第十五話


黒髪のポニーテールをしている和服姿のお姉さん(お嬢の世話役の人だ、よく見かける)に案内される形で、オレは後に続いていた。



綺麗に世話された花壇が左右対称の庭園を形づくっている。中央にまで歩みを進めると、室内なのに暖かな陽射しとふかふかの柔らかな草のじゅうたんがあって、広葉樹の大きな木が植わっていて、ちょうどいい木陰を作っていた。これがジムの中なんて誰が信じるんだろう。本当にジムの経営方法とか内装とかジムリーダーに一任されているらしい、いろんな意味でフリーダム過ぎる。あ、アゲハチョウ飛んでる。もちろん挑戦者を待ち構えるのは、ピクニックガール、大人のお姉さん、塾帰り、双子の小さな女の子たち、ものの見事に門下生は女性のみ、男子禁制の雰囲気がして、はっきり言って居心地悪い。レッドさんが言うには、外から中を覗き見してる変態の爺さんがいたらしいけど、さすがに警護員や監視カメラでセキュリティが行き届いてる敷地内では無理なのか、不審な人物は一人も会わなかった。


「お嬢様、コウキさんのご到着です」

「ご苦労様です、お下がりなさい」

「はい」


一礼して下がっていくお姉さんにオレも会釈する。
とても挑戦者が目の前にあるのに、ぽかぽかして気持ちいいからうとうとしてましたわ、うふふ、ってあくびするような天然のお嬢様とは思えない。オレの世界と一番違うんじゃないか、ってひそかに思ってる。てっきりレッドと対戦したときのように、赤のスカーフにカーディガン、スカート姿のいわゆるお出かけ用の余所行き姿だと思ってたんだけど、レッドさんから聞いていた和装姿だった。ヒモですそをたくし上げてて、もし鉢巻でもして薙刀持ってたらあだ討ちにでも行きかねない。思わず場違いな想像をしてしまって緩む口元を押さえつつ、オレは先の部屋へと足を進めた。



レッドとマサキがイーブイをめぐって殴り込みをかける部屋がその先にある。
回復マシンと一段上がって設置されているリングに、お嬢は立っていた。


「コウキさんがいらっしゃらない間、パーティの調整に余念がありませんでしたの。再びお手合わせ願えて、うれしいですわ」

「久しぶりだもんな、オレもだよ。勝ちに行くからよろしくな」

「もちろんです、ご覚悟なさりませ。バトルしてこそのジムバッジだ、と啖呵をきったその実力、ご存分に見せてくださいな」

「言われなくても」

「草タイプのトレーナーの規範にして、カントーの頂点にたつ者として、全力でお相手いたします。タマムシジム、ジムリーダー、エリカ。参ります」


開始、とレフェリーの笛と号令が響いた。





「おいでなさい、ナッシー」

「ゴウカザル、いけ!……ってちょっと待てーっ!お嬢、あんたなんで非正規の技覚えてるポケモン平然と持ち込んでんの、これ公式試合でしょ?あくまでどんな技なのか検証するために複製して、覚えさせてたのであって、公式じゃアウトだっていってたじゃん!」


オレは思わず叫んだ。お嬢が繰り出したナッシーは、幾度も戦った覚えがある。半年前にさかのぼるんだけど、オレがこちらの世界に飛ばされて保護されたときに持ってた技マシンは、当たり前だけど新技のオンパレードだった。当時ロケット団の配下だった疑惑があったせいでロケット団の試作品じゃないのかって思われ、その疑惑を晴らすためにいくつか技マシンを複製(いわゆる違法コピーってやつね、バグ技の)して、実際にポケモンに覚えさせて、オレがどういう技かとか説明したり、バトルしたりして証明するめんどくさい時期があったんだ。おかげで技マシンは正規仕様(この時代はまだポケモン教会が認定してないからあくまで準正規)って証明され、オレのもとに帰ってきたんだけども。


トリックルーム覚えさせたナッシーがなんでここにいるんだよ!


くすり、とエリカお嬢は笑った。


「コウキさんと公平に戦うためには、こちらも条件を同等にするのが適切でしょう?」


何か問題でも?って笑う。え、えげつねえ……もともと努力を惜しまない天才が、より可能性の広がる知識と技を知った時点で覚醒するのはわかってたことだけど、広がった世界を予告なくぶつけてくるのはどうかと思うんだ、オレ。恐ろしすぎる。草タイプは確かに不遇だ、全体的にスピードが遅く、弱点がメジャーばかりの多いのがあしをひっぱっている。ジュカインっていう革命児とにほんばれの恩恵を受けられる特性が導入されるまでは、草縛りっていうのはよほど立ち回りと読みがあたらないと厳しかった。エキスパートっているんだなあ、どんな条件下でも勝とうとするんだ。本気を見たきがする。

先発がナッシーってことは……まじですか。くそ、アグノムつれてくりゃよかった!挑発!誰か挑発を!っくそー、面倒なことになったな。さっさと大文字で崩すか?でも絶対半減の実もってるだろうし、耐えられた上で眠り粉されたら目も当てらんない。やっぱり安全に身代わりで。


「ゴウカザル、みがわり!」

「ナッシー、トリックルームです」


やっぱりトリックルーム+にほんばれかよ、ターンをひたすら稼がないと火力で押し切られちまう!ぐにゃり、と歪む感覚。身代わりのおかげで2ターンは稼げる。ごめんゴウカザル、今回は攻撃するお役目なさそうだわ。


「ナッシー、にほんばれ」

「くっそ、わるだくみ!」


次は大爆発か。あと3ターンも残ってる!そうですか、身代わりでしのぐつもりなのですね、とエリカは笑った。


「ナッシー、大爆発」

「うぐぐ、みがわり!」


そして再び表れるみがわりでしのいだゴウカザルは、次を待つ。あと一回しか身代わりできない!


「おいでなさい、キマワリ。アンコール」

「ちょ、ま、えええええ?!なんでアンコール?!卵技じゃねーか!」

「言ったでしょう、あなたと同じ条件下でなければ、公平ではないと」


まさかオレがいない間に、ドーブル捕まえて卵遺伝させてたのか、この人!立派なやりこみ派だよ、もうやだこのジムリーダー。早く何とかしないと。なんて考えつつ、ゴウカザルを引っ込める。ごめん、ムクホーク、犠牲になってくれ!


「ムクホーク、電光石火!」


少しでもHP減らさないと。なけなしの先制攻撃でHPを減らすものの、さすがに威力40は死んでる。エリカが笑ってる。怖いよー怖いよー、畜生、太陽神なんて教えなきゃよかった!


「粉砕なさい、ソーラービーム」


溜めなしのソーラービームが炸裂して、オレはまぶしさに手で顔を覆った。サンパワー下のソーラービームはまじで勘弁して欲しい。とくこう1.5倍×タイプ一致の1.5倍補正だよ、恐ろしすぎる。ごめん、ムクホーク。一撃でのされてしまったので、モンスターボールで戻した。後一体強制生贄かよ、くそー。


「悪い、ピクシー」


出オチごめん。一瞬で粉砕されたピクシーを戻す。ようやくトリックルームが終わり、オレはゴウカザルを繰り出した。まだ晴れ状態が続いてる。もしかして暑い岩持ってるんじゃないだろうな?いやな予感がひしひしと感じられる。


「ワタッコ、おいきなさい、ねむりごな!」


もともと素早さで負けてる上に、晴れ状態で素早さ2倍の催促眠り粉つかいとかどんだけガチ使用だよ、ちくしょーっ!外れてくれ!オレは祈った。そして、そして、そして。
















「あらあら」

「よっしゃ、やった、外れた!ゴウカザル、みがわり!」


最後の身代わりが出現。これでツバメ返しとかで壊されたとしても、2回大文字を撃てる!勝った!オレは歓喜に震えながら、大文字を命じた。よっしゃあ!よくやったゴウカザル!オレは思いっきりゴウカザルを抱きしめた。さすがは2代目!目を回したワタッコを戻したエリカが、ぱちぱちぱち、と拍手をして、こちらにやってきた。


「おめでとうございます。勝利を求めるためには運気をも味方につけるその覇気、さすがですね。わかりました、では、差し上げます。レインボーバッジです。受け取ってくださいな」

「ありがと、お嬢」


うけとったオレは、銀色のバッジケースにそれをしまった。ひとしきり勝利の余韻に浸る。それくらい罰は当たんないよな!


「これであと2つか。でも、どうやって集めんの?ヤマブキは立ち入り禁止だし、トキワはずっと不在みたいよ?」

「ご心配なさらず。トキワはともかく、ヤマブキには、あてがありますの。安心して旅を続けなさってくださいな。そして、もうひとつ新たにお任せしたいお仕事がありますの。もう少し、お付き合いいただけますか?」

「わかった。じゃ、いこっか」

「ええ」


オレはエリカに連れられて、ジムを後にすることになる。


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