水の都2


「やほ、ロロノーア」


親しげに声をかけてきたカズに、ゾロはこめかみにしわを寄せた。(ちょっと待て、近い近い近い)と焦燥感すら感じたゾロは、すすすっと避けるが、カズはお構いなしでずんずん近づいてくる。気づけばびっくりするほど近くを大の男二人が歩いている。ものすごく、嫌な構図なことこの上ない。


「何様だ、お前」

「え、イカサマ?」

「近づいてくんな、暑苦しい!」

「酷いっ!俺というモノがありながら、別の女に乗り換えるのね!」

「テメーは男だろうが!いつまで引っ張る気だ、そのネタ!」

「俺が飽きるまでさ、ゾロ」


ぐっ、とカズは親指を立てて、にかっと笑う。切りてえ、無性に切りてえ、いや切ってもいいよな、ぐるぐる頭が回る。


「もういい、帰れ」

「シモツキ村に帰る道が分からんくせに、何をおっしゃってるんでしょうね、奥様」

「なんでオレの故郷の名前を知ってんだ」


(なはははは)とよく分からない笑い方をしながら、(仲良くやろうや、兄ちゃん)とカズが肩をたたいたので、ゾロはその手を振り払った。べたべたくっついてくるカズはもちろんゾロがものすごくいやがっているのを見るためだけに、こんなコトをしているのだ。男のプライドはないのか、と思ったこともあったが、この男相手にそんなもの考えるだけ無駄だと気づいたのは、驚くべきコトに、つい最近のことである。


「どっかいけよ」

「ナミに借りるン?兄ちゃんよ。それとも40万返す当てでもあんのかい、旦那ァ」


爽快に嫌みを言い放つカズのセリフが、ご丁寧にゾロの心にぐさぐさと突き刺さる。


「金貸してくれりゃいいんだ。何でついてくるんだよ」

「えっ・・・・・俺に近づいたのは金目当てだったのね!愛してくれるって言ったじゃない!」

「だから声がでけえっていってるだろうが!つーか九割捏造だろ、テメー!」

「あはははは、そこは突っ込まないお約束」


ふざけながらカズはひょい、と繰り出された刀を避ける。イライラしてくるような愛想を振りまくカズに、なおさらゾロはいらついて、舌打ち一つ。(お前は充分余裕だろうが、どんなときもへらへら笑ってやがるくせに)と嫉妬にもにた、殺気をくれてやるが、カズはやはりしゃくに障るような仕草で周囲に笑いを誘う。


どこまで堕ちたことがあるのだろう、この男は。ゾロは、ふと思った。


一度だけ、見たことがある。カズの逆鱗にふれた男の末路を。確か「新世界」を掲げ、海賊王を侮辱した奴らだった、まで思い出したが、あまりにも骨のないヤツだったため、ゾロの頭に具体的な顔が浮かぶまでには至らなかった。いつでもバカの一つ覚えみたいに、笑うことしか知らない男が、自我を忘却するほど激情し、怒りの咆哮で周囲を恐怖のどん底にたたき落とした。瓢風の名は、伊達ではない、とゾロは少しだけ、見直したコトを覚えている。だが、傍らのカズを見ていると、一体何が、カズをここまで豹変させたのか、未だに分からないまま。若い頃の過ち、と一括りにして笑い飛ばすカズは、一体どんな人生を歩んできたのか、ゾロは全く知らないことに時々気づくが、どうでもいいと自己完結する。


「いい品が手にはいるといいな、アンちゃん」

「そうだな」


けっきょくのところ、麦わら海賊団のクルーであること以外、覚えておくべきコトは、何もないのだと。



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