第二十一話



「なあ、お嬢。ホントによかったのかよ?」

「なあ、お嬢。ホントによかったのかよ?」

「ええ。いつロケット団に諜報されているか分かりませんもの。組する気はない、と断られた以上、情報を提供する義理立ては必要ないでしょう?何より無理強いするわけにはいきませんもの」

「さよですか」

「さよですか」



はあ、とため息をつくと、傍らでもう一人のオレ、こと物まね娘ががっくりと肩を落とす。オレのものまねがお気に召したのか、さっきからずっと物まね娘はオレのしぐさをまるで輪唱のごとく追いかけている。まるで鏡合わせをしてるみたいで不気味だけど、やめてくれといったところで迷惑そうな顔で願い出るオレまでまねされるとシュールさが際立つから結局断念した。なにより「ものまねするのが楽しいかって?うん、たのしい」といきなり自分とまったく同じ格好、表情、しぐさ、まるでドッペルゲンガーのような存在に、素に戻られて女ことばで女の子のような柔らかい笑い方をされた方が破壊力があった。16年間向き合ってきたその顔でいきなりそんな表情されると、正直同族嫌悪の域を軽く超越する。あの悪寒は尋常じゃなかった。物まね娘の膝の上で、けけけけけ、と笑うジュベッタと同じ反応をお嬢がするもんだから、なおさらぐさりと来る。あれ、もしかして、オレ、いじめられてる?



ちなみにオレのいう「よかったのか」というのは、昨日とんだとばっちりで巻き込まれてしまったグリーンをあっさりお嬢が礼をいって、特に引きとめもせずに返してしまったことだ。要求してきた報酬をきっちりと支払う分、準備は万端だったんだなあ、と改めて苦笑いしか浮かばなかったわけだけど、てっきりオレはこれから待っているであろう最終決戦陣営に巻き込むとばかり思っていた。でもお嬢はレッドと同じようにあっさりと解放したようだ。ただし、手を組まないか、というお嬢の提案にやっぱり一蹴したグリーンに、セキチクシティの事態とかオーキド博士の件を一切明かさなかったらしいあたり、一筋縄ではいかない。めちゃくちゃ根に持ってんじゃんか、お嬢!その場にいたら、忠告できただろうに、残念ながらオレはそのとき別部隊の兄ちゃん達になぜ計画通りにいかず、グリーンみたいな部外者が混じってややこしい事態になったのか説明責任をお嬢に丸投げされて、後処理に四苦八苦してたからいなかった。グリーン既に街を出たことを知ったのは、たった今。なんという理不尽。










それはさておき。今、まさにオレ達は、ヤマブキシティに向かっている道中だ。オレの記憶が正しければ、グリーンとレッド、ブルーがセキチクシティのバリアを強制突破して、シルフカンパニーを占拠してるロケット団と最終決戦を迎える。エリカお嬢たちは四方の関所を完全封鎖することで、逃げ出したロケット団たちを一網打尽にするという裏方に徹したはずだ。今さらだけど、何もしてないじゃん、と思っててゴメンナサイ、と昔のオレに謝罪させたい。



セキチクシティでずっと攻防が続いていたのだ。ポケモントレーナーたちは、フレンドリィショップ、ポケモンセンター、格闘道場に分散してロケット団に閉じ込められている。ついでに住人達は一歩も自宅から出られない状態が続いている。もうここら辺からポケスペと展開違うな。確か、住人達は地下に押し込められてたはずなのに、どうやら研究員、従業員たちだけに減ってるようだ。でもどのみちどうやらライフラインまで手中におさめられているから、うかつに手を出せない。彼らの疲労や不安をなんとかつなぐべく、ロケット団と交渉して、医療班を送ったり、食糧水を提供したり、物資を送ったり、ロケット団が横流ししないか監視したり、ぎりぎりのラインで彼らを守っていた。そう考えると、なんでこんなにばかでかい対抗組織なのに、あっさり鎮圧できなかったのか、わかる気がする。レッドたちがいいきっかけを作ってくれたんだろう。



でも、ポケスペじゃ、たしかシルフカンパニーそのものがもともとロケット団の配下だったはずだけど、どういうわけかゲーム寄りな展開になっている。もともとレッドさんから聞いた話では、シルフカンパニーはどうもきな臭く、ロケット団との癒着の疑いがあったので、まっとうな企業だったかは疑問符らしいけど、はなからロケット団の配下じゃなかった、ということになってる。だから従業員や研究員(裏切り者はいるらしいけどな、アフリカに飛ばされた奴とか)たちは人質にとられてるってわけだ。ものまね娘みたいに家族を拉致されて身動きとれずに研究を強いられてる人達を早く開放するのが、今のところ最優先事項だ。無事に拉致されてた人たちは無事に保護できたから、今こうやって最終段階にいってるわけだ。うーむ、レッドたち待ちかな?



物まね娘も加わったのは、早く父親を助けたいらしい。母親を泣かせてたのを電話口で聞いてたオレは、反対なんだけどなあ、おっちゃんがサポートするんなら、大丈夫かな?



ようやく見えてきたセキチクシティをみて、オレは、あ、と声を上げた。お嬢たちが振り返る。あーっ忘れてた!3幹部との戦闘中にシルフカンパニー、倒壊してなかったっけ?ロケット団の下っ端、巻き添え食らってなかったっけ?やばいやばいやばい、悠長にロケット団を包囲するために待ち伏せ作戦だけじゃ駄目じゃねーか!どうかしました?と聞かれて、オレはふりむく。あ、いや、そのと口をつぐむけど、お嬢がお話になって、と詰め寄ってくる。じりじり車の隅に追いやられる。物まね娘が心配そうに見てる。運転手の兄ちゃんが、どすの利いた声で促してくる。たっぷり10分の沈黙ののち、オレは、とうとうしゃべってしまった。



「レッドたちがバリア壊すのまってたら、遅いって思いだしたんだ」

「あら、やはりレッドたちも潜入しますの?予測していたとはいえ、バリアを壊して?ずいぶんと穏やかじゃないこと」

「あ、あはは」

「何が遅いのです?」

「えーっと、実は、レッドたちが幹部たちと戦ってる時に、ビルが炎上してさ、そのままばーんって」

「あらまあ。いつごろか、ご存知ですか?」

「夜、っつーのは確かだけど」

「夜?あら、なら心配ご無用ですよ、コウキさん。まさかレッドたちがそこまで活躍なさるとは思ってませんでしたけども。あら、どうかなさったの?」

「いや、な、なんでも。つか、なんで心配ご無用?」



物まね娘は、オレが父親の危機を予見するような不謹慎な発言をしたのに、何も言わずににっこり笑う。だからオレの顔でそんな笑い方しないでくれ、胃に来るから!思わず目をそらすと、くすりとお嬢が笑う。


「いくら四方を完全包囲したところで、ロケット団たちが避難するような状況下に置かれなければ、意味がないでしょう?」

「お、お嬢、まさか」

「ふふ、安心しましたわ。少なくても」



お嬢は、到着して停止した車から降りると、オレに向かって笑った。



「あなたの知る未来においては、計画は無事成功したようですもの」

「え?」

「夜には、すべてが終わっていた、ということです。でも、参りましたわね。さすがにレッドたちの行動までは読み違えていたようですわ。どうやって避難誘導したものかしら?」

「えええええっ」



レッド、って炎上するビルを眺めてたのは、そういう意味かよ!やりやがった、このひと、やりやがったあああ!あんぐり口をあけたオレに、ドンマイ、とばかりに物まね娘が肩を叩いてくる。あはは、自分に慰められるってシュールにもほどがあるな、おい。はあ、と息をはいたオレに、そうですわ、と何かを思い出したかのごとく、エリカが言う。もう嫌な予感しかしねえのは、きっと気のせいじゃない。ひきつるオレに、エリカが最終宣告をたたきつけた。



「地下の方々を救出するめどがついたら、直ちにレッドたちのところに向かって、シルフカンパニーから脱出するよう勧告なさってくださる?」

「はあああ?!いやいや、館内放送すりゃなんとかなるだろ!」

「ロケット団が占拠した時点で、すべての外部干渉ができる通信機器は壊滅されてることが確認済みですの。それとも、コウキさん。あなたまさか、自分のいない未来で無事なのをいいことに、見殺しになさるおつもりで?」

「だーかーら、そういう意味じゃなくて!」

「あ、わざわざ言わなくてもよかったですわね。コウキさんならきっと単独でうまく立ち回るでしょうし」

「今まで勝手な行動してごめんなさい!」

「いえいえ、あなたがご無事ならいいんです。お好きになさって」



なんというスーパー自業自得タイム。まじか、マジですか、お嬢。オレにサンダー、ファイヤー、フリーザーをあやつってるナツメとレッド、ブルー、グリーンたちの最も盛り上がるところに突っ込めってか。KYにもほどがあんだろうが!しかもへたすりゃ最上階から落下する危険をはらんでるじゃねーか!死ねと?オレに死ねと?そらをとぶ覚えてるやつなんて連れてきてねーよ!青ざめるオレに、お嬢は準備万端にしておけ、とばかりにパソコンを差し出す。オレのボックスにつながってる。だーかーら、準備万端すぎるんだよ、お嬢!もうやだ、このひと。うなだれたオレに、物まね娘が肩に手を置いた。










空を見上げると、うっすら、とバリアが張ってあるのがわかる。あ、あの赤いのグリーンのリザ―ドンかな?手を振ろうとしたら、おっさんにたたかれた。いて。


旧格闘ジム、もとい現かくとう道場の裏手から侵入した精鋭たちが分散して、セキチクシティ全体にそれぞれ監禁されている人達を救出にむかう。オレと物まね娘は、おっさん(からて大王)の指揮の下、先陣を切ってロケット団の本拠地にある地下二階を目指して潜入する班にあてられた。ロケット団を潰したいのはやまやまだけど、それはレッドたちの役目だしな、人命優先。






地下一階にて、オーキド博士を発見したとき、いつのまに双子になったんだと言われたのはまた別の話。


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