第三話

グレーバッジをゲットしたオレは、ハナダジムへ行くよう指示された。ただ数日はニビで待機するよう言われたので、束の間の休日だ、と勝手に解釈して、ミズゴロウの育成を再開する。そうそう月の石がなくて育成放棄してたピッピも本腰入れなきゃ。ってことで今回は二匹でお勉強。卵から生まれたばかりのポケモンってね、、レベルが1って低すぎるからさ、キャタピー相手に戦闘ルールを教えるため傍らに置いて、ひたすら他のポケモンで倒すのが習慣と化してます。ぶっちゃけいうと戦わせたいの、キャタピーだけ。離脱することもしばしば。手間だけが掛かる。ポケトレ壊れてんのかなあ、全く連鎖しないんですけど、こんちくしょうっ。戦闘に顔を出しただけで、経験値がたまるのはありがたかった。アンクルを付けているので、学習装置は付けられないんです。そのうち一匹で戦えるようになった新入りだけで経験値を稼ぐ。



「こらこらミズゴロウ、怒るなよ。仕方ねえだろ、ピイはまだちいせえんだから」



最近ミズゴロウの機嫌が悪い。


一定のレベルを超したあたりから進化の兆しが見え始めたんだけど、驚かせたり大きな音を出したりして注意をそらせ、ことごとくタイミングをつぶしてしまう。ミズゴロウは不満そうに見上げるが、仕方ないだろ、俺だってBボタン同盟つくってるわけじゃねーんだから、と肩をすくめた。アンクルのせいで、いつも野生に先制をとられてしまうことも、不満なようで。だからって好きあらばピイにチョッカイかけんじゃないの。お前のほうがレベル上なんだからしっかりしろ、な?オレはへとへとになったポケモンたちをつれて、ポケモンセンターにいく。格安のホテルにいき、夕食を済ませ、部屋に入るともう外は暗くなっていた。



「一気に飲むなよ、ばーか。ハラ壊すぞ?」



赤ちゃんポケモンだからか、もううとうとしかけているピイをモンスターボールに戻して、ミズゴロウを探す。お前ねえ。あきれ顔で、ミズゴロウからマックスアップを取り上げた。ガチャガチャうるさいかごには、ミズゴロウ用とピイ用に購入したドーピング剤が大量に入っている。能力を向上させるものだが、一気に飲んですぐに効果が表れるような速効効果はないと教えたはずなのだが、やはりまだ幼いこの子はまだ理解しかねているようだ。飛びついてくるのをたしなめつつ、足にまとわりついてくるミズゴロウには届かないように、小さな冷蔵庫にしまう。ピイみたく嫌がって飲もうとしないよりはましなんだけど、勝手に飲むのはいただけない。テーブルには、空瓶のタウリン。目を離したすきに、10本すべて空にしてしまった新入りに、はあ、と溜息一つ。むくれたミズゴロウは、冷蔵庫の前に座り込んでしまった。


オレはベッドルームに移動し、テレビをつける。ポケモンセンター襲撃のニュースが朝からどこのチャンネルも独占している。天気予報が見たかったのになあ。仕方なくDVD鑑賞モードに切り替えた。足元の荷物から、技マシンを取り出す。ミズゴロウを呼ぶと、眼だけがこちらにむく。いじっぱり、と
苦笑した。仕方なくテレビを動かした。


ポケモンがふぶきをくり出す様子が映っている。



覚えさせるための方法や練習法が表示され、覚えられるポケモン一覧にミズゴロウがいることを確認したオレは、ミズゴロウを見た。好奇心を抑えられず、とたたっと寄ってくる。膝の上に乗ってくるずしりと来る重さに引きつりつつ、見上げてくる新入りの頭をなでる。ひんやりして気持ちいい。



「うん、これを覚えるんだ。覚悟しとけ」



主人のスパルタをいやというほど体験したばかりのミズゴロウは、ひきつった顔をした。





数日後





彼は極端に朝に弱い。ただでさえ低いテンションはガタ下がりし、口数はますます少なくなり、気分は果てしなくどん底で、不機嫌になる。彼はうめいた。不快なモーニングコールがかかったのだ。頼んだ覚えはないにもかかわらず、鳴りやまない。ふとんからはい出した手を隣の棚に伸ばし、手さぐりに受話器を探す。ボーダーレスのそれを感覚でつかみ取り、枕に顎を乗っけたまま、彼はもしもしとオクターブ低い声で受けた。


読み上げられる名前が違う。いらっとした彼は、乱暴にがちゃんと切った。手をひっこめる際、棚の角に手の甲をぶつけてしまう。鈍い痛みを感じたものの、眠気には勝てず、彼はそのまま眠りに落ちた。揺れた棚に並べられたランプや手荷物が揺れる。そして並べられていたモンスターボールが、かんからからと転がり落ちる。それはベッド下に消えた。





一時間後、受話器を受ける彼がいた。





彼女の追う組織がお月見山周辺で活動しているという。ハナダシティらで、突然トレーナーの所持ポケモンが
凶暴化するという事例に触れる。らしくなく彼女が言葉を濁すので、彼はやればいいんでしょ?、と投げやりに言う。そんな風におっしゃらないでください、と彼女は言葉を荒げる。しばらく言い合いが続く。結局折れた彼女は、くれぐれも無理をしないように、と釘をさす。


何か言いたげな彼だったが、言葉を飲み込んだまま、りょーかい、と返した。彼の記憶が正しければ、カスミはギャラドスを追いかけて近くまで来ているはずだ。レッドと接触したのだろうか、とぼんやり思う。もしうまく接触できたら、ジムにまで行く手間が省けるかもしれない。まだ平均レベルの低かったレッドの手持ちでなんとかなったはずなので、彼はどこか下っ端ならば楽勝だと自己完結している節がある。ちょうどいい、お月見山のワンリキーを狩るつもりだったので、ミズゴロウのレベル上げついでに、彼女の命である薬品の回収をさせてもらうとしよう。彼の考えが声に出ていたのか、彼女は変装をするよう進言した。めんどくさそうに、彼は生返事をする。



「貴方は、貴方の考える以上に、重要なのですよ。自覚なさってください」



いや、違うって、そう考えているのはアンタだけだよ、と心の中で思いつつ、彼は肩をすくめた。
彼と彼女の温度差は、歴然としているが、これを是正することは天変地異が起こらないと無理である。
彼はため息を押し殺した。レッドが変装するために、下っ端の服を分捕れたのだから、何とかなるだろうと
いう不確かな確信を胸に、漠然とした計画だけが頭をめぐる。おそらく彼女が聞いたならば、卒倒するだろう。

気をつけて。はーい。彼は寝ぼけ眼でつぶやいた。






ふたたびシーツに潜り込む。主人が寝静まった後、ベッドの下に転がり込んだボールのスイッチが床に接触し、ミズゴロウは目を覚ました。一瞬真っ暗な世界に驚くものの、シーツを抜けた先で、部屋にいることに気付く。主人は寝ている。主人を起こそうとして、ベッドに近付くものの、ふと昨日のことを思い出した。


ようやく本腰いれて愛情もスパルタもいっぱいで育ててくれていることは分かっているものの、今までボックスに放置されていたことを忘れられるほど子供ではない。しかも最近はなんだか主人は最近ピイばかり可愛がっている気がする。嫉妬に似た感情が、渦巻く。このままモンスターボールに戻るのも味気なくなって、なんとなくミズゴロウはあたりを見回す。もし自分がいなくなったら、主人は探してくれるだろうか、と考える。間違いなくあたりをひっくり返して探すだろう。少なくともその間は、主人は自分のことを考えてくれる。単純だが、純粋な思考は時に突拍子もない行動を起こす。鍵のかけてあるドアの開け方は知っている。ホテルがどういうところなのか、大体は分かる。でも少しくらい探索してもばれないだろう。ミズゴロウは、かくれんぼ感覚で、家出を決行した。もちろん鬼は、主人だ。




数時間後、足りないボールに血相変えてカウンターにかけこむ彼の姿があったのは、また、別の話。カウンター嬢から保護次第連絡すると告げられ、後ろ髪をひかれる思いでコウキはニビシティをあとにすることになる。



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