第十話

ゾンビになってもポケモンのタイプってかわんねーのかなあ?まあ実態はゴーストタイプだし、まあこいつらでいっか。こんな時でもねえと使う気起きねしなあ、とボックスでにらめっこして手持ちを決めた。カラカラは・・・。強い意志を感じざせる泣き虫の親なき子は、ボール越しに見上げてくる。わかったよ、とオレは手持ちに加えた。


グリーンが行方不明?レッドは案の定、信じられない、という顔をしている。
ポケモンセンターにて。あー、ホテルのベッドが恋しいけど、明日は早いしな、と大事を取ってポケモンセンターのソファを借りて一夜を過ごすことになった。だるさ抜けねえだろうなー。本当ならフジ老人が話すべきことをかいつまんで説明してやる。どのみち毒を食らわば皿までっていうしな、あの人がいない以上雨宿り場所見つけられずにレッドがポケモンタワーに来れなくなっちまう可能性の方がおぞましいっての。グリーンが少なからずレッドを見直し始めるのはこのあたりなんだから、エンカウント率は下げちゃいけない。


「あいつはイヤミな性格だけど、ポケモントレーナーとしての実力はホンモノだろ。そう簡単にやられるとは思えないぜ?」


毛布にくるまりながら、レッドが言う。
いや、それがものの見事にやられて、むしろ操られちゃってんだよなあ、と苦笑いが浮かんでしまうのは許して、お願い。まあ、なあ、とオレはごまかすように目をそらした。

幽霊もどきに「タチサレタチサレ」って警告くったり、なんか降りてきちまってるイタコとか祈祷師とかのおばちゃんたちにビビりながらタワー上って、結局ガラガラのお母さんの正体見抜けずにいったん降りるはめになんだからな、ほんとは。んで、シルフカンパニーまでわざわざスコープ取りに行かなきゃいけねえんだぞ。それを簡略化しまくってんだからな、オレ。離脱したシルフカンパニーの元研究員が庇護下に入ってるお嬢の活動の広さに感謝感激雨あられってね。事情話したら、たんまり30分ほどねっとりとお叱りいただいたけど、もう何も言うまいって早朝にゃ届けてくれるみたい。


「あのヤローが挑戦したってのに、このオレ様が逃げ出せるかってんだ!へへ、コウキ、抜け駆けはなしだぜ?絶対、オレがユーレイの正体、暴いてやる!」

「威勢のいいこって。寝坊すんなよ、オヤスミ」

「おう!」


消灯時間はとっくに過ぎてる。固いクッションに寝返りを打ったとき、枕元でばしゅ、と物音がした。もぞもぞ、とソファを上がってくるものがある。お、おも、重いっ、なんだよー、と目をこすりながら見れば、カラカラが手を伸ばしていた。あー、そっか久しぶりの再会だもんな、たしかあまえたがりだったけ?仕方ねえなあ、と迎え入れてやった。

オレはね、しつけは厳しい方なんです。ポケモンは道具とは言わないけど、同等の立場なんてはなから思ってない。オレのスタンスは基本そうだから、トレーナーである以上、滅多な事じゃヒエラルキーが上のオレが、こんなことしないんだけどね。オレはトレーナーである以前に、親だから。フジ老人がいない間は、親でいてやっから。明日はきっちり働けよ。ぽんぽん、やわらかく抱きしめながら寝た。うん、すっごく抱き心地悪い。爬虫類的な感触に頭がい骨、しかも持ち物太い骨だしな。あはは。

カラカラってのは制作主に、人間のエゴで被害をこうむったって暗くて重いテーマを背負わされて生まれてきた子だから、出現場所も墓場が結構多い。イワヤマトンネルは除いてな。カラカラの歌、っていう金銀のプリントエラーの音を思い出しながら、夜泣きしなくなったカラカラに安どしつつ、眠りに落ちた。







予想以上にポケモンタワー攻略はきつい。体力的以上に、精神的に。建物内に墓標ってやっぱけっこう来るものがあるよな、うん。ばちばち、照明灯が点滅してるんだもん、上からなんか降ってきたら気絶できるかも。しかも外雨だし、窓ガラス曇ってるし室内薄暗いしすっげー怖い。オレもレッドも、ここまで来ると会話すら少なくなっていた。無明仏って結構あるらしくて、お供えのアイテムとかもあるけど、埃だらけの墓も結構ある。まるで迷路みたい。やめてエクソシストやめてきえええええええい!って叫びながらゴ―ス、ゴースト繰り出すのやめて、どっちに使われてんだよ、祈祷師のおばちゃんたち!ゴールドスプレーしてもトレーナーまで防げるわけじゃないから、どうしても戦闘になる。めんどいぜ、この野郎め。いちいちバトルして除霊とかどんだけ武道派なお祓いだよ!


「ああ・・・とくこうの努力値もったいねえ、なんか育成途中のやついたっけな?連れてくれば良かったなー」

「ちょ、こ、コウキ、何言ってるんだよ」

「こっちみんな。ささやかな現実逃避の時間を邪魔しないでくれよ、くそー」

「頼むから、帰ってきてくれよ!」

「失礼な、オレは元からこんなんだよ。森の洋館だってポケモンタワーだってこうやって努力値稼ぎに頑張ってたんだから」

「コウキ、しんでる、目が死んでるって、おい、帰ってこいよ!」


とまあ冗談はともかくとして、ようやくたどり着いた階層には、結界を張って休ませてくれる祈祷師さんがいて、ようやくおれもレッドも息がつけた。


「この先には進めぬぞ。何かの意思がそれを阻んでいるのだ」

「大丈夫っすよ、そのためのこれなんだから」

「やっと使うのか?それ」

「ん」

「スコープ、か。なるほど。しかし、相手は相当憎悪に駆られておる。心してかかれ」

「了解っす」

「ありがと、じゃあ行ってくるぜ」


オレとレッドは先の階段に足を進めた。

タチサレ、タチサレ、と今まで除霊師たちを通して警告してきた本人の声がする。声、というよりはくっきりとした意思みたいなものが感じられるってほうがしっくりくる。なんせ相手は高価な頭がい骨を乱獲するために虐殺された、幼い息子をかばってしんだガラガラ、このカラカラのお母さんの幽霊だ。スコープ越しに見た世界は霧、ゴ―スの気体に覆われていて、この強烈な幽霊にゴ―スたちが引き寄せられてるてのが正しいんだと思う。明らかな波長。その先には、ガラガラだった魂が、体を作っていた。


「コウキ・・・こいつが、お前の言ってたおかあ、さん?」

「そーだよ、な、カラカラ。間違ってもボール投げんなよー、レッド。かのマスターボールでも捕まえらんないんだから」


カラカラが、悲しそうに鳴く。フジ老人宅で出会った女の子いわく、この泣き方は子供がお母さんを呼ぶときだけなく声だって。やべえ、じんわりきた。目じりが熱くなってくるけど、緊張感をとくわけにもいかないから、オレもレッドもただ見ていた。ガラガラは相変わらず凶暴な気性を隠そうともせず、唸っている。カラカラが、なく。ああ、だめだ、やっぱもう自分の子供のことすらわかんなくなってる!オレはモンスターボールに戻そうとした。こいつのレベルは低すぎる。たしか30もあったはずだ。でも、カラカラが拒否った。


「戻れよ、カラカラ!あぶねえよ!」


声を荒げてしまう。ああ、やっぱりトレーナーは本当の親にはなれないんだなあ、とこういうとき実感しちまう。くそ、とオレはシャドボが尽きかけているロズレイドを繰り出した。カラカラが、ロズレイドを通せん坊する。かばっているわけではなさそう。・・・・・もしかして、お前。


「コウキ、カラカラにさ、やらせてやれよ」

「・・・・・まじかよ、お前」


カラカラが、こくり、とうなずいた。上等だ、一人前になったところ、お母さんに見せてやれよ、なんて自己満足に呟いて、オレは襲いかかってきたガラガラに対峙した。





エゴかもしれないけど、消えてしまったガラガラは、うれしそうに鳴いた気がした。タチサレって警告は、襲ってしまうかもしれない自分を止めてほしかったのか、それともこの上部にいるロケット団の犠牲者を憂いてのものだったのか、なんて考えてしまうオレがいた。


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