パート2

アルトマーレ島の街は海上よりも下に広がっている。なぜ沈まないのかといえば、何度も入り組んだ水路で海流を分断させ、潮の流れを見事緩和しているのである。そのため昔から水上運輸が発達したなごりで、アルトマーレといえばゴンドラ。今でも観光向けに、選抜された漕ぎ手の人たちが仕事のプロとして働いている。景観を大切にするため、最低限の光灯しかないアルトマーレのゴンドラは、朝から夕方までしか営業していない。とはいえ、漕ぎ手の人たちは観光のいわばシンボルのようなもので、池面が多い、多すぎる。お土産屋には写真集とかあった。観光するならパンフレットより、観光のプロでもある漕ぎ手に聞くのが一番、とコウキは向かった。すこし時間をずらしたため、観光客の列はない。止まっているゴンドラを見つけて声をかければ、あっさり捕まった。

ゴンドラの航路は毎年狭まっているのだと、お兄さんはぼやいた。元ネタのヴェネチアと同じく海面上昇のせいで水路から入ってくる水の高さが上昇し、今まで通れた橋の下や水路が通れなくなったり、すぐ氾濫したりして商売にならないそうだ。



ゴンドラには種類がある。団体用、少数用。もちろん少数向けの方がお手ごろ。でも約2万円はかかってしまう。女性だったらもう少し色をつけてくれただろう。


きのいいお兄さんは、歌ってくれとせがめば照れくさそうにラテン系の歌を歌ってくれた。たしかロッシって山ちゃんボイスのひとがいたっけ、おもいっきりイタリア人の名前である。ゆらりゆらりと揺れながら、水路が進んでいく。頭の上を洗濯物の掛かったひもが通ったり、通行人たちが手を振ってくれたり、ベランダから住人たちの生活が垣間見える。あれはなんだ、これはなんだ、と片っぱしから聞きまくるコウキに、お兄さんは懇切丁寧に教えてくれる。チップをはずんだせいだろう。ロッシのナンパについてったサトシたちはおそらくただでのっている。


「ガイドさん、ルギアのレリーフってどこら辺?」

「お、よく知ってるな。確かにこの街には伝説のポケモンたちのレリーフがどこかにあるんだ。ちょっと待ちな、えーっと、そうそう、これだ。ほら」

「キャンペーン?」

「観光案内の姉ちゃんに聞いてみな。カメラに全部収めると、記念品贈呈だってさ」

「おおう、ありがと」

「でも残念ながらルギアのレリーフポイントは、明後日のレースの区域だから水路からは立ち入り禁止。地図載ってるだろ?歩いてけるから、がんばんな」


夕日が水路を染め上げていく。そろそろ帰るか、とターンし始めたお兄さんにコウキは聞いた。


「夜のアルトマーレがきれいに見えるポイントってどこら辺?」


あそこな、とわざわざ赤ペンで地図に大きく丸をしてくれたそこは、時計塔のすぐ近くにある無料開放している展望台。チップ追加でとっておき教えてやるよ、と笑うので渡してやれば、さらにその奥にある民家の屋根が階段となっている地帯のすこし行った先であった。彼女とのデートに最適、という言葉は無視である。




夕方である。
民家の明かりが、とても温かな光となって水路に反響する。幾重にも重なっているので、とても神秘的である。しかも空ぜんたいがアルトマーレを赤く染め上げている。満月だったらまた違うんだろうなあ、おしいなあ、とこぼしたコウキは、明日にでもサトシたちに教えてやろう、と思った。さすがに意味もなく夜出歩けるほど度胸はない。残念ながら、夕暮れ時の見渡すアルトマーレからは、秘密の庭は見えない。ラティオス達の力で隠されているのだろう。

基本的にコウキはポケモンをモンスターボールの外に出しては歩かない。もちろんゲームの制限下に置かれているせいでもあるのだが、誰もがポケモンに友好的であるとは考えていないのである。悲しいが何らかの事情でポケモンに拒否反応を示したり、嫌悪したりする人もいるだろう、世界は広いのだから。だからダンジョン内やふれあい広場といった認められた空間以外で、とりわけ街中ではポケモンは出さない。余計な火種は避けるのがコウキなりの考えだった。だが、人の気配はない。そしてここは、アルトマーレというラティオス達に愛されている島である。さすがにテンションが上がらないほど、野暮ではない。むしろこれがしたくてたまらなかったのである。

コウキはラティオスを召還した。プレイヤーが水の都の守り神を見に行った理由である。りくのことうチケットを入手したせいで、エメラルドのユウキさんは、すさまじいリセット地獄を味わったという。おかげでこの街では一つしかないはずの専用チートアイテム(ラティアス・オスに持たせると、とくこうとくぼう1.5倍)をコウキのラティオスが持っているというとんでも現象が起きていた。もちろん危ないので、今ラティオスが持っているのは、命の球である。


「なあ、ラティオス。ここがアルトマーレな。いろいろやってもらいたいことがあんだよ、いい?あっちじゃ光の角度でステルス効果で透明になったりするらしいけど、図鑑だけでできないじゃん?できるかやって見せてくんねえ?ここ映画の世界だし」


わくわく、としたまなざしに、臆病なラティオスは困惑したように一声鳴く。ちなみにコウキの世界はゲームの世界だが、ポケスペをはじめとした漫画、ゲーム、二次創作するネット媒体などがプレイヤーの脳内知識に応じて存在している。現実世界にポケモンがなじんだ感じと考えていただきたい。したがってラティオス達はアニメを見たことがあるし、映画のDVDを見たこともある。だから、やり方は分かる。ここは制限された世界ではない。

ラティオスはゆっくりとコウキから離れると、ゆっくりと体を傾け、くるりとまわる。ふっと姿が消えた。興奮したのはコウキである。絶賛である。すげえすげえ連呼するコウキは、どこだときょろきょろ見渡すがさっぱりわからない。臆病なラティオスは次第に見つけてもらえない不安が募ってきたのか、コウキにじゃれついてきた。突然抱きつかれてぎょっとしたコウキだったが、あ、ここかあ、たしかになんかゆがんでる、という。我慢できなくなってラティオスは元に戻った。


「夢映しは・・・ラティアス持ってないしなあ。変身できる?映画じゃ描写ないけど、伝説ではできるはずなんだよなあ。うーん、どう?」


光がラティオスを包んだ。


「おおお!すっげえ、やっぱできるんだ!・・・でもその全力な笑顔やめて、抱きつかないで、よくやったのはわかったからさ、よしよし。戻っていいよむしろ戻ってください!」


ぜえぜえ、無駄に息が上がっている。こうして、コウキは満面の笑みのドッペルゲンガーに抱きつかれる恐怖をしった。いい経験である。


「なあ、ラティオス、どこらへんにラティアスがいるかわかるか?」


やっぱり映画の主役には会いたいわけである。


(あ・・・・・・やっちまった)


いつもコウキは後で失言に気付く。
なにせダイパでは、防御面にすぐれるラティアスは、兄貴分のとラティオスを差し置いて、補助技や攻撃技の面で大きく強化されている。あの多数の型と多彩な戦術を使うゴウカザルをどんな奴であろうと安定してつぶせる、数少ないポケモンなのである。プレイヤーがエメラルドをなくしさえしなければ、おそらくコウキのフルメンバーに入っていたのは、サファイヤ産のラティオスではなかっただろう。ぶっちゃけ本人の前でこぼしたこともある。おそらくラティオスは、実際に見たことのないラティアスに対して、あまりいい印象を持っていないことを、言ってしまった後で思いだす。ああ、いつもオレはこうやってこいつらの言葉が分からないからって傷つけてんだな、と笑った。案の定、臆病な性質のラティオスは、おどおどとこちらを見上げる。ごめん、とコウキは抱きしめた。


「ラティアスは捕まえねえよ。アニメの世界のポケモンだしさ。単に映画の主役だから会えねえかなっておもっただけで。ごめんな」


なんだかんだで含みを持たせるってのはずるいんだろうなあ、と思いつつコウキはやめない。ゲームの主人公である以上、自分の意思でできることとできないことがあるのだ。

少し迷った様子でこちらを見ていたラティオスだったが、ごく控えめに、こくりとうなずいた。いや、別にサトシにくっついてけば、そのうち会えるから、と取り消そうとするコウキを無視して、ラティオスは大きく旋回する。背後に回って押してくる。え、ちょ、ま、ひもなしバンジーは勘弁してくれ、ちょ、ラティオス?!なんで押してんの?まて、まじで待て、しぬって、この高さだと水路にもぐって死ぬって!・・・・あ。


うぎゃあ、と奇妙な声がした。さすがはモデルがジェット機のラティオス。底力をいやというほど思い知ったコウキは、ラティオスがそらをとぶを覚えなくてよかったと心底思ったという。ゲーム仕様の一瞬でたどり着く目的地までのそらをとぶ中の衝撃など、まだ軽いものだと知った。もれなく、トラウマである。











ラティオスは上機嫌である。ご主人は新しいポケモンを育成することに情熱を傾けることがおおく、ふらりとバトルタワーに挑む時はたいていラティオスは手抜きクロツグ用に駆り出されることが多い。ずっとかまってくれることなど、ほとんどない。あちらの世界で、ラティオスは種族的に一人である。むろん彼の手持ちたちはたいてい仲間意識が強いが、パーティ選びとなれば、ご主人の知らぬところで実はボックス内はずっとピリピリしている。ご主人に感化されて、みな血気盛んなポケモンばかり。臆病な性格のラティオスは、あまり進み出ることはしないものの、古参のスターミー(ご主人が初めて卵から育成した対手抜きクロツグ用のポケモンらしい)が選ばれるとひどく落ち込む。

とにかく、ここまでかまってくれること自体が、彼にとっては喜びなのである。だからステルスという映画独自設定など、同じ種族が行っている以上ただのかくれんぼにすぎなかったわけである。


必死につかまっているご主人が、どこかおびえた目でラティオスを見ていることなど、生まれて初めてご主人を背にのせてとんだことに有頂天になっているラティオスは、知ろうはずもなかった。





とても珍しかったので、ラティオスは移動を止めた。すぐ下は大通りだが誰も気づかないで、夕餉の支度に忙しそうに行きかっている。

ずっと遠くで人間を乗せて飛んでいる存在がある。見慣れない。トレーナーに従っている同種族を不思議そうに、ラティオスは見つめた。無理もない、映画の主役(予定)は野生である。そして秘密の庭の管理人とその孫、憲兵たち、庭師などごく一部の人間としか立ち会ったことはない。存在を許容してくれるので、彼らの前ではラティオスは穏やかでいられる。トレーナーという存在はアルトマーレにもいるので知っているが、同種族を所持しているトレーナーと会ったことはない。野生のポケモンはトレーナーのポケモンの気持など考えたこともないし、する気もない。ただ自分たちよりもずっと人間と近くにいる、野生の自分たちとは違う存在、と認識している。やたら好奇心が強くいたずら好きでやんちゃ盛りの妹分は、もしあれに気付いたらどうするだろう。ちょっかいをかけるだろうか。

振り向けば、いなかった。また絵描きの少女の姿であたりを散策しているのだろう。ラティオスは大きく旋回して、裏路地に入る。その姿をすさまじい速度で、追いかけている存在があったなどまだ主役(予定)は知るはずもなかった。



彼らが出会ったのは、人通りの少ない広場であった。


カレンの姿をしたラティアスを見つけたラティオスが、叱責の意味を込めて一声鳴く。しょんぼりとした彼女は、ベンチに座ったまま、ラティオスの声に耳を傾けたまま、ぶらぶら、と足を揺らす。みつけた、とばかりに細い路地から飛び出してきたラティオスに、2匹はぎょっとして立ち上がり、向くと、ステルスから解放されたコウキが真っ青な顔でゆっくりとおり、へたり、と座り込んだ。何ともシュールな三すくみである。





生きててよかった!死ぬかと思った!もうだめだ、もう涙なのか汗なのかわかんねえよぐしゃぐしゃだよ、ラティオスの馬鹿野郎!ぜえぜえ肩で生きしながら、必死こいて呼吸してると、本当に地面に足が着けるって幸せだな!って気分になってくる。あー、のどカラカラだわ。カラカラ過ぎてもう声でない。とりあえず前が見えないな、ふらふら、と背中からリュックをおろして、オレはタオルを引っ張り出して顔をふいた。予想外だわ、おんなじ種族のポケモンがいるってそんなにうれしいのかあ、ラティオス。なんかごめんなそんなにうれしかったのか、軽率だったわ、うん。なんか心配そうにすり寄ってくる感覚があるから、とりあえずオレはカップを探り当てて、突き出した。


ちょんちょん、と肩を叩いてくる影がある。ちょいまって、誰か知らないけど、待って、たぶん人だよな、うん、ラティオスが水持ってきてくれると思うから。すると、そうっとカップを差し出される。オレは、顔を上げた。そして、凍る。カレン、いや状況的にラティアスだなこれ、ども。オレは礼をして、一気に飲む。あー、生き返る!心配そうに見つめてくるラティオスが2匹いた。えーっと、命の球持ってるのがうちの子だから、右横がラティアスのお兄ちゃんか。たっぷり10分ほど、オレが落ち着くまで3匹は待っててくれた。マジでいい子たちだな、オレちょっと涙出てきた。ふらふらながら、ベンチに移動した。



お兄ちゃん、なんか近くない?ラティアスは好奇心からオレを見てるのがわかるけど、お兄ちゃんに怒られたのかおとなしい。まるで初めてカレンの姿でサトシにであったラティアスのように、ぐるぐると上から下まで見ても面白いものなんかないのにじいっと見て回るラティオスに、ちょっと気圧される。品定めされてるのかな?いやでも問答無用で攻撃するような野生の本能を持ってるんなら、こんなに近づくっておかしいよな?ラティオスを追いかけるように見ていると、なんか怖がって距離を取っていたうちの子が控えめに鳴く。なんだと振り返るラティオスに、びくっと震えるうちの子。そしてエンドレス。・・・・・・オレの育て方が悪いのかなあ、バトルになると積極的に戦ってくれるのになんでここまで及び腰なんだろう。・・・・・・・・・・・・ああ、なるほど、遊んでほしいのにオレばっかり見てるから嫉妬したんだな、お前。嫌われるのが怖いのかな?

なら、とオレは声をかける。



「オレねえ、フタバタウンのコウキ。で、こっちがうちのラティオス。名前はつけてないんだ。こいつ、りくのことうっていう、すっごく遠い島の生まれでな、まあ捕まえたのはユウキっていう別のトレーナーで、オレがもらったんだ。野生のラティオスもラティアスもみたことないんだ。まあおなじトレーナーのポケモンとしてはあったことあるけど、バトルでしか戦えないからなあ。この島にはラティオスとかラティアスがくるって聞いて、なんか遊び相手いないか探してたんだ」


まあ嘘も方便という奴だ。仲良くしてやってくれる?というと、ラティアスがにっこりと笑った。ラティオスは、オレのよこで自信なさげにしているうちの子をみてる。んー。まあ確かに突然現れて遊びもなにもないよな、あやしすぎる。ラティアスは人の姿にはなれるが、しゃべれない。

するとラティオスが動いたので、びくっとうちの子が後ずさった。オレは引きとめた。大丈夫だって、おびえないの。お前一応50レベルなんだから自信もて。ラティアスがぱちぱちとまたたく。するとラティオスがうちの子のところにいって、一言鳴いた。ビビりすぎだって、おい。なんか呼応するように鳴く。珍しくバトル以外でここまで声を上げるのは珍しい。すると、ラティオスが何度か威圧ある声で鳴く。え、なんか喧嘩モード?

すると次第にラティオスがうちの子を追っかけはじめ、やーん、とにげていく、追っかけていく。何この逆転現象。ぐるぐるオレの周りを旋回すんのやめて、なんか怖い。そういうと、二匹はステルスに切り替えて景色に溶けてしまった。おいおい、何ヒートアップしてんだ、お前ら!ぽかーん、としていると、ラティアスが立ち上がってオレの手をつかむと指差した。え、追っかけんのか?てかどこに行くんだよ、おい。


もしかして、秘密の庭か?・・・・・もうすぐ夜だけど。
太陽が地平から降りようとしていた。


面白い!ラティアスは、ようやく探していたものが見つかってご満悦だった。コウキという人間とラティオスと出会った。兄は警戒心の塊だ。たっぷり時間をかけないと人にもポケモンにも近寄りすらしない。だがコウキは違った。たぶん気に入ったのだ、コウキのことを。しかも自分を放っておいて追いかけっこまで!ずるい!追いかけたいが、ラティオスにとってコウキは大切な存在、と認識したラティアスは人のまま追いかけることにしたのである。実際は、ラティオスはコウキに近づく兄にささやかな警戒と嫉妬を向け、なんとなく応戦しなければならないと感じた兄は本能のままに追いかけはじめたのだが、彼女は分ろうはずもない。


















壁の向こうは、真っ暗庭園でした。


「ラティオスーっ!!どこいったーっ、そろそろポケモンセンターに帰るぞー!いつまでもお兄ちゃんとおっかけっこしてないでかえってこーい」


しーん。声一つしない。どこまでいったんだろう。

映画でサトシが秘密の庭を訪れた時は、確か昼間だよな。藤のツタの入り組んだトンネルを抜けて、ひたすら左右対称に整えられた木々の道をぬけていけば、日の光にあたってきれいな花壇、庭園、それこそ考えられないくらい広い庭という空間が広がっていたはず。ラティアスに連れられてやってきたものの、もうとっぷりと日が暮れて、もう三歩先は真っ暗。正直怖い。どこにいんのかよくわかんない。オレは少々不安になって、ラティアスを見た。なーにとばかりにこてんと首をかしげる。うう、かわいい。でもカレンは強気で勝気な女の子なんだよな、確か。ツンデレさん。ラティオスがいうこと聞いてたあたり、トレーナーとして指示を聞けるだけの実力をラティオスは認めてたってことで、うーんと。
まあいいや。


「なあ、ラティアス、オレここにいるから、ラティアオス達呼んできてくんないか?」


こくり、と笑顔でうなずいたラティアスが、幻影をといてふわりと闇に消えていく。なるべく早くな!といえば、かわいい鳴き声が遠くから聞こえた。



1時間経っても帰ってこないんだけど、どうしよう。



ひたすら待ってたオレは、庭園を見廻りしているらしい憲兵さんたちを見つけて、駆け寄った。


「オレ、シンオウ地方から来たコウキっていうんですけど、オレのラティオス見ませんでしたか?実は3時間ほど前に、兄弟らしいラティオスとラティアスと広場で出会って、遊んでもらってたんです。そしたらラティオスがうちの子と追いかけっこしたままいなくなっちゃいまして。それで、ラティアスにここに連れてきてもらったんですけど、真っ暗でよくわからないから二匹を呼んできてくれってお願いしたはいいんですがそのまま帰ってこないんですよ、探そうにもこんなに真っ暗だとあれだし・・・・・どうしましょう」


連絡は案内役のおじさんとカレンに伝わって、庭師のおじいさんにも手伝ってもらって、総出でラティ三匹の捜索が始まった・・・なんかすっげえ大事になっちゃったなあ。必死で探しまわること30分、なんとうちの子遊び疲れてラティ兄妹と木の上で寝てやがった!たぶん呼びにきたラティアスも追っかけっこに加わっちゃったんだろう。オレはこっぴどく叱ってしばらくモンスターボールから出さない刑に処したら、ラティ兄妹もおじさんとカレンにすさまじい剣幕で怒られていた。お兄ちゃんもしょぼんってなるとなんかかわいかった。ちくしょう、死なせたくないなあ。


もう8時を回ってたので、おじさんの家で御馳走になった。パエリアおいしかったなあ。


「ラティオス達が迷惑をかけてしまったようで、すまないね。ラティオスがここまで短時間で人やポケモンを認めることはとても珍しいんだ。たぶん、コウキくん、そしてコウキくんのラティオスを気に入ったんじゃないかな?ラティアスも随分と興味を持っているようだし、また来てくれるかい?」

「あー、はい。明日友達と昼ご飯一緒に食べる予定だから、その前にでも」

「あ、でもここの庭園はとっても大事なところだから、悪いけど、その、また一人で来てくれない?そして、誰にも話さないでね」

「うん?」

「詳しいことはまた明日にでも話すことを約束しよう。だからどうか、内密に頼むよ」

「(まあ知ってるんだけどな)わかりました」









「ねえ、そこのボウヤ」


神田うのヴォイスにぎょっとして振り向けば、ボートに二人組の女がいる。やあだ、そんなに怖い顔しないで、と妖麗に金髪の女は笑う。ひきつりもするっての!操縦を担っている銀髪の女が、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?という。そうそう、お姉さんたちちょーっとばかりお話がしたいの。いやな予感しかしないっての、間接的にでもラティオス殺したくせに!朝から変装もせずに堂々と水路にボートをゆっくりとオレのペースに合わせながら近づいてくるので、仕方なくオレは応じることにした。エーフィとアリアドスならうちのフルメンバーで十分対処できるだろうしな。

なんでオレに近づいてきたんだろう。もしかしてどっかでそのオーバーテクノロジーすぎる機械で監視されてた?いつ?どうかんがえても昨日だよな、あはははは。笑えない!


「なんでしょーか、お姉さん方」

「うふふ、素直な子は大好きよ。大丈夫、ちょっとだけだから。別にバトルしたいわけじゃないの、身構えないで?質問に答えてくれるかしら?」

「質問によるかなあ」

「昨日あなたがラティオスと一緒にいるところをみたんだけど、きれいな玉持ってなかった?」

「もしかして、心のしずくじゃない?」

「なんで勘違いしたかは知りませんけど、ありゃ『命の球』っつーただのアイテム。売価はたったの100円。ポケモンに持たせるとすべての技の威力が1.5倍になる代わりに、HPが削られちゃう効果を発揮する持ち物のひとつでーす。残念ながら違うよ」


見ます?とリュックから予備を出してみると、お姉さん方は納得したように、残念そうに顔を見合わせて、肩をすくめた。小さすぎるとか宝石じゃないとか恐ろしい言葉が聞こえたけど気付かないふりをした。小さすぎるってまさか代用品にしようとしたんじゃないだろうな?宝石じゃないって当たり前だろ、オレの世界じゃ心の滴だってたった100円、モンスターボールにも及ばない。実際試してみたからこれ事実。ポケモンに持たせることで効果を発揮する持ち物の中で、高額で売れるのは学習装置だけだしな。

純粋なアイテムなんだよね。特定のポケモンを強化する専用チートアイテムは、本来1.倍に能力を上昇させる代わりに技が一つしか出せなかったり、HPをけずったり、もしくは全体を強めるけど1.1倍だったりしてバランス取ってるアイテムと比べればいかにチートかよくわかる。本当にリュックの中に入れといてよかった。


「手間取らせちゃってごめんね。じゃあまた会いましょう?ちゃお」

「ちゃおー」


オレは軽く手を振っといた。二度と会いたくないっての、またってなんだよ、またって!


「そのリュックの中の宝石は、いただくからねー、覚悟してて頂戴な」


宝石なんて高価なやつ一個も持ってないんだけど、何言ってんのこの人。思わず振り返ったら、不敵に笑って投げキッスする金髪美人が水路を右手に曲がっていった。ばれてーら。



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