、カズが2本、そしてなぜかピンク色の高そうなろうそくが一本。おもしろそうなので最初に火を付けたところ、男部屋にバラ色が広がった。なにやってんだ、と一番おそい合流となったサンジが絶叫するのは別の話である。なんでも一本3000円、溶けたろうがバラのように広がるお高いものだそうである。直ちに使用が中止され、かわりにサンジが長いろうそくを持ち込んだのでカズが火を付ける。傍らで無断で持ち出したらしい三人組がたんこぶを作って沈んでいた。
一本のろうそくをみんなで囲み、話が終わる都度に消し、誰が一番人を驚かせられるのか、という我慢比べも兼ねることになった。

「本当にやるのかよ、カズ」
「土壇場になってビビってんじゃないよ、キャプテン。なんなら寝ててもいいんだぜ?」
「ば、ばか、誰がビビるか!オレはただチョッパーが怖がってやしないか、心配でなあ」
「ウソップーっ!!」
「ぎゃあああああ!ひっつくなっ!」
「ご、ごめん」

ろうそくを付けるカズを右から順に、ウソップ、チョッパーが並んでいる。ちなみにカズはふたりが脱走しないよう、扉を背にむけ陣取って座っている。

「にっしっし、なんか出るかな?出たらこれでつかまえるんだ!飼おうぜ幽霊」
「スリラーバーグで網じゃつかまえられないって学習しただろ、ルフィ」
「ったく、くだらねえ。オレは見張りでもしてくる」
「推理ものだとこういう奴が真っ先に死ぬよな」
「ああ、死亡フラグだ」
「……ま、ここで抜けてびびりだと言われるのは性にあわねえ、つきあってやるよ」
「なんだビビってんのか、マリモ」
「んだとこのラブコック!」
「うるせえぞお前等」
((……ルフィに突っ込まれたっ……!)

そしてサンジ、中和剤にルフィをはさんでゾロ。

「はいはいはーい!私最初にやりたいです!いいですか?」
「つーかお前の場合、姿事態がホラーだよな」
「よっほっほっほっほ、手厳しーっ!!」

そしてブルッグ、フランキーという順だが、別に話を始めるのは言ったモン勝ちである。
ごほん、ともっともらしいせきをして、ブルッグは紫色のスカーフを整えると話し始めた。ごくり、と一同はつばを飲む。

とりあえず、手始めに軽く参りましょうか。
私が当時仕えていた王宮での噂なんですが、お話ししましょう。何でも先々代の治世に、それはそれはたくさんの後宮(側室部屋もしくは愛人部屋)をお抱えになって居たらしく、しかも身分はお手つきになったお嬢さんばかりですから、それこそお手伝いの身分や他の王家に嫁いでもおかしくないような貴族のご身分だったりと様々だったわけです。先々代様の寵愛を受けようと、それはもう、毎日が彼女たちにとっては戦場だったわけですね。後宮は間違いがあってはいけないので、基本的に男性は立ち入り禁止だったもので、残念ながら彼女たちにお目にかかれることはなかったんですよ、よっほっほっほ、せつないですねーむなしいですねー。やはり階級や奥入りの時期によって、彼女たちには派閥ができていたらしく、それはもう、だれそれがだれだれと内通しているとか密偵の可能性があるとかあることないこと飛び交うのが当たり前。同じ派閥内でも少しでもけ落としてやろうという陰謀渦巻く世界、それが女性達の世界だったんですね。恐ろしーっ!つくづく男でよかったと思ったものです。今でも身体のふるえが止まりませんよ!あ、私骸骨だからカタカタなるだけですけどね、よっほっほ。

そこに、一人の少女が、後宮に嫁いできたんですねえ。なんでも舞踏会で見初めたとかで、没落した貴族の一人娘で、今はもとは成り上がりの商家が階級をお金で買った貴族の末端の後妻と父が再婚し、10数人もの姉が居るとのことで。かわいそうに継母と姉たちに使用人のような生活やみすぼらしい格好をさせられ、惨めな生活を送っていたんだそうです。きっと彼女が夢見ていたのは、王宮での素晴らしい生活だったでしょう。ですが彼女を待っていたのは、かわいそうに不相応の身分で後宮にある彼女へのねたみと嫉妬から来る嫌がらせと、手を差し伸べてくれた派閥の仲間達との悪口さげずみの会話、そして滅多に会えない王様の窮屈な日々。彼女は王様の寵愛をあてにしたらしいですが、後宮が広大である以上一人を贔屓にすればその人が集中砲火をあびるのは明らかなので、先々代が直々に保護するわけには行かなかったようです。ああ、なんてかわいそうなんでしょう!

しかしながら、そのときやはり最も先々代に愛されたのは彼女だったので、やはり神様もお見捨てにはならなかったんでしょうね、なんと立派な男の子を身籠もったそうです。正妻が居なかったので、誰がいち早くお世継ぎを産むかが正妻に成り上がれる手段だったので、むろん彼女は正妻に抜擢されました。でも明確な後ろ盾がない以上、もし後宮の彼女より遥かに身分の高い女性が男の子を身籠もった場合、地位は危うくなるのですが。そして彼女は無事に男の子を出産し、王妃となれたので、とりあえず第一子を産んだということでどうにか地位は確立できたようです。


そこで、嫉妬に狂ったのが、彼女より先に王様のもとに嫁いでいた王族の女性でした。彼女は王妃との間に女の子をふたり身籠もっていたのですが、それ以降やはり年齢とその王様すら億劫になるほどの散財家な性格から、王様の愛情は離れていたためこれ以上の寵愛は受けられそうにないとわかったんですねえ。もちろん王妃となった彼女に手を出すことはもちろん、お世継ぎに何かしようものなら警護やお付きの使用人達によってばれてしまいます。そこで彼女は、お暇を頂くといって実家に帰ると、なんと呪いをつかえる術士をよんで呪い殺してくれ、とお願いしたそうなんです。こうすれば物的な証拠は出ませんし、とりあえずしばらくは平穏な生活ができると思ったんですねえ。そうしたところが、男は震えがって断ったんです。どうしてだ、と怒り狂う女性に、男は言ったんですねえ。

「無理だよ、アンタは勝てない」
「きいい、生意気だこと、なんでそんなことをいうの!」
「2度も母親を殺したのに、平然と王妃に君臨しているような女じゃないか!魔女だ、魔女に呪いをかけるだって?!ばかげたこというな!アンタ共々コロされちまうよ!」

ぎゃああああああああああ!と男部屋に絶叫が響き渡る。突然ろうそくが消え、ライトを逆さ持ちしたブルックが高らかに叫んだのだ。浮かび上がる骸骨とアフロ。絶妙な浮かび上がる角度とよっほっほっほっほ!と響き渡る狂ったような笑い声。相乗効果で男部屋は混沌に包まれた。


実は彼女の父親は2度再婚していたそうなのですねえ。生みの親は病気で死んでしまい、家庭教師をしていた女性が最初の継母として彼女のもとにやってきたのですが、やはり過酷な虐待と待遇、そして無視する父親と純朴だった彼女を次第に暗黒面に落としていったとか。当時、高貴な身分の女性は、そのきらびやかなドレスをふんだんに宝石や金銀であしらった大きな大きな鉄箱にしまうのが流行していたんですね。泥棒が入っても一人じゃ持ち上げられないよう、何十にもおもりや鍵を掛けるのが主流で。その日、彼女は継母に言われ、かわいそうにつっかえ棒をしているのに、危ないから支えていろと命じられ、おもいおもい衣装道具を持っていたそうです。しかし、彼女はふと言ったんですねえ。

「どれのことだかわかりませんわ、お母様。このドレスかしら?」
「相変わらず物覚えの悪い使用人だこと!仕方ないわね、ここよ」
「ええ?これですか?」
「違う違う、イライラさせないで頂戴、もっと奥の…」

あとは、わかりますよね。

うんうんと壊れた機械のようにうなずく観客に満足したのか、ブルッグは笑う。

二人目は彼女と王妃の正式な結婚式の時に、目の当たりにすることになるんです。継母は彼女が成り上がったことをやはりよくは思わなかったようで、彼女の罪を告発するつもりでやってきたそうなんですねえ。数人の姉を連れて。しかしもはや王妃となった彼女とせいぜい末端貴族の女性では任を置かれるのやはり前者です。招待状があるとはいえ、不敬にも広場に躍り出て、歓迎祝杯のムードに包まれている中で、突然彼女の罪を狂ったようにヒステリックに叫ぶ継母と姉たちは捕まってしまいました。当然王妃をおとしめる侮辱罪。先々代様はたいそう憤ったそうなのですが、彼女は哀しげに行ったそうです。

「きっとお母様は魔女に取り憑かれてしまったのですわ。どうか、御慈悲を」

先々代様をはじめ、多くの出席者達は彼女のけなげさに心打たれたようですが、術士から話を聞いていた女性は戦慄したそうですねえ。

先々代様の治世では、王国が崇拝する宗教以外の宗教を信じる人間を異端者と呼び、改宗させることが唯一の救いだと考えていたそうです。そそのかした人間、つまりわるい人間を魔女と呼称し、男だろうが女だろうが火あぶりの刑にしたそうです。残念ながら当時は迷信が深く信じられていたため、無茶苦茶な判断方法がまかり通っていていました。魔女に憑かれた人をお祓いする方法もまた、無茶苦茶だったんですねえ。なんせ公衆の面前で真っ赤な火にくべられた鉄の靴を履かされ、踊り続ければいいというものだったものですから。
彼女はずっと微笑みを称えていたそうですよ。いやはや女性は恐ろしいですねえ。




いやあ、一度やってみたかったんですよ、ライトアップ!けらけらと笑う骨に、一同は別の意味で寒さを感じたのだった。


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