第六話

「もどれ、ミズゴロウ」

ライチュウの攻撃が炸裂する瞬間の、交代。ボールを戻したオレは、サンダースを繰り出した。電磁波を食らう。ふふふ、ちくでんで無効。ラッキー。またかよって顔すんなよ、サンダース。仕方ねえだろ、学習装置の上から一度でもバトルに顔出せば経験値もっと稼げんだから。ただいま、マチスと対戦中、イン、クチバ。それにしても、おかしいな、とオレは場違いな思考をめぐらせる。レッドさんの話じゃ中途半端な軍人上がりの外国人みたいなやつだって聞いてたんだけど。やっぱポケスペの世界とオレの世界じゃ、ところどころ違うところがあるんだなあ、と改めて思いつつ命じた。

「シャドーボール」

うーん、なかなか下がりませんな、とくぼう。え、めざパ?粘れるか、んなもん。

もちろんバッジは頂きました。よかったよかった、もしレッドと鉢合わせでもしたらサントアンヌ号イベントが発生して、ジム閉鎖しちゃうもんな。早目に別れて正解だった。ロケット団に加担するのもだめだけどさ、仕事しようぜ、ジムリーダー。オレはジムを後にした。今頃スピアーどもにおっかけられながら、トライアスロン
してんだろうなー、レッド。がんばれ。

・・・・・さてと、これで実力ははかれたし、サントアンヌにいそうなやつのレベルも分かった。自分の力量以上のレベルを超えたポケモンなんざ、もたねーもんな、普通。注意すべきはエレブーだけか。
オレはその足で、港に向かった。





ずっと疑問に思ってたことがある。レッドがポケモン大好きクラブの依頼という強制イベントでマチスと愉快な仲間たちをたたいた後、その便に乗せられてたポケモンたちは救出された。じゃあ一カ月ごとにねこそぎ行方不明になっていたらしい前の便のポケモンたちはいったいどうなったんだろうって。まあ、大体想像つくけどさ。カツラのいる研究所で、よからぬ実験のマウス扱いなんだろうな。あるいはうっぱらわれるか。どのみちトレーナーのはしくれとしては、いい気はしねえ。って思ってたら、ものの見事に彼女から指令が来ましたぜ、ブラザー。サントアンヌ号の不穏な行動を調査してこいだって。具体的には貨物部分の運び手のアルバイトに雇われてこいだってさ。あの水夫ばっかのむさくるしいところにか。ぎゃーっ。もちろん抗議を申し入れたんだけど、カスミが彼女にご丁寧にお月見山での一件をちくってくれやがったらしく(明らかにレッドとカスミのやったことまで押しつけてやがった!そんなに悔しかったのかよ、サンダースで3たて)、そりゃもー怒られましたとも、彼女に受信機越しに三時間。説教説教、でも次の指令危険ランク上がってやんの!矛盾してない?あんだけ無理はスンナって怒ってたくせにさー。頭のいい人の考えることってわからんね。もういいよ、慣れたよ、畜生。こうなったら、腹いせに暴れてやんよ!オレはいらいらしながら、大通りを抜ける。

ぐー、と豪快な腹の虫が鳴った。・・・・・そういや昼飯まだだっけ。腹ごしらえ、先に済ませよう、とオレはレストランを探した。バイトは午後からなんで時間的にまだ余裕。

「そこのお兄さん」

なんで何処も込んでんだよ、昼時だからか?ああくそ、ポケセンで済ましてくりゃよかった。

「ねえ、ちょっと見ていかない?」

目に入るカップルに、またイライラがつのる。生まれてこの方彼女なしのオレへのあてつけですか。なにがあーん、だこの野郎!

「いいもの売って、ってお兄さんてば!」

あ、カフェみっけ。・・・・・でも女の子ばっかだよ、ああ入りずれえっ。フルーツタルトとかパフェとかうまそうなのにな、甘いものが好きな男ってやっぱだめなのかね、この間ヒカリに「変わってるね」って言われてから、かるくトラウマなんですけど。どうしよっかなー。

「そこの青のパーカーのお兄さん!」

「え、オレ?」

「そう、あなた!」

ぱっと花咲くような笑顔。わあお、オレは別のベクトルで足をとめた。年下なのに、色気あるスマイルで手まねきする少女。フリーマーケットよろしく、アイテムを広げている。ゼニガメが客寄せをしていた。ちらほら客人がいるが、どいつもこいつも男。しかもいい年した人もちらほら。おいおい、彼女なり奥さんなりいるんじゃないのかよ、アンタラ。白けた目を向けると、黒のワンピースをひるがえして、少女が寄ってくる。
集中する視線。たぶん嫉妬というか憎悪というか。・・・・・こわっ。なんつー人らに商売してるの、ブルー。お兄さん、悲しいよ。ほんと遭遇率高いよね、ポケスペキャラ。人口何人よ。本性わかってる分、純粋にいい気になれない自分が悲しい。・・・・・ぱちもん買わされるよか、いいけどね。

「バッジ獲得おめでとう!強いのね、感動しちゃった」

「見てたんだ?」

「ええ、すばらしかったわ!」

本当にみてたんだなあ、と地味に感動。だって当てずっぽじゃ分かんない。
残念ながらオレはレッドみたく服にバッジつけてるわけじゃない。ケースにいれて、保存してる。じゃないとすぐに錆びて真黒になるんだよ、なんだよあのイジメ仕様。んなとこ細かくしなくていいよ、ゲームフリーク!

「私、ブルーっていうの、あなたは?」

「コウキっつの、よろしく」

「ふふふ、そんなコウキに、特別価格で提供したいものがあるんだけど・・・・・」

手渡されたのは、マックスアップ。6000円だってさ。レッドん時より割高だぜ、ブルーちゃん。だめだな、偽もんだ。パッケージがいつも見てるやつと違う。もし本物だったら安上がりなんだけどね、ドーピング剤、一律9800円だから。おかげで万年貧乏トレーナーなんだよ、ちくしょう!そういえばレッド、バトル中に使ってたよな、プラスパワーじゃあるまいし。ポケスペだと仕様が違うのかな。こっちじゃ努力値とか個体値とかめくるめくやりこみの世界だけどね。さすがにオレはせいかくと特性しかねばらないけど。金ずるはほかにいるっしょ、レッドとかレッドとかレッドとか。
オレは、ぽん、と肩をたたいた。

「こういうの見慣れてる奴に売っちゃだめだよ」

本当は警察に突き出すべきなんだろうけど、ブルーなら逃げちゃう気がするし、下手にストーリーに誤差がでるとこっちが困るんで却下。なにより、腹減ってんだよ、オレ!花より団子、色気より食い気。基本は傍観でお願いします。対して知識もないくせにポケモンを強くするのに道具に頼ろうって魂胆なトレーナーが損してもオレは知ったこっちゃないし。

え、と固まったブルーに、じゃーな、とオレはカフェに入った。・・・・・人間勢いがあればなんとかなるもんだね!店員さんの視線が痛かったけど気にしない!










「お前たちのことは、まるっとお見通しだ!」

どこの売れない手品師だよ、オレ。もちろんそんなことマチスにいうわけもない、地味な作戦だった。レッドの出番をとるわけには、いかない。でも、誘拐されたポケモンたちは、助けたい。ジレンマに陥ったオレがとった行動は、言わずもがな。サントアンヌで荷物を運ぶアバイトをしつつタイミングを見計らって、先に乗り込んでいた内通者(見方ねもちろん)とともに、入れ替え大作戦。でも量が半端ない。なんとかみんな無事に救出完了。オレが頑張らなくても彼女たちの根回しはどこまでも浸透していて、本当にオレ、出番なしなんだけどさ。いや、むしろ読まれてた・・・だけだったりして。
そこまでは良かった。異世界の住人だって口にした時点である程度予想してたよ。監視の目が厳しくなるって。・・・・・また怪しまれっかもなあ、とぼんやり思った。

でも、ちょっとだけ問題が発生しました。ただ今、グレン島でーす。あは。
そうだよ、・・・サントアンヌ出港しちゃったのに、密航したまんまだったんだよ!
どうしよう、またこってり絞られちまうじゃねーか・・・・あああ。
頭を抱えるオレに、にこにこ、と笑っているのはその元凶。・・・ブルーだった。
そう、運び込んでたコンテナの中に紛れ込んでたブルーとうっかり顔合わせしたが最後。あれやこれやで丸め込まれそうになったのでスルースキル全開で逃げようとしたってのに、(たぶんミュウのフロッピー≪時代を感じるぜ≫を入手しに研究所まで乗っけてもらうつもりなんだろう)まんまと巻き込まれました。我ながら巻き込まれ体質の自分には泣きたくなること請け合いだぜ、ほんとさ。理由は簡単。ブルーが見つかりそうになったからかくまったら、逃げ込んだ部屋が、オートロック式で出られなくなっちまったんだ。・・・・もうやだ。さいわい、なんとか逃げ出して、ただいまポケモンセンターの男子トイレ。ブルーに聞かれちゃ困る。

「おじょー・・・」

「逃避行とは、ずいぶんと有意義な時間を過ごされたんですね、ふふふ」

「不可抗力っつってんじゃないか、この野郎。で、どうすんの?指示がなけりゃまんま、ブルーと一緒に研究所いってなんかめぼしいものとってくっけど?」

「お行きになるのでしたら、わざわざ指示を仰がないでくださいな。お止になってもお聞きにならないのでしょう、コウキさん。いくら未来を知るとはいえ、過信しすぎじゃありませんか?」

「いーや、「ポケモン屋敷」の一件は、オレの世界のレッドさんからしか聞いたことねえから、なあ。実際にこの世界でどうなってんのかはしらなかったりして」

「・・・・・本当に、あなたって人は・・・!」


ため息になんだか今までにないものを感じた気がするけれど、オレは気付かないふりをした。絶対トイレ長いから、勘違いされてるに、百円。






「しまってるじゃない」

「まあ、んなこったろうと思ったよ。じゃあ、行こっか」

「え、どこに?」

「どこって、ポケモン屋敷に決まってんじゃーん」

コウキは口元をひくつかせていた。どのみち行く羽目になんのかよ、ちくしょう、とぼやく。初めて来たんじゃないの?時折tレーナーとの会話で耳にした今は主人を失い、立ち入り禁止になっているはずのポケモン屋敷と、閉鎖されているグレンジムにいったい何の関係があるのかわからずブルーは首をかしげた。状況と脈略が伴っていない。だいたい、ブルーが探しているのはロケット団のアジトだ。理解できない。わかるように説明しなさいよ、とブルーは言った。

「家主が元関係者で、今も使われてんの。ジムリーダーもグルだから、たぶん鍵もどっかにあるはず。ブルーお目当てのやつもオレが自主的に集めようとしてるやつも全部あそこ。おーけー?」

だから共同戦線よろしく、ってわけ。小声でウインク。とても似合わない。
なんで知ってるのよ、と当然な疑問が浮かぶが、黙秘権ってことでよろしく、と流されてしまう。馬鹿にされているわけではないことは分かる。説明しにくいのか、歯切れが悪い微妙な顔だ。どこかで見たことがある顔だ、と思い、すぐに思い出す。サントアンヌに無断乗船していたころ、ひと暴れしようとして正論を並べたてられて逃げる選択肢しか選ばされなかったときの自分の顔だ。冷静に考えれば、お互いが不干渉が暗黙の了解。不自然成り行きで数日行動を共にしているとはいえ、ブルーはコウキの何も知らない。ただ甘い物好きな強いトレーナーというだけ。あとは意味深すぎるなぞが多すぎるやつ。・・・やだ、ミステリアスなのはアタシの専売特許なのに。なんて思った。
利用してやろう、と思う前に誘われるので拍子抜けする。ま、道具を売りつけてあっさり偽物と返された時点で効かないことは分かっていたものの。くやしいのよねえ、と何となくそれだけが不満だった。

グレン島に到着するや否や、一切の洋服やアクセサリを一新して、今はどこかの森林保護区で活動していそうなお兄さんの格好をしているコウキをみて、念の入れように少々気圧される。もしかして、アタシ以上の危険人物なのかしら?と思うブルーの横で、何枚も同じ服を所有してるくせに、なぜかつかまらないというキャラスキルがオレにあるとは思わないもんなあ、と考えているコウキがいたのは本人のみぞ知る。

しばらくの沈黙。人気のない、キープアウトと書かれた黄色いテープを乗り越え先に進む。不気味な屋敷が現れた。


「居合切りいらねーんだ、拍子抜けした」

「なんで?」

「いやあ、似たようなとこ行ったことあんだよ。立ち位置によって目が動く絵とかどくけしさがす老人とか、みがわりの技マシンをおいて消える少女とか・・・ああ、こええ!」


怪談のごとく脅かし気味な口調でまくし立てるコウキにこころなし、寒気がした。


「一応聞くけどさ、エスパー技持ってるやついる?あるいはレベル30超えてる子」

「いないけど」

「もっててよかったゴールドスプレー。これ、渡しとくからなるべくオレの前にはでないようにね」


渡されたピッピ人形に複雑な気分になる。ここまで女の子扱いされないのは初めてだ。
だからサントアンヌといい、ポケモン屋敷といい、なんであんたはポケモンの出現エリアとレベルを掌握してるのよ、とブルーは思った。

ちなみに出現ポケモン代表格はドガース、マタドガス、そしてガーディである。
本来7つ目のジムのエリアダンジョンだ。レベルも高い。
もちろんそれが適応されているかどうかは、ゲーム画面が表示されているわけではないのでわからないものの、今のところレッドさんから聞いた情報とあまり差異がない。
どのみちPPが少ないポケモンばかりのコウキには、ゴールドスプレーは必須なので意味はない。戦闘をミズゴロウにする。さっさとハイポン覚えろよ、と思いつつ、進む。
ほとんどかくれんぼ状態で、ロケット団の下っ端や研究員、そして泥棒に見つからないよう、二人は階段を上った。





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