第九話

いやあ、早いもんだよね、ポケスペの話数でいえば13話、たっしかVSコダックとかいう題名で第一巻収録の最終話だったかな。なにって、今オレがいる町がみんな大好きトラウマタウン、シオンタウンにいます、コウキだよ。どーも。やだよね、オレが来た時からざんざかざんざか雨降ってるし、それこそ出ちゃいそうな雰囲気だよ、幽霊とか。

ポケモンタワー見上げてたら釣り目の女の子に「幽霊っていると思う?」とか薄笑いと一緒に聞かれて、いんや、と首を振ったら「じゃああなたの右側の肩の手、誰の?」とか、もうやーめーてーくーれ!どこぞの身代わり探す女の子とか毒消し探してる爺さんとかどこにいても追っかけてくる不気味な目をした肖像画とか一ドットだけ色違うシミとか方割れしかない像とかオカルトは間に合ってんだよ!あ、ついでに雪山みちでゴーストプレートくれた、あのへんじゃ幽霊が出るって教えてくれたんだけど、また来てねって言われたから泊めてもらおうって引き返したらいなくなってた女のひととかな!



がくぶるだよ、もう・・・やだ。



で、オレは今、フジ老人邸にお邪魔してる。おれらの世界と同じように、ポケモンタワーの管理人をしているフジさんは、一財をなしたその財産を全部なげうって、諸事情で引き取り手がいない、でも逃がすには人に慣れすぎたポケモンを引き取って世話をしたり、野生に返す活動をしているNGOの代表。ポケスペの世界では省略されてたけど、邸宅には俺らの世界でカラカラの世話をしてた女の子とケアマネージャーの男性が留守を守っている。尻尾切られたヤドンとか飛べないカモネギとかがのんびりと生活していた。


「帰ってこないっすね」


そうだね、と外を眺めて男性が言う。そういえば、君みたいな子が訪ねてきたっけ、と写真を見せてくれた。フジ老人とドードーがうつった写真がある。ああ、こっちじゃなくなってんだっけか。ってやっぱりグリーンうつってら。あーもうタワーに行っちゃったあとか。少しだけ焦りが生まれる。何日たってんだ?お茶とお菓子を出してもらって、時計を見ながら遅いですね、と雑談してたとこなんだけど、のんびりしすぎたかな。

ごめんね、と男性が頭を下げるので、オレは恐縮した。参ったな、お嬢から直々に伝言預かってんのに。くれぐれも仲介は介するなってきっちり警戒しているあたりさっすがー、とは思うけども、なにか伝えておこうか、といわれ、いや、出直してきますわ、とオレは首を振った。アポイントメント取ってきっちり約束取り付けたってのに居ないとか・・・。不満もあるし、機嫌も悪くなる。とっととシオンタウンとおさらばしたいってのに、もう。


「この写真の男の子、何日前に?」

「んー、ああ、この子かい?うーん、ごめんよく覚えてないよ。幽霊騒ぎの真相を確かめてくる、って飛び出して行っちゃってね、うーん、会ってないなあ」

「あ、まじすか。じゃあ、赤い帽子をかぶった男の子は?こいつくらいの」

「うーん、いや、聞いてないな。最近は例の幽霊騒ぎで線香も上げられないって、参列する人も少なくなっちゃってね。ここのところも雨だし、タマムシに抜ける地下通路も暴走族が活発化してて、警察が立ち入り禁止区域にしいちゃってて。釣り人が宿泊にくるくらいじゃないかな?」

「そっすか」


ってことはレッドまだ来てねえわな、絶対このうちに雨宿りに来るはずだから、この人も女の子も気づかないわけがない。どっちも不在だったとか面倒なパターンはこの際おいといて。うーん、幽霊騒ぎがとっくに起きてるってことはキョウはもう要るんだよな?作戦準備中ってとこか。できれば会いたくねえなあ、お嬢にゃ何も言われてないし。だってゾンビとかゾンビとかゾンビとかそれどこのバイオハザード?スプラッタは嫌いなんだよ。

でもレッドさんから聞いたゲームシナリオ的に考えて、行かなきゃいけないフラグがびんびんな気がするんだけど、気のせい、だよな?でもなー、とオレは腕を組んだ。カツラとのつながりだって確認しちゃったし、あの人と同じ筆跡、指紋つきのミュウツー関連の研究書類、ポケモン屋敷で押収しちゃったしな、今さら無関係ってわけにもいかないだろうし、誘拐されてる可能性が無きにしも非ずー。ああもう、メンドくせえ。下手したらこれから直接ストーリーにかかわんなきゃいけないのか!まいったなあ、と今更過ぎる後悔してみたり。


「カラカラ元気そうでよかったわ、久々に会えてうれしかったわ、ありがとう」

「え、あ、いや、お嬢は親はフジ老人だからお返しくださる?的なこと言ってたからいいっすよ。もともと預かってただけみたいだし」

「いえ、まだシオンタウンは現状維持ってところが正しいの。ただ確実にポケモンタワーは人が寄り付かなくなってる、それだけが不気味でね。まだこの子には・・・早いと思う。とはいえ、私たちも一応はトレーナーだから最低限のポケモンたちは残してる状態なの。ヤドンは尻尾は生えてくるだけだし、この子も戦える分には回復してるから」

「あー・・・」

「あ、でもカラカラのこと気にかけてたし、フジおじいちゃんが帰ってくるまで待っててくれないかしら?」

「まあ、それくらいなら」


待ってるってのも性に合わないなあ。でもレッドが来るまでどれくらいかわかんないけどなあ、どうしよう。まあどのみち今のままポケモンタワーに行ったとことで、幽霊とゴーストタイプのポケモンたちを判別する手段がねえわけだから、ラグラージ達が怖がっちまうし、勝負になんない。キョウと会うことも考えると・・・ちょっとポケモンセンターに行きたいな。お嬢にシルフスコープ持ってきてもらわねえと。


「それにしても遅いわね、おじいちゃん」

「うん、そうだね。もしかしたら、ドードーの墓参りにでも行ってるのかな?」

「もう、危ないからポケモンも持たずに行かないでほしいのに」

「雨も降ってるのになあ。仕方ない、迎えに行くよ。どうする?」

「もう遅いし、心配だし、オレも一緒に探しますよ」

「そう?助かるわ」


心配そうに見上げるカラカラに、お前もくるか?というと、こくりとうなずいて、ぶかぶかの頭がい骨がずれ、あわてて直していた。地面タイプだから雨にぬれて弱ると困るし、とモンスターボールに戻し、オレは立ち上がる。フジ老人に合わないままレッドが来るって相当のずれじゃね?何となく嫌な予感がしながら、オレは男性と女の子に連れられて外を出る。



郊外の一時的な遺体安置所が置かれている。なんとも質素なものなんだけど、こんもりと盛られた土と「ドードーここに眠る」と彫られた簡素な墓石。他にも4、5ほどある。ポケモンタワーにいけないから、と仕方なく置いてあるんだろう。男性いわく、フジ老人しか入れないお墓安置室があるらしいが、そこもいずれもいっぱいで、もう置き場がないんだそうで。隅っこの方にはポケモンタワーに墓参りに行けないトレーナーさんたち用の仮設テントがあって、置いてったであろう花束がそこに入りきらないほどあって、一部があぶれて雨でぬれてかわいそうなことになっていた。そっと手を合わせる。ドードーのお墓には、すでに花がたむけられてる。どこ行ったんだろう、と二人が首をかしげてるのを横目に、オレは本気でグリーンとフジ老人が心配になってきた。やばくね?

いったんポケモンセンターに戻って、シルフスコープ取り寄せてもらわねえと!
オレは、じゃあ、もしフジ老人が帰ってきたらココに連絡ください、って部屋番号を教えて、帰ることにする。夜中に行くのはいくらなんでも危ない。昼のが活動時間は鈍くなるはずだし。ゴーストは。まあずっと雨が降ってたらあれなんだけどさ。

足早にポケモンセンターに向かう途中で、オレは個人的にはあんまり会いたくない人に会ってしまった。うわー、イベント強制発動じゃねーか!しかもフジ老人誘拐確定!本気でやばいぞ!ひきつっているのがいやでもわかった。


「あーくそ、なんでこの町の人、こんなに冷たいんだよ!」


びしょぬれになりながら、どういうわけかポケモンたちを出しっぱなしにして立ち尽くしているレッドの姿があった。いやいや、体調管理はトレーナーの努め、っつか誰もがポケモン大好きクラブなわけじゃないんだから、処構わずポケモン出しちゃ駄目駄目、お偉いさんに怒られる。そう思うけどこの町じゃ幽霊騒ぎでわりと連れてる人が多かったりするからそれに倣ったんだろう。放っておけず、オレはため息をついて、近づいた。


「何ボサッと突っ立ってんの、レッド、風邪ひくよ?」


傘を傾けてやれば、ちゃっかりピカがレッドの肩にのる。


「あ、コウキ!久し振りだな」


にかっと笑う。とりあえずポケモンセンター行こー、とオレは提案した。


[ 10/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -