第二十三話

掴んだモンスターボールのスイッチをおし、膨らんだボールを開く。ばしゅっと光が溢れ、ピクシーが現れた。

「ニドキング、どくどくだ!」

案の定、相手を直接攻撃する手段がとられた。しかもモンスターボールをとり、ポケモンを召喚し、オレが命じるまでの秒単位を計測するような頭脳派だ。オレは笑った。なに、とマサキが眉を寄せる。オレが絶対にポケモンにはポケモンしか戦わせないことを知ってるからとった行動だろうけどさ、あいにく二番煎じにやられるほどオレ、弱いつもりはないんだよ!残念でした!この子はダブル用のこだ!

「ピクシー、このゆびとまれ!」

残念ながら、十年後の世界ではより複雑化した優先度というものがあるんだ。普通、攻撃技や補助技はポケモンの素早さに依存する。でも優先度が高い技はポケモンの素早さに関係なく先に発動が可能になる。一番は手助け。二番目がマジックコート、そして三番目がこのゆびとまれ、守る、見切り。先制技よりも早く対応できる。このゆびとまれは、自分が相手の攻撃をわざとこうむる技。ピクシーが代わりに受けてくれる。毒状態になっても、特性でピクシーは体力が減らない。にい、とオレは笑った。今度はあたらないよう、十分に距離をとる。

「ニドキング、メガトンパンチだ」

勢いよくたたきこまれたパンチに吹っ飛ばされる。だがなんとかこらえたピクシーは、 フルフルと顔をふり、羽をゆらしてかろやかに立ち上がる。

「ピクシー、投げ付けろ!」

とりゃっと投げ付けられたもちもの。豪快な直撃音がして、ニドキングに黒いてっきゅう。やりい、これで素早さはもらった!

「ピクシー、重力だ!」

「ニドキング、メガトンパンチ!」

ダウンした。ボールに戻し、いよい真打ちの登場といくか。オレはラグラージかなをきりだした

「ラグラージ、ハイドロポンプ!」

フォーカスレンズがなくても、重力のおかげで命中率は気にしなくていい。むしろこっちがつのドリルや地割れを警戒しなきゃいけない諸刃の剣。オレのこと知ってるから、おそらくオレが口にしてる新技に驚かないんだろうけどさ、新技は技マシンだけじゃなく、教え技、レベルアップ習得、卵技と多種多様。技マシン情報だけ知ってても意味はない。

タイプ一致と元祖水技最高威力、レベル補正から繰り出される水撃。しかもここは室内。大型のポケモンは逃げられない。ニドキングは悲鳴を上げて倒れた。

「なるほど、命中率があがるのか。ならば!」


げ、気付かれた?サカキは今度はダグトリオを繰り出してくる。くそ、ありじごくが発動して、ラグラージをボールに戻せない。あれは地割れでも発動するきか?やっかいな。オレは舌打ちをした。頼むから、一撃で倒してくれよ!ラグラージ!
オレのこえにラグラージがうなずく。

「ダグトリオ、じわれだ」
「よっしゃ、奇襲成功!ラグラージ、ハイドロポンプ!」


ダグトリオより早くラグラージが動く。普通ではありえない事態にサカキは目を疑う。残念ながら、ラグラージはスカーフ型の二刀流なんだ。つまり特殊技のハイドロポンプと吹雪、物理の地震、ストーンエッジを覚えさせてある。スカーフで素早さがあがってる代わりに技は一つしか出せなくなってる。なんと最速スターミーに先制がとれる変態型。ただ壊滅的に威力不足で破壊力に足りないけど、弱点草じゃないからわりとやれる。ダグトリオが紙耐久で助かったぜ。

再び襲い掛かる水圧に押し流され、ダグトリオがのびてしまう。全部のモンスターボールを回収したオレは形成を立て直す。次はなんだ?





どーん、と衝撃がきて、オレは壁に捕まった。サカキはまだいるボールを出さずオレをみる。なんだよ。すると、笑いはじめた。


「私は見てのとおり無防備だ。攻撃しないのかね?」
「オレはオレの流儀を守るだけだ。ポケモンたちに人を傷つけるよう教えるために今までトレーナーしてきたわけじゃない」

「面白い少年だ。それが自分の弱点だと知りながら、あえて甘受するとは。それは自分の命より大事なのかね?」

「そうだよ。オレだってまだ消されたくないからな」

不思議なことをいうとサカキは笑う。わかってたまるかよ。ポケモンはひとを攻撃しちゃいけない。していいのはダークポケモンやアニメ漫画の世界だけだ。ワタルみたいな例外はいるけど。もしそんなことして、慣れてみろ、二度とオレ、ゲームの世界で生きていけなくなっちまう。そっちのほうが恐怖だ。こちとら、少しでも早くゲームの世界に戻らなきゃへたしたらバグ扱いされて世界ごとリセットされるかもしれねえんだぞ?勘弁してくれよ。


どのみちオレがサカキにいう義務はないから、黙っておく。どうせわかりっこないんだ。第三者に操作される不思議な感覚も生き方も、葛藤から受け入れるまでの日々も、全部ひっくるめてオレだ。ここの世界は自由だけど、やっぱりオレの居場所はここじゃない。ラグラージとオレが一定の緊張感を保ちつつ、サカキと対峙する。サカキはオレが何も言わないことがわかると、かたをすくめた。


「君を見くびっていたようだ。そのポケモンはおそらく、草タイプのみが致命的な弱点と見受けるが、あいにく私が対抗できるのは、ガルーラのみ。だが、ここで手持ちをすべて倒されることは不本意だ。私はまだ、計画を頓挫するわけにはいかない!仕方ない。ここは潔く君の優位を認めよう。君の流儀とやらに感謝しよう。どうやら君は私を捕まえる気はないようだ」


ばれてら。あはは、とオレは笑う。やっぱり締めはレッドだしな。サカキが懐を探ると、きらりとひかる小さなものを手にこちらにあるいてくる。


「トキワジムのリーダーとして、これを渡すとしよう。挑戦者としてまたあえる日がくるまで、託されてくれないか」

「え?」

「私はまだあきらめるつもりはないが、正直この勝負を中途でおわらせるのは心残りだ。久しぶりだ。心がくすぶる。だが、私は私の目論見をそのために不意にするわけにはいかんのだ」
「わかった」


まさか本当に全部のバッジがそろうとはなあ。受けとったバッジをオレはリュックに入れる。


「さらばだ」


まあ多分二度とあうことないだろうけどな。姿を消したサカキを見届け、オレはラグラージを戻す。元気の欠けらでピクシーを回復させ、回復の薬で治癒する。さて、今度こそビル倒壊前にレッドたちを誘導しなきゃ!





オレは駆け出した。





カントー地方には、伝説の三鳥と呼ばれたポケモンがいる。


人知れず廃棄された無人の発電所で、ひっそりと生息していたサンダー。

凍てつく氷の双璧をなす孤島を守り続けていた、レッドをかばい捕獲されたフリーザー。

そして、チャンピオンロードの未開拓通路の先で挑戦者を待ち続けていたはずのファイヤー。


いずれも特性は相手に心理的圧力を与え、戦闘の場に相対するだけでも、じわじわと技ポイントを二つ減らしてしまうプレッシャー。この特性は重ね掛けされる恐ろしい効果があり、ダブルバトルにおいてプレッシャーもち二匹に並ばれると、こちらの技は一度出しただけなのに、三も削られてしまう。大技になればなるほど固有の技ポイントが減少するポケモンにとって、三匹に並ばれるのがどれだけ地獄絵図か想像するだけでもぞっとする。

階段を駆け上がりながら、オレは目的の階を目指す。

伝説の三鳥の繰り出すトライアタックもどきなゴッドバードは、てんのめぐみもちの白い悪魔のトライアタックとどっちが凶悪なんだろう?なんて考えながら。


白い悪魔ってのはトゲキッスのことね。電磁波メロメロに、特性効果で六割ひるみの恐怖で一時期猛威を振るったエアスラッシュもちの。やつのトライアタックは火傷、マヒ、氷がランダムで高確率で起こる悲劇。誰が平和の使者だよ。うーん、間違いなく伝説の三鳥のトライアタックだな。なんせ威力はファイヤー、フリーザー、サンダーのバカ高いとくこうからそれぞれのタイプ一致技をだし、それをひとつの攻撃としてるわけだから、とんでもないケタになる。実質体力はトゲキッスの三倍だ、しかも技ポイントを三ずつ削る鬼畜仕様に。おそろしや。

レッドたち、よく勝てたな。実質カメックスのハイポンとリザードンの大文字ミックス技だろうに。主人公補正って怖いね!いや、フシギバナのつるのむちで動きを封じたと考えたほうがいいのか?でも、あれは落下防止のネット代わりで………ってそうなる前に知らせんだろうが!オレはようやくたどり着いた階のドアをあけた。


とりあえずナツメの敗因は、最終決戦と意気込むレッドたち、周囲を完全包囲されたこの状況下で、トライアタックもどきなゴッドバードの検証感覚でバトルに望んだことだろう。

いっちゃ悪いが、もしゴッドバードを発動させるのではなく、ナツメが三匹同時に的確な指示を出してたとしたら、絶対にレッドたちは勝てなかっただろうことを思えばラッキーといわざるをえない。あ、でもトリプルバトルは、無理か?ダブルバトルでさえシングルよりもとれる戦略は広がったし、選択肢は二倍になったけどその分トレーナーの負担も二倍だ。トリプルバトルなら、トレーナーの負担も尋常じゃないくらい大変なはずだ。やっぱりバトル中に、確認もせずに勝利確信して背を向けた油断かな?フラグ回収お疲れさま。


事態は少しだけ変化していた。シルフカンパニーの爆発炎上は意図的に仕組まれたものであり、まだ時刻じゃない。だからレッド、グリーン、ブルーはビルに投げ出される危機には陥らず、真っ向から伝説の三鳥に挑んでいた。

「リザードン、炎の渦でやつらを捕まえろ!」

グリーンの指示で炎の渦が、伝説の三鳥をとらえる。三匹で一体化している伝説の三鳥はその大きさゆえに俊敏な動きについていけず、急に足止めされたことで発動したゴッドバードを外してしまう。吐き出された光線は、窓際の空間をなぎはらい、夜にぽっかりと三日月が浮かんでいるのが見えた。サイレンや外の喧騒が流れ込んできて、レッドたちは改めて大事に首を突っ込んでいると自覚したらしく顔を引き締める。

「カメちゃん、ハイドロポンプ!」

激しい水撃が三鳥の間を分断する。とりわけ中心にいるファイヤーは大ダメージを受けたらしい。悲鳴が上がる。レッドは、エネルギーを貯えはじめたフッシーをはらはらと見守る。ドアの隙間から観戦してたオレは、こっそりポケモンを繰り出す。


「うし、こっそり加勢だ、頼むぜフワライド。日本晴れ」


レッドにまだかまだかとグリーンとブルーは振り返っては、ゴッドバードの体制に入った伝説の三鳥に警戒してる。大丈夫、夜だってもううち放題だ!


「今度こそ、やっておしまいなさい!ファイヤー、サンダー、フリーザー!ゴッドバード! 」

「よっしゃ、いくぞ二人とも!」


「ええ!カメちゃん、最大威力でハイドロポンプ!」

「リザードン、大文字!」

「いっけえ、フッシー!ソーラービーム!」


「「「トライアタック!」」」


どおおおおおんと豪快な音。部屋吹っ飛ぶじゃねーか!自分達の安全考えろよ!きーんとした耳をそのままにオレは思わず部屋に駆け込む。


「みんな!大丈夫か?」


瓦礫が散乱する部屋はすごいことになっていた。伝説の三鳥を捕まえていたボールは壊れ、さっきの穴から三羽は飛び去っていく。ナツメはオレをみるや、応援がきたと勘違いしたのかフーディンとともに姿を消してしまう。レッドたちが倒れているのをみたオレは、駆け寄った。


「あら、コウキじゃない。随分遅いお出ましじゃない。おかげでボロボロなんだから!」

「おじいちゃんから話は聞いた。今までなにしてたんだ」

「コウキ、いたのかよ!遅いぞ!」


なにこのフルぼっこ。


「夜なのに、すぐにソーラービーム打てるわけないだろ!誰のおかげだと!」

「………あ」

「そうそう、エリカお嬢からみんなに伝言。まさかみなさんがここまでご活躍なされるとは思いませんでした。ロケット団対抗組織の一員として、多大なる感謝を。後日、ハナダシティの我が家にてパーティーを行いますので、ぜひいらしてください。お待ちしてます。生きてたら、またお会いしましょう」

「生きてたら、ってひどいわねえ」

「あはは」

「………コウキ、どういう意味だ?まさかそれだけのためにきたんじゃないだろう?」

「おう。今すぐこのビルから脱出してくれ、みんな。お嬢、ロケット団を一網打尽にするために内部からいぶりだすきだ。ちなみにあと30分」

「ちっ、なにかんがえてやがる!あの女!」

「ま、まってよ!プリンちゃんじゃ、安全地帯まで逃げられないわ!」

「え?どういうこと?」

「火災を発生させる気なんだよ。いっそのこと爆破する気だ」

「えええええ」

「ほら、ブルー。ケーシイをメタモンで変身させて逃げな。最後によったポケモンセンターはタマムシシティだ。レッド、グリーンは大丈夫だよな。んじゃ!」


オレはわざとラグラージにフワライドを攻撃させ、たすきを発動させると、回復した。これで軽業発動。


「フワライド、そらをとぶだ!」

「ま、まてよコウキ!」

「早く逃げろよ!死ぬぞ」


フワライドに飛び乗ったオレは、ケーシイを回収してビルから避難する。もちろん行き先はタマムシシティ。後ろでレッドの悲鳴が聞こえた。グリーンとレッドに何でもっと早くいいにこなかったのか、と追っ掛けられたのは別の話。

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