第十一話

「うええ」

「無理すんなよ、レッド。ひっひっふー」

「やめてくれよ、コウキ!マジでなんか生まれそう・・・うぷ・・・」



一言で言うなら、地獄絵図。不自然に霧があたりを覆っている。じめじめ、としてる。パラスとか好きそうだな。
口元を抑えるレッドに、ほれ、とハンカチ。な?朝食食ってこなくてよかったろ?とオレは言ってやった。シルフスコープごしの世界は、ゴ―スやゴーストであふれてる。そう、みっしり。明らかに、腐敗臭や異臭、そしてハエの飛び交う音。人やポケモンではないものが、ずるずる、と徘徊する音。締め切られた薄暗い空間に立ちこめる生暖かい空気からして、もしかしたらガラガラのお母さん以外にもご本家さんが混じってたりしてな、と思ったけどレッドには言わないでおいてやろうと思った。うん、だって口に出したら出てきそうなんだよ、まじで誰か助けてくれ!ときどき、いやに生々しい音と足元に感じるいややわらかな感覚。思わずオレたちはごしごし、と靴を床にこすりつける。


「あ、気をつけろよ、レッド。雨漏りしてら」

「おう、わかった」


どこのバイオハザードだよ!かゆ、うま、も、らりるれろ、も任天堂にはいらないっての!っつーか、やっぱりカントーでもポケモンって土葬なんだね、火葬は費用掛かるしな、ポケモンタワー管理してるどっかの誰かさんも例外なし、か。最近はポケモンを家族ととらえる愛護家の人やお金持ちさんは葬式屋に掛け合ってやってるとかニュースで聞くけど、まあ普通はこういうところに埋葬してもらうのが普通ってもんだよなあ、勝手に埋めちゃうと衛生上の問題があるからわりときっちりしてるはずなんだけど、ねえ。どんな管理してんだよ、フジ老人。半分腐ってるゾンビ上等のポケモンたちが、ゴ―スに憑依されて人間襲ってくる墓場ってどんなだよ。どこのマザーシリーズだ、この野郎。ここはアメリカじゃないんだぞ!

本当に死者の冒涜にもほどがあるよなあ、と憤りが吐き気を忘れさせてくれる。あとはあの意味不明の向こうスキルがよくわかんない。どうするよ、とオレはボールに迷ってる緊張感も若干少し。ゴーストにハッパカッター無効化なんて効果はない。というかくさ技無効なのは、ヌケニンのひみつのまもりだけだ。ここカントーだぞ?それにキョウって毒のエキスパートじゃなかったっけ?あれ?まあゴ―ス操ってる時点で違うよなあ・・。うーん、遺体を傷つけんのは気が進まねえけど、まあゴ―ス討伐ってことで勘弁してくれな。オレは、ボールを手にする。



「うわああああああああああああああっ!」

「レッド?!」


あわててドンカラスを繰り出す。ぴちょん、ぴちょん、と雨漏りしている水たまりの近くで、腰を抜かしているレッドがいて、思わずオレはじと目になる。久々の戦闘に意気揚々と飛び出してきた、ドンカラスは、出足をくじかれたみたいで恨めしげにオレを見てないた。こっちみんな。なんだよ、雨漏りか、びっくりさせるなよう、との涙目に、さっき忠告したよな、オレ、と手を貸してやる。霧が濃い。あーもー霧払いほしいなあ、でも覚えてるポケモンいないんだよな、使い道あんまないから・・・うかつだった。てへ、とでもいいそうな笑みを浮かべるレッドが立ち上がるなり、だんだんひきつってくる。オイオイなんだよ、おれになんか付いてるってか?あはははは。・・・・・・・わかってる、わかってるって、フラグ立てちまったよ、お約束すぎるだろ。あーもー。うし、うし、うしろ、と指さすレッドに、いやすぎる予感がして、オレは勢いよくレッドの手をつかんだまま後ろに下がった。はい、深呼吸。せーの。



「「うぎゃあああああああああああああああああああっ!!」」



やかましいとばかりにドンカラスはオレたちを見た。シャドーボールのPPが尽きてよかったかもなあ、ロズレイドに冷ややかな目されるとなんか打ちのめされるんだよな、ヴィジュアル的に。












二手に分かれてただいま交戦中。原作との違いは、とりあえずレッドもスコープ持ってるから、あんまし苦戦してないところかな。

数が多すぎるっつーの!オレは早々にガルーラを繰り出した。サイコキネンシスはドンカラスにゃ効かねえし、催眠無効。それにがルーラはもちろん肝っ玉。かあちゃんはつよいぜー、ゴーストでもノーマル技当たっちゃうんだもんなー、さすが。頼むから気体とかいう意味不明な理由で無効化されないでくれよ、とひそかに祈りつつ、スコープ越しにオレは的確に指示を繰り出す。


「ガルーラ、猫だまし。ドンカラスは不意打ち、全部倒す必要はねえけど、一撃で倒してこい。自重しなくていいぞー、思いっきり暴れてこい」


もちろん標的はあそことかあっちとか一帯な。了解とばかりに2体は戦う。久々のバトルがうれしいからってつっこんでくなよ、おいてくなトレーナーを!畜生、あいつら!あわててオレは走り出す。なるべく遺体には手を出すなよ!安らかに眠ってたのに理不尽な形で起こされてるだけなんだからな。2体同時に戦わせるのか?!って声が聞こえるけど無視無視。むしろそこは突っ込まないでくれ、いつの間にかグリーンと遭遇してるのは黙ってて見ててあげるから。これから吸引力の変わらないただ一つのフシギダネでゴ―ス撃退すんだろうことも突っ込まないでおいてあげるから。フシギダネにあんな効果あったら今頃全国の奥様に大人気なんだろうけどな。え?助けろって?いやいや2対1はそれどんなリンチよ、2人が戦えるように外野さんを黙らせてんだよ、こっちは!


「ガルーラ、ドンカラス、不意打ちで仕留めてやれ!」


恩返し、ドリルくちばしもったいなさすぎる。どうせ50のこいつにゃ経験地の足しにもならないんだろうから、なあ。つかレベル上がられちゃ困るっての、オレの世界に帰れたらこいつら全員プラチナのオレに貸し出すんだから。きっちり50じゃないといろいろ面倒だし。確実に倒していくのを見ながら、ちら、と見れば、レッドが必死でグリーンを止めようと頑張っていた。リザ―ドにフシギダネか、何という無謀。まあ当たらなければどうということはないってやつだな。もどんな、とオレは2体を戻した。


どおおおおおおおおおおおおおおおおおん!


ぐらんぐらん、と塔が揺れる。倒れているグリーンやリザ―ドが揺さぶられている。おわあああ、と支えるものもなく捕まるものもなく、オレはべしゃりとつぶれた。も、戻さなきゃいよかったガルーラ。あいたたた、鼻が。悶絶するオレに、大丈夫か?と心配そうにレッドが寄ってくる。お星さまになったゴ―スたちを見送って、オレはなんとか、とため息をつく。ぱらぱら、と粉が落ちていく。盛大に穴が開いたフロアは空気が循環してすっかり霧が晴れた。さーて、グリーンどっか打ってないといいけどな。オレみたいに。










「ん?・・・・・レッドに・・・・コウキ?」

「よかった、元に戻ったな」

「大丈夫かー?」

「・・・・・ああ」


バツ悪そうに頭をかいたグリーンは、リザ―ドをモンスターボールに戻す。ここは、とまだ記憶が混乱してるのか周囲を見渡すから、初めてグリーンに対して大きく出られる優位すぎる立場を手にしたレッドはうれしいのかにやにや、と事情を説明し始める。やたらとオレが、って強調するとこと悪いけど、お前が今首にかけてるスコープとか正体はゴ―スだとかいう助言をくれてやったのはどこのお兄さんだっけ、レッドー。でも確かに部が悪くていつものようにひねくれた台詞が返せずに、どこか悔しそうなグリーンはめったに見れるもんじゃないので、オレもついでににやにやしとく。ますますグリーンのこめかみにしわが寄った。このつんでれめー。これでレッドを見直しただろう、何より何より。


「今日のところはひとまず礼を言っとく。・・・・・・・・・・・・助かったぜ」

「オマエなあ」

「レッドわかんないか?あの沈黙の間には心のきれいな人には『ありがとな☆』って聞こえるんだよ。な?グリーン」

「・・・・・ちっ」

「さーて、つんでれ君は置いといて、フジ老人救出大作戦と行こうか、レッド」

「そうだな、急がないと」

「おい待てよ、フジ老人が誘拐されたのか?」

「昨日から行方不明なんだよ、たぶん、うえな」


事情は歩きながら話すから、さ。来るよな?と笑いかけるおれに、いや、グリーンは・・・とレッドは今までの経験上乗ってこないのを想像して言葉を濁す。んなわけな一いっしょ、プライド高いグリーンがそのまま引き下がるわけないじゃんさ。お互いにオレの置かれてる立場の認識こそ違うけど、オレがここにいる時点でロケット団がかかわってること知ってるからなあ。うんうん、なんかこういう言葉にしなくてもなんか伝わるもんがあるっていいよな!グリーンは挑発的な目をして歩き始めた。


「グリーンも知ってるのか?」

「お月見山でちょっとなー」

「・・・こいつもか?」

「そのあとでちょっとなー」


不自然な沈黙が落ちた。あれ?


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