導入部:竜に乗った少年

サニーゴ礁とよばれる、長年にわたって形成されてきた防波堤に守られたキナギタウンは、
非常に穏やかな浅瀬の海に浮かぶハシゴと足の高い木造家屋がならぶ小さな町である。
屋根の色は緑色で統一され、主に観光で成り立っている町だ。
少年がキナギタウンに長期滞在していたのは、一年のうちたった数時間しか観測されないまぼろし島を待っていたからである。
そこでしか自生していない、海の力が宿るとされているチイラのみ、というきのみの入手。
そして、卵でしか確認されていないはずのポケモン、ソーナノが野生で出現するという噂が本当かどうかの検証を父に頼まれたからだった。
父の紹介で尋ねた老人は、まぼろし島の観測に非常に熱意を持っており、半世紀にわたって観察し続けてきたという。
好意を持って迎えられた少年が、その老人に呼ばれたのは、季節外れの台風でもやってきたのか、
というほどの集中豪雨に見舞われた日のことだった。ホウエン全土がその数日は、謎の異常気象に驚いていた。
床上浸水で危機感を覚え、ポケモンセンターで救助を待つ人々の中で、老人は少年を見つけると興味深い話をした。

そらのはしらが出現したというのである。

そらのはしらとは、ホウエンに伝わるおくりびやまの神話にでてくる、伝説上の塔の事だ。
神話には、二体の伝説上のポケモンが登場する。
一体は、空一面を覆う雨雲を作り出し、大雨を降らせる力を持ち、大波で大地を覆い、海を広げたとされる海の神、カイオーガである。
干ばつに苦しむ人々を救ったとされている。
もう一体は、雨風をなぎ払い、光と熱で水を蒸発させる力を持ち、大陸を隆起させたとされる大地の化身、グラードンである。
こちらもまた、洪水に苦しむ人々を救ったとされている。やがてカイオーガとグラードンの長きにわたる死闘は、
ホウエン全土を異常気象に巻き込んだ。世界の破滅かと思われたとき、空が割れ、光が差し込み、
このキナギタウンのはるか東の方角にそらのはしらが現れた。
ポケモンの魂が帰る場所として知られる霊山おくりび山に暮らしていたある青年が、そのはしらをかけあがり、
二体のポケモンの怒りをしずめるよう祈ったとされている。
すると、二体のポケモンの力を無効にする力を備えたポケモン、レックウザが現れた。
レックウザは、カイオーガの怒りをしずめるために、藍色のたま、グラードンの怒りをしずめるために紅色のたまという宝玉をもって現れる。
そして二体のポケモンをその咆哮を持って諫めると、二体のポケモンは眠りについた。二つの宝玉を祀るよういいのこし、
またこのようなことがあればまた呼ぶよう、萌黄色のたまを青年に渡し、また空に帰っていったとされている。
その伝承自体、藍色のたまと紅色のたまが当時のホウエン地方に伝わる伝承を集めた古書によって混同されていたり、
逆に書かれていたりとはっきりせず、信ぴょう性が非常に疑問視されていた。
もちろん少年も幼少期に母親の読み聞かせを朧気ながらに覚えている程度だったが、
老人の主張が非常に鬼気に迫っていたため耳を傾けざるを得なかったのである。
老人に引っ張られる形でポケモンセンターの屋上に登った少年が見たのは、
突如出現した島と天に届かんばかりにそびえ立つ巨大な塔の姿。
雷轟の眩しさに目を細める少年の横で、異常気象にこの世の終わりを嘆く老人の言葉が素通りする。
とりあえず少年と老人はポケモンセンターに引っ込んだ。

プルルル、プルルル、とエントリーコールがなったのは、その時である。
もしもし、と耳に当てた少年に届いたのは、慌てた様子のチャンピオン、ダイゴの声だった。


「もしもし、ユウキくんかい?いま、キナギタウンにいるとオダマキ博士から聞いたんだが、そっちの天候はどうだい?」

「何かあったんですか?このままじゃ、キナギタウン、沈んじゃいますよ」

「そうか、もうそこまで影響が……。
アクア団が、カイオーガを目覚めさせてしまったらしいんだ。どうやら、紅色のたまでね。
藍色のたまと紅色のたまはそれぞれカイオーガとグラードンの怒りをしずめるための宝玉なんだけど、
海と大地の力が宿るといわれているから、もし逆の組み合わせで目覚めさせてしまったら、
それぞれが反発しあって暴走してしまうんだ。今、ハルカちゃんがアクア団をおっているんだけど、
君に折り入って頼みがあるんだ。聞いてくれるかい?」


幼少期はヒーローに憧れたこともあり、今もかっこいいポケモンを集めるのが好きな、ユウキ少年である。
自分にしかできない、という単語にめっぽう弱かった。はい、と反射的に返事したものの、
深刻な事態であるとはわかっているものの、いきなりの電話で突拍子も無いことを連発され、
しばしユウキ少年の思考回路は停止するほかない。
ジョウト地方から引っ越してきて、トレーナーになるやいなやチャンピオンへの道をひた走るお隣さんが頭に浮かんだ。
彼女の才能を前にして、ユウキはトレーナー業を諦めた。父親の活動を支えようって決めた経緯があるので、
彼女の才能は誰よりも知っているけれど、やっぱり女の子だ。さすがにおかしい。
ハルカがアクア団を追っているってどういうことだ。なんでダイゴさんがオレに電話してるんだって言う当然の疑問が浮かぶ。
でも、エントリーコールで、アクア団もマグマ団も事の成り行きで敵認識され、火の粉を振り払う要領で倒しまくっていたら
いつの間にかいろんな知り合いが出来ていたと愚痴っていたハルカの話を思い出せば、今更の話だ。
だからこそ、ホウエン地方の、いや世界の命運を君に託せるんだと意味の分からない事を言われて、
ユウキは、思わずえ?とつぶやいた。押し付けているようでわるいけれど、と申し訳なさそうにダイゴが言う。
なぜ世界の危機とかどこぞのRPGのような超展開になっているのだろうか、というかなぜいきなりの電話で、
世界の命運を託されなければならないのだろうか。ちょっと待ってくれと言いかけた言葉を遮って、ダイゴは続ける。


「今、世界のバランスが崩れようとしている。こうなってしまった以上、人間の力ではどうしようもない。
でも、だからといって、何もしないわけにはいかないよね。ユウキくんなら行ってくれると信じてたよ」


いや、何も言ってないんだけども。はい、としかいっていないのに、なにを見出したのだろうか、このチャンピオンは。
ああ、そうか、即答したからか。気づいても、後の祭りである。ユウキはまんざらでもないので、否定することもできず、
どんどん話に置いていかれる。昔からこうなのだ。どうでもいいことが気になって、つっこんでいるうちに話がわからなくなり、
誤魔かす方向ばかり特化していく。周りはいつも話をじっくり聞いてくれない人ばかり。はやすぎて、
いつもワンテンポ遅れて行動したら、ずれてしまう。父に似て落ち着きが無いと母はいうが、こちらの言う事を一割も汲みとってくれず、
行動で示そうとしたら別解釈とか、泣きたくなるにもほどがある。言葉数がたりないためにぶっきらぼうで、愛想がない。
そのわりに世話やきのため、いわゆるこわでれの効果でその部分が強調されてしまう。生意気な口をきくのは反抗期。
中途半端に自信家なため、非常に憎たらしいやつなのだが、その分プライドは高いため、
矛盾が起きないように必死に影で努力するタイプだ。おかげでポケモンたちは無駄にレベルが高い。受難はまだまだ続きそうだ。


「君がキナギタウンにいるのは、やはりなにかあるんだろうね。いま、そっちにそらのはしらがあるとミクリくんから連絡をうけているんだが、見えるかい?」

「さっき、みましたけど」

「やっぱり!ミクリくんはルネの避難の確保と、キナギタウンの救助の準備で忙しいんだ。
どうか、そらのはしらにいって、レックウザに頼んでくれないかい?もうグラードンもマグマ団に捕まっている以上、それしか方法はないんだ」


お前が行けと言いたくてたまらないが、傍らでの会話を聞いて、
ありがたやありがたやと拝んでくる老人が横にいる手前、言いにくい空気である。


「わかりました。オレ、いきます」

「ありがとう、ユウキくん。しっかりたのんだよ!」


ダイゴからの電話は切れてしまった。
こうなったら仕方ない、とユウキはパソコンに直行して、秘伝要員の入っていたパーティを総入れ替えして、
レベルの高いポケモンで組み直す。すると、ふたたびエントリーコールがなる。もしもし、とユウキは応じた。


「もしもし、ユウキさん?僕だよ、ミツル!」


思わぬところからの電話に、ユウキは再び驚くはめになった。
ミツルは、いわばユウキにとって後輩とも言える数少ない友人の一人だ。
唯一、と言っていいほど、ちゃんと話を聞いてくれる存在のため、ユウキはつい気遣いや遠慮を忘れて、ずばずばと話してしまう。
ポケモンのポの字も知らないにも関わらず、患った病気の静養のためにポケモンが欲しいとくさむらに単身で飛び込んでいこうという
無駄にいい行動力をもっている、少年である。
ポケモン図鑑にはとっくに反映されていても、いつかは父を超える研究者になりたいと思っているユウキである。
マッピングがわりのタウンマップに、ポケモンの生息域やレベルを記すのが、日課となっている。
そのとき、たまたまユウキがラルトス(色違い)を捕獲しそこね、懸命に追いかけていたところ、
別のポケモンに襲われていたのを助けたのだっだ。さすがにいきなりボールだけで捕獲は無理だと、
秘伝要員だったものひろい係を貸したら、えらく喜ばれ、捕獲の手伝いをしてくれといわれた。
危なっかしいやつと認識したユウキは、世話焼きが発動して了承。
捕獲したのはなんと、先程にがした色違いのキルリアだったという不幸が待ち受けていた。
その日以来、なにかと先輩として尊敬のまなざしで見てくるミツルは、まんざらでもないものの、
バトルのたびに色違いのサーナイトを見てしまい、古傷がえぐられるユウキである。
現在は静養先から元気になったからと、誰にもいわず飛び出して行き、バッジを集めるまでに急成長。
今となってはハルカと肩を並べるほどの実力者だ。きっとユウキよりもバトルの技量はあるだろう。
ときどき電話でバトルの申し込みがあるが、今だになんの病気で静養していたのか謎に包まれている。


「ミツル、久しぶりだな、調子どう?」

「元気だよ!ってそうじゃなくて、大変なんだ!今、おくりび山からルネシティに向かってるところなんだけど、
大変なんだよ、ユウキさん!萌黄色のたまが盗まれたんだ!」

「萌黄色のたま?」

「うん。ダイゴさんから頼まれて。でも、レックウザを呼び寄せるらしいんだけど、誰かが盗んじゃったらしいんだよ!」

「アクア団とかマグマ団じゃないのか?」

「うん。Rって書いてあったよ、黒ずくめの人たち」

「それ、ロケット団だろ!アクア団とかマグマ団と違って、金儲けのために悪いことする奴らだよ!
カルト教団とは違うんだ。レックウザを捕まえるきだ」

「そんな!これから、カイオーガを止めてもらわなきゃいけないのに!どうすればいいのかな?」

「今、オレ、キナギタウンにいるんだ。そらのはしらに行ってみる。ミツルはそこにいろよ。ロケット団、ミツルと違って強そうだからな」

「ちょっと待って!僕も行くよ、置いていかないで!僕だってユウキさんに勝った事ないけど、6つまでバッジあつめたんだよ!」

「ふうん……バッジは結構集めてるんだな。ポケモンもかなり育ててるのか。それなら大丈夫そうだな。
ルネの進路をキナギタウンに変えて、ずっと東にいってみろよ。たぶん、そこにあるから」


絶対に一人で突っ込むなと念を押して、電話を切る。
初挑戦のジムで、たった一匹のポケモンでレベル差が5もあるジムに、攻撃技なしの状態のラルトスで
挑もうとしていたようなそそっかしいやつだ。心配である。はあ、と息を吐いて、ユウキはオオスバメを繰り出した。
そして、雨除になるかわからない土砂降りの雨の中、かっぱを着てそらのはしらに直行したのだった。





島に上陸して、一階からあがる義理はない。
上がれるところまで上がり、途中で窓らしきところから突っ込んで侵入したユウキは、
ロケット団の下っ端をなぎ倒しつつ進んだ先で、ミツルと合流する。
下っ端たちが言うには、やはりアクア団とマグマ団の活動を把握した上でおこした騒動らしい。
やはりニュースでもカイオーガの暴れている様子はよく流れているが、
空の柱については事前に調査しておかないとわからないはずだ。
潜伏していたらしいテロ集団に嫌悪感を感じつつ、先を急ぐ。途中地響きを立てて揺れる塔に戦慄を感じる。
もし生き埋めにでもなったら、海の藻屑だ。ただでさえこのあたりの海域は、なみのり上ですらろくに釣りができないほど、
海流のながれがはやい。ひび割れていた地面に足を踏み抜き、ミツルが落っこちそうになったが、
なんとかたどり着いた屋上は、石造りの塔とはいえどボロボロで、屋上はない。空から望めるのは、雲のじゅうたんだけ。
天気とは無縁の穏やかな青空が広がっている。大気圏の結構な高さまであるはずだが、
どういうわけか酸素は薄いはずなのに平然と呼吸出来る驚き。やはり人がレックウザに助けを求めるために設けられた場所なのだろうか。
そんなことを考える暇もなく、その先にいたのは下っ端とは明らかに格の違う女がいた。

女はワインと名乗った。ロケット団の幹部をはるらしいワインは、子供と侮ったもののここまで単身で乗り込んできたユウキに
敬意を称して、戦闘に応じた。そうして身代わりをしている間に、ミツルが岩場から乗り込んで萌黄色のたまを回収するという作戦が
功をそうし、うまくいった。戦闘は中途半端に終わったが、これさえあれば、レックウザが呼べる。
煙玉を使って、強制的に戦闘を終わらせたユウキは、ミツルとの手はず通り、身を潜め、うまくかいくぐって窓に出る。
早々に退散しようとミツルとともにポケモンで脱出しようとしたとき、そのポケモンは現れた。


あれはっ?!父の学会資料を無断で読んで怒られた記憶が脳裏をかすめる。先に行け、と萌黄色のたまをおしつけ、
チルタリスに乗ってぐずぐずしているミツルを突き落とし、ユウキは距離をとりつつポケモン図鑑を開いた。


デオキシス
全国図鑑ナンバー386
タイプ:エスパー
分類:DNAポケモン
高さ:1.7m
重さ:60.8kg
特性:プレッシャー
4年前、氷原に激突した隕石から出現したのをたまたま、ロンド博士率いる調査隊が発見、
初めて存在が確認されたポケモンだが、他に目撃例がないため幻のポケモンといえる。
隕石に付着していた宇宙ウイルスのDNAが、突然変異を起こして生まれたとされる。
知能が高く、超能力を操る。現在、その調査隊が2体確認したのみだが、
胸の水晶体は個体によって色が違うようだ。そこからレーザーを出すため、
エネルギーコアではないかといわれている。二体目はオーロラの近くに出現したとの報告があるが、
関連性は不明。調査隊はその際、隕石から出現したデオキシスがオーロラから現れたデオキシスに攻撃をうけ、
氷山に激突、追撃されるのを目撃したが、原因はわかっていない。
そのときオゾン層に生息するハズのレックウザが出現、オーロラから現れたデオキシスを牽制するように攻撃、
そのまま二体は戦闘になり、調査隊は巻き込まれたものの幸い死傷者は出なかった。
その後、隕石から現れたデオキシスの消息は不明、戦闘になった二体目は大気圏に突入し、確認されていない。
その際、デオキシスは戦闘に応じていくつものフォルムチェンジを行うことが判明。確認されているのは、以下のとおり。
ノーマルフォルム:通常の形態。両腕がDNAの螺旋状のような形をしている。先端は丸い。
         ポケモン図鑑ではこの形態の写真を採用。
アタックフォルム:全身が鋭利な形状に変化し、特に先端が尖った両腕が特徴。
         レックウザとの戦闘で確認された限りでは、最も攻撃力が高く、
反面防御力が最も低いようだ。スピードはノーマルフォルムと同速。
ディフェンスフォルム:頭部が胴体と同化し、腕も剛腕で強固となり、頑丈な形態。
アタックフォルムと比較して、スピードと攻撃力は劣るが、
防御力に非常に特化している。


4年前か。ユウキは苦い顔をする。当時はやたらと父の出張が多く、母と二人で食事をすることが多かったユウキは、
よく覚えていた。ほっとらかしにされていると感じて、勝手に悲しんだり寂しがったりしてたころだ。カッコ悪い。
たしか、新種のポケモンの発見で助手の人たちもずいぶんと大騒ぎしていたはずだ。
いろいろと謎が多いのはポケモンではよくある事だけど、伝説とまで称されるポケモンもからむエピソードは
珍しかったのを覚えている。たしか。いや、今は感傷に浸っている場合ではない。

なぜ幻のポケモンがこんなところに、と思ったが、ワインの指示をだす大声が聞こえて、すぐに理解する。
おそらく消息不明になったうちの一体は、こいつなのだろう。ユウキは舌打ちをする。
さすがは圧倒的な資金力を背景にたびたび研究学会に圧力をかけてくるロケット団、と言ったところか。
悪党にはもったいなさ過ぎるポケモンだ。ミツルは逃げるのに精一杯だろうから、
せめて時間稼ぎをしないとだめだと判断したユウキは、デオキシスに密かに向けていたポケモン図鑑を素早くリュックにしまうと、
オオスバメを繰り出す。ニ本の尾羽が立っているのは、健康体の証拠だ。もちものぶくろを取り出して、オオスバメの首にかける。
そして、オオスバメに追いかけるよう指示を出し、飛び乗ると、一気に空の柱を駆け下りる。オオスバメは上空から旋回し、
獲物を見つけると一気に急降下する捕食の仕方をしており、非常に視力が良い。振り落とされまいとしがみつきながら、
少年は眼下に広がる雲の海に落下していく。中に突入してしまえばこっちのものだ。オオスバメは大きく羽を広げ、
気流を捉えると、一気に加速して曲線を描いて下降する。雲のじゅうたんは、ただ広がっている。
ちら、と後ろを振り返ったユウキは、ものすごいスピードで飛んでくるオレンジ色の物体を見た。
きた、と判断したユウキは、オオスバメに指示を出す。あの形態はアタックフォルムだろうか。先程と比べて、両腕が細く鋭利に尖っている。

まだ遠いというのに、ものすごい威圧感だ。ときどき、異様に風格漂うポケモンがいるが、あれと相対した時と感覚が良く似ていた。
おそらくオオスバメも感じているらしい。一回技を繰り出すだけでも、2倍の労力を費やしてしまう。
これは短期でいなして、お帰り願う方が良さそうだ。青いコアが点滅し、ひかりが収束していくのがわかる。
図鑑にあったとおり、あそこから攻撃を発射するらしい。持ち物ぶくろに下がっているのは、かえんだま。
珍しいものだとダイゴがくれたものだ。一定時間経つと高温のエネルギーが発生して、やけど状態となる。
オオスバメの特性は、根性。状態異常になると、攻撃値が上昇する。
この特性を持つポケモンは、普通やけど状態になれば攻撃力は減退してしまうが、そのマイナス補正を無視できる。
いわばやせ我慢のかたまりで、少々つらそうだが、我慢してくれとばかりにユウキはいった。オオスバメは頷いて、指示を仰ぐ。
エネルギーを貯めているらしく、遅い。だがまだ火炎球の効果がでない。モンスターボールとにらめっこしつつ、
ユウキはさけろ、と指示しようとしたが、自分がいるせいで俊敏さが殺されていることに気づき、指示を切り替えた。
もはや迫る光線は、避けられない。


「オオスバメ、守るんだ!」


オオスバメが声をあげる。ユウキと自分を守るべく、力を集中させる。一部のポケモンを除き、習得できる守るという技は、
いわばポケモンが不思議な生き物と定義付けられる現象を魅せてくれる。
過剰攻撃にたいして危機感を感じたときに発動できるこの技は、人間がポケモンに指示したとき、
ポケモンが瞬時にだせる最大の防衛である。どんな技であろうとも、発動すればどんな攻撃であっても防いでくれる、
半透明の壁が発生するのだ。ただし、己の力を最大限に使うため、攻撃との両立はできず、回避と違ってすぐに攻撃に転じられない。
しかも回数をかされるごとに精密度が落ちていく。乱用はできない。
無事に出来上がった半透明の盾めがけて、ずどおん、という重い音がした。エスパータイプの技だろうか、
どこぞの双子ジムリーダーと戦った時と色が似ている光線である。凄まじい威力らしく、殺し切れなかった衝撃に押されて、
わずかながらに後退する。光線は二分される。やけど状態になったのを確認したユウキは、攻撃の終わらないうちに、指示を出す。先手必勝だ。


「オオスバメ、電光石火!」


ポケモン図鑑に間違いがなければ、アタックフォルムは防御力が低いはずだ。
さすがにどんなポケモンであっても技を繰り出すには間というものがあり、
二階連続で同じ精度と威力の誇る技を繰り出せるのは極小数。電光石火は、いわば先制技と分類されるもので、
オオスバメが最も得意とする奇襲技。うまく気流をつかみ、勢い良く突っ込んだオオスバメの翼に叩きつけられ、
デオキシスはそらのはしらに激突する。やけど状態で上昇した攻撃力なら、ダメージを与えることくらい可能だろう。
とりあえず必要なのは時間稼ぎなのである。とりあえず、また距離をとって逃げなければと指示を転換して、逃げる。
ふりむけば、ミツルはもう米粒くらいの大きさしかなかった。まだあと少し、時間稼ぎが必要なようだ。
再び振り向いたユウキは、デオキシスがなにやら力を集中するのをみた。
周りが突然ぐにゃりと歪み、まるでオーロラのようなベールに包まれる。なにかくる、と直感したユウキは、
ダメ押しの追撃をやめて、空の柱の頂上へ上昇するよう命じた。
旋回して、上昇するオオスバメに振り落とされまいとつかまりながら、下を見れば、徐々に変貌していく姿が見える。
フォルムチェンジのようだ。空の柱にはもはや人影はないが、島にはなにやら物騒なものを抱えたヘリが廻っている。
空の柱の頂上に近づいたユウキは、ボールをかざした。


「こい、ダーテング!」


足場がないと他のポケモンが戦えないのだ。空の柱でまつダーテングのそばに降り立たったオオスバメをなでる。
やけどで消耗激しいが、ドリンクを渡して体力を回復させる。
労ってやるまもなく、やはり距離をおいても感じる存在感は感じ取れたようで、すぐに二体は顔を上げ、警戒し、唸りを上げる。
音もなく飛び出してきたのは、おそらくディフェンスフォルムになったデオキシス。ディフェンスフォルムは先程と違って、
スピードはナイに違いない。ここは晴れ渡った空だ。スカーフで素早さが上昇している上に、
特性は晴れ状態の時素早さが2倍にもなるダーテングがパーティに居る。デオキシスが悠然と現れる。

放たれた光線が、ダーテングに直撃する。だが、頼もしい背中は微動だにしない。
ダーテングは平然としているのをみるかぎり、やはりエスパータイプの技だったようだ。
よし、とガッツポーズをしたユウキは、デオキシスが気づく前に、ありったけの声を上げて命じた.


「ダーテング、迎え撃て!大爆発!」


頷いたダーテングは、構わずでデオキシスにつっこんだ。凄まじい爆風が飛んでくる。
帽子を押さえながら、様子をうかがう。砂埃の先には、倒れているダーテングの傍らで、ゆっくりと再生するデオキシスの姿。
うそだろ、と思わずつぶやいたユウキを叱咤するように、オオスバメが一声上げ、岩の後ろに先導してくる。
なんとかボールで回収し、ユウキは走った。


「ユウキさん、みぎ!みぎによけて!」


思わぬ声に仰天するが、危ない、といわれて反射的に足を止めるよりは良い判断だっただろう。
とっさに右の岩にオオスバメと逃げ込んだユウキは、先程いた場所が跡形も無い更地になるのを見た。



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