パート11
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「ボンゴレさん、今ラティオスたちを外に出すのは危ないんじゃ?」
オレの言葉に、ボンゴレさんとカレンは顔を見合わせた。なーんだ、知ってるのね、と驚かせようとした悪戯がばれた子供みたいな顔でカレンはかたをすくめた。ボンゴレさんは笑うと、ぽんぽんと肩を叩いてくる。
「ありがとう。ラティオスやラティアスのことを考えてくれているんだね。大丈夫、無論考慮はしているさ。一度、水路の抜け道があることをサトシくんたちに見せておこうと思っただけだよ。それに、どれだけ兵器が街に深く残されているかもね。なるべく、ここの全貌を見せておいたほうがいい。動きやすくなるからね」
頼んだよ、とラティアスとラティオスに呼び掛けたボンゴレさんに、二匹はうなずく。
「そうだわ!コウキ、あなたのラティオスの力も借りたらどうかしら?ことうの生まれっていっても、さすがにひとりぼっちで生きてたわけじゃないでしょ?きっと友達になれたラティアスたちと映像を共有できるんじゃないかしら?」
「え(思いっきり一匹ですけど!むしろオレの世界に一匹の絶滅危惧種ですけど!)大丈夫?できるか?ラティオス」
不安そうにわからない、て首をかしげたラティオスをラティアスがおいでとばかりに誘う。先には、夢うつしの準備に精神を統一してるのか、目を閉じてる兄貴。がんばれ、と頭を撫でて送り出す。ちらちら、とオレのほうに戻りたそうに自信なさげな情けない顔でラティオスはそちらにむかう。兄貴が目を開いて、オレのラティオスをみて、めをほそめた。びく、となる。なにかひとこえぼそりとなかれ、むっとしたらしいラティオスが反論するように鳴く。するとハナで笑うようににいと笑った兄貴はオレのほうに視線を投げて、挑発気味にラティオスにかえす。なっ?!といった様子で目を見開いたラティオスは首を振る。そしていつもバトル前に見せてくれるあの頼もしいりりしい顔で兄貴に鳴いた。いったい何はなしてんの、おまえら。すっかり蚊帳の外なのに、ラティアスはおもしろそうにニコニコと笑っていた。だれかロケット団のニャースつれてきてー!
てな打ち合せはともかくとして、オレたちはテラスに集められていた。空の散歩ってなにかしらとカスミは首を傾げる。ピカチュウとサトシに教えろとアピールされるが、まるっと無視した。ラティアスがまたピカチュウにちょっかいをかけはじめ、それどころじゃなくなる。食器の片付けをやっぱり断られてしまったタケシが帰ってきたので、オレはラティオスをよんだ。
「ラティオス、頼んだぜ」
せがまれて、頭を撫でる。こくり、とうなずいたラティオスは、ラティアスとアイコンタクトし、意識を共有するときに現れる不思議な色の目をした。突然空中で立ち上がると、雄叫びをあげた。そして、勢いをつけてシークレットガーデンを疾走すると、人工池に直線の飛沫があがる。ばしゃん、という波を残して、ラティオスは噴水目前で両手を折り畳むとまるで水鳥のごとく垂直に急浮上する。
ラティアスが呼応するように高い声があがったとき、ラティアスを中心に球体のヒカリがあらわれ、一気に景色が一転する。いきなり足場がなくなり、眼下にはシークレットガーデンがみるみる小さくなっていく。上から見るといかに広大な土地が街のど真ん中にあるかわかるってもんだ。おおお!と歓声があがる。トゲピーがうれしそうに笑い、よかったわねとカスミが頭を撫でた。
「カレンさん、これはコウキのラティオスの景色ですか?」
「ええ、そうなの。ぶっつけ本番だけど案外うまくいくものね。これは夢写しというラティアスとラティアスが使える不思議な力なの。片方が片方のみる映像を共有することができて、野生のこの子たちはこうやって自分のみを守ったり、仲間のピンチに駆け付けたりするのよ」
へー、そんな意味があったのか、映画だけじゃわかんねーわ。
「ここまでがシークレットガーデンをまわりから隠してくれるラティアスたちの力の限界。これ以上は無理ね」
木々の真上には、ポッポたちが群れをなして木の実をつついている。日が当たる場所なだけでずいぶんとガーデンの印象がかわるもんだなあ。なんか、ラピュタの上の方みたいだ。
つかこれ以上浮上は勘弁してくれ。雲の上からアルトマーレをみるのは絶景だろうけど、映画で心の滴を託してきえてく兄貴を連想しちまうじゃねーか。ふるふる、と首を振ったオレに、どうしたんだ?とサトシは聞いてくる。
「なあ、サトシ。絶対にラティアスとラティオス守ろうな」
「ここのガーデンもだろ?当たり前だよ!な、ピカチュウ」
「ぴか!」
ブシューとなかないピカチュウは可愛すぎて困る。心強い返事にオレは笑う。やがて世界は再びテラスに帰ってくる。
おつかれ、とラティオスをねぎらってボールに戻す。
今度は兄貴が逆に人工池に飛び込んだ。たぶんしたの水路にもぐったんだと思うけど、ラティオスってなみのりやダイビングって覚えたっけ?オレの世界とユウキさんの世界は仕様が全然違うからなあ。ま、いっか、細かいことはいいっこなしだ。
再び飲まれた世界は、シャボン玉のなかのようで、きらきらと七色に輝きを帯びている。はー、と感嘆の息をもらすオレに、知ってるのになんで驚くのかと不思議そうなかおをする。
世界は水路にいた。
上は水の底から空を見たようにゆらゆらとゆれ、たえまなく泡立てている。生きものたちが呼吸するたび泡が上っていく。水は透明無色だけど、とおくはエメラルドグリーンのタイルを乱反射して水の色と溶け込んでいる。テッポウウオの群れが、オレたちを貫通していく珍現象が起こり、笑いがおこる。スゲー!と興奮気味にいうサトシは、あたりをキョロキョロと見渡した。めまぐるしくかわる景色。カスミとタケシは言葉も浮かばないらしい。カレンは誇らしげに笑う。
「ゴミがないでしょ?アタシたちの誇りなの」
やがて人工池のぽっかりあいた水路にもぐっていくと、まるで迷路のごとく入り組んだ地下水路に入る。あれ?こんなん映画にあったっけ?やがてヒカリが差し込まないほど暗くなっていく通路の先には、一気に視界が開ける。
「これは……!?」
「すごい、ポケモンたちがこんなにたくさん!」
「古くなった船を沈めてポケモンの巣にするって聞いたことあるけど、これもかしら?」
「これはね、ほら、あなたたち大聖堂にいたわよね?あのステンドグラスの間にあった黒いオブジェがあったの覚えてる?」
「えっ、あれが?」
「氷山の一角というわけですか?すごいな」
「あれが、古代兵器の一角。これが二度と使われないように私達のずっと昔のご先祖様が沈められた、封印された古代兵器の成れの果てなの。いまはすっかりさびちゃって、ポケモンたちの巣になってるんだけどね」
「ってことは、もしこれが動きだしちゃったら、ここのポケモンたちはすむところがなくなっちゃうってこと?」
「ええ。ホントはここは水がないはずなの。もちろん水路につながってるから、ポケモンたちは逃げられるだろうけど、やっぱり困るわ」
「ザンナーとリオンたちは絶対に止めなきゃ!な、みんな」
俄然やる気を出しはじめたサトシにオレたちはうなずいた。
「なあ、カレン。水の抜き方は?」
「詳しくは分からないっておじいさんはいってたわ。ただ、兵器を奪いにくるって予告が来た以上、ザンナーたちはわかっちゃったんだと思うの」
はあ、とカレンはためいきをつく。深海にすむらしいパールル系統やジーランスたちがマイペースに泳いでる。
「大丈夫!オレたちや警備員の人たちでなんとかザンナーたちを捕まえるんだ」
「ええ!水タイプのポケモンたちはアタシが守るわ!」
「カレンさんはどうかラティオスとラティアスのそばにいてあげてください。自分達がなんとかしますから」
「みんな、ありがとう」
世界がテラスに帰ってくる。
オレたちは作戦を練ることにした。
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