第二十二話

広げた見取り図で位置を確認して、ルートを眼で追う。よし、いくか。行ってくる、と立ち上がった俺に、気をつけてな、とカラテ大王のおっちゃん。心配そうな顔をした物まね娘。今までお世話になったおっちゃんの門下生たち。大丈夫だって、と笑って踵を返す。



とりあえず、オーキド博士の無事を確保した以上、優先すべきはグリーンとの接触だ。えーっと、確かキョウとの対戦は、シルバーカンパニーの入り口付近だっけ?とりあえず最低一人には、このビルが爆破まで段階入ったこと知らせないと駄目だ。まったくなんで直前まで教えてくれないかな、あの人は!ため息しか出てこない。頭に叩き込んだ順を口にしながら右に曲がり、ずっと走る。下っ端たちとの連戦もなかなかきついもんがあったけど、一番厄介なのは、やたらと俺を狙ってくる理不尽な戦闘。そりゃトレーナーを封じちまえば、自分から攻撃するなんて自由を与えられてない普通のポケモンは、主体性を喪失してしまう。それだけでも十分あり、っていう理論なんだろう。ならポケモン使うなよ。重火器で直接戦えばいいじゃねーか、と思う俺はたぶん根っからのゲーム思考。仕方ないだろ、いつだって俺の故郷はあの世界だけなんだから。そしてT字路にさしかかり、左に曲がる。



「おっと、すまないね」



どん、とぶつかってしまい、俺はすいません、とあわてて飛び退く。そして、言葉を失った。









ロケット団のボスが悠長になんでこんなところで油売ってんだよ。サカキ、と心の中で呟いて、俺はつばをのむ。









黒スーツに身を包んだ男が、どうしたのかね、と不敵な笑みを浮かべて笑う。Rと刻まれたベストがのぞく、両手をポケットにいれたままの、男。ここからでもいやにプレッシャーを感じる。いや、なんでも、と俺は言葉を濁して、距離をとる。急がねえと、と思い返し、気付かないふりをして通路をすり抜けようとした。



「まあ、そう急がずに。少し話でもしようじゃないか」



がっと腕を掴まれて、あまりの痛みにうめいた。振りほどこうと振り返ると、男はぎぎぎ、と悲鳴をあげるオレの腕を不自然な方向に曲げようとする。折れる折れる折れる!声にならない悲鳴をあげて、涙目になった俺は、こく、とうなずいた。素直でよろしい、といわれ、舌打ちする。ポケモンで背後から攻撃されないだけまだましだな。ってことは、本当にこいつは俺に何か用があるらしい。いつ攻撃されるか分からない警戒心をとかず、解放された腕をさすりながら、そうっと周囲を確認する。ここら一体に仕掛けてあった監視カメラやトラップはすべて排除、破壊済みだから、警戒すべきはこの男だけだ。睨みつけながら、俺は壁を背にする。



「何の用だよ、おっさん。俺はようなんてないけど」


「私はあるんだ。なに、質問に答えてくれるだけでいい。そうすれば乱暴にはしないさ」


「信用できるかよ。じゃあ、持ってるポケモン全部そこにおいてくれ。そしたら信用してやるよ。オレも置くから」


「なるほど、さすがは対抗組織に所属するだけはある、か。いいだろう。では、一つずつ、置くとしようじゃないか」


「おう」



ひとつ、ふたつ、とサカキが数えるたび、オレもモンスターボールを足元に置いていく。むっつを超えた時、一応上着も脱いで、お互いに隠し持ってないか確認してから、服装を整える。



「なんのようだよ」


「まず、確認をしたい。君はフタバタウンのコウキ、というらしいな。ハナダシティの門下生、まだ新人の部類にはいるが、私たちの活動を監査、陽動、混乱、時には阻止する任務を負っている。君のおかげでミュウツー計画はとん挫し、トキワの森に至るまでの経路まで変更せざるを得なくなってしまった。全く、大きな痛手だ。これが、一応に明らかにされている、君の情報だ。違うかね?」


「そうだよ」


「だが、この世界には本来、コウキという名前の少年は存在していない。もちろん、この1年のうちにすっかり強力なバックアップを受けて、公式な記録まで改ざんされているからな。調べ上げるのには苦労した。違うかね?」


「そのとおり」


「君は、そう、かつて私たちが全精力を注いで作り上げた、ミュウツーを研究していたあの場所、ミュウのサンプルをてにいれた、すべての始まりの場所。もう跡形もなく吹き飛ばされてしまったがね、あそこに意識不明の状態で倒れていた。10年先のありえるかも知れない未来から来た、と証言した。だからこれから起こることを知っているのだと、その知識をもとに活動してきた。違うかね?」


「研究所がそんな場所だったとは初耳だけど、全くもって、その通りだよ。さすがだな」


「ふふ、ロケット団の情報網をなめないでもらいたい。少々骨が折れたが、これくらい造作もない」


「で、俺に聞きたいことって、なんだよ」


「君はどうやってこの過去の世界に来たのかね?」


「そこまで知ってんなら、わかるだろ?シンオウ地方に伝わる伝説上のポケモン、時空を操るとされる、神と呼ばれたポケモン。そいつの捕獲に失敗したから、今ここにいるんだよ。時の咆哮で時空がゆがんで、俺はその歪に落ちたんだ」


「おかしいとは、思わないのかね?」


「はあ?」


「たしかに君の証言は真実だろう。かつて世界を作り上げたポケモンの一体とされる神と戦い、そして敗れた末にこちらまで飛ばされた、と君は言ったがな。君は一度だけ奇妙なことを言っただろう。こちらの世界の人間が書物になっていて、それで知ったと。君の世界にも、こちらの世界と同じ時間軸に存在するパラレルワールドの人間がいると。つまり、純粋な過去にきたわけではない、と君はすでに気づいているわけだ」


「まあ、そりゃあ」



ポケスペの世界だもんなあ。ゲームの世界と漫画の世界じゃ媒体や次元が違いすぎるだろ。



「本来、パラレルワールド、並行世界は、一切お互いに接触することはできないとされている。だが、君はここにいる。それはたしかに神の力の暴走かもしれないが、はたしてそれだけで越えられるものなのかね?私はあり得ないと思う」


「どういう意味だよ」


「君は、本当に人間なのかね?」


「はああ?何言ってんだよ、別に変な能力なんて持ってねえじゃねえか」


「では、質問を変えるが、君はなぜあの研究所に現れた?」


「知るかよ。飛ばした奴に聞いてくれ」


「いくら時空の歪に落ちたといえど、本来ならばどこの並行世界にもつまはじきにされて、永遠にさまよい続けるのが常だ。言っただろう?並行世界は本来一切干渉できないものだと。つまり、君はそれを可能にしている。いくら並行世界が横たわるひずみに巻き込まれたといえど、しっかりとこの世界に干渉し、存在し、あまつさえしっかりと自分をかつての世界にいたままの自我で継続し続けるなどあり得んのだ。つまり、この世界に君を固定化させる力と、君を時空の果てに飛ばした力は、別物だ、といいたのだ」


「はあ」


「君はミュウに好かれているそうだが、それは同族だからではないかね?」


「はああああ?わけわかんないこと言わないでくれよ、頭パンクすんじゃねーか。つまりあれか、アンタは、俺が、伝説のポケモンとでもいいたいのかよ。冗談も休み休み言ってくれ」


「冗談ではないから、言っているのだ。その力を特定しない限り、君はおそらく世界には帰れんぞ」


「……で、何が目的だよ」


「悪いようにはしない。どうだ?私とともに来ないか?」


「やだよ。だーれがいくか。お嬢に怒られちまうじゃねーか」


「そうか、残念だ。なかなかにいい取引だとは思ったのだがね。強情な子供は嫌いだよ」


交渉は決裂。俺達は、同時にモンスターボールを手にとった。


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