パート9

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「ふーむ、予想どおりだったな。ラティアス、怒らないから、正直に答えなさい。いいね?
お前は、サトシ君やピカチュウと遊びたかったんだね?
コウキ君やラティオスが遊びには来てくれるけども、毎日来てくれるわけではないからな。
ザンナーとリオンがお前を狙っているから危ない、といつも私やカレンが怒るものだから、
なら、自由に遊んでも怒られないここに、こっそり案内しようとしたんだろう?
遊びにも出かけず、ラティオスと一緒にここでずっと二体で遊ぶか、大人しくしていろ、というのは、やはりやんちゃ盛りのお前には酷だったようだね」



照れた様子で、こくり、とうなずいたカレンの姿をしたラティアスは、
ごめんなさい、とばかりにサトシとピカチュウに頭を下げる。
どうして俺達やボンゴレさんが、先にシークレットガーデンで待っているのか飲み込めず、
しかも瓜二つの双子のようなカレンとラティアスが目の前に現れ、
しかも一人はポケモンの名前で呼ばれ、しかも本人があっさりと反応する。
未だにラティアスを人間だと思い込んでいるサトシとピカチュウは、混乱しているのか、
あんぐりと口をあけ、そしてカレンとラティアスを見比べる。
間抜けな様子に笑いがこみあげてくるけど、よく見ればカスミもタケシも初見だからか、
どちらがどちらか分からず、サトシと同じような反応を取っていた。


「ラ、ラティアスって、ポケモンの名前じゃ?」


答えを求めるように、知っている顔の中で唯一余裕そうなオレに、サトシの視線が向いた。
ラティアスが人間の姿になれる理由なんて詳しくは知らねえよ。こっちみんな。
図鑑に載ってる程度のことしか知らねえし、教えたところでその混乱が直るわけじゃない。
これは百聞は一見にしかずだな。ほら、とラティアスを見るよう視線を投げると、
つられてサトシとピカチュウ、そしてカスミ、タケシの視線がラティアスに集中する。
後ろに手を回し、うずうず、としていたラティアスは、いきなりサトシの手をつかむと、
ブランコがつり下がっている大木まで駆けていく。
ちょ、君っ!といきなりの行動についていけないらしく、ずり落ちそうな帽子を押さえ、
肩のピカチュウは必死にしがみつき、ブランコまでたどり着く。
のれ、と指でさされ、言われるがままに座って漕ぎ始めたサトシは、
オレの視線をどうやらラティアスに聞けと言われたと思ったらしく直接聞く。
後ろからたちのりして、さらにスピードを加速させながら、ラティアスは笑う。
そして、ゆっくりと本来の姿を取り戻す。
みるみると変わっていく姿形に驚きの声が上がる。
うわああああ!と驚いたサトシとピカチュウは、ブランコから滑り落ちて人工池に落下。
ばっしゃーん、という豪快な水しぶきが上がり、あわててラティアスが救出に向かう。
え?え?とカスミはトゲピーを抱く力が強くなり、カノンとラティアスを見比べる。
タケシは言葉が紡げないのか、ぽかんと大きく口を開けたまま固まっている。
そして我に返った二人は、サトシーっと叫んで、あわてて走っていく。
これはいかん、風邪をひくぞ、とボンゴレさんが着替えを捜しに通路を引き返した。
あはははははっ、おもしれえ!こらえきれず噴き出すオレにつられて、カレンも笑う。
なあ、ラティオス、と笑いかけると、ラティオスはぶすくれてそっぽ向いてしまう。
それくらいで嫉妬するなよ、かわいいやつだなあ、もう、と撫でてやる。
ちらちらと視線を投げてくるのがかわいい。にやけていると、ラティオスがびくっとした。
どうした?と振り返ると、さっきまで全力で空気だった、無表情のまま超至近距離に近づいてくる兄貴がいた。


「あー、シスコンだもんな、面白くないのか?さみしいのか?
いとしの妹がどこの馬とも知れない人間といい感じになっちゃって」


笑いかけると、何も言わずにずいっと近づいてくる。あ、怒った?ごめんごめん。
謝っても、全然何も言わず、頭を突き出してくる。
え、なに?キョトンとしていると、カノンが笑った。


「今まで一人でお留守番してたのに、だーれもほめてくれないから、寂しいのよ。
あなたのラティオスみたいに、撫でてほしいんじゃないかしら?
この子お兄ちゃんだから、ラティアスみたいに甘え上手じゃないのよ」


何それ、かわいすぎるんだけど!あまりの破壊力に思わずそうなの?と兄貴に聞く。
バツ悪そうに顔をそらした兄貴は、こころなし顔が赤い。
ラティアス、お兄ちゃんください!といいかけて、ひきとめてくる手。
むくれたラティオスが、その手を自分の頭の上に乗っける。
オレは撃沈した。だめだ、だめだ、かわいすぎる、なんなのこいつら!
だーもーお前らかわいすぎるだろーっとオレは二体に抱きついた。


「コウキーっ、なんでいってくれなかったんだよ!
びっくりしたから、ピカチュウと一緒に池に落ちちゃっただろ!」


ずぶぬれのサトシとピカチュウに追っかけられるはめになるのは、別の話

















「ラティアス、お前はただ遊びたかっただけかもしれんが、自分の立場を自覚しなさい」


やれやれ、とボンゴレさんが困ったように肩をすくめる。
しゅん、としたラティアスは、さらに縮こまる。こまったわねえ、とカレンは腕を組む。
さっきからずっと傍らで叱っている兄貴の言葉で、ようやく自分がしでかしたことに気づいたらしく、ラティアスは今にも泣きそうだ。
着替え終わったサトシを加えて、俺達はまたブランコの場所に戻ってきた。


「改めて、シークレットガーデンにようこそ。まずは、お礼を言わせてもらおうかな。
サトシ君、ザンナーとリオンから、ラティアスを守ってくれてありがとう。
カスミさんにタケシ君も、ここがいったい何のためにある庭園なのか、
説明がまだだったね。少し、長い話をしよう。聞いてくれるかい?」


カレン、頼むよ、とボンゴレさんが笑った。


シークレットガーデンの真ん中には、人工芝で覆われた区画がある。
正面には、心の滴とされている水晶が、奥底に沈められている噴水があり、
そこから芝生を囲う形で水路が組まれ、やがては後方の大きな大きな人工池に流れていく。
芝生の真ん中には、正方形の大きな茶色のレリーフがあり、例の古代兵器が刻まれている。
ラティオスとラティアスのお伽噺を語る小さなレリーフが、大きなレリーフをさらに囲う。
お伽噺といっても、パンフレットに載っているただのお伽噺の方じゃない。
いつぞやボンゴレさんが話してくれた古代兵器とそれを破壊した若者のお話だ。
小さなレリーフはガラスで加工が施されていて、ある程度復元がすんでいる。
でも大きなレリーフはまだ復元作業がまだ追いついていないらしい。
おかげで長年にわたる雨風、ガーデンの管理人たちの足跡で擦り切れ、消され、
今となっては読めないところも多々ある。
ボンゴレさん曰く、民族学に詳しいとある先生の所属する機関に調査を依頼したところ、
古代兵器の起動方法が記されているとのこと。
こつこつ、とレリーフを棒きれでたたきながら、ひとつひとつカレンがサトシたちに説明していく。
後ろの方でせわしなく動き回ってるラティアス、お前少しは反省しろよー。
あ、兄貴にどつかれた。きゅう、と小さくないて、頭をさすっている。


「コウキ君」

「あ、はい」


オレはボンゴレさんとともに、噴水前にやってきた。

噴水を覗き込むと、ゆらゆらと揺れる水面の奥深くに、映画とは全く違うただの宝石がある。
ちょうど中央の水の底には、円に植物の葉っぱをあしらった彫刻が刻まれ、
立派な装飾の施された台座が鎮座している。
その上に、まるで龍の蹄のようなくぼみがあり、心の滴と呼ばれている水晶がある。


「今夜、だそうだ。ポストの中にこれが挟み込まれていたよ」


差し出されたのは、ザンナーとリオンの予告状。
思わずボンゴレさんを見たオレに、うむ、とボンゴレさんは真剣な眼差しで封筒を見る。
既に封は切られていて、名刺サイズの紙切れが入っているだけだ。傍らにはキスマーク。
「今夜、古代兵器をいただきます」と簡素に書かれたそれには、トリックも謎も何もない。
正真正銘の予告状だ。


「オレも手伝います!ラティアスもラティオスも、うちのこと仲良くしてくれたし、
古代兵器なんかよみがえらせちゃだめだ!」

「……そうかい、残念だ。できたら、巻き込みたくはなかったんだが」

「オレだけじゃないです。サトシたちも、ラティ兄妹やアルトマーレの危機だってのに、
黙ってみてるようなやつじゃないですよ。ほら」


すべての説明を終えたカレンが、オレたちの方を指差して、予告状が来たことを教えてる。
真っ先にいきり立ったのは、サトシとピカチュウだった。
アルトマーレの隠された歴史を目の当たりにして、呆然、としていたものの、
再びラティオスやラティアスを危険にさらすかもしれないと聞いて、
いてもたってもいられなくなったらしい。
タケシとカスミは顔を見合わせて、うなずいていた。3人ともこっちに走ってくる。


「コウキずるいぞ!俺たちだって何かしたいのに!」

「そうよ!今日来たばかりですけど、こんな素敵な庭園もラティアス達もアルトマーレも、
すっごく素敵な街だと思うんです。それなのに、それを壊そうとするなんて許せない!
ボンゴレさん、あたし達も協力させてください!」

「自分も同じです、ボンゴレさん。
ザンナーとリオンを止めないと、きっと大変なことになる。なんとか、止めないと!」

「ほら」

「あなたたち……」

「わかった」

「おじさん?!」

「もう一刻の猶予も許されないんだ、カレン。これをごらん。
コウキ君が壊してくれたおかげで、ここの見取りまでは撮られずに済んだようだが、
コウキ君を追いかけてきたあの機械と同じものだ」

「これって……」

「カメラ、ですか?」

「ああ。これでザンナーとリオン達は、ラティアス達の隠れ家を突き止めてしまった。
そしておそらくは、心の滴の正体も」

「え?ボンゴレさん、これ、偽物だって……」

「すまないね、コウキ君、まだ君にも打ち明けていないことがあったんだよ。
とりあえず、カレン」

「はい」


カレンがうなずくと、噴水に設置されている小さな扉を開け、何かを入力した。
すると、勢いよくしぶきをあげている噴水が、すこし勢いが弱くなった。
そうしているうちに、だんだん流れが少なくなっていく。
そして、ぴたり、と水が止まってしまう。
ボンゴレさんが、なにかをひねるような動作をしたのち、柄杓でそれを掬いあげた。


「これは・・・?」

「きれい……。まるで宝石みたい。もしかして、これ、心のしずくですか?」

「いや、宝石ではないよ。そして、心の滴でもない。
伝承でもあるように、誠意の証として、アルトマーレでは二度と間違いを犯さないよう、
心の滴は存在していないんだ。本来の心の滴は、コウキ君が持っているようなものをさす」

「え?コウキ、もってるのか?」

「ラティオスをくれた友達から譲り受けたんだ。これだよ」


オレはリュックから心の滴を取り出した。


「心の滴は、ラティアスかラティオスに持たせると、特攻と特防が1.5倍になるんだ。
宝石じゃないよ。売ったらたった100円だから」


再びしまいこむ。ありがとう、とボンゴレさんは笑うと、再び話に戻る。


「宝石のように輝いているのは、ガラスで覆われている表面を綺麗にカットしてあるだけだ。
人工物だから鉱物としての価値はおろか、不純物が含まれているから、ガラス細工の価値もない。
ただの石ころ同然なんだ。それこそ1円の価値もない。ただのガラス玉ですらない。
ザンナーとリオンが宝石と思っているのなら、よかったのだけれど、どうもそうではないから困ったものだよ」

「どういうこと?」

「アルトマーレは昔から、ガラスの工芸品が特産品の一つでね。
これもまた、きわめて特殊な技法が施されているが、ある意味ガラス細工といってもいいのかもしれないね。
この「心の滴」と呼ばれているこれの中にある不純物とは、古代兵器の最も核となる部分の一部なんだ」

「えっ?」

[あの、お伽噺で出てくる、若者が持ち出したっていう?]

「ああ、間違いない。調査を依頼した研究所がいっていたよ。
これのガラスの部分を破壊して中身を取り出しても、古代兵器を動かすことはできないが、
リオンほどの技術者ならば、十分復元することが可能だろうとね。
処分してしまおうと考えたが、あのレリーフが復元されていないせいで、
肝心の中身を破壊するにはどうしたらいいか分からなくてね。
下手に復元できる状態で破棄してしまったら、彼女たちの手に渡ってしまったら終わりだ。
だからこうして保管するしかなかったんだ」

「そうだったんですか」

「ああ。厄介なことに、彼女たちはその研究を依頼した人の家にまで侵入し、
あらかたの研究書類を盗んでしまっているんだ。
ばれてしまうのは時間の問題だったのは事実だよ。残念なことにね」


ボンゴレさんがため息をつく。


「でも、ボンゴレさん。確か起動には、心の滴もいるですよね?
オレ、取られてないし、あいつらもってる気配なかったし、大丈夫なんじゃ?」

「もちろん、そうであってほしいとはおもうよ。
だがね、彼女たちにとって、一番必要なのは、復元できる中核が手に入ることなんだ。
今ここで追い払うことは可能だ。でも、幾度も狙われ続けることになるのは、困るんだ。
確かに、かつては古代兵器の起動には、確かに心の滴とラティアスやラティオスが必要だったかもしれない。
しかし現在では、心の滴はなくとも、同様の波長をもつ鉱物や機械を使用すれば、いくらでも作動させることが可能なはずだ。
最悪のケースはいくらでも思いつく。彼女たちは片っぱしから、心の滴と名のつくものを盗んでいるからね。
サトシ君、カスミさん、タケシ君、そしてコウキ君。巻き込んですまないとは思う。でも、協力してくれるかい?」


オレ達は、うなずいた。


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