第五話


「粉雪だなー、こりゃ」

うまくいかず、落ち込んだ様子でうなだれるミズゴロウに、焦んないの、少しずつ上達してるから大丈夫、とパラパラ解けていく雪をはらい、彼は微笑む。一見に如かず、っつーしなあ、とつぶやいた彼は、草むらに手招きする。首を傾げるミズゴロウがよってきたので、7から8キロあるその身体を抱き上げた。
モンスターボールを投げる。空気がひんやりと白む。よくみときなよ、と言われ、バトルでもないのに呼び出された仲間が彼を見上げ、そしてすぐに状況を把握し、背中を向ける。

フラッシュバックした光景に、ミズゴロウは目を開く。前には、一端ボールに戻ったが、等倍のつるのむちと半減のバブルこうせん(素早さは下がっているが)で削りきれなかったダメージで、怒りのボルテージを上昇させるギャラドス。威嚇され、怖じ気づいて攻撃する気力がそがれる。しかし、幸いなことに、ミズゴロウはいじっぱりだった。後ろのトレーナーたちとポケモンを前に、おびえた素振りを見せることはしない。今までになく、空気が透き通っていた。あの時と似ている。手本を見せてくれた先輩の発動直前の空気に、似ていた。
ミズゴロウは、ハイドロポンプの直撃を受け、後退する。しかし、前を見据えた。

「ふぶき」

彼の声が聞こえた気がした。





「すげえ技使えるんだ、お前。助かったよ、ありがとな」

レッドはギャラちゃんの入ったモンスターボールを拾い上げ、安心して息を吐く。得意げに鳴いたミズゴロウというらしいポケモンに、改めて笑顔を浮かべた。カスミに返す。ありがと、と笑ったカスミだったが、レッドを不思議そうにみた。

「めずらしいポケモンね」
「あー、うん、なんかミズゴロウっていうらしいけど」
「レッドのポケモンじゃないの?」
「違う違う、こいつは、預かりモンなんだ」

レッドはモンスターボールに戻したミズゴロウをカスミに見せた。
親の名前が違う。表示されるデータを流し見たカスミは、一瞬見たことがあるような気がして、首を傾げた。




それは昨日の午後に遡る。場所はポケセンの付随ホテルにて。

「いてえなあ、くそ。ピカチュウのヤツ」

まだ麻痺が残る身体が悲鳴を上げる。ふてくされた様子で、レッドはベッドに沈んだ。周辺道路でなんとか距離を近づけようと訓練したものの、今日も結局懐かせることができなかったのである。ようやくボールに戻ったピカチュウは、気に入らないのかじたじたと暴れている。フシギダネやニョロゾと違って、聞き分けがなく生意気ですぐに放電する癖を持つピカチュウは、手を焼かせる。ニビジムでの一戦は、少し距離を縮めたかに見えたが、レッドの思う仲間とはほど遠い。それでも、すこしづつ近づいているという感覚はある。目に見えないだけで。・・・・・だって触っただけで電気とばさなくなった、もんな、たぶん。まだオレのこと、認めてくれてねーのかな、と勝手が違うあまり、少しショックを受けつつ、いやぜってー認めさせてやる、と持ち前のポジティブさでベッド横に並べたモンスターボールを見た。

「あれ?」

一つ足りない。ピカチュウのボールがない。またかよ、とレッドはベッド下を覗き込んだ。カタカタと揺れるボールは、たまに勢い余って落ちてしまうことがざらにある。
最初はまさかどっかにいったのかと血相変えて探し回ったが、今はもうなれたものだ。薄暗いシーツの向こう側。目を凝らすと、奥の方に丸いものが見える。
手が届かない。レッドは仕方なく、ベッドごと動かして、反対側を覗き込んだ。

「何で2つ?」

見たこともない青いポケモンがいる。手にとって、ピカチュウを戻し、もう一方はデータを表示した。知っている人物だったので、レッドは感嘆符を浮かべた。ジム戦で圧倒的な強さを見せつけた、トレーナーだ。レッドは、モニター越しに見ただけだった。年上らしく身長も体格もずっと大きい。フーディンの見たことのない技で、華麗に3タテしていた。戦闘後、タケシと会話しているのが見えた。聞き取れなかったが、おそらくもう一度再戦をタケシが望んだのだろう、とレッドは解釈した(本当は、門前払いを食った仕返しに皮肉をぶつけ、数時間後話をする機会を設けるよう彼が一方的に言っていただけ)。ズイでであったと表示してあるが、どこだよそれ、とレッドは思う。どっか別の地方から来たのかな、すげえ、と自己完結したレッドは、早速カウンターに届け出た。

すっかり大ごとになってしまった行方不明事件に、出るに出られなくなってしまったミズゴロウが、隠れていたのは本人のみぞ知る。

カウンター嬢曰く、前のお客だったらしい。ボールを無くしたとあわてて申し出たので、スタッフと一緒に探したものの結局見つからず、落ち込んだ様子の彼は急用でホテルをチェックアウトしたという。彼がかわいそうで、見つかったら保護しておくからボックスを教えるよう言ったので預かる、連絡は付くからと彼女は言ったのだが、レッドはポケモンセンターにつれていく、と預かることにした。もしかしたら、彼と知り合えるかもしれない。
グリーンもそうだが、レッドにとって、彼は今まで見たことのない強いトレーナーだったので、知り合いたいと思ったのだ。





ハナダのポケモンセンター目指して、レッドはニビを後にした。






「で、つれてるってわけね」
「なんかオツキミ山にいかなきゃいけない、って出てったんだってさ。だから早く会いたいだろうし、連れてくつもりなんだ」
「そっか、早く会えるといいわね」

ミズゴロウがうなづく。

情報を総合した結果、オツキミ山に行くことになる。











ポケモンセンターに戻り、ちゃんと届け出たレッドは、カスミと共にオーキド博士に話を聞いた。
情報を総合した結果、オツキミ山に行くことになる。気配がして、レッドと共に茂みに隠れたカスミは、ロケット団らしき男を目撃した。

まさかね、と現実味を帯び始めた嫌な予感に、息をのむ。ロケット団に対抗すると決めた大切なメンバーを思いだした。彼女は彼の行動を把握しきれていないのか、いやそんなはずはない。彼女は誰よりも彼の境遇に同情し、心配し、心を砕いているはずだ。本当は一切のことを伏せて普通の暮らしをさせたいと願うものの、彼が彼の問題を優先するあまり組織に近づきすぎるのを憂いて、あえて情報を提示して協力を仰ぐことで結果的に彼を保護できるという選択をしたと聞かされたとき、カスミは冷静に客観的にしかも自分の立場をわきまえて行動する彼女に脱帽する思いだったことを覚えている。何もできないもどかしさを押しこらえる姿は、とうていまねできないことだ。

オツキミ山の洞窟では、当然GPSはつかえまい。彼女が彼に指示した命は知らないが、絶対に無理はさせないはず。なのにどうして、彼はロケット団員の格好をして、入り口の監視役を務めているのだろう!カスミは目眩がした。裏切ったわけではないだろう。そうでなければ、傍らのサンダースがこちらに気づいているのに、サンダースの様子に注意を配らないはずがない。

ああもう、どうして男ってヤツは勝手に行動したがるのかしら!

カスミは初対面と判っていながら、彼の元に近づいていった。慌てたレッドが追いかける。彼は、こちらに気づいた。



「バカじゃないの、アンタ」

「あはは」



彼からは反省の色は伺えない。声を聞いて、ようやく彼だと気づいたレッドは驚いて声を上げるが、カスミは睨んで黙らせた。



「これがポケモンの体内構成を無理矢理改変して、進化させるシロモノ。ギャラちゃんは試作で凶暴化してたんだ。 保護しようと思ったんだけど、脱走しちゃってね、ごめん。下手に動くとこっちも危なかったから。こっちが詳しいデータだよ」



サンプルと書類の入ったボールを渡される。アンタねえ、とカスミは息を荒げた。



「アンタどうする気なの?絶対にあの子が望んでる以上のことしてない?まさかそのままロケット団に潜り込んで 自分探し気取るつもりじゃないでしょうね?」

「(えーっと、キョウが会話してる間に、サンプルの一つと資料を拝借しただけなんですけどー、)はい?」

「しらばっくれないでよ、白々しいウソはキライなの。アンタの気持ちも分からなくはないけど、1人でなんでも突っ走るなって彼女から言われたの忘れたの?」

「言われたは言われたけど(オレは別にロケット団とは何の関係もないしただの一般ピーポーだよ)なんでそうなるの?」



オレはただ今から始まるバトルで起こる土砂崩れに巻き添え食らいたくないから、その前にとんずらしてついでに月の石ほしいだけなんだけどなあ、ピクシーに進化させんのにいるんだよ、カスミちゃーん、むしろややこしくしてるの、アンタたちじゃないの?と言いかけた言葉を飲み込む。それを肯定と判断したカスミは、一緒に来るよう言う。彼は肩をすくめた。この格好をしているのは、事を荒立てたくないだけ。顔でも覚えられたら最悪だと、一番弱そうな下っ端をとっちめて拝借しただけだ。そんなに深読みされても困る。でもどのみち叶わないらしい。いまは説明は不可能。早々に説明を放棄して、うなずいた。


幸いなことに、完全に蚊帳の外だったレッドの質問に、カスミは親切心から沈黙を守り、これ幸いと本音をぶっちゃけた(カスミからは見え透いた嘘を、と白い目で見られたけどね!確かに彼女からは偵察だけいわれてて、行動しろとはいわれなかったけどさー)。ため息一つ。どんどん広がっていく勘違いの溝に、頭を抱える羽目になった。


とりあえず説明責任は果たさなきゃいけない、というか、たぶんカスミ邸についたら、彼女に連絡を取らなきゃいけなくなる。オーキド博士がコンタクトしてくれるってグリーン言ってたし。そこらへんの折り合いといたら、この任務やんなくてよくなるかな!と淡い期待も含めつつ、俺は引っ張られる形でカスミたちと行動を共にした。



「オレ、レッドっていうんだ、よろしく」

「おー、オレはコウキっつーもんさ、よろしく」

「ニビジムにいただろ?すっげー強いんだな」

「んなことないって。レッドだってすごかったよー、お兄さん感激(マジで電気技きいちゃったんだもんなー、ビデオ撮っとくべきだった貴重映像だったのに)」

「見てたんだ?」

「おー」

「そうそう、ミズゴロウってポケモン、見つかったから」



思わぬ再会にコウキは硬直する。おずおずとバツ悪そうに現れたミズゴロウは、ごめんなさい、とばかりにしたうつむいていたが、コウキに進みでてきて、頭を下げた。停止していた思考回路は、もしかしたら誘拐されたかもしれない、と焦りに焦ってロケット団潜入に踏み切ったコウキがてんで無駄足だったことを思い知らせる。再起動したコウキが真っ先にやったのは、なにやってんだ、馬鹿野郎!という軽いグーパンチだった。



「ミズゴロウーっ!お前マジでどこに行ってたんだ!心配したんだぞ、ばか!主人に無断でどこ行ってあんだよ!俺はてっきりスパルタが厳しすぎたんじゃないかと反省しきりだったんだからな!心配させやがって!ピイも心配してたぞ!うんうん、それならいいんだよ。もう二度とすんなよ。わかったな?・・・あ、わりいわりいありがとーっ、よかったーマジでよかったー、ちょっと厳しくしすぎたかなって反省しきりだったんですよ、うん」

「・・・・・コウキってなんかイメージと違うよな」

「?」








お話は、堅苦しくて難解この上ないので、省略ね。・・・とりあえず一週間を要した(レッドとカスミの強化合宿と並行してるとしか言いようがないけど、俺は監視下に置かれてたので、一歩も外に出られませんでした!)ことは言っておこう。簡単に言うと、彼女は半信半疑ながら納得してくれた。所持品(プレミアボールとかね)に現代技術では難しいものが含まれていたのは訝しがってたらしい。ついでにマスターボールとか一部大切なもの、てっきり亡くしたと思ってたのに、実は研究機関に回されてたことが判明しました。無駄に壮大だな、おい!ということで、わかりました、と。でもどのみち戸籍がないのは変わりないので、保護下に置かれることは変わりないと。ついでに、おとなしくポケモン塾に就職するかとか言われたんだけど、いやじゃん?というわけで、記憶喪失なかわいそうな人から、並行世界から来た人(笑)にクラスチェンジしただけで、状況は全く変わってないよ!ついでにバッジにいろいろ仕組まれて、衛星からの監視とかされてたこともわかったよ!・・・どんだけ信用ないの。まあ、当然だと思うけどさ…。心にダメージを負ったのは、違いなかった。

レッドには、ロケット団の関係者?って設定突き通すんだって。まあ、そっちのが風あたり和らぐよな普通に考えて。


カスミとレッドがバトルするという。さびれたジムスタジアムに興味本位でオレもそこにいた。もとい、レフェリー役でもある。さすがに路上のバトルはともかくさ、公式(こっちの世界のポケモン協会って本当に何してるんだろうね。実態ないよね。おれの世界だと考えらんないよ、徹底した管理社会だから・・・詳細は前の世界観にて)じゃ、まずいからね。・・・オレ、免許持ってないんだけど、なんか、いいらしい。ポケスペの世界ってそういうところあいまいだよな。まあ、リーグがあんな状況下だからな。バッジを全部集めなくてもカントー大会に出場できるとか、むしろ一個もなくても(オーキド博士見たくブルー見たく)できるとか。普通だったらほっぽり出されてるけどね!・・・純粋なリーグ形式のバトルなのかしらん?


準備しているレッドに、気負わずいけよ、と笑う。楽勝だって、とやや調子に乗っているレッドがいる。懐かしいな。シンオウリーグ制覇した時点で、有頂天になってた時期が俺にもありました。瞑想もちのハピナスとヌケニンに全滅させられて視界が開けたころが懐かしい。オレは、何も言わない。きっとカスミのことがのほうが、届くだろう。おれの傍観者的な言葉よりはるかに。
それより、気になってたことがあったんだ。



「なあ、レッド。ちょっとピカのステータス、見せてくんない?」

「ん?おう、いいぜ」

「さんきゅ」



ずっと疑問だったんだよね。イワークをなぎ倒すピカチュウってどんだけのとくこうよ、って感じの。イワークがもし、単岩タイプだとして、それでも通常のピカチュウのとくこうだったら、あなをほるでも10マンボルトでも難しい。だいたい素早さなめちゃダメだよ、イワークの。たとえ攻撃力はポッポ並みだとしても。受け取ったモンスターボールを受け取った俺は、ステータスを表示させた。



思わず閉口する。なんじゃこりゃあああ!そら地面タイプが入っていようが、ニドクインだろうがなぎ倒すはずだよ。電気玉いらねえよ。何このステータス。おれは思わずポケギアの電卓で計算機機能をたたいて、個体地を逆算した。Vどころのはなしじゃないよ!・・・恐ろしい子!



「そんなにびっくりするなんて、よかったな。ピカ。すごいだろ?」

「こいつの電撃くらってぴんぴんしてるレッドのがすげえよ」

「ん・・・あはは、なれるって」

「いやいやいや、普通しぬって」



オレの世界だったら、絶対改造かバグ仕様だって公式戦に出場させようものなら、大ひんしゅく食らいそうだ。
これが相棒補正ってやつか。もしかして、サトシのピカチュウもこれか。この補正もとい、ステータスなのか。
どんだけプラス補正かかってんだよ!怖いよ!・・・・ああ、バトル申し込まれたとき、フッシーでよかった。
ピカ出されてたら、いくらとくしゅ受けのピクシーでも死んでた!



感心しきりのオレを見て、レッドはへへ、と鼻をこする。



「コウキも後でジム戦するんだろ?がんばれ」

「言われなくてもわかってるっつの」

オレが負けるとでもお思いで?にやり、と俺は笑い返した。問題はスターミーだよな。草結び持ってないと考えても、10マンに冷凍ビーム、しかも波乗りとか普通にフルアタはガチ使用すぎる。スターミーだけは10年たっても技がほとんど変わらない戦う化石ポケモンみたいなもんだし。オレも持ってるよ。ユウキさんからラティオスをもらってくるまでは、手抜きクロツグを倒すためだけの個体地から努力値から全部生まれて初めて育成したやつ。だから、勝手がわかってる分、敵にされると怖いのは一番わかってる。・・・あくタイプ、ブラッキーしかいないんだよ・・・・。



「おれの心配より、自分の心配しろよ。カスミはなめたら全滅するぜ、普通に」



ってレッドさんがいってた(最初にフシギダネ選んだんだって)。がーんば。オレは、とりあえず指定位置に両社がついたのを確認して、審判員のポジションに足を進めた。



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