虫の工房

「知ってるか?チョッパー。
 虹のふもとには、宝が眠ってるって伝説、よく聞くだろ?」

「あー、うん、でも虹ってすぐに消えちゃうから、
 ねっこのところなんて見つかりっこないよ?」

「ありゃなー、本当の虹っていうのがあってな、
 ほんとの虹は絶対に人間にゃ現れねーんだ」

「んん?なんだそれー、うそとかほんととかあるのか?」

「初耳だな、なんだそりゃ」

「ほんとの虹ってのは、色が八つあるんだよ。
 国によって五色とか七色とか言ってるだろ?
 ありゃちゃんとした虹を見られない人間が言ってんだ。
 あるいはちゃん八つあんのに、目が節穴で見えてねえとかな。
 もったいねーなあ、すっげえきれいなのに」

「まるで見たとでも言いたげな発言だな?・・・もしかしてお前!」

「え、え、カズ、見たのかっ?」

「タカラはあったのか?」

「さあ?」

「「「カズーっ!!」」」







ただいま、10時ジャスト。


「ご機嫌だな、カズ」

窓を張り付くように見ていたカズに、サンジは言った。
にわか雨を一心に見つめていたカズは、温度差で内側から曇った窓に
できたキャンバスに、暇つぶしに描いていた手を滑らせて、それらを消した。
外側から叩きつけられる雨粒の残骸が、流れゆくのを見ながら、流れる沈黙。
不意に、(おうよ)とカズの口元ががほころぶ。
その視線の先には、分厚い雲の間だから、暖かな光の筋が差し込んでいた。
薄墨色の空を大胆にカットしていく青空に、お、とサンジは声を上げた。
珍しく外れたナミの天気予報を、たばこ片手に見届ける証人となってしまった
サンジは、扉に向かうカズを見た。


「オレな、ガキんときから好きなんだよ。雨の上がった直後の匂い」


ガキの笑みを浮かべて、嬉しそうに言うカズに、しばし言葉を失ったサンジは、
(こりゃ、槍が降るな)と失礼なことを考えた。そして、そーかい、と窓ガラス越しに
見届けたサンジは、窓を全開にする。


「おーい、釣り大会再開だぞ、野郎ども!」

「おう!」


大声で宣言したカズーに、威勢だけはいい返事が各方面から聞こえた。
サンジはつかの間のブレイクタイムを終えて、さてと、とたばこを灰皿ケースに
しまって、ありったけの声で叫んだ。


「リミットは12時ジャストだ」

「無理だろ、それ!」

「自業自得だ、野郎ども。さっさとつりまくれ。サボったヤツは飯抜きの刑に処す」

「あいあいさー!」


「ふふふ、悪い人ね、カズさん。
 人間は目の構造上の問題で感知できる元素は三色しかないんだから、
 知覚できる色そのものには制限があって、その三色が元になっているのが条件
 となれば、それこぞせいぜい数百だわ。
 にじ、というのは、太陽光線の反射が原因だから
 人間によって感知できる色の数には個人差はあるけど七つが限界なのよ?
 本当は八つなり九つだと言われているけれど、ひとひとの実をもって、
 限りなく人に近くなったチョッパーがもともとはトナカイさんとはいえ、
 見えないのは当たり前じゃなくて?」

「わかってねえなあ、姐さんは。オレは一言も気象現象の意味での虹だなんて、
 一言もいってねえよ?」

「!」



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