パート1

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「バイバイ、ポリゴン2!」

室内なのに突然現れた青空に突っ込んじゃいけない。思いっきり空に放り投げてやれば、転送システムが作動して、ピコンピコン、という音とともにオレの世界から赤外線を飛び越えて別の世界に飛んでいく。

「ポリゴン2をかわいがってやってね!」

いや、ほんの30秒前に晴天から降ってきたばっかりだから、図鑑に名前が乗っかっただけだし、ちっとも懐いてないけどな!さあて、そろそろだな、さーこいこい!とオレは両手を拡げて交換されてくるポケモンを待つ。もちろん回転しながら落ちてきたモンスターボールが受け止められずにバウンドして転がって、スイッチが作動して勝手にポケモンが出てきちゃうのも仕様。おっかえりー!とオレは笑う。たとえ交換のせいでなつき度がリセットされようと親がオレであることは変わらないわけで、命令には無条件で応じてくれるから問題なし。なつき度なんてすぐ取り返せっからな、めんどいけど。

「ラグラージをかわいがってやってね!」

もちろんさ、プラチナのオレよ!となりでポリゴンZを確認している虫取り少年に言いつつ、ボールに戻して、データを表示させる。とはいえ、ここにいるのはあくまでバーチャルボーイだけどな、たぶんあっちの世界のオレは格闘家になってるはずだし。だって別ソフトである以上、リアルにいるわけじゃない。


「おっしゃきたーっ!マジでありがとな、コウキ!」

「こっちこそ、協力してくれてありがとう」

「いやいや、手間ばっか掛けさせちまったのはオレの方だしさ、悪いね!いやっほう!」


テンションも上がるってもんだ!夢にまで見た冷凍パンチ習得ですよ、みなさん!エメラルドどっか行っちゃってないんだってよ、プレイヤーめ。だからプラチナじゃ指定数のカケラと引き換えで技を教えてくれるもんだからお願いしたわけだ。でもあっちじゃ集めにくい仕様らしくて、仕方なくこっちが地下遺跡を掘りまくってかけ集めたのをわざわざ10回交換繰り返して送ったんだよ全部。で、こいつは今やっとのことでこっちに帰ってこれたってわけだ。いやはや長い育成だったなあ。ヤドンだったらレベル1で覚えてんだよ、「のろい」。でもダイヤモンドじゃヤドン出ないもんだからわざわざドーブルにヌオーで遺伝させて、雌のラグラージと結婚させてやっとこさ「のろい」継承完了なわけで。めんどくさいことこの上なかったよ、まず雌のミズゴロウが生まれなくて50回ほどあはは。一番労力かかってやんの!何度見てもにやけるわー、ぐっジョブだぜ、コウキ!え、あ、個体値?あはは・・・・・オレ廃人じゃないから勘弁ね、試しに計測してみたら20がHPしか無くて他はひどすぎる個体値だったんだ・・・・いいんだよ性別と個性しかこだわんないんだから!オレはいったん外にでる。


数十分後、また戻ってきた。


プラチナのオレが声をかけてきたんで、なにするよ?と声をかける。タイムラグのせいで、しばらく沈黙が続くのがめんどい。お、やっぱバトルすんのかー。だよなー、いつになくプレイヤーの手持ちの選び方が長考だったし、いつもなら最高で4体しかもたないってのに、フルメンバーでバランス考えて、道具も慎重になってたしな。おかげで準備がめんどくさくかったことを思い出したオレは、即答した。今のところ10戦中8勝2敗。プレイヤーなりにプライドあんだろうねえ、一度だけ年上に勝とうなんざ100年早い!的なコメントをメールで通信交換したことあったし、プラチナのオレのプレイヤーとオレのプレイヤーは性別不明だけどきょうだいなんだろうなあ。交換回数ずば抜けて高いし、平日休日お構いなしだもんな。おし、じゃあがんばりますか。オレは、モンスターボールを手にした。


「こころのしずくは反則だよ!止められないって!」

「スカーフカイオーガ使ってきたくせに、何言ってんだよ、おい」


もちろん結果は全滅。努力値ふり済みのカイオーガで構成された雨パなんてヌオーとか、ハリーセンの大爆発(すいすい)とか、早い奴で集中攻撃しか防ぎようがないっての。こころのしずくなんて安いもんだろーが!まあ負けたのは事実だから、ぶーたれながら、しばらくして笑った。じゃーな!


従業員に見送られて、オレは控室を出た。あれ?いつもならボックス警備員と化しているレックウザを引き出して、そらをとぶさせるのに、プレイヤーはポケモンセンターの外に誘導してくる。この方向は確か、ミオ行きの高速船だったっけ?あー、なるほど久しぶりに乗ってみたくなったか。港に着くととうせんぼうしている船乗りがいたから、永久無料のチケットを渡してオレは誘われるがままに船に向かった。










「・・・・・あれ?」


高速船って漁船だっけ。さあ早く乗りなよと船乗りに言われても、あまりにもグレードダウンしている外観に、あ、あはは、オレ、間違えたかも、と後ろに後ずさる。船乗りはオレのチケットを見て、何言ってるんだとばかりに笑って押し戻す。そっか、き、気のせい?オレはよいしょっと赤いラインの走る白い船に乗り込んだ。すわり心地の良くない椅子がが向かい合って配置され、その奥には運転席用の扉が出っ張っている。なんかトラックを船にしたみたいな形だな、と思いつつ、隅っこの方に腰をおろしてリュックを置く。なんかすっごい揺れそう。すっごい酔いそう。間違いなくミオにすぐつかない予感がするけど、気のせい?うーん、しばらく見ないうちに世代替えしたのかなあ、いやでも、と考えこんでいると船乗りが声をかけてきた。


「何日くらい行くんだい?」

「な、何日?ま、まあ用事がすんだら戻るかなあ、たぶん」

「用事?ああ、お友達か親戚でもいるのかい?」

「え、あ、ああっと、まあお母さんには顔見せたいなあとは思うけど」


あ、あれ?ますますオレは焦る。高速船はミオとバトルエリアのある島を行ききする船なわけだから、バトルエリアから乗り込んだオレは帰るのかい?と言われたことはあっても逆はない。おかしくね?おや、と沈黙するオレを見た船乗りは、ははーん、とばかりに笑って言った。


「そうかそうか、兄ちゃん何も知らされずに呼ばれたんだね?あっはっは、なるほど(初めて?!いやいや少なくても10回以上は乗ってっから!)じゃあ、お母さんには悪いが、宣伝させてもらおうかな(なにを!)。実はあさってに毎年恒例のサマーフェスティバルがあるんだよ。兄ちゃん、トレーナーだろ?水路レース出てみないかい?」


今頃になると兄ちゃんみたいなトレーナーが世界中からたくさん観光にくるんだよ、と船乗りは言う。水上レース?プレイ時間700時間超えてるけどそんなイベントミオにあったっけ?確かに立派な水路があるけどさ。ゆらゆら、と停泊してるとはいえ、少しだけ揺れている船に身をまかせつつ、オレは考える。ゲーム始める前に何かイベント起こすようなことしたのかなあ、プレイヤー。さすがにそこまではわからないオレは首を傾げるしかない。・・・・・あ、もしかしてそのためにプレイヤーは高速船乗り場に行ったのかな?で、この船はイベント専用?なるほど、そういうことか。オレはようやくてんぱっていたのが落ち着いてくる。あー、びっくりした。


「ここだけの話、少しずつ海面が上昇してきて、毎年台風の季節がくるたびに街全体が水没しちゃうんだ。おかげで観光客も減っちゃって。幸い今年は気候が安定してるみたいだから、大丈夫なんだけどね。ああ、他の乗客たちも来たみたいだね、じゃあそろそろいくかな」


船乗りは扉の方へ向かっていく。

オレは振り返った。そして、思わず硬直する。えええええ!あんぐり口が開いてふさがらない。え、ちょ、ま、待ってくれよまじで、おかしくないか?おい!オレを無視して船乗りはこっちだよ、と大きく手を振って叫んだ。

「アルトマーレ行き、4名様ご案内!」

なんでアニメのしかも映画に出てくる島の名前が出てくるんだ、いつの間にトリップしてんだ、なんていう驚きよりも先に。楽しみだなあ、なんて意気揚々と乗船してくるサトシ御一行様がこちらに近づいてくる現実。やばいどうしよう、いろんな意味でぶっ飛びすぎて酔いそう、とオレは海に目を向けた。現実逃避、万歳。










「オレ、フタバタウンのコウキね、よろしく」


開き直ったよ!今さらだね!船酔いしたら、船長室あたりで休ませてもらえばいいかな、と思ったけど、こんな狭い船じゃ無理。だからと言ってずっと吐きそうな顔して沈黙してるのも嫌だし、一人ぼっちでサトシ御一行の会話を盗み聞きもいつまで我慢できるか自信ない。むしろ混ざりたい。船酔いしたくない。だったらしゃべりまくればいいじゃない、というわけで友好度マックスで話しかけてみた。自己紹介は仕様です。

シンオウ地方だって言ったら、ものすごく驚かれた。


バトル大好きトレーナーが2人狭い船にいたら、どうなる?もちろん会話が白熱して、意気投合して、気が付いたらこれだよ!


アルトマーレ島では、サマーフェスティバルの期間中、観光協会の許可証をもらえば、だれでも中央広場でバトルすることができる。レフェリーはタケシ。観客はカスミとトゲピーとピカチュウとそのほかモブのみなさん。よっしゃ、いきますか!なんかいいな、映画のオープニングっぽいぞ。めざせポケモンマスターを脳内BGMにかけつつ、オレはモンスターボールを投げた。


「ベイリーフ、君に決めた!」

「頼むぜ、ラグラージ!」


なんというピンポイント。いつもの癖で顔がひきつる。まあサトシの場合、リザ―ドン以降進化させるのはなぜか草タイプが優遇される傾向にあるから、ピカチュウかそれ以外かで考えたら確率は高いんだけどな。もちろんわざとだったりする。何考えてんのご主人とさすがにのんきなラグラージも仰天したらしい。ごめん、一対一ってさっき決めちゃったよ、交換無理と笑顔で宣告してやれば、はあ?!という感じで鳴き声が裏返る。まあオレに任せなさい。


「ラグラージ、のろい!」

「ベイリーフ、メガドレイン!」


防御力と攻撃力が上昇した分ダメージが小さくなる。そのかわり素早さが下がったから、今度はベイリーフが先手になる。急所怖いよ、急所。ちょっと不安だけど。んー・・・あと1回耐えられっか?案外ぴんぴんしてるラグラージにサトシは驚いたみたいで、じゃあ、と声を張り上げた。


「しびれごな!」

「もっかい、のろい積んじゃってくれ!」


ねむりごな覚えないのが幸いだな、本当に。ベイリーフは壁はり要因として6対6で活躍するくらい耐久はあるんだけど火力に欠ける子で、物理一致技はハッパカッターのみ。種爆弾はダイパ以降。だから主力は特殊技になるわけだけど、さいわいこいつはとくぼう、HPふりの耐久型だ、タイプ一致のエナジーボール、草結びくらいならリンドなしでも耐えられる。


「よーし、いけベイリーフ、メガドレイン!」

「うおおおう、あっぶねえ、ラグラージ、眠る攻撃!」

「あっ!」


モンスターボールゲージぎりぎりで、耐えきったラグラージが眠りに入る。そして持っていたカゴの実で体力と異常状態を回復した。よし、反撃と行くか。焦るサトシに対して、ベイリーフの目つきが変わった。あれ、なんかすっごくやる気出してないか?こ、こええええ!さすがは異常ななつき具合!


「ベイリーフ、いっけー!」


攻撃を緩めない。つみ型で怖いのは急所。急所だと効果2倍に対して、いくらつんでも無効化しちゃうからその補正は効かない。ハッパカッターじゃなくてある意味助かった、だって無振りだし。まあメガドレインは特殊だけど。あ、まずい、あの角度から喰らったら!ラグラージの鳴き声が響いた。急所かよ、頼む頼む耐えてくれ!がががっとけずれていくゲージに焦るオレは、ぎりぎり2で耐えきったラグラージを見た。すんげえ、リアル襷。


「よっしゃ、決めろ!冷凍パンチ!」


何という乱数。運げでごめんなー。コウキの勝ち、とタケシが拍手するのが聞こえた。おつかれさん、とラグラージを戻したオレは、悔しそうだけどどこか嬉しそうなサトシが向かってくるので、握手を交わした。ちっさいよな。12歳だっけ?モブさんたちもつられて拍手してる。うわ、なんか恥ずかしいな。


「くっそー、負けた!あとちょっとだったのになあ。でもいいバトルだったぜ、コウキ!水上レースはまけないからな!」

「あはは、望むところだってね。水上レースか、いいけどオレ、水タイプこいつしかいないから、ポケモンセンター行ってくるわ」

よーし、約束だからな!とサトシが笑う。いいのかー?本当ならカスミが優勝すっけど、うちのラグラージはジェットスキー並みの威力で泳ぐよ?まあ図鑑の話だけどな!どういうわけかアクアジェット覚えないし、たぶんこの世界じゃ純粋な素早さは関係ないだろう、操縦方法の技術とか、コースをいかにうまく最短で駆け抜けるかとか、ペース配分とかいろんな要素がからんでくる。


「じゃあ今夜は一緒のホテルは無理ってこと?残念ね」


歩いてきたカスミの足元で、残念そうにピカチュウがしょんぼりと耳を下げた。糸目のタケシがあはは、と笑う。


「まあ、昼ご飯でも一緒に食べたらいいんじゃないか?コウキ、予定はないんだろ?」

「なーんもないよ。じゃあどこで待ち合わせする?」


タケシがパンフレットを広げるので、オレ達は地図を囲んだ。



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