馬鹿でも風邪ひくらしい
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「あ」に濁点をつけながら、カズーはうめいていた。
「大丈夫か?カズ」
「頭痛ぇ。喉もやられてるし、くしゃみも、鼻水もとまんねーわ、ドクター」
心配そうに氷水を入れた袋を乗っけるチョッパーに、のぼせ上がった身体をすっぽり毛布にくるませながら、がたがたとカズーは震えていた。(バカは風邪をひかないんじゃなかったのか)とほくそ笑む剣士が憎らしい。(違うだろー、バカは夏風邪はひくんだぜ?)とりあえず回復したら、真っ先に締めてやろうと狙撃手をにらんで、沈黙。そのうち船長共々野次馬がチョッパー医師によって追い出された。(はあ)とため息をついたチョッパーは、ようやく静かになった診察室にて、カズーのために体温計を用意する。ぶえくしょい、と色気もクソもない(男にそんなモノ求めてどうするという感じだが)くしゃみをして、いろいろ出てしまったカズーはティッシュを要求した。
「カズーもやっぱり人の子だったんだな」
「どういう意味だよ、チョッパー。俺、思いっきり人類なんですけどっ!」
「だってルフィ達と一緒で風邪すらひいたことないんだろ?」
「アイツらと一緒にしないでくれ、頼むから。一応俺も人並みに病気はするから。 インフルエンザもおたふくもリンゴ病もかかり済みよ、俺」
(アイツらは特異な例だ)とカズーはしかめっ面をして、強調するので、(あ、そうなんだ)とチョッパーは笑った。体温計を口にくわえさせられたカズーは、(なんか初めてまともに往診したな)ととびきり満足げに笑うチョッパーを見て、そりゃこの船じゃあな、と密かに思う。腹を出して寝ても、手洗いうがいをサボっても、髪の毛を乾かさずに寝こけても、この船の住人はどういうわけかものすごく健康体だ。とはいえ、風邪をひくなんて何十年ぶりだよ、と考えるあたり、カズーも十分におかしい部類にはいると思われるが、どうだろう。ぴぴぴ、と音がしたので、カズーはそれをふき取るとチョッパーに渡した。
「うわ、38度だ。今日は寝てなきゃ」
「うへえ、暇だな」
「ダメだぞ、寝てなきゃ」
「うーい」
「突然ぶっ倒れるから、びっくりしたんだ。心配させないでくれよ」
「あはは、わりーわりー、気をつけるわ」
「ところで、何で風邪なんて?」
「・・・・・」
心当たりがあるのか、ものすごく不自然にカズーは目をそらす。チョッパーはこてん、と首を傾げて、(いえないことなのか?)と寂しそうな声を出すので、申し訳なくなったのか、うっ、とカズはつまる。無条件に年齢的にも精神的にも年下なヤツにはどうしても甘くなってしまうカズは、なんだかんだ言ってとりわけチョッパーには
格段に甘い。ベクトルが一方的なときには、相手が引くくらいかまいたおすくせに、いざ立場が逆転してしまうと逃げてしまうのが、カズという男だった。ようするに、無条件の好意や掛け値なしの思いに弱い。チョッパーの心配、は体全体を通して、カズに精神的ダメージを与えた。
「ぜってー言うなよ」
珍しく、恥ずかしそうにカズは頭をかいた。チョッパーは話を聞いて、うん、とうなづいた。
「うん、無理だ」
「なにいってんだい、ドクター・・・・ってまて、ちょっと待って、まじでやめてくれ、頼むから、おーいっ!」
本気で焦るカズが珍しくて、おもしろくて、チョッパーは笑いが止まらない。笑いを押し殺すチョッパーに、(笑いたきゃ笑え)とカズはばつ悪そうに、つぶやく。いくらでも笑ってくれて結構だから、言わないで頂戴!と必死の懇願に、チョッパーはしばらくはこれでカズにかまってもらえそうなので再び回転いすによじ登るとごりごりし始めた。安心したのか盛大なため息。たまにどうしようもないバカをやらかすカズが、チョッパーは大好きだった。
この男がしでかした馬鹿は、御想像にお任せする。
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