第八話

「お疲れサンでしたーっ!ハイドロポンプ習得おめっとさん、さすがは俺!やるな俺。
 やっとおわった、レベル上げ!」



どし、とたいあたり。いってえ、膝が、脚がっ!ふらついたオレは、冗談だっておめえ・・・と鈍い痛みに顔をゆがめた。突っ込みはもっと優しく・・・いやごめん、ハイポンはやめてハイポンは。威力なめんなよ、くそう。ぼやきながら、ミズゴロウを見つめる。わかってるって、とおふざけが過ぎたことを謝って、苦笑いするとようやくミズゴロウは戦闘態勢を解除してくれた。おやになんつーことしようとしてんだ、ったく。

突っ込みの大切さがわかるなあ、と一人旅ながら乗り突っ込みを強要されるライフスタイルにちょっぴりしょっぱくなってみた。かまってくれるのがポケモンしかいないんだ・・・ああなんか涙が。



「これで進化しても大丈夫だな、よしよし」



ほめられて撫で繰りまわされ、迷惑そうに飛び退くミズゴロウだが、まんざらでもなさそうに一声鳴いた。ごそごそ、とリュックを探って、フォーカスレンズをわたす。変わらずの石を入れたお守りを首から取り上げた。

さあて、と伸びをする。まだ終わりと思うなよ、相棒その3。いつだったか吹雪習得のためにすさまじいスパルタでしごかれたことを思い出し、身がすくんでるミズゴロウには、苦笑いしかなかった。お前のおじいちゃんもお父さんも通ってきた道だ、がんばれ。



「さあて、レベルを上げて進化したら、今度はストーンエッジ覚えような!」



えーっと非難のまなざしと鳴き声。いやそうな顔。



「地震を覚えんのに、あと2.3レベルかかるから、またよろしく」



育成は50までおわんねーんだよ、むしろおまえはこのたびにおけるエースなんだから、
もっとレベル的にゃ必要なんだからさ、とうそぶいてやった。ぶつくさ言いたげなミズゴロウ見てると、ポケモンがしゃべんなくてよかったなあ、なんて思うわけだ。だってどんだけ嫌われてるか一発でわかっちまうじゃねーか。一気にやる気そがれて育成放棄しちまうとこだしなあ、難しい。

フルアタは安易だろうけど、シングル用だし、まもるはいらねえよな、と考えてみる。すばやさ降ったのは、スカーフ型にするためだ。技は一つしか選択できないから種類は多いに限る。固い敵にはハイドロはでかいし、エッジなしだとギャラドスきついし。ハンマーは素早さ下がるからいらん。ほんとはほしいんだけどなあ、冷凍パンチ。教え技がうらやましいぜ、プラチナのおれ。それはともかく。ボールに戻して、ポケモンセンターにおれは向かうことにした。

サイクリングロードまでいっては帰ってきて、シオンタウンまでいって帰ってきて、トレーナーが多いってのはいいね!自転車を走らせながら、オレはどうやってミズゴロウのご機嫌をとろうか考えていた。すねられちゃ困る。やっぱ変に意地っ張りだと手に余るなあ、ったく。また技の必要性について講義でもしてやって無理やりにでも納得させてやるか、とほくそ笑んだ。





「なんというドッペるゲンガー」



手続きを済ませて、ポケモンの像が対に構える門をくぐると、ぼんやりとした視界が広がる。ざっと数えただけでも遠近法を駆使したとしても、結構な数のキョウがいる。なんだよこのからくり屋敷。まさか全体が鏡張りになってんのか?と天井を眺めても素晴らしく切れ目がない。

慎重に前に進むと、案の定見えない壁に手がぶつかる。単に全体がスケルトンになってるだけみたいだ。ちくしょー、プレイヤーがいてくれたら上から見てくれっから、おれは指示されたとおりにうごきゃいいだけってかうごけないから、楽なことこの上なかったのになあ。第三者に操作されるって感覚忘れかけてら。もし戻ったらこうやって好き勝手できる時間も減るんだろうなあ、まあいいけどよ。それが俺のあるべき世界なわけだし。あー、そういえばおれ、今ここにいるけど、おれのいなくなったダイヤモンドのソフトどうなってんだろ、まさかリセットされてるとかそんな落ち、ないよな?

よし、あとは左手の法則でどっちかに行けばオッケーか。見回しても見当たらないので、どうやら曲がらないといないらしい。オレは壁に手をくっつけたまま行くことにした。



「というか、なぜにみんなキョウの格好してんだろう、忍者だから?まあ、ふつーに考え
て一番奥のキョウが本物に決まってるよな!」



つか。カツラと同様に意外と真面目にやってんだなあ、ジムのお仕事。関心関心、と思いつつ、バタフリーとヌマクローをお供に俺は先に進んだ。

さーて、ぶっちゃけ内心ハラハラですよ、みなさん。なぜって?ほら、おれ、お月見山でさ、思いっきり下っ端に化けて機密書類とかサンプルとか盗んだ挙句、カスミたちと一緒に逃げた前科者でさ、下手したら顔ばれしてるかもしれないんだよ。まあ、だからピクシー連れてこれなかったんだけど。アンコール縛れねえのはつらいわあ。・・・・・はい、わかってますわかってます、自業自得とかちくちく微笑まないで、胃に来るってお嬢っ!



「・・・・・えっと」



さいわい、ばれてないっぽいです、よかった。っつかまた別の意味で困ってるコウキお兄さんだよ!こんにちは!なんか、しゃべらないんだよ、さっきから。ずっと。

おれのまえの挑戦者のひととかモニターで観覧してたけど、指示以外声が通らないんだ。しかもアングルの関係で聞こえねえ。ふぉふぉふぉと笑わないキョウなんてキョウじゃない!というかそれはおれらの世界だ、あはは。

寡黙すぎる冷静沈着な男が一番奥で佇んでいる。いくら体格はごまかせても背丈は無理だ。俺より低いとかねーわ。だっておれより高い人だったはずだし。誰だろう、この人。やっぱりロケット団で忙しいキョウの代行してるのかなあ、と思いながら、あえて触れないことにした。

ポケスペのキョウって、思いっきり自分のこと様付だったり、策士で頭切れそうだけど皮肉やで、どこか調子に乗ると抜けてたりするんだよな。そんなキョウがこんな無口なわけないじゃん。いい感じに悪党っぽい自己主張強そうな感じなのに。それでいいのか、妻子持ち。たしかアンズさんって娘さんがいるとかレッドさんいってたなあ、三幹部が一人!とか・・・・・いくつだよ、お前。あ、太陽系の惑星さんたちっていう前例があったっけ、おれの記憶。忍者のコスプレはいいねえ。忍んでなさっぷりが。女の子だったらもっとラインが出てもっとよろしかったんだけどなあ・・・残念残念。

何はともあれ、バッジ貰いに来たんだから、全力でいきまっしょい。オレは審判の号令に従ってモンスターボールを構える。



「まあいいや、相手してよ、ジムリーダーさん」

「・・・・・」



なんかしゃべろうよ。








「いけ、ゴルバット」

「頼むぜ、バタフリーっ!」


こころなし声が高い気がするけど、目もとのみ除いて紫色の黒子衣装ではさすがに望めない。やっぱり出してきたかー、毒パーティの司令塔。モルフォンとどっちか迷ったけど、そっちできたか。どく、むしなんだよな、モルフォンて。地面とエスパー等倍なんだよなー。てっきりむし・ひこうだと思って10万したのもいい思い出だったりする。あはは。うし、じゃあとりあえず舞台を整えねえとな!


「つばさでうて!」


うへえ、やっぱ早い!さすがは進化したら130族。鋭い爪ののぞく翼が空を切る。素早さで劣っているバタフリーが出遅れて、襲いかかられる。ああ、やっぱり弱肉強食の片鱗が・・・。悲鳴が上がる。ああ、ごめんよバタフリー。試してみたいことがあるんだ、がまんしてくれい。たすきでこらえたバタフリーがふらふら、と舞い上がる。


「おいかぜ!」


ねむりごなでもいいんだけど、交替されてでんこうせっかでもくらったらまずいからなあ。催眠反対とかいわないで、一体だけだから。一体だけだから。むしろバタフリーのとくせいは命中率補正が最強クラスだもんな。いい技覚えないのは序盤虫タイプのサガかなあ。100パーセントの眠り粉がおそいくる。つうかバタフリーの場合、こうするかねむらせないと始まらないんだよな。

ごおっとおれの後ろから風がふく。これで5ターンの間、おれのポケモンたちはこの風の援護によって素早さが一時的に上昇する。これでたぶん、抜けるはずだ!


「こんどこそし止めろ!」

「え、ちょ、まっ・・・・・まじかよ」


はやい。あれ、ゴルバットって追い風補正じゃだめなのか?ああくそ、記憶違いかよ!おれは仕方なく倒れてしまったバタフリーを引っ込めた。ごめんなバタフリー、おれのせいだわ。おれは、ドククラゲをくりだした。


「リフレクター!」

「くっ、あやしいひかり!」

「うへええっ、たのむ、当たってくれ、冷凍ビームっ!」


さすがは毒パーティのエキスパート、毒技はほとんど入れないという矛盾が生じるとかやっぱ本当だったんだ。混乱状態になってしまったドククラゲに呼びかける。シュカの実やっぱいらなかったな、アイテム間違えた!ラムのが良かったか。ふらふら、としながら、幸い吐き出された冷気がゴルバットの左翼に直撃した。これでもどしたぞ。うし、あと2ターンの間になんとか・・・・。


「ゆけ、マタドガス!」


まーたいやなの出しやがってぇ・・・・!ヌマクロー出せないじゃないか、このやろ。しかもリフレクター意味ねえよ、絶対特殊型だろ、こいつ。くそ、押し切るしかない!


「あったれーっハイドロポンプ!」

「10マンボルト!」

「ぎゃあああああっ」


自分を攻撃してしまう。そしておそいくる10マンボルト。まずい、まずい、やっぱ変えるべきか?でもへたに変えておにびでもされたらアタッカー性能が地に落ちちまう。ゆらりとゆっくり持ち直したドククラゲが立ち上がる。


「大丈夫?いけそーか?ドククラゲ」


鳴き声が響き、触覚が持ち上がる。あ、こんらんとけたか?よかったー。よし、仕返ししてやれ、今度は外すなよ!ハイドロポンプ、と命じる。もちろんとんでくる10マンボルト。モンスターボールのゲージを見る。風がやんだ。ああ、せっかくの追い風が。うーんやっぱり改善の余地あり。やっぱりダブルじゃねーとあれか、くそ。・・・・あ、まだぎりぎり黄色ゲージ。よし、一発くらいぎりぎり耐えられそうだ。逆にあと少しでいける。つぎは冷凍ビームで行けそうだ。押し切れ!


「みちずれ」

「れいとうび・・・・って、え?」


大爆発やらないとおもってたらそっちかよーっ!!れいとうびーむで倒れたマタドガスが道ずれに一気にドククラゲのHPを減らしてしまう。くそ、爆発しないから安心しきってた。あああ・・・・。崩れ落ちたドククラゲをモンスターボールに戻す。これでたいまんか。これできまる。頼むぜ、ヌマクロー。デビュー戦だから!


「ヌマクロー、頼んだ!」

「ベトベトン、いけ!」


毒タイプは全体的にあれなんだよ、固いんだよ、でもやるしかない!


「ヌマクロー、ハイドロポンプ!」


進化したことで上昇したとくこうが援助してくれる。知ってるよ、とくぼうの方がたかいことくらい。でもタイプ一致だし、まだじしんおぼえてないんだよ、ヌマクロー。エッジより威力は高い、はず。こらえたベトベトンが襲いかかる。なにする気だ?


「かなしばり」


やーめーてー。ああくそう!もううぜええええっ!舌打ちしたものの、回復手段があるわけでもなく攻撃あるのみなわけで。一発ハイドロポンプをくらわせたのは大きいと信じて、考える。エッジと吹雪、どっちがでかい?頭の中で計算する。うーん、微妙にふぶき、か。フォーカス持たせてるし、大丈夫だと信じたい。


「いけ、ふぶき!」

「ヘドロ攻撃!」


どおん、と両者の攻撃が炸裂する。フィールドがえぐれる。砂埃が舞う。どっちだ?どっちが勝った?薄まってきた先におれは向かった。


「ヌマクロー、大丈夫か?!」


重く低い鳴き声が響く。ふらふら、としながらなんとか持ちこたえているヌマクロー。HPをみると赤ゲージで、ぴこんぴこん、と警告音が響いていた。身構える。ようやく消えたその先に、目を回して倒れているベトベトンがいた。


「やった・・・・やった、よっしゃーっ!!かった、かった、やったな、ヌマクロー!」


思わず、飛びつく。苦しげにうめくが、なりふり構わずおれは全力で喜んだ。久々すぎて泣けてくる。ここまでぎりっぎりだったバトルは久しぶりだった。ぱん、と経験地を示していたデータが振り切れる音がした。


「あ」


きらきら、とひかりがあふれる。全身が発光する。おれはあわててモンスターボールを捜す。やばいやばい、うっかりしてた、進化しちまうじゃねーか!!みるみる体が大きくなり、抱きついていたオレは一気に視界が上昇する。

ちょ、おま、まて、まじで待って、BBBB、リセット!まだ地震おぼえてねえだろ、おまえええええっ!
叫ぶのも無視して、光の先には、ラグラージに進化した姿があった。おわっ、と抱きとめられる。あああああ・・・・あと10レベルも上げなきゃいけなくなった…。進化してなかったら、たった2レベルでよかったのに、くそーっ!おまえはオープンレベル用に育成しなきゃいけなくなったじゃねーか!べしべし、と叩く。おどろいていると勘違いしているのか、ラグラージがうれしそうに鳴いた。喜んだ結果がこれだよ!・・・・・これからシオンタウンいくってのに、じしん無しでキョウと戦うの確定になっちゃった・・・・。おれなりに考えてたのによう。めそり、となくおれに、レフェリーがおれの勝利を告げる。観客がどっとわく。あ、忘れてた。なんか感動のあまり泣いてるとか勘違いされてね?おれはしばらくいろんな意味で動くことができなかった。





「・・・・・コウキといったか」


わざと押し殺したような、低音におれは顔を上げる。目の前にはジムリーダーさんがいた。すい、と手を差し出される。バッジがきらめいていた。


「おめでとう。・・・・・こちらの完敗だ」

「あ、どーも」


なんだかとってもおとめチックなピンク色のハートマークなセキチクバッジを受け取る。だれなんだろう、とラグラージから降りて見つめても、やっぱり布越しではわからない。帽子を取って、一礼。副ジムリーダーとか門下生のひとかなぁ、とおもいつつしまいこむ。そうそう、忘れてた。おれはあの、と口を開く。


「このデザインってジムリーダーさんの趣味っすか?」

「違う。ち・・・・設立当時から、決められていたことだ」


ち?目をそらすジムリーダーさん。もしかして、ちちうえとか続いちゃったりするんだろうか。アンズさん、アンズさんなのか、キョウの一人娘!なんて思っても背を向けたジムリーダーさん(やっぱり体格的に女性っぽいなあ)がずんずん行ってしまう。ああ、ゲートくぐっちゃった。仕方なく、オレはその場を後にした。賞金と技マシンを受け取りに行かなくちゃな。あとはお嬢にほうこくっと。・・・・・まてよ、アンズさんがアンだけ強いんなら、師匠のキョウはどんだけつよいんだ?カツラがチーとギャロップ使ってきてたし、もしかしてダイパ技持ってるかも・・・・。やべえな、本気でかかんねえと。

背筋が伸びる思いがした。


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