第十三話
ゲームセンターは、ロケット団の貴重な資金源であることなど、この時点でグリーンは知らない。ミニリュウやケーシイをはじめとしたここでしか入手できないポケモンもいる以上、図鑑完成を目指す以上無視するわけにはいかない。ラインナップにケーシイを見つけたグリーンは、腹ごしらえに食堂に足を運びながら、今日はゲームセンターでゲットして、進化させるまで鍛えてと日数を換算する。かるく一週間は仕込みに時間がかかりそうだった。ホテルに前払いをした方がいいかもしれない。ジム戦を控え、草タイプ対策(カントー地方では純粋な草タイプは少なく、毒との複合が多い。ちなみに毒が入っていた方が、毒に対する耐性が増えるため、事実上弱点は一つ減る)にエスパータイプを補充しようと考えていたので仕方ない。食堂で遭遇したコウキは、自己破産して自暴自棄になっているポケモンクラブの男からコインケースを譲り受けていた。
「金にものを言わせてコイン全部換金すりゃいいんじゃね?ケーシイ1000コインだろ?一番少ねえじゃん」
「500コインにつき10000円もかかるんだ。無理だろう」
どんな稼ぎ方をしてるんだ、とグリーンは勝手に席を移してきたコウキを迷惑そうに見る。そりゃお守り小判に賞金いっぱいくれるやつの前でひたすら、バトルサーチャーとにこやかにいう。なんだそれ、と聞かれて事細かにアイテムの説明をするコウキはこなれていた。それはかつあげだ、とグリーンは言いかけてやめた。バトルで負ける方が悪い。バトルを受けるか受けないかはトレーナー次第だ。
いちいち資金をバトルで稼ぐより、スロットでこもったほうが効率がいいと踏んだグリーンに、コウキはがんばれ、とコインケースを渡した。
「シンオウじゃ一回何かしらそろえりゃ、ピッピ様が降臨してひたすらRRRそろえてくれっからなあ、ゆとり仕様に慣れてるオレじゃ無理だわ。ここのスロット、本当に運任せらしいしな」
頭の後ろで手を組んで笑う。じゃあなんでコインケース、とつぶやいたグリーンに、イベント確認といえるわけもなく、オレの世界のお友達が言ってたことが事実なのか確かめてただけ、と遠まわしに意味不明な返答を返した。いい加減冷めかけている定食を口に運ぶ。無駄な沈黙が続いた。
「そういえばお前の世界のカントーには知り合いがいるんだったか?」
「そうそう」
「並行世界とはいえ、10年も前の、しかもカントーを一巡りするようなやつだろう?・・・・・オレの知ってるやつじゃないだろうな?」
「詳しくは聞かないんじゃなかったっけ?」
「別に未来にかかわることじゃなければいいだろう」
「いやに食いつくねえ」
確かに、とコウキは思った。ポケスペはキャラ設定や経緯に違いこそあれ、大まかなストーリーは初代の赤緑に準じている。別にそれがレッドさんだと告げても構わないのだ、どうせ並行世界の人間だとばれてはいる。しかし旅の詳細や現在に至るまでその人物が成し遂げたことなどを具体的に挙げるとそれはこの世界にとって重大なネタばれのオンパレードとなる。つまりこちらでしっかりと脳みそを通していえと言っているのである。
「コウキがそいつのことを話すとき、いやに生き生きしてて気持ち悪いからな」
「ナチュラルにきもい宣言された!ひでえ!」
まあによによしてしまうのは認めるけど、とコウキはうれしそうに笑う。コウキはプレイヤーという見えざる視点と誘導という支配下におかれた瞬間から、プレイヤーが感情移入すればするほど感化されてきた経緯がある。初めこそ湧き上がってくる知識や感情に戸惑いこそしたが、ゲームの世界の住人だと気づいてしまってからはチートがコウキの標準となった。プレイヤーからすれば、ゴールド=ユウキ=レッド=コウキ=自分であるため、さまざまな知りもしない経験がたまっていくのとしたがって、銀から始めたプレイヤーの思考が反映され、レッドという初代の主人公を英雄視する方向に凝り固まったのは言うまでもなかった。
つまりコウキにとってレッドという名前は特別なのである。あくまでゲームの、である。漫画なりアニメなりのレッドやレッドに準ずる主人公たちは初代主人公の反映、としか見ていない。絶対視、、贔屓、の延長でしかない。
さすがにゲームのうんたらかんたら、を語るわけにもいかないので、コウキはいう。
「まあぶっちゃけるとレッドさんなんだけどね。永遠の憧れ、オレの絶対」
「・・・・・さんづけ?」
「(製造年月日考えたら初代レッドさんは)22くらいだしな」
「そうか。どんな奴なんだ?」
「無口だよ、ひたすら無口。・・・・・・・・がデフォルトで、ぼくのまね するの たのしいかい って感じのしゃべり方」
「考えられないな」
「レッドとグリーンひっくり返したらちょうどいいかもな。グリーンさんはオレ様口調だし、バイバイベイビーだし、つんでれだし世話焼きだし」
「・・・・・・」
「そうだ、言ってみる?バイバイベイビー」
「やめろ」
実は金銀ではバトルの後消えちゃって、死亡説が流れている、なんてさすがに言えるわけもないのでコウキは言葉を止めた。金銀リメイクではぜひとも安否が知りたい。どのみちツンデレか、と笑うコウキにいたたまれなくなったグリーンは、おもむろに立ち上がる。ゲームセンターに行かなければ。
「そうだ、かけしねえか?どっちが早く1000稼げるか」
「・・・・・オレが勝ったら、もう構うな」
「了解」
初代だと確かゲームセンターで一台だけ、フィーバーが出やすい台があるんだっけ、さて調べき行きますかと考えるコウキに浮かんだほくそ笑みに、グリーンは自分が部の悪すぎる掛け賭博に参加してしまったことを知る。
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