第79話

アサギの灯台がある丘にある広大な都市公園は、西洋式の庭園と植物園からなっている。熱帯・亜熱帯でしか見られない植物とか、傾斜地に植えられている綺麗な草木のアーチを潜り抜けながら先を行けば、いつぞやの実況で大恥をかいたフィールドが見えてくる。夜だったらライトアップされてもっときれいだっただろうけど、さすがにそれはわがままってやつだ。傾斜を生かして水路が張り巡らされてる。泉から滝になって、川が流れて、やがて水族館の敷地に流れていく。綺麗な銅像が並ぶ先を抜けると、待ち合わせしてたレストランの手前にミカンちゃんがいた。


「お待ちしてましたよ、ゴールドさん。さあ、いきましょうか」

「おう」

「そうだ、ゴールドさん。この前言ってたフレンドパス発行できました?」

「うん、あんがとな、ミカンちゃん。おかげでこの通り発行できたぜ。ほら」


トレーナーカードの入ったパスケースに入れてある面を見せれば、よかったですねってミカンちゃんは笑った。


「よかったら交換しません?」

「え?いいけど。でも、ポケモンセンターなんてあったっけ?」

「ちがいますよ、ゴールドさん。フレンドパスはポケギアに使うんです」

「え?まじで?」

「どうやって赤外線通信するんですか」

「あ、そっか」

「やり方知らないとただのカードですから。こうやって使うんです。ポケギアかしてください」


言われるがママ差し出すと、拡張に使うスラッシュ画面を表示したミカンちゃんは、慣れた手つきで自分のフレンドパスをオレのポケギアにセットして読み込ませた。しばらくして表示されたのは電話番号を登録してる画面。みれば星印が付いていて、フレンドパスを交換したサインが入った。おー、と声を上げたオレに、ポケギアを返してくれたミカンちゃんが説明してくれた。どうやら持ち主のデータを見ることができるようになるようだ。これで通信環境にあればどこでも交換とか対戦が出来るようになるらしい。便利だなあ。


「これでバトルフロンティアとか大きな大会に行っても大丈夫ですね。楽しんできてください」

「さんきゅー、ミカンちゃん。助かったぜ。誰も教えてくれねえからさ」

「ふふ、ゴールドさんのことだからろくに読まずに捨てちゃいそうだから、説明してやってくれってシジマさんに言われたんです」

「シジマのおっちゃん、よくわかってんじゃん。オイラのこと」


あははー、と笑うしかない。ミカンちゃんの表示画面には、写真とデータが乗っている。
そしてミカンちゃんが設定した言葉が乗っている。


「なあなあ、ミカンちゃん。シャキーンってなに?」

「え?あっ、ちょ、ご、ごめんなさい。間違えました。こっちはコンテストのでした。私のバトルパスはこっちです」


残念ながらシャキーンってなってるきりっとしたミカンちゃんの写真は上書きされてしまった。




鋼という名前の通り、はがねタイプは全体的に金属特有の冷たい光沢があり、人工物やマシーン型のポケモンが多い。そんなタイプを専門とするミカンちゃんのフレンドパスに登録されているポケモンたちは灰色や銀色一色だ。能力的にも防御力を中心に耐久が高くて、全体的に遅いイメージがあるメンバーばっかりだ。設定ミスで虫タイプのエスパー抜群補正を普通にしてしまったせいで独壇場だったエスパータイプにとどめを刺すついでに、不遇だった格闘や炎タイプを救済するためにバランス調整で導入された新しいタイプも、10年たてばすっかり定着している。時の流れは速いもんだぜ。当時はあまりに多い耐性にびっくりしたもんだ。なんせすべてのタイプに抜群や半減の相性はおいといて、ダメージを与えられるんだもんなあ。金銀世代から追加された鋼タイプの魅力はやっぱり半減するタイプが半端なく多いことだ。ノーマル・草・氷・飛行・エスパー・虫・岩・ゴースト・ドラゴン・悪・鋼、なんと11こ。半分以上のタイプを半減する上に、毒タイプの技は無効だ。しかも砂嵐が効かない。でも、弱点はメジャーなタイプばっかりで、複合タイプは案外そのもう一つのタイプの弱点を相殺してくれないから、一方には強くて一方にはメチャクチャ弱くなったりすることがよくある。ハッサムとか4倍ダメージのポケモン多いし、鋼は地面や岩との複合が多いから、大体水タイプに弱い。その代りに水に強い鋼タイプはエンぺルトとかルカリオとかメジャー級のポケモンばっかりになってくるから困る。それに、鋼タイプ単体で見ると抜群が獲れるのは氷と岩、半減は炎、水、電気、鋼と4つもあるからあんまり優秀とは言えなかったりする。まあサブウエポンが充実してる奴ばっかりだし、4倍弱点の常連なポケモンでも、特性で案外ひとつは無効化されたりするから、そんな弊害あってないようなもんだ。まあ要するにめっちゃ硬いパーティってことだ。参ったなあ、オレのパーティ物理型ばっかりなんだけど。どうしようかなあ。桁違いの防御力を誇るパーティが、補助技でこっちの動きを制限してから強烈な攻撃で一気に畳み掛けてくるはずだ。全体の素早さが低いのが唯一のそんなことを思いつつ、ミカンちゃんもこっちのパーティ確認してるだろうから、こっちも遠慮なくパーティをのぞき見させてもらうことにしよう。もっとも、こっちが確認できるのはポケモンの性別とレベルだけなんだけど。

ハッサム  LV.50
エアームド LV.52
フォレトス LV.52
レアコイル LV.55
レアコイル LV.53
ハガネール LV.62

「ちょっと待ってくれよ、ミカンちゃん。なにこのパーティ」

「え?だってゴールドさん、これからバトルフロンティアにいく予定なんですよね?
 せっかくなので、そのルールにのっとってバトルしませんか?」

「つーと?」

「バトルフロンティアは、6体のポケモンをお互いに見せ合って、
 その中から3体を選んで戦うのがローカルルールなんです。
 シジマさんからお伺いしてますよ、すっごく頑張ってポケモンたちを育ててるって。
 だから、今の貴方の実力を見せてください」


ふふ、とミカンちゃんは、とってもきれいにわらっていた。


「いや、いやいやいや、なんだよそれっ!?いくらなんでも無茶ぶりすぎにも程があんだろ、ミカンちゃん!」

「大丈夫ですよ。だって今のあなたなら、私が初心者トレーナー相手に用意するパーティなんて一体で突破できるはずです。それじゃ面白くないじゃないですか」

「まじかよー」


たしかにレベル35が最高なパーティなんて楽勝だとは思うけどさ、だからってパーティ構成全部かえちまうなんて暴挙やっちゃってもいいのかよ!マツバだって一応パーティ構成は変わらなかったぜ?ゲンガーが悪のはどう覚えてるほど、とんでもなくレベルが高かったけどさ。がっくりとうなだれたオレにミカンちゃんが早くしましょうって先を促す。くっそお!コイル、コイル、ハガネールなパーティどこ行ったんだよ、とこっそりオレは愚痴ってみる。ゴローニャを繰り出せばコイルはソニックムーブしかできなくなるから、HPにさえ注意すれば地震連打で無双する予定が完全に狂っちまった。さすがにハガネールは耐えられないだろうから、ゴローニャが倒れた後にオーダイルで一気に決める予定だったのになあ!どうしよう、一応他の奴らもレベルは一応上げたつもりだけど、このバトル道場もどきなパーティに対抗できる3体目は限られてくるぞ?どうすっかなあ。うーん、うーん、と悩みながら、オレは先に進んだ。思えばジョウト地方で入手できる鋼タイプのポケモン縛りしてくれてるのが最大限の優しさなのかもしれない。もしガチなら平気でジバコイルとかメタグロス、エンぺルトにルカリオなんて構成になりかねない。無理無理無理、さすがにそれは今のオレ達には無理だ。一応、それだけミカンちゃんはオレたちに期待してくれてるってことだろう。とんだとばっちりなわけだけど、過剰な期待掛けられてもぶっちゃけ困るんだけど、今までになくわくわくしてるミカンちゃんを見ると、頑張らなきゃなあと思っているオレがいるわけで。よし、いくか。オレはモンスターボールを並べ替えて、ミカンちゃんが待っている広場に到着した。潮風に長い風がなびいている。ワンピースを翻しながら、ミカンちゃんは笑った。3つのモンスターボールが握られている。オレも最初の一体を構えた。


「アサギの灯台ではありがとうございました。でも、勝負はまた別の話ですよ?
 改めて自己紹介します。わたしはアサギジムジムリーダーのミカン。
 使うポケモンは鋼タイプです。鋼タイプはとっても硬くて冷たくて鋭くて強いんです。
 そして、とっても強いんですよ?ゴールドさん、あなたに打ち破ることができますか?」

「へへっ、見くびってもらっちゃ困るぜ、ミカンちゃん!オイラたちの実力、見せてやるよ!」

「では、いきます。おいで、ハガネール!」

「よっしゃ、まずはお前だ。頼むぜ、ガント!」


放り投げられたボールがパカリと開いて、ポケモンたちが飛び出してくる。ポッポと同じ攻撃力だったイワーク時代とは比べ物にならないほど成長したハガネールは、まるでダイヤモンドみたいに硬い鈍色の身体をくゆらせて現れた。全身に鋼鉄の欠片がくっついているらしく、ハガネールが動くたびにキラキラと欠片が太陽に反射して輝いた。いくらゴローニャでもあの頑丈な顎から攻撃されたら痛いだろうなあ、要注意!朝から昼まで苦手な水タイプや格闘タイプ相手に奮闘していたゴローニャは、ようやくまともに戦えそうな相手を前にしてやる気十分に咆哮する。ガント?と聞き慣れない響きに一瞬戸惑ったミカンちゃんだったけど、ゴローニャを見て、目を細めた。ゴローニャは心なし嬉しそうだ。


「ゴールドさん、ニックネームつけたんですね?」

「そーだよ、つけたよ、ミカンちゃんのせいだかんな!ニックネームもひとつの愛情表現だとか言っちゃうから、こいつらが本気にしちゃったんだよ!どうしてくれんだ!おかげでニックネームで呼ばないと反応してくれなくなっちまったんだよ、もー!」

「いいじゃないですか、とってもうれしそうだもの。ふふ、どんなお名前なのかハラハラしちゃいました」

「オイラもネタに走った候補上げたけど、却下されちまったよ。ちぇっ」


当たり前だとか言いたそうな目をするんじゃない、このやろう。


「いわだんごの何が悪いんだよ、かわいいじゃん。なあ?」

「………あはは、さすがにそれは怒られちゃいますって、ゴールドさん。ゴローニャはお団子じゃないですよ。岩盤みたいに硬い外側は、殻なんですから。一年に一度脱皮するんですよ?ゴローニャって」

「え?まじでっ!?ダイナマイトでも傷つかないのに?」

「ええ、脱皮したてだと全体的に白っぽくて、柔らかいけど、空気に触れて硬くなるんです。脱皮した殻はボロボロに崩れて土に還るんですから」

「……実は爬虫類だったりすんのかよ、お前。というか、詳しいな、ミカンちゃん」

「アサギシティはもともと岩タイプのジムだったんです。鋼タイプに鞍替えしましたけど、今でも詳しいつもりですよ」

「へー、そっか。じゃあますます負けらんないな!そろそろ始めようぜ、ミカンちゃん」

「そうですね!」


お互いに気を取り直して、苦笑い。ミカンちゃんはハガネールっていった。ネールちゃんとは言わなかったはずだ。つまり、ブラックと対戦した時に使ったハガネールとは別個体、3色牙は使わないはず。同じ技構成とは考えにくいから、なにかしてくるはずだ。鈍足を利用して倒すに限る。よし、とオレは指示を飛ばした。


「頼むぜ、ガント!先手必勝だ、大文字いっ!」


ゴローニャが吠える。え、というミカンちゃんの声が聞こえてきて、驚いた顔がこちらを見た。炎タイプを持ってないもんだから、草タイプとか氷タイプとか虫タイプとかうざいんだよ!特にゴローニャ出した途端に繰り出してくるハッサムとか大っ嫌いだ。燃えろ、シャア!のつもりで習得させたんだ。外れさえしなきゃ、大ダメージを狙えるはず。モーモー牧場周辺でちまちまちまちまコイル狩りをした甲斐があるってもんだ。突如出現した大の文字がすべてを焼き尽くすようにハガネールに襲い掛かった。潮風が熱風に代わる。煌々と燃える火柱がハガネールを包み込み、表面の鋼鉄の欠片が焼きだされて火花が散った。地震あたりを想定していたのか、防御の体制を取っていたハガネールは予想外の攻撃に思わず呻いた。よっしゃ、やりい!奇襲成功だ。ガッツポーズしたオレは火傷でもしてくれないもんかと願ってみたが、さすがにそこまで上手く行かないようで、ハガネールは砂埃を立てて炎を沈下してしまった。やっぱりレベル差がでかすぎるな。同じレベルならあと一発で沈んでくれるのに。


「もう一度、大文字だ!」

「お願いハガネール、ステルスロックよ!」


ミカンちゃんの声を聞いたハガネールが広場にごろごろと転がっている岩を巻き上げる。ぐるぐるぐるとゴローニャがいるフィールドに浮遊する岩が飛んでくる。ダメージを与えるほどではないが、地味に痛いらしくチクチクとした感覚が気持ち悪いのかゴローニャは顔をゆがませた。お返しだ、とばかりに大文字がハガネールに命中する。これで半分はいったか?防御力は高すぎるから、いくら弱点でも地震を連打するよりは特殊技で押し切った方がいいに決まってる。オレは火傷に期待するしかなかった。うーん、だめか。ハガネールはぴんぴんしてる。ぐるぐるとステルスロックが舞っている。気になってるゴローニャだ。初めて見る技だから戸惑ってるんだろう。ごめん、解除できねえや。誰も技を持ってない。きにすんな、としかオレは言えない。ゴローニャに再び大文字を命じたオレを待っていたのは、ミカンちゃんのコンボ発動のお知らせだった。


「とりあえず、ガント君はお帰り下さい。ハガネール、吠えて!」


凄まじい衝撃波が辺りを襲った。吹き飛ばされるゴローニャをあわててモンスターボールに回収したオレは、転がったモンスターボールがかってに開いてしまうのを見届けるしかなかった。オレの命令もないのにいきなりモンスターボールが開いてしまい、まだ戦闘体勢に入ってないカポエラーが硬直してる。足元は鋭い岩が転がっている。痛い、痛いって涙目なカポエラーはこれまた地味なダメージを食らってしまう。


「大丈夫か、トート」


出番でもないのに呼び出されて頭がついていかないらしく、きょとんとしているカポエラーは、こくんと頷いた。そして、ようやく宙返りをしてお馴染みの倒立の体制になるとくるくると周りをまわって、風圧で岩をどけた。せまりくるハガネールに距離を取る。またほえるをされたらたまんねえ、せめてダメージを与えねえと!


「よっしゃ、そのままとび膝蹴りだ!」


回転が加速する。ぎゅるぎゅるぎゅると風を切りながら、カポエラーが飛んだ。ハガネールの巨体に宙返りして、そのまま反動を利用して襲い掛かる。鈍い音がした。さすがは防御力200を誇るだけはあるな、かってえ。びくともしないハガネールにぎょっとしているカポエラーだったが、ハガネールの叫び声がこだまするフィールドで、再びボールに戻されてしまう。うぜええええ!命中率100%はうざすぎる!くそっと思いながら、オレは、瓦礫に体を沈めてしまい、呻いているオーダイルに指示を飛ばした。ああくそ、メンバーばれちゃった。しかも微妙なダメージが蓄積し始めた。これ以上振り回されたらヤバい。ホント、ハガネールが遅くてよかった。吠えるはなおさら発動が遅くなるからな。


「スイト、波乗りだ!とどめを刺してくれ!」


タンバシティに向かう水道で、散々使い倒した秘伝技は、もうすっかりオーダイルの体になじんでいるらしく、習得してる技の中だと発動が一番早い気がする。やっぱりなれって言うのは大きいらしい。灯台近くの公園は海に近いこともあってか水場が多い。近くの川の水が反応する。大きな水流と共に現れた大波を呼び寄せたオーダイルは、その波と共に何倍もあるハガネール目掛けて突進をかけた。ざっぱーん、という豪快な水しぶきが上がる。ハガネールはさすがに蓄積してきたダメージと効果抜群の大技に耐え切れなくて、ようやく巨体を沈めてくれた。鋼は水を半減するから、水技は効かないんじゃないかと思って、びくびくしながら波乗りを選んだ時のことを思い出すぜ。地面との複合じゃなかったらぶっちゃけ積んでた気がする。嬉しそうにオーダイルが鳴いた。


「よっしゃ、やりい!よくやったぜ、スイト!」


オレたちはハイタッチする。ミカンちゃんはハガネールを戻すとボールを手にした。


「さすがですね、ゴールドさん。でも、鋼はこんなことじゃさびたりしないの。
 おいで、レアコイル!」


うげっと声を上げてしまったオレに、ミカンちゃんは笑った。ンナこったろうと思ったヨ!めんどくせえな!3体のコイルが連結して強力な磁力と高電圧を放射しているのが嫌でも分かる。オーダイルが波乗りによって水浸しにしたフィールドがレアコイルを中心に水分を蒸発させているのか、白いもやが立ち上っている。すっかり乾燥してしまった地面はさらさらのフィールドに逆戻りだ。謎の電波でも発信してるのか、ポケギアが耳鳴りしそうな変な音を出し始めて、いきなり砂嵐になったもんだからちょっとびびる。びくっとしたオレに、ミカンちゃんは害はないから安心してくださいって教えてくれた。なんだよ、びっくりさせんな!びりびりくる苦手なタイプにオーダイルは後ずさりだ。


「だからここを貸してもらったんです。街中だとレアコイルの磁力が強すぎて精密機械を壊してしまうから、モンスターボールから出せないの。うっかりだしちゃうとサイレンを鳴らしてしまうんです。テレビとかいろいろ不具合が出ちゃうから」

「ああ、ここだと公園以外なんにもないもんな」

「はい、そういうことです。じゃあ、せっかくのバトルです。思いっきり楽しみましょう、ゴールドさん」

「そうだな!よっしゃ、戻ってくれ、スイト!」


さすがにレアコイル相手にオーダイルは無理だ。オレはボールを手に取った。最後の3体目が気になるな。どっちにしよう?オレが後退させるのはさすがにミカンちゃんもわかるだろうから、毎度のパターンだしなあ。よし、頼むぜ!


「今よ、レアコイル!電磁浮遊!」

「んなこったろうと思ったよ!あーくそ、めんどくせえ。頼むぜ、トート!君に決めたっ!」

「あれ?ガント君じゃないんですか?」

「乱発してたらだいもんじのPPが尽きちまうだろ?ここはトートに頑張ってもらうぜ」


宙に浮いているレアコイルは、地震のかわりに現れた脅威に警戒の信号を発信している。性別不明の機械機械している造形は、なんかぶっ壊したくなる衝動に駆られるらしく、だっきよりカポエラーの目がかがやいている。磁力で部品が宙に浮いているのはなんか落ち着かないらしい。オレは早速指示を飛ばした。電磁浮遊ってことはスカーフじゃない。


「レアコイル、10まんボルト!」

「カポエラー、あいさつ代わりのねこだましだ!」


カポエラーの方が早かった。思いっきり目の前でばしんと叩かれた衝撃に驚いてレアコイルたちはパーツがバラバラになるけどすぐに元の形に戻っていく。こうしてみるとなかなかシュールな光景だ。ねじが元の場所に戻る。よし、これでタスキでもないことがわかった。うーん、なに持ってんだこいつ。無難にしゅかの実で地面技半減でも狙ってんのかな?


「よっしゃ、そのまま頼むぜ、マッハパンチ!」


レアコイルもカポエラーも素早さの種族値は同じ70だ。それなら先制技のごり押しに限る。テクニシャンならもっと安定した戦い方が出来るんだろうけど、生憎こいつの特性は威嚇だ。我がパーティの司令塔と一緒に物理面を壊滅的にする役目があるから外せない。カポエラーの攻撃に再びレアコイルが散らばっては元に戻る。


「お願い、レアコイル!10まんボルト!」


凄まじい電撃が走った。カポエラーの回転が鈍くなる。大丈夫か?と聞いてみたら、頷くけどなんか動きが変だ。まさかと思ってボールを見たら状態異常の文字が躍ってる。何だよそれ、大文字で火傷にならなかったくせになんでこっちが麻痺状態になるんだよ!?勘弁してくれよ、お互いに喰らったら倒れちまうタイマン勝負だってのに!でもやるしかない。頼むぜ、カポエラー!


「もういっちょ、マッハパンチ!」

「がんばって、レアコイル!もう一度10まんボルト!」


びりっと麻痺が行動を制限する。それでも気力で先に進もうとしたカポエラーは辺りに散乱するステルスロックに足を取られて回転が乱れてしまった。その隙をついて飛んでくる電撃。さすがに特殊防御が高めなカポエラーでも、2回もステルスロックのダメージを食らった後では耐えられなかったらしい。そのままバランスを崩して倒れてしまった。あーくそ、あとちょっとだったのに!ごめんな、トート、後で回復すっから、とオレはボールに戻した。こんなことならもっとレベルを上げとくんだった。オーダイルとゴローニャばっかりレベル上げてたからなあ、ぎりぎり50レベルじゃきつかったか。舌打ちしたオレはゴローニャを繰り出した。


「これでイーブンですね。まだまだ行きますよ!お願い、レアコイル!ラスターカノン!」


相手の特殊防御を一段階下げる追加効果を持つはがねタイプの特殊技がさく裂する。はめつのねがいをのぞけば最高威力を誇る大技だ。こう着状態に陥った回復連打を無駄にするやな効果だ。ホントに全力だな、ミカンちゃん。ジム戦だってことわすれてないか?なんてひやひやしながらオレは見ていた。ふるふる、とゴローニャが瞬きする。いけそうか?って呼びかければ、5レベル差をものともせずハガネールとタイマンをやってのけた自信からか、まかせろ、とばかりに頼もしい鳴き声がした。残念だったな、ミカンちゃん。生憎こっちのパーティで今回の主役はこいつだよ。レベル補正で何とかしのぎ切ったゴローニャは、容赦なくレアコイルに襲い掛かった。


「頼むぜ、ガント。大文字!」


さすがに特殊防御は高いだろうけど、マッハパンチでぎりぎり削りきれなかった分を取り戻すのは簡単だ。焼き尽くされたレアコイルは、そのままボールに吸い込まれて消えていった。


「まだです。まだあきらめません!それが私の鋼の心だから!おいで、エアームド!」


ホントはこいつ用に万全の体制で取っときたかったんだけどなあ、と思いつつ、オレはゴローニャに命じた。もともと想定してた敵はこいつなんだよ。普通に考えて、オレのパーティだとピカチュウの主力技が物理電気な時点で手も足も出ない。だから、せめて2発で落とせるようにってな。


「こいつで最後だ、頑張れ!大文字だ!」


凄まじい業火がエアームドに襲い掛かるが、連続して不慣れな特殊技を余儀なくされてきたからか、エアームドのすぐ横を通り過ぎていく大技。外れちまったか、くそ。ほっとした様子で胸を撫で下ろしたミカンちゃんは笑った。


「あと1発ですね、ゴールドさん。怖いので戻してもらえませんか?ふきとばし!」

「またかよ、おいーっ!」

「ふふ、ごめんなさい、ゴールドさん。これも戦い方の一つです」


しってるよ。ステルスロックやどくびしをまいて、ほえるやふきとばしでひたすらダメージを削りまくる昆布だろ?ハマったら最後、交換先がなくなる最後の一体まで何にもできずに入れ替えさせられるコンボだろ?今じゃ優先度の関係でそんなに怖くは無いけどさ。はあ、とため息をついたオレは、足に突き刺さる岩にちょっと泣きが入り始めたオーダイルにがんばれというしかなかった。こいつ相手に積み技はできない。ひたすら攻撃するしかないんだ。仕方ない。


「スイト、今だ。波乗り!」

「あら、タイプ半減の技ですか」

「うっせえやい、今のスイトは半減の技しか覚えてないんだよっ!わるいか!」


なかばやけくそ気味に叫んだオレは、スイトが濁流にエアームドを追い込むのを眺めていた。ミカンちゃんの顔つきが変わる。あれ?とモンスターボールを見てる。エアームドは半減とは言え苦手な特殊技を食らってつらそうだ。ばさばさと重くなった翼が揺れている。


「今回ばかりはステロに感謝だぜ、ミカンちゃん。激流発動させてくれてありがとなっ!」


エアームドの吹き飛ばしによってゴローニャが現れる。地味にHPを削られているけれど、複合タイプ相性の関係でオーダイルより食らうダメージは少ないから助かる。そういう意味では剣の舞で無理やり突破しようとしてくる変態型じゃなくてよかった。今度こそ決めてくれよ、一回休憩をはさんだし。ガントは今度こそ逃がさぬようにエアームドめがけて攻撃態勢に入る。


「これで最後だ。大文字!」


もくたんをもたせていてよかったと思った瞬間だった。ようやく焼き鳥になってくれたエアームド。オーダイルのおかげでなんとか射程圏に持って行けたらしい。はー、よかった、あぶなかった。これだから大技は嫌なんだよ。だからって火炎放射だと火力不足で返り討ちにあっちまうし、難しい所だ。あーくそ、みんな生還させるつもりだったのに!ごめんあって言いながら、オレはリュックから元気の欠片を取り出してぐったりしてるカポエラーにつかってやる。元気が出てきたらしいカポエラーは立ち上がってくれた。あとで休ませてやるからってボールにもどし、オレはエアームドを回収したミカンちゃんのところへ駆け寄った。


「さすがですね、ゴールドさん。まいりました」

「あはは、サンキュ、ミカンちゃん」

「やっぱりポケモントレーナーとして、貴方の方が強さも、優しさも上手みたいです。では、リーグの決まりにのっとって、アサギジムのバッジを差し上げます。受け取ってください。スチールバッジです」

「よっしゃ、やったぜスイト。これであと2つだな」

「ふふ、あとひといきですね。がんばってください」

「おうよ」

「スチールバッジは、ひとからもらったポケモンが70レベルまで言うことを聞いてくれるようになります。あの、よかったらこれもどうぞ」

「お、サンキュー。アイアンテールだっけ」

「はい。今回は出番がなくて残念ですけど、よかったらふさわしいポケモンにつかってあげてください。硬い尻尾で叩きつけると、相手の防御力を下げることもある強力な技なんですよ。攻撃は最大の防御です」

「さすがは鉄壁スカートの女の子。いうことちがうなあ」

「なんかちょっとちがいません?」

「え、そうだっけ?」


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