黒猫日和



あ、とナミは小さくつぶやいて、思わず口に手を当てる。
ちら、とかち合った迷惑そうな女性客と店員の視線に、あはは、と乾いた
笑みを浮かべてやり過ごす。コーナーを右に回り、人気の少ない隅の方で、
こっそりとナミはサイフを開いた。


「ええと、まずサンジ君とチョッパーにお小遣いをあげて、ウソップから
 この前の貸しが帰ってきて、ルフィにいくらか持ってかれて」


頭の中で計算すること、数秒。さあっと顔が青くなる。


(どうしよう、所持金が大幅に足りないわ。補充するの忘れてた!)
ただいま、女性の特権であるお買い物中。日頃溜まっているストレスは、
美容と健康の大敵である。だから、思いっきり解消するつもりだったのに、と
ナミは頭を抱えた。しかもこの店には、前からほしかったどすこいパンダの
最新作な限定モデルが・・・・・。ちらり、とショウケースを見るものの、
ナミには届かない。今から船に戻るのもめんどくさいし、と考えて、はあ、
と小さくため息をついた。


「どうしたんだよ、んなこの世の終わりみたいな顔しちゃって。お目当ての
 バッグが見つかったんじゃねーの?」


お手洗いから帰ってきたばかりの、男性クルーによる第23回ジャンケン大会
に大敗を喫した荷物持ちのカズが声をかけた。(まだ増えるのかよ!)と
手一杯の紙袋を抱えて、とびきり嫌そうな顔をしていたカズは、買い物が
予定よりも大幅に早く終わりそうな雰囲気を感じ取ってにこりと笑った。
あっちこっちとカズーを連れ回していたナミは、なんとなくしゃくに障って
カズをにらむ。(おー、こわ)とカズは肩をすくめた。


きゅぴーん、とナミの目が光る。


なんとなく嫌な予感がして、カズは顔をこわばらせた。数歩後ずさりした
カズは、あはーん、と乾いた笑いを貼り付ける。
じり、とナミが近寄ると、カズはじりじりと二倍後ずさる。
(勘弁してくれよ)とカズはぼやいた。


「カズ、50万ベリー貸して?」

「たはははは、何をおっしゃるの、ナミさーん」

「ちゃんと返すから。もし返してくれたら、幸せパンチの10万ベリー今ここで
 帳消しにするわよ?」

「差額の40万はいかがするおつもりで?一応、こっちも予算組んでるんですけど?」

「いいじゃない、別に」

「よくねえよ!誰がサニーの戦力維持させてやってると思ってんだ!」

「フランキーがいれば充分でしょ?」

「船大工ひとりに武器庫も全部まかせられるか!こっちは最高水準保ってんだぞ、
 少しは感謝しろよ!」

「か弱い乙女の前で、そんな物騒な話しないでよ」

「おいおいおい」


(全世界のか弱い乙女に謝れ!)と心の中で思ったものの、口に出すほどバカではない
カズは言葉を飲み込んだ。その一瞬の隙をついて、一気にナミに主導権を持っていかれた
カズは、仕方なく財布のひもを開いた。
財布のひもを握られているやつらとは異なり、基本的にどういう訳かいろんなところで
いろんな人とお知り合いなカズは、謎のポケットマネーの持ち主のため、ナミに
強く言われてもダメージは今まで無かった。だが、アラバスタでの大浴場の一件を
すっかり忘れていたカズは、(魔女め)とつぶやいた。


「ちくしょー、すぐに返せよ」

「いいわよ、いつがいい?」


ほくほく顔で、ナミはショップを後にして、カズは後を追いかけた。










(期限はこの島の滞在中な)(はあっ?バカ言わないでよ、後二時間じゃない!)



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