武勇伝

食事を終えた男部屋では、しばしウソップ主催の談義が組まれていた。主に観客はチョッパーやルフィ、寝ているか刀の手入れをしているゾロは話半ば、30以上限定駄弁り場が開催されていないとき限定で、カズ達も聞いていることがある。今回はサンジを除く野郎どもが男部屋に集結している極めて珍しい日であった。


ウソップの武勇伝が始まる。



これはオレが愛すべき部下どもと共にならずものたちとの死闘を征し、宴して眠りについたときのことだ。こんなときでも、身の安全を確信せず、グースカ寝てやがるやつらの安眠を守るため、オレは気配をさぐり、獣や敵の奇襲に備えてこの手には武器を構え、一人見張りをしてたのさ。





いい月夜の晩だった。ウソップはちらり、と窓を見る。半月がうっすらと弧を描いていた。





血の気の多いやつらが目を覚まし、月の魔力に酔いしれ、狂う暗闇だ。闇にまぎれてそいつは現れた。気配を殺し、忍び寄り、空を舞い、時には身を隠してやってくる。並大抵のやつじゃ気づかないだろう。そいつの唯一の誤算は、その相手が、オレだったことだな!

ごく、とチョッパーたちは息をのむ。ウソップは話術にたけている。最近演技にも磨きがかかって来たのか、引き込まれるものがあるのだ。

オレは当然気づいた。俺は気配を探るために瞑想していた目を開き、そいつを見た。俺の体は過敏にやつの存在を感じ取る。そいつもたいしたもんだ。なんせあわてて隙を見せたりしねえんだからな。ゆっくりとオレの距離をとって、壁に背を向けて、命乞いをするようにオレの視界の外へ外へと行こうとする。オレはすばやく武器を手に立ち上がり、明かりをかざした。するとそいつはさらに遠ざかる。オレも近づく。手に汗握る緊張感。静寂が支配する。





オレはすかさず、強烈な閃光を浴びせた!おおう、とだれともなく歓声。





でも間一髪のところでそいつは身を翻し、姿をくらました。下手に追ったらあいつの思う壺だ。オレはあえてそのばを離れず、また神経を集中させて、そいつとの一戦に備えた。気も遠くなるような長い長い戦いだったぜ。やつはこちらの体力や気力を根こそぎ奪うつもりで持久戦に持ち込んだんだからな。






ふ、とかっこつける様が決まっている。ウソップすげえ、とルフィとチョッパーは目をキラキラさせている。すんごいですねえ、とブルックが聞き入っているのを見て、カズとフランキーは顔を見合わせ、けけら、と笑った。新参者は一度は通る道である。ゾロはといえば、うとうと船をこいでいた。





回りが薄明るくなり始めた頃だ。太陽が拝めて安心しつつ、オレは最後の気力を振り絞って戦った。でも体が思うようにうごかねえ。ああ、これはオレの完全なる過失だ。もっと鍛錬を積んでりゃ何とでもなっただろうにってことだよ。オレが一瞬気を抜いた瞬間、そいつはオレに最後の一撃を食らわせてきた。オレはあまりの衝撃に呼吸が止まったぜ。でもとっさにそれを払いのけ、一気にたたみかけた。何発もぶち込んでやったんだ。でもしぶといやつだ。よろよろになりながら、そいつは姿を消しやがった。連日連夜そいつら・・・ああ、そいつは単独を好むが団体でないとオレにかなわないとふんだんだろうな、次第に数を増やしていったんだ。連日連夜そいつらとの戦いが続いたんだが、その武勇伝はまたいずれ。





「えーっ、まだ聞きたい、ウソップ!」

「だめだぜ、チョッパー。男ってのは、そうべらべらと生き様を語るようなもんじゃねえのさ」

「おー、かっこいいっ!」

「ナミたちあがったみたいだぞ!風呂入るか」

「あ、オレはいるっ!」

「あ、オレも!」

「よほほほ、では私もいいでしょうか」

「おう、いいぞ」

「ウソップ、いかないのか?」

「オレはまだ、これつくってっから、後でな」

「じゃあ先いってるよ!」

「なんだ、お前らも行くのか?じゃあオレも」

「ゾロは?」

「あ?また後でな」

「だとよ。フランキーもどうだ?」

「ああ、じゃあいくとするか」

「カズは?」

「メンテが終わったらなー。のぼせんなよ、みんな」

「だーれがのぼせるか」



ばたん、と扉が閉まる。遠ざかっていく足音。



「汚ねえ部屋での一人暮らし時代に発生したゴキブリ退治を、よくぞまあ、そこまで語り倒せるなー。さすが」

「なにいってんだよ、オレの武勇伝聞いてなかったのか、カズ」

「天井に張り付いてたそれが落ちてきて、気絶したオチつきだもんな、あんちゃんよ」

「バルサンたけよ」

「お前ら夢も希望もねえな」


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