パート3

翌日、俺はシークレットガーデンを訪れた。




昔々、アルトマーレという島に、お爺さんとお婆さんがいました。二人は海岸で倒れている二人の兄妹を見つけて介抱すると、すっかり二人は元気になり仲良くなりました。あるとき怪物が島全体を飲み込んでしまいました。すると幼い兄妹は姿を変えます。なんと二人はラティオスとラティアスだったのです。二匹は仲間に心のしずくという宝石を持ってきてもらい、それのおかげで怪物をやっつけました。そして二度と怪物が出てこなくなりました。それ以来、心のしずくがあるこの島には、ラティオスとラティアス達がしばしば立ち寄るのです。


ラティアスがオレ達のまわりをちょこまかとしては、お兄ちゃんに怒られている。ちょっと落ち着いてな、あとで遊んだげるから。レリーフを追いかけながら、カレンが説明してくれる。なんて書いてあるかはわからないけど、本当の心の滴の使い方が書いてあるらしいの、と教えてくれた。ラティアス・ラティオスに持たせてバトルですね、わかります。


おじいさんがゆっくりと、こんこんと水がわき出ている噴水の奥を指でさしてくれた。そこには映画でみた、そしてオレが実際に持ってる心のしずくとは違う、純粋な宝石が安置されている。あれ?とオレは首をかしげた。青い光を内包しているオーロラみたいな不思議な波紋を描くきれいな水晶じゃなかった。


「これが、心のしずく、と伝えられているものだよ。私たちの祖先はね、その物語では化け物とされている、大災害、記録によれば大火災らしいんだが、それからこの街を守るためにとある機械を作ったんだ。街全体を要塞のように作り変えてしまうほどの規模らしい。動力はラティアス、ラティオス達から無理やり引き出した力。心の滴を発動するカギとしてね。やり方は…そう、君の『命の球』の効果を何十倍にも強くして、彼らに過度な負担をかけてしまう、とてもつらいやり方だ」

「皮肉だね、彼らは純粋に我々を助けるために、自分の力を存分に発揮できるアイテムを託してくれたというのに、より安全を確かなものにするために、彼らを犠牲にするような機械を作り、そして一度は発動してしまった」


おじさんが苦笑した。うーん、にしてはあの機械は明らかに大げさすぎやしないか?おじさんもさすがに機械が発動したところも、暴走したことも、ラティオスが心の滴になって街を救うことも知らないんだよなあ。


「一度は彼らも我々を見切って姿を消してしまったらしいんだが、ずっと後になってとある若者が一人はるか遠い地まで行き、ラティオス達に再び島に来てくれるよう、歓迎するから、と謝りに行ったそうだ。彼らの前で、機械の心臓核となる部分を破壊して、心の滴を返却してね。それ以来、ラティオス達は再び来てくれるようになったと言われている。その機械はあまりにも大きな代物でね、すべて取り除こうとすれば一度この街を更地にしなければならないほど深くまで入り込んでいる。だから、せめて人目に触れず、誰かが悪用しないように代々私たちが守っているというわけだ。もちろん、機械をだよ。この街に心のしずくは存在しないんだ。これが誠意のあかしだからね」


その若者はたぶん先祖の人より、ずっと後の時代のこの街の人なんだろうな。その間に何があったかは押して測るべしってとこかな?

水の都の守り神だと、あの機械の存在理由がいまいち分からなかったんだけど、どういうわけかこのアルトマーレではおれの知っている内容とはずいぶん歴史が違っているらしい。なるほど、だから映画よりもずっと警備が強固なのか、とオレは納得した。道理でラティオス達の幻だけでなく、憲兵さんたちの監視やセンサー、さまざまなトラップが仕掛けられているわけだ。


「なんかシンオウ地方に伝わってるおとぎ話とよく似てますね。ミオ図書館に会った気がします。剣を手にいれた若者がポケモンをたくさん殺して、食べて、余ったものは捨ててたことがあったけど、まったく出てこなくなったって。で、ずっと遠くまで若者はポケモンを探しに行ったんだけど、ようやく見つけたポケモンに「仲間を傷つけるなら容赦はしない、許せ」って言われて、「すまない」って言ってその剣をたたき折る話」

「興味深いな」


伝えられているお話なんて、寓話にすぎないしな、たいてい。道理で盗賊のお姉さま方がオレに声をかけるわけだ。オレは、思い切っておじさんとカレンに心の滴を持っていることを教えることにした。隠すことはよくないことだし、盗賊から予告状が来ているんだ、と警備が厳重な理由を教えてくれた二人に協力しないのはよくない。

オレはこころのしずくを見せた。で、入手した経路を詳しく説明した。驚いていた二人だったけど、おじさんは納得した様子でオレに笑いかける。ちょっと出て行けとか言われないか心配だったから、安心した。


「君の友人がラティオスに友好の証としてもらったものを、君が誠意をもって譲り受けたんだ、誇るべき事じゃないかい。君はトレーナーとして心の滴の本来の力の使い方をよく知っているんだ、安心したよ。これからも大切にね」

「はい」

「そっか、だからラティオスが懐いたのね、なるほど。本能的に心の滴の持ち主ってことに気づいてたんだわ」


カレンにつられて振り返ると、ラティオスがふっと一瞬だけ笑った気がした。


「教えてくれてありがとう、コウキくん。どうやら君の持っているラティオスはずいぶんと高レベルなようだし、腕が立つんだろうね。だから、心のしずくが奪われてはいけない。十分に注意するんだよ。いいね」

「でも、盗賊が捕まるまで、しかるべき機関に預かってもらった方が安全なんじゃ?」

「いや、だめなんだよ。彼らはきわめて優秀な開発者であり、技術者でもある。だから下手に不要な防衛策を選ぶと、逆手にとられかねん。第三者に預けてしまうということは、安全かもしれないけれど、それは最終的な決定権を放棄することにもなるんだよ」


もし奪われそうになったら、あとはわかるな?と含まれ、オレはうなずいた。参ったな、確かに心のしずくはオレの持ち物だけど、どうやって使うのかを最終的に決めるのはプレイヤーだ。ただでさえラグラージとピクシーが一匹ずつ増えてるからバグ疑惑があるってのに、心のしずくがなくなったらそれこそ。ぞっとした。まあとられなきゃいいだけの話ってね。


「全く、この街を災害から守るために生まれたとはいえ、ラティオス達を苦しめるような装置をいまだに欲するやつらがいるのか理解できないよ。できればすぐにでも破壊したいんだがね」


いやいやあの機械は、災害から守るためのものじゃなくて、明らかにアルトマーレを戦争下で防衛戦のために作られたような要塞都市に変容させるくらいな規模だった気がするよ。侵入者を水路や通路に自在に閉鎖したり開放したりして迷い込ませて、一気に水を押し流してしまうような感じの。だって近くの海域の海流を操って竜巻や津波起こしてたしな。どんだけオーバーテクノロジー。さすがはアーロンがいた映画世界。ポケモンの世界観ではぎりぎりだなあ。

きっと故郷を戦火で失わないよう、おじさんの先祖さんは必死だったんだろう。ただ今の世界の価値観や常識とはあまりにもかけ離れすぎているだけで、合わないんだ。若者はきっとオレ達と近い考え方の持ち主なんだろう。戦争のない平和な世界の住人の考えそうな行動だ。だから若者がアルトマーレの防衛の生命線を自ら断ちきるようなことができた。


とにかく、機械を発動されないためには、心の滴を死守することと、ラティアス・ラティオスを守ることが大事だな。最悪、これを、あんまりプレイヤーの意思に反することしたら後が怖いけど、いっそのこと。


「って、うおう!あれ?」


突然頭の上を通り過ぎて行った感覚に頭を抑えると、赤いハンチング帽がない。きょろきょろしていると、カレンとおじさんがくすくすと笑っていた。


「あ、こら、ラティアス!返せよ、おい!」



















かしゃり、とシャッターキーを鳴らせば、じじじ、と真黒な写真がカメラから出てくる。ポラロイドカメラからそうっとそれを引き出したオレは、空気に充てるべく振り回す。見れば、ホウオウのレリーフが水路の内側にあるのが見える。きらきら、と太陽の日差しが反射してちょっとばかり見えにくいけど、大丈夫だろう。とれたか?と身を乗り出してくるサトシとピカチュウに、おうよ、と差し出せば、とられてしまった。みせてみせて、どれどれ、とタケシやカスミが囲むせいでオレは蚊帳の外になってしまう。すこしいじけつつ、オレは写真を並べた。ラティオスとラティアスはあの大きな柱の上にある石造だろうし、ルギアはとったし、エンテイは秘密の庭でとらせてもらったから、あとはセレビィとミュウツーか。あーくそ、7年前もの映画の小ネタなんてもう覚えてないっての!日程的に考えて、明日から一切予定に暇はなくなるから、今日中に終わらせてしまいたい。あとはどこかねえ、とオレは地図を見比べて、首をかしげた。


「随分集まったな、コウキ。あとはなんだ?」

「セレビィとミュウツーなんだけど、さっぱりなんだよねえ。タケシ心当たりない?」

「まあくまなく回るしかないんじゃないか?そのためのルートマップなんだろうし。この街を一通り回ってみるのが速いだろうな」

「そうよねえ、考えるより行動した方がいいわよ、きっと。このルートで行くなら、えーっと、美術館が近いみたいね。行きましょう?」


ちょげぷりいいいいい、とトゲピーが笑顔で指を振る。頼むから変な技発動させないでくれ、お願いだから。無自覚で技を発動させるのが一番始末に負えない。善悪の区別もあいまいな無垢なやつに説教するほど骨折り損はないしなあ。幸い、はねる、をカスミの腕の中でして、落っこちそうになってワタワタした(鳴き声結構耳に来るんだ)くらいだからまだまし。だな、とオレは写真を回収してリュックに入れた。観光協会さんからの借りものだから壊しちゃまずい。


「なー、みんな。オレのど乾いた!どっかにジュースとか売ってないか、タケシ」


ぴいかちゅ、とそろって手を挙げる主人公。まあ美術館はたいていショップや喫茶店を兼ねてることが多いし、近くに店もあるだろうし大丈夫じゃないかなあ、とマップを見れば、この裏通りをずっと右に抜ければ大通りから美術館までの道のりに、何件かお勧めのお店が写真付きでのっていた。


「あ、あたしジェラート食べたい!」

「オレもオレも!」

「そうだな、結構歩いたし、そろそろ休憩するか?」

「あー、そうする?」


サトシたちとしゃべりながら歩いてたからほとんど気にならなかったけど、ポケギア見ればもう3時を回っていた。そういやさっき時計塔でベルが鳴ってたっけ。

いきなりサトシとピカチュウのテンションが上がって、オレいちばんとかなんとかいって駆け出し始めた。負けず嫌いのカスミもトゲピー抱いたまま走り出す。あはは、芸術より食べ物かあ、まあおれもだけどね!苦笑いするタケシと顔を見合わせたオレは、二人のあとを追うことにした。


「・・・・・ん?」

「どうかしたのか?コウキ」

「・・・・・いんや、なんでもないよ」


あのお穣様とシャワーズ、モブで出てたような気がするぞ。ちょっとにやけちまうオレ、自重しろ。なんて冗談は置いといて、なんだか変な気配を感じた気がするけど、ううむ?振り返ったものの何も見えないから、気のせいかな、とタケシに笑いかけた。


「おーい、タケシ、コウキ、何ぼんやりしてるんだよ、結構並んでるからはやく来いよ!」

「そーよ、早く早く!」


ぴかーという声も聞こえる。わかった、と応じるタケシと一緒に走り出す。もう一度振り返ると、曲がり角から差し込む光が影の落ちる裏路地に差し込んでいて、そこを通り過ぎる何かを一瞬だけ照らした。お!オレはひらひら、と手を振って、笑っておいた。一瞬だけ、立ち止まったそれは応じるように旋回する。投げキッスなんてふざけたことをしてみた。

まーた妹探してら、お疲れさんです。






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