第十七話

「イーブイ改造計画ねえ」



イーブイの進化経路を自由にコントロールしよう、という研究論文がここにある。実用化されいていて、バトルする相手の弱点を耳に取り付けた小型の機械が探知し、実際にタイプに応じた進化を強制され、戦闘後は退化する。確かそれぞれの進化後から進化後へのジャンプ進化も可能だったはずだ。それ、どこのデジモン?(アニメ仕様ね、本家はポケモン同様進化したらそれきりだ)。



「無粋なことをお聞きしますけれど。もしそのイーブイがいるとして、コウキさんは欲しい、と思うかしら?」

「性格と能力値によるけど、進化経路はサンダース、ブースター、シャワーズに固定なんだろ?じゃあいらないわ」



オレは即答した。コウキさんらしいですね、とお嬢が口元を隠して笑った。オレが一時期ブイズ大好きなとあるトレーナーさんの動画にほれ込んだプレイヤーの影響で、ひたすら爺前固定で中途半端に厳選して育て上げた子達がいるの知ってて聞くんだからたち悪い。
だいたい、イーブイによって、ふさわしい進化経路は違うンだっつーの。



サンダースは、130族と言われるほど最速が売りなポケモンだから、すばやさ、を重視した戦いを得意とする。でんじは・いばるで翻弄したり、特攻しかけたりね。もちろん性格や個性もそちらを伸ばしやすいほうが有利となることが多い。まあスカーフ型だったらとくこうのばせる性格を優先したり、バトン型だったら耐久が伸びやすい性格のほうが有利だったりするから、千差万別だけども。


シャワーズは、耐久に優れたポケモンだから、低めのぼうぎょをちょっと上げるだけで、安定した戦いができる。とけるだけで耐久が格段に上昇するから、どくどくとか、ねがいごととか絡めて手が得意だよな。純粋な火力ならミロカロスより上だから、耐久面では劣る部分もあるけど、アドバンテージは悪くない。まあブイズ自体四底歩行の弊害で覚えられる技に制限があるから、どうしてもドーブル経由の遺伝技が必須になるんだけどな。


ブースターは、相手を選べば優秀な特殊受けに化ける。遅めの素早さをうまくカバーしつつ、おにびやのろいなんかを駆使してうまく立ち回れば、十分に強さを発揮できる。二刀流ができる能力のありかた、と考えればいい。本当に攻撃力130を生かす境遇にないのが悲しいところだ。



いずれにせよこの3匹は最初のイーブイの進化経路っていう特権なのか、いずれもとくせいが優秀で困る。でも3匹とも、最大限に力を発揮しようと思ったら、性格や個性、他能力値を他の子達と比較しながら、じっくり技構成もかんがえつつ育てていくくらいの努力は必要だと思う。イーブイを強制的に進化・退化させることにのみ特化しただけの機械なんて、ぶっちゃけ戦力になるほどバトルは単純じゃない。やがてはエーフィに進化する予定のイーブイだから、たとえばパロメータや性格、個性的にはシャワーズ向きの能力値なんだろうと仮定する。それを考えれば、本来はすばやさよりとくこうやとくぼうが高めな子なんだろう、だからオレなら、ぼうぎょとHP、もしくはとくぼうとぼうぎょに努力値を振り分ける。そんなイーブイがサンダースやブースターになったとしてもぶっちゃけあんまり強くはない。さっき言った優れてる能力がぜんぜん違うし、努力値が反映されず無駄で終わるからどうしても無理が出る。ふさわしい能力をもったイーブイから進化したサンダースやブースターに遥かに劣る。ポケモンの相性の応じて姿を変える反則性能はチートだろうけど、それくらいでバトルが決まるほどバトルは単純じゃない。そもそもこの3タイプでカバーしきれないポケモンなんて無数にいるし、ブイズの強みでもある豊富な遺伝技が無視されてる。HPが回復するわけじゃないんだから、無理して3体分も1匹が闘わなくてもいい。かわいそすぎるじゃないか、自分の能力に見合った戦い方をさせてもらえないなんて。



「本当にコウキさんらしいですわね、そのような考え方も嫌いではありませんわ。でも、ね、コウキさん。その理論はあくまで公平なバトルを想定した場合に起こる弊害に過ぎません。ロケット団は、あくまでカントーを掌握するための戦力としての研究を行っているのだということをお忘れなきよう、お願いいたします」



本題に入りますわね、とエリカは言った。



「この実験体のイーブイが、逃げ出した、と潜入班から連絡があったのです。門下生たちも同盟のメンバーの皆さんも全力で捜査に当たっていますの。どうかコウキさんも」

「道理でジムに誰もいないわけだ。りょーかい、探してみるわ」



ジムに誰もいなかったことを思い出して、オレは納得した。


たしかレッドとマサキが協力して、イーブイを探し出すんじゃなかったっけ?まあ確かにそれにしてはあっさり見つかったし、見ず知らずのレッドを試すにしてはもしロケット団に捕獲されてたらどうするつもりだったんだとか、いろいろ疑問はあったけど、もしかして。いや、まさかな。うん、いくらまっくろで策略家なエリカでも、実はイーブイは保護されてて、レッドを試すためだけにイーブイを逃がして監視してたとかそんなまさか、自作自演だなんて、ねえ?ちらり、と振り返れば、いってらっしゃい、とエリカが手を振っていた。


えーっと、たしかタマムシでイーブイをもらえるのは、マンションの裏から入れる民家だったよな。とりあえず調べるべきは、そこだよな。一応ブラッキーとかつれてこう。オレは何も診なかったフリをして、ポケモンセンターに向かったのである。











ついでにタマムシマンションに顔を出して見たんだけど、管理人のおばちゃんがくれたお茶は普通のお茶だった。熱すぎて飲めない、いつまで経っても冷めない特別仕様じゃない。まあFR・RGの仕様だもんな、ヤマブキシティ通してくれる賄賂って。たしか初代だとおいしい水だっけ?一応買ったんでためしてみる価値はアンだろう。まあバリアからの強行突破を目指してるレッド達を後目に堂々とそんなことできたら、とんだ笑いぐさだけどな。

んー、いい天気だ。青空が広がっていて、見晴らしのいい屋上からは、行き交う人が見える。のびをして、息を整える。一気に5回まで駆け上がるのは、きついよな。
こんこん、とノックする。なんでマンションの屋上にある物置が民家になってて、人が住んでるのかずっと疑問だったから、これで謎が明らかに!呼び鈴も着いてないから、ノックするしかない。しん、となっている。居留守か?居ないのか?うーん、参ったな、ここ以外でイーブイが出てくるなんて知らないぞ?あー、もしかしてとりあえず探し回って、見つからなかったよってお嬢に報告するのが妥当だったりする、なんて落ち?あはは、んなアホな。



「すみませーん、だれかいらっしゃいませんか」



端から見たら不審者だなあ、オレ。これ終わったら、また着替えよう。



「い、今空けます!」

「へ?」



ドアノブを回したら、あっさりとあいて拍子抜けした。なんという不用心な!てっきりお嬢の傘下な誰かさんがイーブイを保護してるんだ、とばかり思ってたのに。どこかおどおどとした様子で出てきた家主は、オレを見て声を荒げた。



「よ、用があるんだろう?は、はやく入ってくれ!」

「あ、はい」



なんだかおかしいぞ?疑問に思いつつ、中にはいる。急いでバタン、とドアを閉め、鍵を掛けた家主は、へこへこ、と頭を下げる。



「ご、ごめんなさい。どうか警察だけは!あと、3日、あと3日待ってください!そしたら家賃払えるんで、それまではその、勝手に借りちゃって、勝手に改造しちゃったのはスミマセン、まとまったお金が入ったら、正式に部屋借りさせてもらうんで、そのお願いします!」

「……黙っててあげますから、顔上げてください」

「え、あれ?うん?君は大家さんから頼まれて来たんじゃないのかい?」

「いや、オレはイーブイを保護したのは、ここの家だって聞いたんで尋ねただけなんすけど」

「あ、あは、あはははは。そっか、そうか、そうだよね、そう簡単にバレルわけないよね。あーよかった!ということは、君がイーブイの持ち主になるのかな?」



見なきゃよかった。オレは引きつりを通り越して、能面になってる自信がある。



「え、でもおかしいな、ついこの間、持ち主の女の子が取りに来たばかりだよ?」

「……はい?」

「よっぽど探し回ってたんだろうね。すっごく嬉しそうな顔をして、ありがとうございますって言ってたよ?」

「名前、言ってませんでした?」

「確か、ブルーとか言ってたかな」

「今すぐ金目のものが盗まれてないか、確認して下さい。今すぐ!」

「えええっ?!」



そりゃこっちの台詞だっての、この野郎!ああくそ、なんてこった!めんどくさいことになったぞ、もしブルーがイーブイ連れたままでレッドと遭遇したら、いろいろまためんどくさいことになる!あーもーなんでブルーがイーブイ盗むんだよ、訳わかんねえ。


あわてて棚をひっくり返した家主さんは、絶叫した。あーあ。



「……新聞広告で尋ねてきたから、てっきり……。あ、でも、確かにやたら外を見てた気がするなあ」



それだ。デパートを除けば、このマンションが一番、タマムシシティで高いことになる。デパートは屋上が自販機も置いてある憩いの場として開放されてるから、不審な行動を取れば一発でばれてしまう。だからここなら堂々と機材を持ち込んで、他の場所を監視できる。あーもーどこのスナイパーだよ。ありがとうございましたっていって、オレはあわてて部屋を後にした。ブルーはロケット団の本拠地がタマムシにあることはしってる。どこにあるかは知らないけど。つまり、ブルーはロケット団のアジトを捜すためにここのマンションの屋上に目を付けて、上がったらたまたまおっさんがすんでて、ついでに珍しいイーブイを見つけたから売ろうとでも考えて、盗んだ?予想できすぎて困るって!



ぎゃあああああ。最悪じゃねーか!



一気に階段を駆け下りる。どうしよう、いっぺんジムに帰って、お嬢に知らせた方がよくないか?さすがにまずすぎる。一人で動くには、まったくブルーがどこにいるのかわかんねえ。オレは、懐から受信機を取りだした。なんか連絡入ってないかナー。

ぜえはあいいながら、扉を閉める。マンションの裏手に出て、受話器に耳を押し当てようとした。



「―――――っ!」



ばしゅっと手元に衝撃が来て、受信機が吹っ飛んでしまう。あああああ、壊れたらどうすんだ!痛みにとっさの声も出ず、手首を見れば水に濡れていた。水鉄砲か?あーもー誰だよ、くそ。影が落ちたのでそちらを睨めば、すとん、と受信機を手中に収め、はあいと笑う見慣れた少女。むしろ進行形で捜し人。ついでに進化してるカメール。



「ブルーじゃねーか、なにすんだよ!」

「やーねー、久しぶりの再会だっていうのに、いきなりなーに。通報だなんて、いただけないわよ?」



いや、それ受信専用だから、警察に通報なんてできないし。できるなら上でしてるっての。ああ、通報されるかもっておっさんが警戒するから?そんなめんどくさいことするかよ。つか、初めてあったとき、堂々とニセ物のアイテム売ってたときスルーしたよな、オレ。むしろ関わらないようにって、さっさと離れたよな?なんで今更警戒してんの、お前。かえせって手を伸ばそうとして、そのままハンドアップ。ポケモンに攻撃されなれてないこと、うすうす気づいてるな、くそう。カメールが攻撃態勢に入ってる。オレは、仕方なく抵抗と説得をやめた。だめだこりゃ、ヘタしたら、お嬢のことまで話す必要が出てくる。必要ないのに明かすのは無駄だし、あーもー。
くすくす笑うブルーに脅される形で、オレは無防備なまま一緒に連行される羽目になった。





どうしてこうなるの!





オープンしたばかりのケーキ屋である。外からプライベートが守られた、木枠。囲われた中庭には、おしゃれなカフェテラスがあり、天気のいい日は隔たれたツタの木陰で思いっきり客人はじぶんたちの時間を過ごせる。中はクッキーやケーキ、紅茶のならぶショーケース、注文して奥に案内される形式をとっている。当然席に着いてからでもいいのだが、前者のほうが注文が早い。



「栗のモンブランとアップルティ、お願い」

「カシスショコラと塩生キャラメルのパウンドケーキ、ひとつずつ。クッキーも頼むわ。あ、そうそうバナナキャラメルとシュークリーム5つずつ包んどいて?のみもんはアイスコーヒーね、ブラックで」

「はい、畏まりました」



ブルーは絶句である。喫煙席でもかまいませんか?と聞いてくるウエイトレスに、コウキはうなずいた。くすりとわらったウエイトレスは、おそらく甘党の彼氏に無理を言って連れてこられた、あきれ返っている彼女とでも思ったのだろうか、意味深な視線の後こちらへどうぞと促した。コウキが女性客でにぎわうパーラーに一人で特攻するほどの甘党だと知ってはいるものの、実際に注文するのをまじかで見たブルーはもしややけ食いするつもりなのかと勘繰るが、コウキはいたって平然である。ごゆっくりどうぞ、と引っこんでいったウエイトレスを見送って、手をふき、からからと氷を回してから水を飲んでいた。
ブルーはふうん、と笑った。そして、牽制にひそかに太ももに手を伸ばした。



「こんなに可愛い女の子とデートできるっていうのに、何が不満なの?」

「テーブル下で戦闘態勢のポケモン従えてるって、やだこんな女の子」

「男は狼なんだもの、ボディーガードは必要でしょう?美しいものにはとげがあるのよ」

「全世界の女の子にあやまっ――――――」



不届き者には断罪を。げしっと容赦なくカメールがコウキのつま先を攻撃した。声にならない悶絶で、しばしコウキは再起不能に陥った。










「とりあえずさ、返してくんねえかな、そのイーブイ」



コウキは、オレのだからとはいわなかった。へえ、とブルーは紅茶を口にする。だろうなとは思っていたブルーである。なぜならモンスターボールには、親が明記されていない。正規な交換をへて入手する手はずではなかったのだろう、そもそもイーブイ自体が正規な方法で捕獲されたのではないかもしれない。先手を取られてしまった、と暫し思案する。


コウキは真剣な顔で交渉の口火を切った。ブルーが、このイーブイが訳ありなのは承知であるという前提を元に、一切の説明責任を放棄して単刀直入に切り込んできた。確かにブルーはコウキがロケット団の対抗組織の監査役であることを本人の口から語られたことはないが、確信している。なぜなら実際に同行し、任務の遂行を間近で見てきたからだ。やや身勝手な行動が目に付くし、そこのあたりを「お嬢」という上司になじられたりしては居るようだが、信頼は置かれているようである。つまりコウキがイーブイを必要としているのはロケット団に関連があるからであり、情報を一切提示する気はないというスタンスを予め明確にしてきた格好になる。




困ったわね、とブルーはケーキをつつく。コウキの思惑に乗るのなら、ロケット団のアジトの情報を提示してもらうかわりにイーブイを返却すればいい。だがそれでは困るのだ。ブルーの手元にはミュウに関する全ての情報がはいったフロッピーがあり、これを元にブルーは本格的にミュウを捕獲するための計画を実行しようともくろんでいるところだ。どういう訳かミュウとコウキは知り合いのようであることは、サントアンヌ号からの脱出劇でミュウに助けてもらったことで確認している。つまりコウキを巻き込めれば捕獲する確立が上昇する訳である。



コウキはおいしそうにケーキを食べていた。カロリーを計算するだけで胸焼けがしてきそうな食べっぷりである。うらやましい限りだ、これが男と女の違いなのかと恨めしく思いつつ、ブルーもケーキを堪能した。




「ところで、イーブイもミュウも欲しくないの?」

「イーブイは、しばらくみたくねえわ。ミュウは伝説だからねえ、せめて準伝説なら考えたんだけどなあ」

「はあ?」




相も変わらず、訳のわからない物言いをする青年である。

ちなみにコウキは、イーブイをすでに持っている。そしてドーブルと育てやサンに預けっぱなしだ。おそらく金額が恐ろしいことになっているだろうことは、見て見ぬ振りをしている今日この頃である。イーブイを見るとげんなりするのも、プレイヤーによってかれこれ3ヶ月ほど、気力が持つ限りイーブイの卵を大量生産して大量育成を延々と強いられたことがあるからだ。こうして生まれたのがあのサンダースやリーフィア、手持ちにいるブラッキーというわけだ。エーフィとグレイシアはパールの自分に貸しっぱなし。ブースター?……せめて攻撃炎技が牙じゃなくなれば考えるとのことである。逃がしたことでズイの生態系はとんでもないことになっているだろうが、突っ込むのは野暮だろう。


ミュウはコウキの世界に置いては、まごうことなく伝説である。そもそもコウキの世界では存在しておらず、プレイヤーがウィーを持っていない以上、牧場からの入手は難しい。配布以外で持っているとすれば、間違いなく違法性の高い行為の証だ。コウキは考えた。もし捕獲してもコウキは自分の世界に連れてはいけない。ヘタしたらバグと疑われて自分が抹消されてしまう。恐ろしくてできるわけがないのだ、欲しくてたまらないのは事実なのだけれども。


コウキはブルーにふとした疑問をぶつけた。



「もし、オレが協力したとしてよ?どーせ捕獲すんのはオレで、ちゃっかり頂き!とでも考えてんだろうけどさ。その場合、オレが親になるわけだ、奪ったとしても交換と認識しちまうモンスターボールは相も変わらず不具合だけど、レベル高いんじゃねーかな?ミュウってさ。大丈夫なわけ?その辺。そもそもブルーはバッジ持ってんの?」



コレクターに売りつけるならば、ミュウがいうことを聞こうと聞くまいと関係ないだろう。モンスターボールから一度たりとも出さなければいいのである。問題は、ミュウがモンスターボールから出てしまう危険性があることだ。ブルーは、痛いとこつくわね、とぼやいた。



コウキもブルーも、ミュウを解放するためにサントアンヌ号で盛大にどんぱちやらかし、脱走劇を繰り広げる羽目になったのだが、そのとき見たのである。ミュウはモンスターボールのシステムをさらに強化した、ホルマリン漬けのカプセルに閉じこめられていた。そもそもモンスターボールの性能は、捕獲するまで抵抗するポケモンに耐えられるかどうか、の強度により違いがある。あのカプセル自体、行動を制限させるために電気ショックを与え続けていた線を引っこ抜いたとはいえ、あまりにも硬すぎて破壊できず、抱えたまま走る羽目になったのだ。つまりかのマスターボールにも匹敵するような強固さを備えていたとも言える。だが。ミュウは拘束が解かれた瞬間、見事に破壊し、カプセルから出たのだ。市販のハイパーボールで、同様のことが起きないとは限らない。いくら慎重にしていても、かならず起こるから事故なのだ。もし、出てしまったミュウをもう一度戻そうとしたとき、ブルーにはその手段がない。唯一ミュウを手元に置いておける手段は、バッジによる性能に頼るほかないが、ブルーはバッジを持っていない。ブルーが捕獲すればいいだけの話だが、コウキの指摘通りおそらくミュウのレベルはブルーの手持ちより優に超えていた。



「せめて、バッジ、貸してくれない?」

「タマムシ警察の番号ってなんだっけ?」

「……あはは、やだ、冗談よ」

「窃盗はポケモンに図鑑にバッジに、食い逃げね。義理と人情が全部解決するような、いい人ばっかじゃつまんないだろ?世の中さ」



許されるのは、漫画やアニメの世界だけだぞ、とコウキは思っている。残念ながらただいま絶賛発売中のハートゴールド・ソウルシルバーは、ポケモンマニアの窃盗罪についてはスルーである。御三家は?ぜひ、全国制覇をした後、龍の穴へいったのちに、ウツギ研究所に行ってみて頂きたい。コウキも堂々とポケモン屋敷の不法侵入やポケモンタワーのアイテム回収などわりとあくどいことはやっているのだが、棚をあげているのは、お嬢たちが潰してくれるだろうというあくどい思惑があったりするが置いておく。



「つか、バッジって他人のでも効果あんの?」

「らしいわね。だから結構高額で裏取引されてるのよ」

「なんという無法地帯」



オレの世界だとゲットしたトレーナーのID組み込まれてるから、ゲットした本人にしか効果ないんだけどなあ、と思いながら腕を組む。10年の歴史の中でジムのあり方もかわってきたのか、それともポケスペの世界とプレイヤーとゲームの世界観が混合したコウキの世界で違うのか、さすがにわかりはしない。



コウキは、バッジはコレクションと考えている。デザインと希少価値は保証されているから、丁寧に磨き、ケースで厳重に保管し、リュックの一番奥にあるわかりにくい大切なものポケットに閉まってあるのだ。カントーのバッジとシンオウのバッジを並べてみて、他地方のバッジも欲しくなってきたのは気のせいではない。むろんシステムの関係上、叶わない夢なのだが。


本来バッジはトレーナーにとってステータスを示すわかりやすいものであり、衣服につけて誇示するのが一般的である。やはりブルーは変わっているとコウキを見て思った。




「他のトレーナーでも当たってみりゃいーんじゃね?」

「仕方ないわね、そうするわ。ご馳走様」

「お粗末様」



コウキはブルーからイーブイを受け取る。そして、コウキはロケット団の基地についての情報を包み隠さず教えることで交渉は成立した。



「さすがに食い逃げは嫌だもの」

「え、なんで?」

「あんたねえ、アタシのことなんだと思ってるのよ!」



姉さんと慕うシルバーを考えると、さすがに躊躇する罪状である。罪に重い軽いはないが、まだまだ幼い子供達である。むろん、コウキが、ブルーとシルバーの関係など知るはずもなかった。



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