プロローグ

世界が、暗転した。










「彼は、」

「いえ、それが」

「どうかしたのですか?」

「非常に申し上げにくいのですが、そのですね、彼は、この国に存在しておりません」

「・・・・・続けてください」



「言葉の通りです、お嬢様。彼の所持していたトレーナーカードのidナンバーでサーチをかけたのですが、 彼に該当する人間を確認することはできませんでした。ポケモントレーナーが一度は利用するであろう 施設やサービスにも検索をかけたのですが、データにある戦歴も該当する例は一切ありません。 一応彼の写真、血液、指紋などでどこの地域の人間か割り出そうとしたのですが、だめでした。」


「彼の所持していたアイテムも一つ一つチェックしたのですが、本来入手困難なもの、一部現代の技術では 再現不可能なものが何点か、はい、こちらです。あとですね、興味深いことに、彼の所持するポケモン達は 平均してレベル50に統一されており、ドーピング剤など高価な能力向上アイテム使用の形跡がありました。 なんてんか我々の知らない技を習得しています。しかしナナカマド博士によるとそれらはすべてシンオウの 環境で習得可能なものばかりだそうです。シンオウに生息するポケモンたちを中心に、何匹か親の異なる ポケモンもいましたが、すべて正式な交換を経たあとがボールに記録されていました。ただ、その親たちも どうやら存在していないようで。」


「たださいわいいずれのポケモンたちも、なんら健康体で改造などあの組織の 関連を疑うようなあとは見つかりませんでした。ですが、本来6体所持が原則のポケモンをたくさん所持していた 所をみると、どうやらボックスに預けられなかった事情があるようで」



「そうですか。ところで、その傷、どうなさいまして?」

「あ、ああ、はは、彼のポケモンたちは、現在彼の麻酔が切れるまでボールで回復室に待機している状態なのですが、彼を運び出そうとしたところ、彼に危機が迫っていると感じたのでしょうか、 何体かがスタッフを張り倒してしまいまして。どうなる事かと思いましたが、麻酔が効き始める前に、全面的に協力してくれている彼が指示を出してくれたおかげで事なきを得ました」

「しかし、彼の発言はすべて虚構、なのですね?」

「はい、そうなのですが、彼の証言を聞いている間、同意の上で、嘘発見器をつけたのですが一切異常な数値を 示しませんでした。身体検査もすべてパスしていますし、彼はおそらく」

「・・・・・なんてこと」



彼女は、彼のあまりにも残酷な現実を知り口元を覆った。彼はおそらく彼女の追っている組織の関係者だったのだ、という限りなく確信に近い憶測がたってしまうのである。一般のトレーナーにしては熟練した腕を持ち、ポケモンたちの絶大な信頼を獲得し、ポケモンの育成に長けた才能をもつ彼を組織が放置するはずがない。どんな境遇をたどってきたのかは想像に難くない。おそらく両親が闇に手を染めていたのだろう、残された孤児が戸籍すら持っていないケースはよくある。彼がもし組織の関係者だったならば、何らかの理由で排除されたとしたら、ポケモンもろとも抹殺されてしまう。


だが彼はそうではない。記憶を操作され、本来の情報を一切表に出さないようにされてから、放置された。彼女のスタッフが組織の放置した研究所に立ち入らなければ、おそらく彼は。保護できたことを改めて彼女は安堵する。





しかし。





記憶喪失よりも酷なことである。自分の基盤がもろとも虚構なのだとしったら、彼はどうなるか。彼女の印象では、彼は表情に乏しい。寡黙で冷静で落ち着いていて、ぞっとするほど無機質な表情をしている。だが、いざ話し出すと、教養あふれた博識。表情は軟らかくなり、雰囲気が近寄りがたい印象を払しょくしてしまう。彼の眼はポケモンに対する愛情であふれていた。ただ、人見知りが過ぎ、表現が苦手なのだと彼女にはわかる。こちらの一方的ともいえる要求を、彼のポケモンたちの保護を第一条件に提示して全面協力してしまったのだから。


「彼は我々の保護下におきましょう、お嬢様。そして、せめて、人並みの暮らしを」


涙ぐむ男に彼女はうなずく。ただし、と彼女は真剣なまなざしでつづけた。



「彼には、こちらの指示の下、動いていただきます」

「お嬢様!」

「彼は手を下されなかった。裏を返せば、組織が動き出せばすぐに引き戻されてしまうような、あやうい立場にいるのです、 お分かりでしょう?彼はこちらが情報を開示しなければ、おそらく自分から本来の自分を求めて行動を起こすでしょう。 人間自分が何であるかが証明できるものがなければ、生きているとは実感できないはずですもの。浮遊点では、いられない はずです。彼は明晰ですわ。おそらく自分がどういった状況に置かれているか、うすうす感じているのではないかしら」

「・・・・・承知いたしました」










んなわけあるかあーーーっ!


第一声が否定言葉ってどうなのよと思わなくはないけど、仕方ないよね!オレの記憶が正しければ、時の化身との対戦後、迷うことなく逃げるを選んだわけです。だってテンガンさんへの登山とか、銀河団幹部、ボスとの連戦、カニアタマ(自称ライバル)の援護や回復をはさんだって、パーティは誰一人として万全な態勢なヤツなんていなかったし、傷つき疲れしかも集中力を欠いてたしさあ。捕獲用のポケモン持ってるわけねーじゃん、さっさと下山を目指してる人間にんなことまで要求すんなよ、アカギさん(27歳独身)。マスターボールはアグノムとかクレセリアとかもっといいやつに使いたかったし、ハイパーボールは年中貧欠トレーナーに求めちゃいけねえ。この瞬間しか捕獲のチャンスがなくても、戦闘不能なポケモンを出すより、ずっといいじゃん。



で、後日ですよ。やりの柱にいったら、ご丁寧に待っててくれちゃったんだよ、時の化身。名前はおろかタイプも技もレベルも不明。うん、ものすごく絶望的。でもさ、捕獲のために訪れたから、今回は万全の態勢で臨んでいたのよ、オレ。ホントは六体しかもてないポケモンは、何が必要になるかわかんねえからルール違反なんだけど、全部連れてくるという暴挙をね。思えばそれが・・・・悲劇の始まりだったんだけど、ああなんつーバカしでかしたんだ、オレ!


とにかく、オレは相棒を繰り出したのね、うん。時の化身はゆっくりと、悠然と前に乗り出してきてさ、泣き声、怖かった。メッチャ怖かった、なんだよあの甲高い声!思わずオレら後ろに下がったよ。相棒に命じようとしたその瞬間。早いのなんのって。見上げるほどの巨体は、戦闘態勢に入っちゃったんです、ぎゃーっ。耳をつんざく鳴き声が空にこだましたよ。あまりの衝撃に耳をやられちゃってさ、耳をふさいだままうめくしかなかったね、ありゃあ参った。きーんという耳鳴りとめまいがして、膝ついちゃった。なんだよあの技。立てないって。その違和感はトリックルーム発動の衝撃と似ていたよ。エレベーター降りる瞬間の浮遊感、ていうのかな。時空がゆがんじまったのかな、そんとき。。声なんてでねーって。。それほど強力な技なのかしらねーけど、苦しそうにうめいた相手は、反動で動けないらしく攻撃してこなかった。じゃあすんなよ、てめえって思ったけどさ!指示を仰ぐ相棒に、指示しようとしたんだけど、身体が付いてかなくてね、うーん、バトルタワー入り浸りすぎてなまってたな。がんがんする頭が悲鳴を上げたわけよ。相棒をモンスターボールに戻したことだけは誉めてやりたいな、よくやったオレ、えらいぞオレ。安堵しつつ、暗闇に落ちたんです。


確かに気づいたら、某お化け屋敷みたいなトコにいて、すっごくびっくりしたけどね。あいつの技のせいで上手くしゃべれなくてさ、てっきり病院に担ぎ込まれたと思ったわけよ。よく覚えてないけど、気づいたらベットの上でね。寝てると思って堂々と扉の向こう側でしゃべられても困るって、オレの地獄耳なめんなよ!って気が動転したまんま行こうとドアノブひねったはいいけど、おっさんが先に開けちゃってさ。
彼女が、ほら、とばかりにオレを見てたの。何もいえねーじゃんさー。


おっさんから、厳粛な態度をもって迎えられた時は、彼らのすさまじい勘違いにめまいを覚えたよ。どこをどうはき違えたら、そーなるの。でも、よく考えたら、オレトリップしてること確定なわけでね、会話から察するに戸籍とかもろもろないわけでね。イコール、もしトリップとか言ったら、精神病院行き、確定。いやあああっ、て妄想が頭を駆けめぐって、ますます何にも言えなくなっちゃったよ。ううう。

かならず我々があなたの味方であることをお忘れなきように、って彼女から握手を求められてさ、訂正不可能である現実に直面する羽目になったオレ、かわいそう。


オレ、シンオウ地方のフタバタウン出身のただのポケモントレーナーだよ。主人公補正でもついているのか、わりとすごいことしてきたけど、ただのトレーナーだよ。父親は物心つく前から世界的なポケモントレーナーとして世界各地を回ってるみたいで、、コーディネーターだった母の手一つで育てられた一般ピーポーよ?ナナカマド博士に、才能を見いだされて旅に出たて、各地を旅し、ギンガ団の陰謀をうちのめし、ポケモンリーグを制覇したて、チャンピオンになっただけよ、とかいっといてホント凄いね、オレの経歴。でもさ、そんだけ凄いこともないっしょ?バトルフロンティアではただのミジンコだよ?ポケモンのレベルが50で統一されているのは、バトルタワーに日々挑戦し続けていただけだから。



もしポケモン図鑑もってたら、オレがパラレルワールドの住人だって突拍子もない事実に彼らも気づいてくれたかもしれないけどね、だって確かこの時点じゃオーキド博士と、レッドとグリーンだけっしょ?持ってんの。しかもオレの全国版だし。でもねー、今のオレ何で持ってないんだろう。不幸にも不具合が発生してさー、ナナカマド博士に点検に出してたオレをものすごく殴りたい、いや、痛いからしないけど。ぶっちゃけ完成させる気微塵もないけどね、未だに300だし。とにかく、説明するチャンスを失ったオレかわいそう。


うん、この世界が漫画の世界であることをいやってほどわかってるよ。オレにイーブイをくれたカントーの元チャンピオンが自分が出てるから是非とも見てくれ、お薦めだって一方的に送りつけてくれたんだぜ、ベイビーって。彼女に保護されたことを本気で喜んだ数時間前の自分を殴りたい衝動に駆られていた。どうするよ、オレ。


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