パート10

「さぁ、話はいったんお開きにして、そろそろお昼にしようじゃないか。夜までそんな深刻そうな顔で考えていては、いざというときに大変だからね。カレン、サトシくんたちを案内してあげなさい」



「はーい、わかったわ。じゃあ、みんなついてきて?おじいさんのパエリア、すっごくおいしいのよ?」



ねえ?と振られて、おう!とオレは即答する。な、ラティオス。こくこく、とうなずいたラティオスはまた食べられると知って上機嫌だ。カスミとサトシとピカチュウが、おおお、と声を上げてボンゴレさんとカレンにお礼をいう。オレもごちでーす、といった。コウキ、カレンさんたちと食事したのか?!ずるいぞ!と後ろでうるさいのがいるけど、カスミに盛大につっこまれていた。



「あ、料理なら自分も手伝いますよ?ボンゴレさん」

「おや、ありがとう。気持ちは嬉しいがねえ、大丈夫だよ。心配せんでも。なに、私たちはシークレットガーデンを守る側でありながら、かなしいことにポケモンバトルに参加できるような手段がないんだ。警備員さんたちや君たちに任せるしかない気持ちをどうか汲み取ってくれないかね?ささやかながら、恩返しさせてくれるとありがたいよ」

そうですか、とタケシは笑う。タケシにつられて、皿洗いくらいなら、と手を挙げたカスミとなんかおれもしたほうがいいかな?とピカチュウに聞いていたサトシは、顔を見合わせてうなずいた。やるきでるよな、がんばろーぜ、とふると、うなずいた。



「あ、でも運ぶときは手伝ってくれるとありがたいわ。お客さんはあなたたちだけじゃないもの。みんなのポケモンたちにも、食べてもらいたいし」



んなもん、いくらでも!人数分を考えると大変そうだけど、ボンゴレさんはなれているといって、引き返してしまった。腕がなるらしい。さ、いきましょ?とカレンが笑った。





ピカチュウが木に駆け上がると、みしみし、としなる枝から飛び降りる。待機していたラティアスの背中に見事着地したピカチュウは、ラティアスにいわれて背中のとっきにひしとつかまり、ぴか、と鳴いた。ラティアスがにっこりと笑うとゆっくりと浮上し、ピカチュウが歓声をあげる。そして風を置き去りにして、一気に加速する。吹き上がる風に帽子をおしてふたたび空を見上げれば、スピードを一切落とさず木々の間を縫うように駆け抜けていく。あっというまに見えなくなった二匹に、オレたちは唖然としていた。いや、知ってたけどさ、あんだけのスピードでオレ、ラティオスに乗っけてもらってたのかと思うと今更ながら背中が寒くなる。こっえー!

遠くでピカチュウの悲鳴にも似た歓声が聞こえる。こらまたうれしそうにしちゃって、楽しそうじゃねーの。すげえなおい。まあ、あれを楽しめる余裕があんなら、めまぐるしく変わる景色とか、凄まじいどころじゃない疾走感とかきっと楽しいだろうなあ。オレには無理だ。



そのうちふたたびUターンしてきたピカチュウとラティアス。頭にのっかり、なんとラティアスを先導してる。どんだけ適応力すごいんだよ、おい!ぴかー、オレたちに手を振るピカチュウにカスミは顔を引きつらせていた。無邪気に笑うトゲピーを抱き締め、すごいわねピカチュウ、とあきれ顔だ。だよな。一番前の方でカレンにアルトマーレの郷土料理をだしに、カレンに話し掛けまくっていたタケシは、いつものことさ、と笑う。すごいわね、普通は怖がるのに、とカレンは感心していた。ちら、とオレをみる。あはは、オレがラティオスにのってる様子やっぱり目撃されてたみたいだ。オレは気付かないふりをした。あ、兄貴がでれた。我慢できなくなったのか、ラティアスのところに駆け寄った兄貴が、ピカチュウにのれと背を向けてくる。ピカチュウは元気よくなくと、耳を動かしてしっぽをふり、タイミングをはかると、あんな高いところから飛び移った。ラティアスはピカチュウがとられてさみしいのか、ぐるぐると旋回する兄貴を追い掛ける。いつのまにかおいかけっこが始まり、ピカチュウは仲裁のためにラティアスとラティオスの間を行き来する。全く怖くないらしい。

「いいなあ、ピカチュウ」

なんですと?ぎょっとして隣のサトシをみると、手を握り締めて目を輝かせていた。高所恐怖症や危機感は無縁の好奇心のかたまりは、かわってくれととんでもないことを言い始めた。頭がいたいのかカスミは、頭に手を当てる。オレもためいきがもれた。どうしたんだ、ふたりとも、と不思議そうにサトシは首を傾げる。さすがは十年以上アニメの看板背負ってるだけはあるなあ、勝てないわ。道理でオレのポジションのひとが映画冒頭においやられるわけだよ!セリフなしだよ!くそ、主人公さしおいてライバルはでやがったくせに!また行方不明になったオレをバトルタワーで待ってるであろう幼なじみを悔しさのあまりやつあたりしたことを思い出し、オレはかたをすくめた。



やっぱりポケモンはトレーナーににるんだな。タケシがわらって、オレたちはうなずいた。



「なあ、コウキ。さっきラティオスに乗っけてもらってたよな?オレものりたいんだけど、いいかな?」



なんでそうなる。ええっと声を上げると頼むと手を合わされた。



「ラティオス、のっけてやれるか?」



モンスターボールをみると、さすがにサトシたちに慣れてきたらしい人見知りは、控えめにうなずいた。ハイパーボールをかざして繰り出す。



「サンキュー!」



「超特急でよろしく!」



「え、ちょ、コウキ?!」

サトシを乗せたラティオスの目付きがかわる。あわててつかまったサトシを無視して、オレはよろしく!とラティオスを焚き付けて手を振った。



「うわあああああああっ!」



けらけら、と笑うオレにカスミがコウキってときどき怖いわよね、とつぶやいた。え?なにが?



おそるべきはすぐになれて、ラティ兄妹とピカチュウ組とおいかけっこを始めたことだ。まじ、ぱねえ。











「どうしたの?トゲピー」

カスミが首を傾げる。トゲピーがさっきからラティオスやラティアスをみて、手を伸ばす。



「もしかして、のりたいの?」



こくり、とうなずいたトゲピーが笑う。ラティアスがその声を聞いて、ゆっくりと舞い降りてくる。ラティオスに乗ったピカチュウが楽しいと誘うが、カスミはだめよ、と抱き締めた。なんで?とオレのラティオスにつかまったまま、サトシがなげた。



「誘ってくれてありがと、ラティアスにラティオス。ピカチュウも。でもね、トゲピーはまだ小さいのよ?サトシ。手が短いから、途中で落ちちゃうわ。だっこしたままはきついでしょ?」



「カスミがのっけてもらえばいいんじゃないか?」



「む、むちゃいわないでよ!アタシ、絶対無理だもの!」



「え?カスミそんなにおも」



「女の子に失礼なこといわないでくれる?サトシくん!いくらお客さんでも怒るわよ!」



「?あ、うん、なんかごめん?」



「ありがと、カレン。サトシったらデリカシーってもんがないのよね」



はあ、てカスミがためいきをつく。しらけ、集中する生暖かな視線にサトシはかたをすくめ、なんだよ、とぼやいた。無自覚はだめだな。



「タケシは?」



「お、おれ?いやいや、おれもいいよ」



トゲピーは誰も乗せてくれる気配がないとわかると落ち込んでしまう。すねてぐずりはじめてしまい、あわててカスミが宥めはじめた。



「トゲピーは空が飛びたいの?」



カレンの問い掛けにトゲピーがうなずく。ごめん、トゲピー小さいから聞き分けなくて、とカスミはためいきをつく。



「ご飯食べたら、空のお散歩しましょうか」



「え?」



「ふふ、ね?ラティオス、ラティアス」



ああ、夢うつしか。あとのお楽しみね。さ、ついたわ、と人工池にうかぶエメラルドの屋根のテラスにカレンは手招きした。


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