パート6

アルトマーレの物価は、観光客目線では、高い。物流を人力と船に頼っていること、住人たちの主な収入源が観光に携わる職業が大半をしめ、どうしても観光物価になってしまうことが理由にあげられる。名物のスパゲティでさえ、なかなかリーズナブルにはいかない。だが、パンフレットや有名な旅行記、雑誌の特集にのるような料理店は、たいてい入り口に料金表が張り出されているため、ぼったくりにあうことはないが、高いことだけは我慢しなければならないようだ。ちなみにあまりにも価格破壊なツアーだとどうしても旅費を押さえるために、安価な料理店が選ばれがちで、その分、あまり見た目も味もサービスも期待できないことが多い。多少は値が張ってもおいしい店を選ぶのが成功の秘訣。ゴンドラの漕ぎ手なイケメンのお兄さんたちをよく見かける店は、とりあえず外れはない。



フレンドリーショップで買ったよく有りがちなパンフレットの一説をもとに、ロケット団の三人組、ムサシ、コジロウ、ニャースたちが訪れた店は、見事においしいお店だった。

水上レースが行われるとあって、コースに選ばれた水路沿いの景色が望める料理店は、どこも繁盛していた。だが、サトシたちを追い掛けて海までわたってしまった彼らは、すっかり観光客と化し、おもいっきりアルトマーレを満喫しきっていた。その日は、ムサシが道を間違え、なかなか予約をとった店にたどり着けず、ようやく腹ペコでたどり着いたため、水上レースの参加者を今か今かと待っている店内の雰囲気からは完全に浮いていたりする。しかも、料理を注文し、運ばれてきたそれに夢中で、横の水路を通り過ぎたサトシたちは愚か、いたずらでリードを引っ張っていたラティアスにニャースが気付かなかったのは別の話。


ペペロンチーノとティラミスは、とてもおいしかった。コジロウはボンゴレの入ったペペロンチーノが食べたかったが、困り顔のウエイターに、魚介類の風味を損ねてしまうチーズやペペロンチーノとの組み合わせは、ここでは好まれないので、おそらくアルトマーレにはないだろうと頭を下げられたのであきらめている。唐辛子の入ったトマトソースを気に入ったムサシは、タバスコがないことに面食らっていた。アルトマーレでは、粉末の唐辛子をかけるのが普通なのだとウエイターに差し出されたはいいが、受け取ったニャースのいたずらで、どさりと真っ赤に染め上げてしまいムンクの叫びとなってしまう。そこまではよかった。



ざっぱーん



不幸にも、大混戦のまま四位争いを演じていた水上レースのボートがトップスピードでムサシたちのテーブルを横切り、そのしぶきが彼らとテーブルの料理もろとも直撃してしまったのだ。マッシュルームを食べるはずだったフォークをみて、びしょ濡れになった仲間を見て、ムサシが悲鳴をあげたのはいうまでもない。さいわいなのは、ウエイターやスタッフの計らいでシャワーを貸してもらい、再びただでありつくことができたことだろう。ニャースのような、ポケモンがナイフとフォークを使い分け、しかも礼儀正しくしゃべることに料理長がいたく感動しての取り計らいだということをここに印しておくとする。


不幸中の幸いな昼食を終えた三人組は、いつもお馴染みのRがきざまれたロケット団の制服ではなく、観光客の変装をして、パーラーでソフトクリームを購入していた。昼食を平気でロケット団の格好のまま食べていた大胆不敵な彼らには、きわめてめずらしいが、なんのことはない。シャワーを貸してくれた店の店員にいわれたのだ。


「最近、ザンナーとリオンがこの街で暴れてるからさ、憲兵さんもみんなもえらく気が立ってるんだ。お祭りだからコスプレもいいが、ちっと自重したほうがいいかもな?職務質問はいやだろう?」



ロケット団の知名度はあるものの、しょせんは海の向こう側の世界。アルトマーレの話題はもっぱら美人盗賊姉妹にあるようだった。
やはり、まさかかつてエリート階級をひたはしっていた幹部候補の二人と、本人曰くロケット団のボス兼創設者のペットが、子供のピカチュウ目当てにここまで来ているなど、だれも知るはずがなかった。


美人と聞いて、いたく憤慨したのはムサシである。さっそくソフトクリーム片手に、新聞を広げるコジロウにぼやく。三面記事を賑わせている写真を指差して、コジロウは八つ当りしないでくれとばかりに肩をすくませるいった。


「なによ、そのザンナーとリオンてのは?」

「ムサシ知らないのか?最近ちまたを騒がせている、怪盗姉妹だよ。予告はかならずキスマーク2つの刻印が入ってるんだ。姉がザンナーで、妹がリオン。リオンが機械方面に強くて、いくつもの改造したパソコンや車、監視カメラの入ったプロペラ機を使ってる。ザンナーは変装がうまくて、監視の目を潜り抜けたり、関係者に近づいて暗号とか集めるのが得意みたいだ。ポケモンバトルの腕もあるみたい。あちこちで宝石を盗んでるらしい」

「なーにが美人よ、アタシのほうが美人じゃない。ザンナーは化粧濃いし、リオンは地味だわ」

「ソーナンス!」

「んふふ、よくわかってるじゃない」



空気を読んだソーナンスに心のなかで拍手しつつ、コジロウとニャースは新聞を読み込んだ。



最近、二人はアルトマーレにねらいを定めているのか、活動が活発だ。





最初は、ラティアスとラティオスのお伽噺がかかれた、絵本が図書館から盗まれている。警備員がバラにくくられた予告状を確認しているため、間違いないもののいたずらや模倣犯の可能性は捨てきれない。

数日後、アルトマーレの有名な施設やお偉いさんがたに、「心のしずくをいただく」という予告状が届いて、騒ぎが大きくなった。なにせ「心のしずく」はお伽噺話の宝石であり、実在しないとされているからである。お金持ちの別荘や隠れ避暑地も多く軒を構えるアルトマーレは、心のしずくと称されるような宝石を持つ人も多く、恐れおののいた人々を安心させるべく、警備が強化され、憲兵たちもピリピリしていた。


嘲笑うかのごとく盗まれていく金品、宝石、だがいつも決まって予告は「心のしずくをいただく」という文言。ザンナーとリオンのねらいはまだ手に入っていないらしかった。


あるときは、ラティオスとラティアスのお伽噺話を始めとした伝承に明るい郷土学者の家、歴史民族資料館まで標的となり、ねらいはなぞをふかめていた。関わりの深いとされる古書やかつての伝承のもととなったとされる大火を今に伝える遺物も奪われている。


そして、夏のフェスティバル真っ最中の昨晩、美術館に届けられた予告は、三面記事になっているわけである。一転して方向性がかわり、人々を困惑させているようだ。


「ラティアス、ラティオスを捕まえるって、なんでわざわざ予告するんだにゃ?捕まえればいいんじゃにゃいか?」

「これは挑発だなあ」

「挑発?ちょっと、どういうことよ?」



コジロウが新聞を畳んで、つぶやく。



「ラティオスもラティアスもめずらしいから、みんな欲しがるのも無理ないし、別に捕まえるのはおかしくないよな、普通は」

「アルトマーレじゃダメなわけ?」


「ああ。ほらここに書いてあるだろ?ラティアスとラティオスは、アルトマーレのシンボルだから、条令でアルトマーレ内では捕まえちゃダメなんだよ」

「結構、重いにゃあ」

「ましてや今は夏のフェスティバル真っ最中だろ?みんな怒るのも無理ないって」

「なーんで、ラティオスとかラティアス、捕まえんのかしら。やっぱ、心しずくに関係あるから?」

「さっぱりだにゃ。でも、すっごいお宝ってことは、間違いないにゃ!」

「ってことは、それを横取りしちゃえば、珍しいポケモンも手に入るし、お宝も手に入るから一石二鳥じゃない?」

「おお!ムサシ頭いいにゃ!」

「でも、そんな昼間からいるかなあ?」

「ま、そこら辺探せばいるわよ。それよりそろそろ食べないと溶けちゃうわよ、ソフトクリーム」

「あ、本当だ」

「ま、無線機ジャックすれば見つかるにゃ。じゃあ」
「「「いっただきまー」」」



ざっぱーん



「「「………」」」



二度あることは三度ある。御愁傷様である。



「って、いたあああ!」

「ザンナーとリオンだ!」
「お、追い掛けるにゃ!」







ちょうどサトシが、初めてカレンに変身して街を散策中のラティアスを、ザンナーとリオンから助けだす、数時間前のことである。























「ロケット団なんて、すごいとこから来てるのねえ」
「やっぱりアタシの目に狂いはなかったでしょ?姉さん。心のしずくはきっとこの街のどこかにあるの。絶対に見つけだしてやるんだから。それに今回ばかりは結構てこずってたし手を組むのもありじゃない?」

「ええ?あなた本気なの?アタシはやあよ?宝石たちまで横取りされそうじゃない」

「心のしずくが宝石と勘違いしてるなら、ラッキーじゃない。アタシたちのねらいはそこじゃないんだから」

「ええっ、やだ、リオン、あなたこの街のどこかに古代兵器が隠されてるって噂、本気にして探すつもりなの?アタシはやだっていってるじゃない。盗賊はものは盗むけど、人は傷つけないものよ?」

「心配しないで、姉さん。アタシは確かめたいだけなのよ。この目で、この手で!科学者の血がうずくわ!」

「あーもー、また始まったわね、リオンの病気。いいわ、仕方ないわね。今回だけよ?でも、一線こえると思ったら、殴るわよ?引きずってでも、止めるからね」

「ええ。頼りにしてるわ。大好きよ姉さん」

「はいはい。ところで、リオン、その古代兵器とやらはラティオスかラティアス、一匹だけでいいわけ?もっと、どーんってエネルギーつかうなら、一匹はショボすぎない?」

「アタシの理論が間違ってないなら、間違いないわ。ラティオスもラティアスも、しょせんはトリガーにすぎないもの。起動が成功したら、お役ごめん。解放しましょ」

「なら、いいんだけどね」
「心のしずくとラティアスかラティオス、だけだもの。絶対に、そろえてやるんだから」

「まさか古代兵器が欲しいの?あなた」

「バカ言わないで、姉さん。アタシだって盗賊よ?戦争したいわけじゃないんだから。世界征服とか柄じゃないわ。ちゃんと盗めるものがほしいだけよ」

「で、まだなにか教えてはくれないわけね?」

「だって姉さんにいっても価値はわからないでしょ?言うだけ無駄よ。とりあえず、シークレットガーデンがみつかりそうってとこかしら」

「あら、ホントに?コウキって子に付けてた追尾カメラ、壊されちゃってダメだったじゃない」

「おとなしく隠れてればいいのに。お転婆な妹をもつ兄は大変よね」

「あらん、またお散歩してるの?無防備な子!」



リオンはモーターボートを走らせながら、ザンナーにスカウターを渡す。



「いくら姿をかえられても、ポケモンと人の体温は違うの。ヒカリを細工できれば、ほら」

「びーんご!」


ぴぴぴ、と数字とメーターがならぶ白黒の世界のさきでは、あちこちで出店をはる露店に目移りしているラティアスの姿がある。ラティアスとラティオスは、体に受ける光の角度を自由にかえられ、いわゆるステルス迷彩で姿を消したり、姿をかえたりできる。だがタネの分かり切った手品ほど、つまらないものはない。二人は顔を見合わせた。ザンナーとリオンは、エーフィとアリアドスを繰り出すと、ラティアスに声をかけた。



サトシが助けに入る、三十秒前のことである。

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