パート7

大聖堂で思い出すのは、ヨスガシティにあるポケモンセンター近くに立ってる正体不明の建物。よくにてるや、と見上げるほど大きな正門をくぐって思った。なんでかBGMが流れない不思議な場所で、孵化作業途中だったからイーブイが生まれちゃったんだけど、「異文化の建物で孵った」って出たから、よく覚えてる。なんか関係あんのかなあ。みんな、きれいな壁画見たり瞑想したりして、いろいろ考えてるみたいだったから、なんか神秘的な感じがしてたし、背筋が伸びる思いがしたけど、よく似てる。やっぱり、教会なんだろうな、あそこ。ま、この大聖堂はもとになったところとは違って、宗教的な意味はないだろうけど。


見上げるほど大きな正門をくぐると、広々とした大理石の空間が広がってる。おおお、とオレたちは観光客まるだしな歓声を上げた。天井はアーチになってて、壁画が壁一面にひろがって、やがて柱にまで細部まで彫刻。同じ形の窓ガラスが天井に並んでて、大聖堂内はひだまりに満たされていて、不思議な静けさがそこにある。観光客の足音が反響してて、おしゃべりは聞こえない。一際存在感があるのは、一定の感覚で奥にまでならぶ、大理石から天井まで貫く、鮮やかな青いタイルざいくの柱。目移りしそうなくらい、圧倒される。あー、写真厳禁がおしいなあ!



素敵、とカスミがつぶやいて、トゲピーに指差して壁画の解説をパンフレット片手に始める。サトシがすっげー、と頭に乗っかってるピカチュウと揃ってあんぐりと口をあけて、カスミの説明に聞き入る。見事なもんだなあ、とタケシは腕を組んでる。オレは、いい加減首が痛くなってきたので、キョロキョロと辺りを見渡して秘密の庭園の管理人兼大聖堂の案内人ことボンゴレのおっさんを探すがまた来てないらしい。今思い出したけど、あのおっさんの声、グッチ雄三さんだよ、すっかり忘れてた。


「下もすごいぜ、みんな」

オレがいうと、サトシたちは視線を落とした。そしてあがる感嘆のためいき。大理石の床には、ポケモンの化石が横たわっている。擦り切れないよう、クリアガラスで加工されてるらしく表面はツルツルだけど、タケシは踏まないように後ろに下がった。んー、さすがにアドバンスジェネレーション直前の映画だから、ホウエン地方までの化石ポケモンしかいないかあ、ちっと仲間外れでさみしいな。仕方ないけど。 つか、こいつら全員、古代の機械の暴走んときみんなよみがえるとか、ありえねえよ、こっええ!想像して薄ら寒くなる。確かにオレの世界でも、博物館の研究者に渡して、あたり散策したらもう復元してるようなお手軽さだけどさ、みんな一度はねーよ。それどこのジュラシックパーク?


「プテラの化石かしら?」

「羽あるもんな。タケシ、どう?「ぴか?」」

「うん、プテラの化石だな。しかしすごいな。ニビの博物館でもこんなにたくさんの化石は見たことないぞ」

「オレも!クロガネ博物館の特別展示じゃみたことないのばっかだ」

「へええ、そうなんだ。すごいな、ピカチュウ」

「ぴーか」

「あ、あれ、カブトプスかしら?」

「え?カブトじゃなくて?(つかカブトプスやオムナイトの化石あんのかよ、すげえ!)」

「ううん、あの鎌みたいな手はカブトプスよ。ね?タケシ」

「え?どこどこ?」

「あそこよ、サトシにピカチュウ」

「これまた見事だなあ」

「すっげー、そのまま残ってんだ!」

「すげえ技術」


アルトマーレ、世界のなんとか大文明に数えてもよさそうな気がするなあ。あ、いや、時の神殿とかあきらかに人が作ったみたいだし、シンオウ地方も案外すげえのかも。なんとなく化石を避けながらオレたちは先に進んだ。


「どうして化石がそのままの形で残ってるのかしら?」

「それはですね、かつて海だったところに彼らが死んでからすぐ、火山が噴火して長い年月をかけて火山灰がおおってしまったのですよ。微生物に食べられたり雨風にさらされることなくきれいに骨だけ残ったんです。ほら、波のあとまで化石になってるでしょう?それを切り出して昔の人は建物をたてたようです」


いきなり後ろから声がして、振り返るとボンゴレのおっさんがいた。青い服に赤いつなぎ白い髭に丸いスキンヘッドの風貌は、年とったマリオみたいだ。


「ようこそ、大聖堂へ。案内人のボンゴレです。よろしく」

「あ、オレ、マサラタウンのサトシで、こっちがピカチュウです。よろしく」

「アタシはカスミです。この子はトゲピー」

「自分はタケシ、といいます。で、こっちが」

「おや?コウキくんじゃないか。もしかして、サトシくんたちは、君がいってたお友達かい?」

「はい、そーです。こんにちは、ボンゴレさん」

「あれ?コウキ、知り合いなのか?」

「ん?ああ、そうだよ。ほら、伝説のポケモンのレリーフ集めてたときにさ、あのエンテイの風見計とらせてもらったんだ。アルトマーレの昔からある家によくあるやつみたいで。まさかここで働いてるとは知らなかったけどさ」

「へー、偶然ね」

「はは、コウキくんのお友達なら、よしみで私が案内させてもらおうかな?」

「おお、ボンゴレさん太っ腹!」

「じゃあ、ぜひお願いします」


「ありがとうございます!」

「やったな、ピカチュウ」

偶然じゃないんだけどな!オレたちはボンゴレさんにつれられて、一度大聖堂をぬけて小さな庭園がある中庭を横切る通路に向かった。ガイドは敬語モードだ。解説まじりの観光もいいな、賢くなった気になれる。ボンゴレさんがふと顔を上げた。


「そうそう、太陽の塔はもう御覧になりましたか?」

「太陽の塔?」



大阪万博?

「ほら、あそこにある、ラティオスとラティアスの石像です」


指差された先には、どこからでも一度は目にするくらい、たかいたかい二組の塔。先にはむかいあわせのラティアスとラティオスの石像がある。ああ、あれ、太陽の塔っていうんだ、へー。

「ここ大聖堂と、太陽の塔は、災害からこの島を救ってくれたラティアスとラティオスに感謝の気持ちをこめて作られたとされています」

「そっか、感謝の気持ちかあ」

「シンボルだもんね」

「素晴らしいな」

感心しきりな三人と一匹を横目に、オレは正直複雑な気分だった。本当に感謝の気持ちだけで大聖堂や太陽の塔があんのなら、あんな機械いらないはずだ。かつては必要だったのかもしれないけど、やっぱり今はいらないしなあ。アルトマーレもきれいな歴史だけじゃないんだろう、きっと。

オレがとやかくいうことじゃない。オレがしたいのは、ラティオスとラティアスを守ることだ。それだけに集中して、全力そそがなきゃ!オレは改めて自覚して、小さくためいき。


視線の先には、まるで隔離されたかのごとく別の部屋に安置されている、機械。ステンドグラスの光をあびて、不思議な雰囲気のある室内に入ると分かる。今はオブジェと化している黒塗りの冷たい鉄の固まりは、あまりにも異質だった。







扉をくぐり、オレたちは上に目を奪われた。ラティアスとラティオスのお伽噺話を模したステンドグラスが、天井をぐるりと取り囲んでる。太陽の光を浴びて、舞い降りるきらきらとした鮮やかな色が眩しくて、オレは目を細める。おっさんの解説は観光客向けで、真相からはとおい。右から左に聞き流し、辺りを見渡すと、上は内側にとしゅつした吹き抜けのベランダが、外へつながってる。あ、いた。白いベレー帽をかぶったカレンが、キャンパスに向かって真剣に筆を走らせていた。このアルトマーレは、きれいな景色にひかれて、将来を夢見る画家の卵や有名な画家が多くアトリエを構えることでもしられてるとか、いってたっけ?詳しくは知らないけど、カレンもいつか誰かに弟子入りして、その道をめざすらしい。んー、声かけてもいいけど、そうすると、ラティアス=カレンと勘違いしたサトシの逆ナンがなくなっちまう。ラティアス、ザンナーとリオンに狙われてるって自覚ないのか、しょっちゅうシークレットガーデンぬけだしちまうからなあ、探すの手間だし、大丈夫だろ。見てみぬふりを決め込むことにした。



やっぱり、警備が映画よりはるかに厳重だ。ものものしい格好をした憲兵さんたちが見張ってる。触れないように、しっかり区分けされて、これは、防弾ガラスか?やたら分厚いガラスケースに収められている。なんかちょっと安心だな。 ほっとしていると、いきなりタケシが後ろから声をあげるもんだから、ぎょっとして振りかえる。


「おおっ、僕はこの街で、素敵なお姉さんに出会うであろう!間違いない!」


ねーよ!


むしろ出会いは、サトシだからな。タケシもカスミもロケット団も空気だからな、本当は。ま、サトシがシークレットガーデンに迷い込んだら、言い包めて、巻き込んでやるつもりだから、タケシもカスミも覚悟してろよう、とひそかに笑いつつ、ボンゴレさんと笑う。ないない、と冷静につっこみ、後ろから見事なチョップをかましたカスミに、トゲピーが笑う。

「憲兵さんから、話は聞いてるよ。大丈夫だったかい?」

「あ、はい、この通り。それより、サトシが……」


あ、カレンに気付いた。ピカチュウとサトシが、声を上げる。サトシがあった、ザンナーとリオンに襲われてた女の子は、ラティアスだ。だからカレンとは初対面。カレンからすれば、誰こいつ?なわけで、まさか自分が呼ばれてるとは思わずいってしまう。笑いがこみあげてきて、とっさにオレはうつむいた。わかんねえよな!カレンとラティアスの性格は正反対だし、話せば一発で気付くけど、初対面で判別はまず無理だ。唯一の違いは白いベレー帽だけだし。サトシは、スルーされてむっとしたのか、追い掛けて出ていってしまう。あ、サトシ、と呼んだカスミとタケシだったが、首を傾げて顔を見合わせた。

「サトシくんがどうかしたのかね?」

「カレンに似た子がザンナーとリオンに襲われてたのを助けたらしいんですけど、いっちゃったなあ」

「いつだい?」

「いつ?タケシ」

「え、ああ、水上レースが終わって、一息ついたころだよ。コウキと合流する前だから、四時間くらい前か?カスミ」

「ええ。それがどうかしたの?」

「おかしいな。カレンはいつも広場でデッサンの練習をしてるはずだ」

「あのー、さっきの女の子は、カレンさんっていうんですか?」

「タケシ、鼻の下がのびてるわよ」

「ははは、カレンは私の孫だよ。若いのに画家になりたいと、両親のもとを離れて、この街にやってきて何年になるかな。しかしらサトシくんはカレン似の子を助けたんだね?うーむ」

「なんか、連れ去られる寸前だったみたいです」

「ひどいわよ。嫌がる女の子を無理矢理なんて」

「うーむ………ありがとう、みなさん。誰かは分からないが、無事でよかった。サトシくんによろしくいっておいてくれるかな?私が変わってその子の代わりにお礼をしよう。どうだい?これから予定はあいているかな?よければ、君たちに案内したいところがあるんだが、ついてきてくれるかい?」

「は、はあ」

「わかりました」

「ちょ、タケシ」

「なに、人違いなんだ、すぐ帰ってくるさ。サトシが戻ってくるのを待ってからでもいいですよね?」

「ああ、もちろん。だが」

「「?」」

ボンゴレさんがオレに笑いかけた。

「そんなことしなくとも、一足先についていると思うんだがね。招待したくて仕方ないお転婆娘を私は知っているんだ」

タケシとカスミは顔を見合わせて、首を傾げた。オレはにい、と笑う。

「あ、コウキ、なんか知ってるのね?さっきから静かだと思ったら!」

「コウキ、まさかカレンさんとももうお近づきになったんじゃ……」

「さあ?」

二人のブーイングにオレはさもあらん、な顔のまま出口にむかう。

「急ごうぜ、ボンゴレさん。このままじゃサトシが手荒な歓迎受けちまう」


ラッキー!いちいち説明する手間が省けた!どういうわけか、タケシ、カスミもシークレットガーデンに案内することが決まった。どうせ、どんなにがんばってもサトシ経由でザンナーとリオンにシークレットガーデンがばれちまうのは目に見えてる。ばれた時点でひっぱりこんで、ラティアスとラティオス、心のしずくとこの機械にザンナーとリオンを近付けないように、見張ってりゃだいぶ有利になるはずだ。ニ対四ならこっちが有利だ。サトシもカスミもタケシも、ポケモンの危機が迫ってて悪い奴がいるのに見殺しにする奴じゃない。ずるいけど、付け込ませてもらうぜ。ごめんな、と心のなかでつぶやいた。

唯一の懸案は、シークレットガーデンにある心のしずくとされてるのが、オレが映画で見たやつと明らかに形状が違うことだ。偽物とボンゴレさんがいってたけど、ならなんでわざわざあんな場所に保管してあるのか気になる。ごまかすためかもしれないけど、始めからないほうがいいのは火を見るより明らかだ。うん、やっぱり渡しちまうよりはいい。あとは、オレが持ってる心のしずくをどうするかだけど……消されるのはやだなあ。 いろいろ考えながら、オレは思い切ってボンゴレさんにある提案をしてみることにした。カスミとタケシをシークレットガーデンまで案内しながら、空を見上げる。
むかつくくらい、青空が広がっていた。


[ 32/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -