第十九話

「ポイント、到達。ただ今見張りの男2名確認。どうする?」

「その方向に進むとセンサー反応あり、見張りの赤外線反応5つ確認。一人では危険だ、待機せよ」

「了解」




ぶつり、と切れた無線マイクをポケットにしまい、俺は排気口の網目状からロケット団の下っ端を覗き見る。あーくそ、シーフードヌードルくいてええ!いいにおいがしてくる。ごくり、とオレは喉を鳴らした。



ただいまタマムシシティのゲームセンター地下にある、ロケット団基地に潜入中。暗いし狭いし冷たいコンクリート張りだし圧迫感がある。あー埃っぽい上にずっとほふく前進は特注の服をまとっているとはいえ、けっこう辛いもんがある。え?どこにいるかって?聞いてくれよ、実はさ、オレ、現在進行形でスパイキッズな移動手段っとってんだ。うん、そう、子供のサイズしか入れないからって、お隣の地下室から許可とってわざわざ通気口や配管工の通っているパイプラインの部屋に穴ぶちあけやがったんだよ、お嬢たち。それでおっさんたちのお願いで今こうやって内部のロケット団の位置関係を調査してる所。勝手な行動しないように、逐一で設けられたポイントで連絡し合うことが義務図けられてんだけどな、メンドくせえなくそう。クモの巣を払いのけ、オレは待った。



普通レッドやブルーみたいに下っ端に変装してのりこめばいいんじゃね?と意見してみたんだが、どうやらオレが発電所に行ってる間に二人はきちんと潜入イベントを済ませたらしい。そりゃ警備も強化されるか。道理でこんなところにまでポケモンが来るわけだよ。残念ながら先に眠り粉を散布しといて換気すりゃいてもいなくても同じだけどな。あーばたばた眠ってるやつの中には、滅多にお目にかかれない珍しいポケモンもいるからゲットしたくなるんだけど、ロケット団のポケモンである以上何かしら手段はとられてるだろうからゲットは無理だろうあなあ。もしなんかいじられてたら、あっちの世界に連れて帰れないし、ああ残念。



おっさんまだー?と催促してみる。たぶん巡回しているロケット団のしたっぱ達の交代時間を待っているんだろう。けっこうもぐってからワープパネルで移動したり、右いったり左行ったり、もうどこら辺にいるのか分からなくなってきてるんだけど、距離が深さに直結するならけっこう奥まで来てるんじゃないか?アイテムが一つも落ちてないっていうのが残念感をあおるわけだけど、これはある程度シャーないかな、とは思う。今まで結構好き勝手しすぎたしな、うん。白い部屋に戻されなかっただけましだ。いくだけ行けば、あとは物まね娘さんを保護して、ケーシィのテレポートで帰還(ちなみに最後に回復したポイントはイワヤマトンネル前のポケモンセンターだから計画は完璧だ)するだけ。おっし、がんばるぞ、という意味でオレは無線を回した。



「おい、コウキ。あれだけ勝手に行動するなって言っただろう?」

「はあ?いやいやいや、おっさん、オレ一歩も動いてないよ?赤外線反応ちゃんと確認してくれよ」

「む・・・・・・あ、ああ、そうか、すまん。突然一定スピードで巡回していた3つの反応が、100m先の仮眠室で不自然な形でとまったもんだからな」

「オレはポケモンに人を襲わせないって決めてるんだ。ちげーよ」

「そうだったな、すまん。よし、とりあえず先に進んでくれ」

「了解」



誰だ?と思いつつオレは問題の、ジュベッタがいるらしいエリアに進むことにした。突然3人の人間が倒れたんなら、それは意図的にポケモンが人間を襲ったと考えられる。物まね娘ではない、オレ以外の誰かが侵入したんだろう。ここにいるのははぐれ研究員とロケット団の下っ端、幹部連中だけだ。ポケモンを持っていない人間はいないはずだ。意図的にポケモンに命令して、襲わせたんだろう。



誘拐されている物まね娘も一緒にいたジュベッタとともに行方不明になっている。物まね娘は天才的な変装技術を持つことで有名な、かわった趣味を持つ資産家のご令嬢だ、本気を出せば下っ端に紛れ込んで脱走だってできるだろう。なのにできない理由。それはジュベッタを物まね娘から引き離し、物まね娘をとどめて、余計なことを思いつかないように、そしてジュベッタが物まね娘を助けないように隔離するためだろう。殺されてはないと思う。囚われている物まね娘の父親はなんどか物まね娘と会話をしたと聞いているし、生活環境も精神状態も疲弊している以外は大丈夫そうだったらしいから、見せしめにジュベッタを殺されでもしたら物まね娘はまだ幼い女の子だ、人質としての価値が落ちてしまう。ミュウツー計画は最終段階にいっていたものの、ブルーたちのせいで完全についえてしまったはずだから、伝説の3鳥の作戦に移行していることをオレは発電所の人質と施設の奪還作戦で知っている。ジュベッタを今さら研究体にするとは考えられない。



物まね娘の保護は別の班が遂行する予定になっている。ちら、とオレは時計を見た。そろそろ第一班が動き出すころかな?オレはよっこらせ、と九の字に曲がった通路に到着する。あーちょっとだけ広くなった。下の換気扇の向こうを覗いて、耳栓をつける。




耳をつんざくような警戒サイレンと真っ赤なランプがあちこちで一斉に点滅し始めた。うるせえええ。





先を急いだ。
















がちゃり、と天井で音がして、む。と顔を上げた男は脳天に換気孔とプロペラが直撃して倒れてしまう。



「あ」

「なにものっだ、ぐおっ!」



コウキの着地地点にいた不幸な下っ端は、きゅう、と伸びてしまう。あははは、と苦笑いを浮かべたコウキは、うーん、と久々に思いきり伸びのできる空間を満喫する。ぼきぼき体を鳴らしながら、埃やクモの巣を払うとあたりを見渡した。


「いたいた、ジュベッタ!って、あり?」


ぱちぱち、と瞬く。視線の先には、人っ子ひとりいない。あれー?と首をかしげたコウキは、無線をつないだ。



「おっさん、ジュベッタいないよ!」

「なにい?ジュベッタもか?!うぬぬ、こちらの作戦に気づいたとは言い難い、もしかしたら我々以外の侵入者のせいで場所を移されたのやもしれんな」

「ってことは物まね娘もいねえの?」

「ああ、もぬけの殻だ」

「まじか」

「・・・・・・カツラが離脱したらしいが、昨日あの子の無事は親御さんがテレビ電話で確認しとるから間違いないだろう。いくら偽造しようと右下の日付まではいじれんはずだからな」

「どうする?」

「とりあえず、いったん離脱したほうがい」


ぶつん、とおもむろにコウキは回線を切る。ごめーん、とつぶやいて、降りてきていた影をあわててかわす。あっぶねー、と冷や汗かいたコウキは、髪の先が焦げ付いたのを知る。モンスターボールを振り上げたコウキは、相手を認めて、あら、と固まる。相手も固まる。お互いにばつの悪い沈黙ののち、おずおずとコウキは口を開いた。


「なんでいんの、グリーン」

「何を言ってる。それはこっちのセリフだ」

「え?オレは仕事だよ?」

「その仕事に巻き込んだのはお前だろう?」

「は?」

「賭けの本題だ、と抜かしたのはお前だろうが」

「いやいやいや、頼んでねーよ?つかゲームセンター以来だろ?オレら」

「・・・・・は?」

「・・・・・・は?」

「もしかして、ジュベッタ助けてくれって頼まれた?」

「ああ」

「そのオレは、どこに?」

「ジムに用があるとかで出かけたが」

「・・・・・・・・・・お嬢ーーーーっ!」


今日はお友達が来るから、お茶会がありますの、とにっこり笑ったエリカが脳裏をかすめた。



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