雨に歌って

しとしとしと。
退屈が産声を上げた。
あふ、とあくびを無意味にかみ殺したルフィは、眠たそうに目をこすった。
朝から降り続いている雨は、航海士天気予報によると、数日続くそうで。
ひまだひまだ連発する気力も失せたのか、無気力にだらんとルフィはソファに寝そべる。
無条件に男部屋は雨の日になるとテンションが下がる。
水の苦手なヤツを二人も抱えているのに、ハイテンションになるのは無理があるだろう。
豪快ないびきをかいている剣士をうらやましそうにみて、身体がまだ疲れ切っていない
船長はぼんやりと残りの二人を見る。つまみ食いの奇襲が失敗したため、たんこぶを
のっけたまま医者は薬の調合、狙撃手は工場をフル稼働。ふたりから手を出すなと
くぎを差されているルフィは、二人がかまってくれないことを知っているので、
はあ、とため息をつく。おやつの後かたづけをしているコックと海図に懸命な航海士
のところは、少し遠く感じられた。
(そういや、カズとロビンは?)降ってわいた好奇心のままに、だれきった身体を
軽くほぐすと、ルフィは部屋を後にした。





「カズ、ロビン。何してんだ?」

果てしなく一方的に、険悪的なアダルト組。取り巻いていた不穏な空気を瞬殺して、
(よう)とカズは会釈し、ロビンは穏やかに笑った。

「大人の話だよ。なあ?」

カズはロビンに目を向ける。よけいなことはいうなよ的な視線をロビンはさらりと流した。

「ええ、船長さんには少し難しい話」

カズの方に視線を送ったルフィは、小さくうなずく姿に不機嫌になった。

「ええっ。つまんねえの」

仲間はずれにされていると本能的に悟ったのだろう、おもしろくないルフィはむくれる。
くすり、と笑ったロビンは、(ごきげんよう)と部屋を後にする。(あのやろう、子守
押しつけやがったな)と心の中でつぶやいたカズは、すねた顔をしてよってくるルフィを
見た。

「カズ、仲間はずれは良くないぞ?」
「あはは、確かにな。わりいわりい、気をつける」

むくれた顔をしている船長の麦わら帽子をわざと大きく前にずらして、わ、と声を上げた
ルフィにカズーは目を細めた。元に戻そうとするルフィの麦わら帽子を上から押さえつけて、
カズはしばし沈黙する。クエスチョンマークを浮かべたルフィは、(カズ?)と語尾を上げた。

「安心しろ。いつでも疎外感を感じてるのは、オレの方だ」

いつになく哀しげな声色にルフィは思わず沈黙した。
なんとなく、なんで、とか、どうして、とか聞かない方がいい気がして、カズが口を開くのをまつ。

「お前らは、オレには眩しすぎるんだよ」
「!」

ずん、と頭が重くなって、ルフィは目を見開いた。カズの顔を見ることがかなわないが、
何となく雰囲気が泣いている気がして、ルフィはなんだかいたたまれなくなってきた。
ふいに頭が軽くなり、おそるおそる顔を上げたルフィは、何も言わずに去っていこうとする
カズの手をつかんだ。

「カズが何を言いたいのか、オレにはさっぱりわかんねえ。でも、船を下りることだけは、
 オレがゆるさねえぞ。最後まで見届けるっていったの、カズーだろ?」

力を込めてカズを引き留めたルフィは、必死で言葉を続ける。

「カズは麦わら海賊団に必要なんだ」

弾かれたように、うつむいていたカズの顔が上がり、目が見開かれる。
今にも泣きそうな顔で、カズは立ち止まった。

「サンキュー、ルフィ」

(ちょっと頭冷やしてくるわ)(おう)カズを見届けて、全部全部雨のせいだとルフィは
空をにらんだ。



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