パート8
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「ね、ねえ、コウキ?悪い冗談はよしてよ、ねえ?」
「ボンゴレさん?いくらなんでも、これは………」
「なにぼさっとしてんだよ、ほら、早く!」
「おっ、おあ、ちょっと待ってくれ!」
「心の準備があっ!」
「はい、どーん」
「「うわあああっ!」」
噴水に向かって勢い良く突き飛ばすと、ぐにゃりと空間が歪んで、タケシ、カスミの姿が消える。悲鳴ごと冷たい水の向こうに飲み込まれてしまった。あははははっ、成功!ぱんぱん、と手を払ってオレは腰に手を当てた。誰しもが通る洗礼だよ、気にすんな?振り返ると、親指を立てたボンゴレさんが、歯を出してウインクした。
二度目にボンゴレさんにシークレットガーデンを案内されたとき、オレもやられたんだよ。このどっきり!
自宅を通されて、手入れの行き届いた中庭案内されてさ。自慢の噴水にうつるきらきらした太陽の光にひかれてのぞくと、きれいなタイル張りのモザイク画があるんだ。見入るだろ、普通。で、これはこうで、と言葉巧みに誘導されて、気付いたら後ろでおもいっきり突き落とそうとにやにやしてる顔があるわけ。焦るって、普通。誰がシークレットガーデンの入り口と思うよ?
映画だと、サトシはラティアスに案内される形で、行き止まりの壁の向こうに消えていくカレン姿のラティアスをみてるからびびりはしなかったけど、本当にすごいトリックだ。エスパータイプすげえ。オレは、そうっとてをのばす。境界がさっぱり分からないけど、ある一定のところから、ぐにゃぐにゃと空間が波紋を描いて歪む。さらに奥の空間があることがわかってるからいいけど、何も知らないとめっちゃ怖い。
「さあ、そろそろ行こうか」
「はーい」
よっと、先を飛び越えると、暗やみが落ちる。目が慣れてくると、建物のなかにいると分かる。目を凝らすと、うっすらとある光。
「おーい、カスミ、タケシ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないわよ!」
「ひどいじゃないか、コウキ!ちゃんと説明してからやってくれ!」
いや、おもいっきり、ハリポタの駅と同じ原理であろうここはさ、いくら説明しても理解はできないと思う。体感したほうが早いだろ、絶対。なんてな、実際ははめたくて仕方なかっただけなんだよ、わりいわりい。 オレは、なんとなくそこら辺で腰を抜かしているであろう、二人に笑う。トゲピー、ボンゴレさんにあずかってもらっててよかった。
「この先が案内したいところなんだが、大丈夫かい?」
「も、もう少し待ってください」
「こ、怖かったあ!濡れちゃうかと思ったじゃない!」
ランプ片手に現れたボンゴレさんを中心に、空間が明るくなる。二人は息を吐いた。
見上げれば、四角い空が広がっている。暖かな日差しの傾斜を求めて、駆け抜けた暗やみの先に一気にひらける視界。いつみても壮観だなあ、とのびをするオレの横で、カスミとタケシは言葉を失っているようだった。ふう、とランプを消し、進み出たボンゴレさんが笑う。
「ようこそ、シークレットガーデンへ」
今いるのは、シークレットガーデンをぐるりと囲う、アーチの通路。まず、目を引くのは、その通路に沿って植えられている、樹齢数百年の巨木たち。鬱蒼と生い茂る樹木が、木漏れ日をつくり、とても神秘的な雰囲気を生み出していた。通路からなら、どこからでも、長年にわたって存在が隠匿されてきた、水の都アルトマーレのど真ん中にある広大な庭園を臨むことができる。
「素敵!ねえ、トゲピー」
きゃっきゃとはしゃぐトゲピーを抱き抱え、カスミが走りだす。あ、おい!とタケシが困ったようにボンゴレさんを見るが、いっておいで、といわれ、タケシも駆け出した。あ、ずりい!おいてかれたオレはあわてて走りだす。
階段をかけおりると、そこに広がるのは、左右対称に植えられたさまざまな木々、植物の花壇。庭師さんが手入れしているから、丸や四角、といった奇妙な形の木々がならんでる。ふわふわとした芝生はやっぱり足を踏み入れるのははばかられて、オレは煉瓦の通路を急いだ。通路の両脇には、水の音。チョロチョロと水路が流れている。
「おーい、タケシ、カスミ、どこだよ!」
返事はない。
足早にすすむと、人工池が水路と合流しているのが見えたので、見渡してみるがいない。蓮の花と丸い葉っぱが浮いているあたりには、ニョロモたちがよく水遊びしてるからカスミが足を止めるとおもったんだけどなあ。オレに驚いて池にとびこんでしまったのか、波紋が広がる人工池。しばらく見ていると、蓮の葉っぱをのっけて、のそりと顔だけだして警戒しているかおたちと目が合い、再び潜ってしまう。
やっぱり、噴水の方かな、と振り向いたが、バタフリーやヤンヤンマの群れが通り過ぎただけ。マリルたちが水遊びをしているだけ。
野性のポケモンが住み着いてるといえば、大富豪のウラニワさんを思い出すけど、ただの荒れ地とここを比較するのは失礼だろう。
んー、ブリーダーをめざしてるタケシなら、ボンゴレさんに話を聞きに来そうなモンだけどなあ。振り返ると、二人に喜んでもらえてご満悦らしいボンゴレさんが、ゆっくり歩いてくる。
オレは先を行く。
煉瓦の通路は十字路に差し掛かる。ここら辺で真ん中辺りかな。両脇に伸びる通路はしばらくすすむと、行き止まりだけど、いろんなレリーフや風速計、風車がおかれてる。ちなみにオレがとらせてもらったエンテイの風速計は、ここのやつだ。少し息があがってきたオレは、少し歩みを止めた。 あ、いた!
「あ、コウキ!これね?エンテイの風速計」
「なるほど、かおがモチーフになっているのか、よくできてるなあ」
「それ探してたのかよ、おい!」
「見てみたかったのよ」
「しかし、立派な庭園だなあ。まさかこんな街の真ん中にあるとは驚いた」
「ここはね、代々大聖堂の管理人を任されてきた私たちの家が代々守ってきた大切な庭園なんだ。気に入ってくれたかい?」
「あ、ボンゴレさん!それはもう!」
「ご招待頂きありがとうございます。でも、どうして自分たちに?」
「まあ、それはすぐに分かるさ。なぜここがシークレットガーデンと呼ばれ、観光客はおろかアルトマーレの人々にも秘密とされているのか。なぜ私が君たちを招待したのか。まあ、とりあえずお茶会といこうか。まだサトシくんはついていないようだしね」
「こっからはボンゴレさんと一緒にいったほうがいいぜ?二人とも。ここの住人が侵入者と勘違いして怒るから」
「コウキくんはどうするんだい?」
「招かざる客がいるみたいなんで、お引き取り願おうかと思いまして。ラティオスがさっきから出せってうるさいんですよ。じゃ、あとで!」
いくぞ、ラティオス、とハイパーボールから繰り出すとカスミとタケシが驚いた顔でこっちを見てくる。
「友達から譲り受けた大事なラティオスなんだ。アルトマーレはラティアスとラティオスがたくさんいるって聞いたからさ、もともと友達作ってやりたくて来たんだ。黙ってるつもりはなかったんだけどさ、ごめん。詳しくはあとでな!」
適当にいったわりには、説得力あったみたいで、タケシがもしかしてここにはラティアスとラティオスがすんでるのかとボンゴレさんに聞いてる。オレについての説明はまるなげして、いそぐか。
え?のれって?かんべんしてくれよ!引きつったオレに、傷ついた顔でラティオスがうつむく。いや、別におまえが嫌いなわけじゃなくてその、と言い淀むと、ぱっと顔が明るくなりオレに背を向けてくる。あーもー!やけくそでオレはラティオスに捕まった。ぎいやあああああ!
ラティオスが加速する。風圧でものすごいことになってるけど、振り落とされないように必死なオレはそれどころじゃない。迷路のように入り組んだ緑の壁も空から飛び越えれはただの障害物。わー、木々が避けてる!じゃねえよ、あたるあたるあたる!なんとか避けて、ほっとしたら今度は木々にぶつかりそうになって、急下降する。眼下に広がる広い広い人工池。緑の屋根のテラスでカレンが絵筆をふるってるのが見えた。ばしゃしゃとしぶきが飛んで、あっという間にわたりきると、芝生のじゅうたん。一本の大木とブランコ。水路の水源である噴水と安置されてる心の雫、ラティアスとラティオスのレリーフ、そして再び見事な庭園。意識が飛びそうだが、なんとかこらえて、ラティオスに身を任せる。
あ、ラティアスとサトシだ。
遅かったか、できたらここを二人が通る前に、ついびのカメラを壊したかったんだけど。ま、こうでもしないとサトシたちを引き入れるチャンスが浮かんでこないし、しかたない。せめて内部調査は妨害しないと。すれ違いにオレは、幻想の境界におろしてもらう。
「ラティオス、ステルスで近づいて破壊してくれ。回収よろしくな」
うなずいたラティオスが消える。
振り向くと、侵入者と間違われたサトシとピカチュウがお兄ちゃんに襲われかけ、ラティアスが止めにはいるところだった。あー、カレンが怒ってんなあ。もしかして駆け抜けたオレたちにただならぬものでも感じちまったかな?あとであやまろ?な?と、口にくわえて、大破した機械を差し出してきたラティオスを撫でながら、オレはいった。
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