パート14
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リオンがスコープと機械にかけ、解析を続けている古代兵器の心臓部からおもむろに立ち上がると、スコープを外した。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
響き渡る声にサトシたちは驚いてふりむく。そこには、ラティオスに待機を命じてつかつかつかと歩み寄るコウキの姿があった。サトシは声を上げる。
「ずいぶんと遅いお出ましね。さ、いらっしゃいな」「その間、ロケット団の攻撃をやめさせろよ」
「わかったわ。ごめんなさいね、ロケット団のみなさん。ちょーっと大事なお話があるから静かにしてくれるかしら?」
ムサシは不満をあげるが、分け前の増量をザンナーが口にすると攻撃が止む。サトシたちはわけのわからないままラティオスからおり、苦しそうなラティオスに、リュックをひっくり返して薬をわたし、解毒させる。コウキの前に現れたアリアドスが、どくびしをわきによけていく。コウキはゆっくりと古代兵器の前にやってきた。
「ラティアスは返してあげるから、心の雫をこっちに渡してくれるかしら、坊や」
「ラティアスを解放するのがさきだろ?」
「やあよ、あなた偽物渡しそうなんだもの」
「オレもやだよ。あんた約束破りそうだ」
「なら、同時でいいんじゃないかしら?ねえ、リオン」
にっこりと笑うザンナーの前で、コウキはリュックを探り、ボールをだした。
「中に心の雫が入ってる。じゃあ、いちにのさんで交換だ」
ザンナーは確認して、うなずく。リオンはいいわよとうなずく。ザンナーは一定の距離をとり、アリアドスを待機させ、時を待つ。
いち
にの
さん!
「うけとれよ!」
ありったけの力をこめて投げつけたボールから開かれた心の雫が、アリアドスの蜘蛛の糸で回収されてしまう。ザンナーとリオンは笑う。古代兵器の起動に必要なものはそろってしまった。あ、とサトシはこえをあげた。これでは時間差でタイミングがずれ、ラティアスの解放が遅れてしまう。一瞬だがどちらもわたってしまった。だが、コウキは、笑った。おまえらにいったんじゃない!と叫んだ。
「いけ、ラティオス!クイックボールを回収だ!」
ボールのポケモンを捕獲する距離は広い。だれも興味をもたなかったボールは、曲線を描いてラティアスにあたり、つかまえてしまう。ぐったりとしているラティアスは、ラティアスにあわせてあった鳥かごごしにボールに入ってしまう。コウキのゴーサインよりまえからスタンバイしていたラティオスが、ボールを回収して、勢い良く旋回。駆け出したコウキを乗せてきょりをとる。
「あきらめろよ、リオン。アンタのまけだ!古代兵器はラティオスかラティアス、心の雫が揃わないと起動しないんだ!」
「ふふ、やるわね。やられたわ」
「どうするの?リオン」
「大丈夫よ、姉さん。いま心の雫と兵器の欠けらがあるの。一旦引けば……」 「むりだよ、あきらめな!」
コウキがさえぎる。
「また煙幕で、ここに通じる別の水路から外に脱出しようとしてんだろうけど、無駄だよ!すっかり遅くなったけど、アンタらがくるのに使ったガーデンからの通路以外は使い物にならないんだ」
「なんですって?!」
「知らないの?アルトマーレは毎年水位があがってきてるから、ここにあった水は全部吐き出されるわけじゃない!確かめたよ。どこの道も途中で完全に浸水してた。ロケット団と違って、自らの足で侵入したアンタたちじゃ、ここからでるのはむりだ。水タイプのポケモンいないんじゃ、暗やみの中で迷うのがおちだろ?」
観念しろ!と叫んだオレに、あらあら、とザンナーは肩をすくめた。どうするの?リオン、と顔を上げたザンナーは、あら?とつぶやいた。
「ふ、ふふ、うそよ」
「うそなもんか!アンタらが使ってる水路の地図はない。でも、オレたちにはラティアスやラティオスが夢うつしで見せてくれた記憶があるんだ!もう逃げられないぞ?ガーデンには警察もいるんだ」
「うそよ!絶対嘘!せっかくここまできたのになんで邪魔するのよ、信じられないわ!」
リオンが叫ぶ。いくら叫ばれても事実だ。まさか毎年アルトマーレを苦しめてる水位の上昇に助けられるとは思わなかったけど、長年にわたる環境の変化には古代兵器も勝てなかったって事だ。古代兵器を起動させれば話は別だけど、ラティアスを助けたから無理。まさに袋のネズミ。
後ろで、ロケット団の引き際を相談する声が聞こえる。後ろから、兄貴の回復を終えたサトシたちがやってきた。オレは兄貴にラティアスのボールを渡す。ボールの中のほうが安全だし、このままのほうがいい。
リオンが発狂したように、笑いはじめた。ザンナーは、まゆをよせ、近寄りはじめる。
「ただでおわらせるもんですか!みんな、沈んじゃえばいいのよ!」
「「なっ?!」」
リオンが乱暴に機械をおした。まさか水のギミックがこのエリアにもあんのかよ!やめろとオレたちはあわててむかう。だが、がががががっという衝撃がオレたちを襲った。リオンは機械に入力しつづけてやがる!
どん、とおとがして、リオンが崩れ落ちた。あれ?
「いい加減になさいよ、リオン。約束したの忘れたの、あなた。度がすぎたら殴ってでもやめさせるって言ったでしょう?あーもう、ネイルがはがれちゃったじゃない」
はあ、とザンナーがため息を吐く。ザンナーが止めたのか?
「あなたったら、いつもそうなんだから。ブラッキーにしたかったからって癇癪起こして、暴走して。止めるアタシのみにもなりなさいよね」
そして、ザンナーは振り返る。
「くやしいけど、坊やたちにはやられたわ。アタシたちの負けよ、降参。アタシたちは盗賊なの、スマートにいかなきゃ、ね。泥だらけになって逃げるのは性に合わないわ」
ザンナーはリオンを抱えて降りる。そしてオレに心の雫を返した。
「あの子に付き合ってたけど、潮時みたい。楽しかったわ」
「警察に自主する?」
「ええ」
「あの機械は?」
「あんまり教えてはくれないけど、きっとギミックを戻しちゃったんだわ。逃げないと海の藻屑よ」
げ!なに平然とやべえこといってんだよ、ザンナー!あわてるオレたちに、後ろから声がした。
「こら!なにぼやぼやしてんのよ、ジャリボーイたち!さっさとのんなさい!」「こんなところでしなれちゃピカチュウがゲットできないだろ!」
はやくくるにゃ!とニャースが叫んでいる。オレはサトシと顔を見合わせて、笑った。ザンナーが兄貴に近寄る。威嚇するラティオスに、ザンナーは頭を下げた。先にいかなきゃ。すると兄貴がボールを預けてくる。オレはサトシに急かされて急いだ。
どどどどどと遠くで音がする。
「あなたの妹を傷つけてごめんなさいね。謝っても、意味はないかもしれないわ。でも、これはけじめよ。あなたもいそいでにげなさい」
ラティオスは、目を細めた。
「ザンナーとリオンとラティオスがのってこないぞ、サトシ!」
「えっ!?」
「ちょと!なんで一緒にこないのよ!」
「もう時間がないにゃ!」
じわじわと広がっていく水。
「ラティオス!ザンナー、リオン!」
ありったけのこえをあげた。でも霞んでいく姿は動かない。はやくしなさい、とムサシに無理やり中に引き入れられる。うそだろ、そんなのありかよ!ばん!とオレは窓をたたいた。サトシもピカチュウも叫ぶが届かない。
確かに謝りもしないザンナーやリオンはいらだちはしたけど、ずるいだろ!なんで兄貴まで!
オレたちは、一気に水にのまれた。
ラティアスがボールから飛び出すと、世界がにじいろにかがやく。
「あ!」
ザンナーとリオンを乗せたラティオスが、波のうねりもかき消す勢いで追い掛けてくる姿がそこにあった。
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